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霧の中」(2013/03/17 (日) 02:03:39) の最新版変更点

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烈心「ぶえええぇぇっくしょおぉぉぉおおおおいいッッ!!!」   冬の寒空の中、烈心は半裸になって焚き火に当たっていた。どうやら服がズブ濡れになった為であろう。 彼はリエステールの酒場で何日も店晒しになっていた依頼を受けるため、ミナル河で目的の翠水晶石を探しに赴いていたようだ。 そして川で翠水晶石を採取していた所を深みにはまって溺れかけていたらしい。辺りは一面の霧の中であり、視界も阻まれていた為の事である。 烈心「えーい畜生、翠水晶石の採集に夢中で泳げないのをすっかり忘れていたぜ・・・。それにこの霧の中だしな。あちちっ!」  濡れた服を木に掛けて乾かしながら烈心は昼飯代わりに獲った魚をかじりつきながら己の馬鹿さ加減をしみじみと痛感していた。 烈心「しっかし、探しても探しても見つからんもんだなコイツは。ただの水晶はゴマンと見つかるくせに肝心のモノは出ねぇときた。」  烈心は横に積み重なっている水晶とゴミの山をちらりと見た。先ほどから川を漁るものの、見つかるのはただの水晶ばかりのようだ。 そして川を流れるゴミも一緒に集めていたら知らん間に山と化していた。 烈心「まあ、そう簡単に見つかれば苦労はせんがな。さて、体も暖まったとこで再開といくかね。それにしてもうざったい霧だぜ・・・。一寸先も見えやしねぇ・・・。」  ぶつくさ愚痴を垂れながら烈心は乾いた服を着て川の方へと向かっていった。烈心が休んでいた間に霧は更に濃くなり、文字通り一寸先も見えない状況だ。 烈心は手にした棒で川の深さを測りながら水晶が転がっていた地点へと歩いていった。  その時、霧の奥の方で何か音が聞こえた。 烈心「ん? なんだあの音は?」  烈心は音のする方へ駆けていった。最初は何かの騒音かと思っていたが、音の方へ近づくにつれそれは何かの叫び声とうなり声に聞こえた。 音がした方に近づくと霧は知らぬ間に晴れていた。そして霧が晴れた先には数体のトカゲの化け物と一人の少女がいた。 烈心「こいつら・・・、ここらへんによく出没するレムリナムていう化け物じゃねえか。それに襲われてる少女って、思いっきりありがちな状況だなこりゃ・・・。」 レムリナム「グルルルル、キシャアーッ!!」  レムリナムは烈心の気配に気が付くと倒れている少女には目もくれずに烈心の方へ襲い掛かっていった。 どうやら烈心の事を危険な存在だと察知したようだ。続いて他のレムリアムも剣を構えて烈心の方へと向かっていった。 烈心「トカゲの化け物風情が、俺にかなうとでも思ってるのか!! なめんじゃねぇこのゲテモノ!!」  烈心は刀を抜き、レムリナムの方へ突っ込んでいった。 そして次の瞬間、烈心の凄まじい突きがレムリナムの集団を薙ぎ倒していった。 そして散々蹴散らされたレムリナムは文字通り尻尾を巻いて退散していった。   烈心「フン、他愛も無い。それで、あの嬢ちゃんはどこだったかな・・・?」  烈心は刀を鞘に納め、襲われていた少女を探すため辺りを見回した。 すると少女は烈心のすぐ近くで気を失って倒れていた。烈心はその少女をすくい上げ、河の辺へと連れて行った。 烈心「おい、嬢ちゃん大丈夫か? もう安心だ。あの化け物どもはもういないぜ。」 少女「う・・・。」 烈心「まったく、倒れたところが浅瀬で良かったぜ。深い淵辺りだったらカナヅチな俺でも危ないところだった。で、嬢ちゃんは何でここに?」 少女「さがさ・・・ないと・・・。」 烈心「あ? なんだって? 誰をだ?」  薄目を開けてはいるものの、少女は意識が朦朧としており状況がつかめていない状態だ。 少女はたどたどしい口調で周りを手探っている。まるで何かを必死で探しているようだ。 少女「りょ・・・す・・・い・・・。