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―6―





―竜の血―
それは魔術の触媒として、また錬金術の素材として……さまざまな面で強力なアイテムとして扱われていて、一般に手に入るようなシロモノではなかった。
その血に宿る効果は、血を宿す竜のレベルにも比例し、『竜神種』と呼ばれる最高位の竜族の血は、少しでも浴びたり、飲み込めば強大な力をその者に与えるとまで言われている。
……もっとも、それほど強力な力をもつ竜族そのものの数が数えるほどしかおらず、極めて険しい場所……それこそ中央平原の奥地ような場所でしか見かける事は出来ないとされているので、その真偽は定かでは無い。


……が……
ティールは依頼の合間に図書館に向かい、自分に与えられた力について調べていた。
その結果たどり着いたのが、魔術師が読むようなアイテム図鑑に載っていた『竜の血』の項目。
魔術的な理屈は全く理解できなかったが、過去、仲間と共に竜と対峙したという記憶とこの項目を照らし合わせ、おそらくコレが原因だろうという結論に達していた。
ただ、自分自身は竜にダメージなど与えていない。
仲間が死んでいく中で、偶然竜が流した血を、少しだけ浴びていただけの話だった。

―また、同時に『世界の歪み』についての記述も発見し、マスターから聞いた話と照らし合わせ、自分がこの大陸……いや、この世界から見て、異世界の人間であるという事も理解した。
恐らく、この世界の人間に話しても一笑に伏される事かもしれないが、確かに、自分はそういう存在なのだ、と。






アレから三ヶ月。
今彼女は、最近モレク~リエステール間に出没するという盗賊団の退治依頼を受け、依頼主が出した集合場所に決められた時間にたどり着いていた。
子龍(パピードラゴン)と言うからには、若いやつだろうとは思っていたが……」
パピードラゴン……わずか二ヶ月前後でEランクからBランクまで登り詰めたという功績と、その小柄な身体で大人顔負けに戦う姿からつけられたティールの通り名である。
まだ知名度はそれほど高くは無いが、こうして口にする人間がいると言う事は、知っている者は知っているようだった。
―もっとも、Bまで登り詰める実力を得たのも、そんな風に戦えるのも、竜の血の力が大きく影響しているということを、ティール自身はよく理解していた。
全力を出そうとすれば身体の方が先に悲鳴を上げるという状態は変わらないが、どの程度力をセーブすればいいのかも、今では大体理解している。
「……私も、他にも支援士がいるなんて思ってもみなかったよ」
この集合場所には、ティールと依頼人以外に、3人の支援士のチームがいた。
これから相手にする盗賊団は、それなりに規模の大きいと言われているもので、それなりの実力者が四人というのは妥当かもしれない。
「……まさか、盗賊団ひとつ潰すのを一人でやるつもりだったのか?」
依頼人である自警団の人間が、ティールの言葉にやじを飛ばす。
「……いえ、心強いです」
……未だに、不安と恐れは彼女の中に残っている。
それゆえに、以前の手紙の配達以来以降、ジュリアと別れてからは、全ての依頼を一人でこなしてきた。
しかし、ここにきて舞い混んできたのは集団戦闘の依頼。
実際、ティールは一人でやるつもりでここまでやってきていた。
……この依頼は、一人では難しいのは分かりきっている。 それでも、これをやり遂げればもう一つ、自分の自信になるんじゃないかという想いの元に。
「―でも、これも超えないといけない壁なのかな―」
もう一度仲間を作りたいと思うならば、仲間を作る事を恐れていては話にならない―
そう思い自問自答している間に、依頼人から、この依頼は自警団が大掛かりに動くと住民の不安をあおるという理由の元、支援士に委託する形になり、また敵の規模を考え、四人以上のチームに依頼することになっていた、という説明が入り、盗賊団のねぐらがあるとされる場所の説明もその後に付け加えられた。
「自警団からもナイトが3名討伐に加わる、詳細は以上だ。 諸君らの健闘を祈る」











「―支援士を加えておいて、手柄は自警団がかっさらおうって魂胆かねぇ、まったく」
盗賊のねぐらへと向かう道中、三人の支援士の内の一人……おそらく彼らのリーダーだろうセイクリッドの男が、ティールにそんな事を耳打ちしていた。
その視線は、分かりにくいが確かに同行している自警団の人間に向けられている。
「……汚い世界なんて、どこにでもあると思う」
そんな風に言い切るのもどうかと思うけど、と心の中で付け加えながら、それだけ返答するティール。
「ははは言うね、パピードラゴンのお嬢さん」
「……」
子龍という呼び名は、ティールは特に感慨も何もなく受け取っていた。
人々の信頼と、通り名で呼ばれる事は決してイコールでは無い。
それは、人々が口にする通り名に、信頼の意思が宿ってこそその名前に意味が出てくるものだと考えているからかもしれない。
―もっとも、逆に恐怖と畏怖から与えられる通り名も存在するというのも確かではある。
「それより、出発する前のアレだが、仲間がいるのが不服なのか?」
「……今までずっと一人で戦ってきたから、急に言われて戸惑っただけ。 気にしないで」
…嘘は言っていないし、別に不服なわけでもない。
この人たちの実力を疑っているわけでもない。
……ただ自分が恐いだけという、考えようによっては自分勝手な我侭から来た一言である。
「そうか。 その歳で一人で戦えるってのは、大したものだな」
「そう…かもね」
少なくとも、並の支援士よりは戦える自信はある。
そうでなくては、一人で盗賊団を一つ潰すなどという依頼