はやく・・・リエス・・・テールに・・・。」 烈心「おいこら!? リョスイって一体なんだ!? おい! しっかりしろ!!」  烈心の叫びもむなしく少女は目を閉じてまたも気を失った。 烈心「おい! えーいこんな所でブッ倒れちまって俺にどうしろってんだ・・・!! かといってこのまま放って訳にもいかねえし・・・。」  烈心は座り込んでしばらくの間思案し、立ち上がり彼女をおぶさった。 烈心「グダグダ悩んでも仕方ねぇ。この嬢ちゃんをリエステールまで連れて行くしかねぇか・・・。」  そして烈心は彼女をリエステールまで運ぶ事にした。しかしリエステールに連れて行ったところで彼女がどこの出身かも彼が知る由はない。 烈心「リエステールに連れて来たのはいいが、この子をどこに連れて行けばいいのか皆目検討がつかねぇな・・・。とりあえず教会に連れて行くか・・・。あんまし行きたくねぇ場所だが。」  少女を背負ってリエステールの教会の前まできた時、後ろの方で誰かが呼ぶ声が聞こえた。 ????「もしもし? こんな所でどうなされたのですかな?」 烈心「ん?」  烈心が後ろを振り向くとそこにはデカい背負子を背負った男性が立っていた。姿を見るからにどうも十六夜の人間らしい。 烈心「いやな、ミナル河でトカゲの化け物に襲われてた娘を助けたんだがな。どこに連れて行けばいいのかどうか迷っていてな・・・。」 ????「ん? その子は・・・、誰かと思ったらエルナちゃんじゃないか! 一体どうしてそんなトコに・・・。ひょっとして翠水晶石を探しに・・・!?」  その男性はエルナと呼ばれた少女に近寄り彼女を抱き上げた。どうやらこの男性とエルナという少女は知り合いのようだ。 そしてエルナは病気の妹の為にリョスイ、いわゆる翠水晶石をを探しにミナル河へ行ったところあのトカゲの化け物に襲われたらしい。 ????「いやぁこの子を救って頂いてどうもありがとうございます。あ、自己紹介を忘れていましたね。私の名はカネモリと申します。以後お見知り置きを。」 烈心「あ、ああ。俺は烈心と言う。(ん? カネモリだと・・・? どこかで聞いた事のある名前だな・・・。)ところでだ、この少女はあんたの知り合いか?」 カネモリ「ええ、ちょっと知り合った間柄でして。それにしても一人でミナル河まで行くなんて無茶をするものだ・・・。」 烈心「まったくだ。でも、身を挺してまで妹のことを考えるなんてなかなかできたもんじゃあないぜ。気丈な子じゃあねぇか。」 カネモリ「ええ、確かにそうですが・・・。」    カネモリはエルナを教会の一室に連れて行き、ベッドの上に寝かせた。 カネモリ「重ね重ねありがとうございました。あなた様がいなかったらこの子がどうなっていたか・・・。」 烈心「ああ、礼なんていらんさ。俺もあそこに偶然居合わせただけだからな。それじゃあ、俺はこの辺で失礼させてもらう。」 カネモリ「どうも、ありがとうございました。」  カネモリは深々と頭を下げたのち、エルナの方へ振り向き彼女の手を取った。烈心はその姿を少し微笑ましく見ながら部屋を出ようとした。 しかし一瞬ではあるが、彼の目にカネモリがエルナの手に何かを握らせた姿が目に入った。烈心は少し不思議に思いつつも部屋を後にした。 烈心「さて、俺も自分の仕事に戻るとするか。しかし、少し古臭い教会だな。前に見た時はもっと綺麗だった気がするんだが。」  烈心が2階に降りかかった時、廊下の隅の方で神父と思わしき人とシスターがなにやら話をしていた。 神父「3階の病室のフィナという子だが・・・、もう長くはないかもしれんな・・・。持って数日かもしれん・・・。」 シスター「エルナちゃんにはこの事を伝えたんでしょうか・・・。」 神父「いや、まだだ・・・。それにあの子の事だ・・・。事実を知ったらずっとつきっきりになるやもしれんし。」 シスター「でも、伝えないわけにはいきませんよね・・・。」 神父「うむ・・・。」 シスター「あ、そういえばこのお花、前のが萎びていたので新しく摘んできたんですがお部屋に持っていってくれませんか?」 神父「ああ、任せたまえ。」  烈心はその話を物陰から黙って聴いていた。彼女の妹が病気だという事はカネモリから聞いてはいたが、まさか命に関わる重病とは知る由もなかった。 烈心「なるほど・・・。いつの命かもわからん妹の為にあの子は無茶をしてまで翠水晶石を探そうとしたわけか。 それにしてもあのカネモリという男、彼女の手に握らせていたモノってありゃまさか・・・。」  烈心は部屋から出ようとした時に不意に見えたあの光景を思い出した。カネモリがエルナに握らせていたもの、一瞬ではあったが緑色に輝く石のようなものだった。 烈心「フン、あの男もなかなか味な事しやがるぜ。自分の獲物をあの子にくれてやるとはな。」  烈心はカネモリのエルナにした行為を思い出し、口元を緩ませながら教会を後にした。 そしてミナル河に戻ってきたものの、相変わらずミナル河は深い霧に包まれたままであった。 烈心「まったく、離れてから結構時間が経ってるというのに相変わらずひどい霧だぜ・・・。棒がなけりゃ一寸先も判りゃしねぇ。下手こいたらまた溺れる羽目になるぜ。」  相変わらずブツクサ言いながら烈心は棒で辺りを探りながら霧の中を掻き分けて入っていった。すると霧の向こうからまたも何やら話し声や騒がしい声等が聞こえてきた。 烈心「あ? 確かここに来た時は人の気配はしなかったはずなんだが・・・。どうなってんだ?」  霧を掻き分けて烈心は霧の外へと出た。そこは確かにミナル河であったが、明らかに少し様子がおかしかった。 確かに烈心は深い霧の中から出てきたはずである。しかし彼が出てきた時の光景は青空が広がり、雲ひとつない晴天である。どうみても霧が発生していない天気である。 そして、烈心がリエステールから戻ってきた時は人っ子一人もいなかったのに対して、辺りは家族連れや旅人が川辺で休んだり遊んでいたりしている。 どう考えても先程とは異なる光景であるのは間違いではなかった。そして彼が後ろを振り向いたものの、彼が掻き分けてきた深い霧は一片たりとも残ってはいなかったのであった。 烈心「な、なんだこりゃ・・・。本当に一体どうなってんだ? タヌキにでも化かされたのか俺は・・・。」  烈心は何が起こったのか判らず呆然と突っ立っていた。その時、彼の足元で何か緑色に光るものが転がっていた。 拾い上げてみるとなんとそれは彼が依頼で探していた翠水晶石であった。しかも見たところかなり純度の高い翠水晶石である。 烈心「本当に・・・、なにがなんだかよく判らん・・・。」  再度烈心は翠水晶石を握ったまま呆然と立ち尽くしていたのであった。  そしてその日の夕方、烈心は翠水晶石を持ってリエステール郊外にある依頼人の家へと向かった。 烈心「おう坊主、頼んでた翠水晶石だぜ。」 少年「あ、ありがとうございます・・・! 本当に探してきてくれたんですね・・・。」 烈心「ああ、ちょっとばかし遅くなっちまったがすまんな。」 少年「いえ、本当にありがとうございます! それで、これは少ないですけど報酬です・・・。」  少年は手にしていた小さい袋を烈心に渡そうとした。しかし烈心はその袋を受け取ろうとはしなかった。 烈心「いや結構。ソイツはお前さんの妹の為に使ってやんな。」 少年「えっ!? でも、それじゃお兄さんが・・・。」 烈心「大丈夫だ。それにお前さんから金を取ろうなんてできやしねぇ。その金で病気の妹に何かおいしいものでも買ってやるんだな。」 少年「でも・・・。」  少年は報酬の入った袋を持って申し訳なさそうな表情で烈心を見ている。見ると少年は病気の妹と二人暮らしだ。 依頼の方も満足な報酬を用意できなかった為に、誰も手付かずになり店晒しになっていたのかもしれない。そんな少年を見て烈心が報酬を受け取れるはずもなかった。 烈心「あとこれは、俺の知り合いの人が作った薬効性のある薬草だ。よかったら妹に飲ませてやんな。それとコイツは俺が厄介になってる宿の地図だ。なんかあったら言ってきな。」 そう言うと烈心は懐から薬草の粉末が入った包装紙と一枚の紙を少年に手渡した。 少年「そんな・・・、こんな事までしてくれて・・・。」 烈心「いいって事よ、気にするない。それじゃあな。」 少年「烈心さん、重ね重ね本当にありがとうございます・・・!」  少年の礼に烈心は手をひらひらさせて家を後にした。辺りは日も落ちてすっかり暗くなっていた。 烈心「俺がロハで依頼をするたぁなぁ・・・。あんなの見せられちゃ流石に受け取るわけにもいかんからなぁ。」  烈心が夜の街を歩いていて、ふと立ち止まった。立ち止まった場所は彼が朝方訪れていたリエステールの教会の前であった。   烈心「ん? この教会、いつ小奇麗になったんだ? 朝方見た時はもうちっと萎びたような感じだったんだが・・・。」  烈心は不思議そうな顔で教会を見つめている。どうも朝見た時と比べて教会の建物が綺麗になっているようだ。 その時、後ろの方で誰かが烈心に向かって声をかけてきた。 ????「あのー? どうしたんでしょうか一体?」 烈心「ん? いや、何もないが・・・。む?」  烈心が振り向くとそこにはカーディアルトらしき人物が立っていた。見たところ20代ぐらいの女性で手にはどこかで見たような花の入ったカゴを持っている。 しかし、その顔はどこかで見た事がある。確かここ最近あったような気がしてる。と烈心はふと思った。 烈心「アンタ・・・、何処かであった事ねえか?」 ????「え? いえ、私は存じ上げませんが・・・。」 烈心「あ、ああ・・・。こいつは人違いだったか。すまんすまん。」  ????「いえ、お気になさらずに。それでは私はこれで・・・。」 烈心「こっちこそ失礼した。すまなかったな。」  そう言うとその女性は教会の中へと入っていった。烈心も教会を離れ、酒場へと向かっていった。 その道中、彼はずっと先程の女性の事を考えていた。先程は勘違いかと思ったもののどうも腑に落ちないでいた。 烈心「やっぱりどこかで見た事があるな・・・。なんかもっとちっさかったような気がしたんだが・・・。」  烈心は中央広場の噴水の近くにあるベンチに座り込み、ずっと考えていた。  そしてふと頭の中に朝方の少女の顔が思い浮かんだ。 烈心「そうだ! あの朝方に助けたエルナっていう少女にそっくりだったんだ・・・! という事は、あの女はエルナの親族か何かか・・・? しかしあそこまで似ている親族などそう入るはずもないし・・・。それにあの教会・・・。どうも新しくなりすぎてる・・・。見た感じ1,2年ほど前に立て替えた感じだしな・・・。」  烈心はベンチにゴロリと寝転がりながら再度考え続けた。古い教会が新しくなっていた事、 エルナという少女に酷似していたカーディアルトの女性。そして彼女がカゴの中に入れていた花・・・。 烈心「まさか・・・、いやこんな事があるはずが・・・。」  烈心は起き上がり、ふと考えた。まともに考えたらバカバカしい話だが、自分は過去の世界に迷い込んでいたという事を。 烈心「そんなアホらしいおとぎ話みたいな事があるもんかいな・・・。過去の世界に行っていたなど・・・。」  烈心は頭を振って自身の仮説を否定しようとした。しかし彼が子供の頃、同じ傀儡子の老婆に聞いた話を同時に思い出した。 老婆「烈心や、深い霧には近づかんこった。深い霧や鎮守の森は神様の住む世界に通じておる。むやみに立ち入ると神隠しに遭うぞえ。」    当時の彼はその事をただの作り話と信じていたが、今となってその現象に立ち会うとは思ってもみなかったのだ。 烈心「まさかな・・・、本当に過去の世界に行っていたなんてな・・・。ケッ、気色悪い話だぜ・・・。こういう時は酒でも呑んで厄払いでもせんとな。」  烈心は少々身震いを起こしながらも立ち上がり、酒場の方へと向かっていった。 そしてふと立ち止まり、ミナル河のある方へと振り向いてボソリと呟いた。 烈心「霧の中か・・・。本当に変なところに通じてるもんなのかね・・・。」

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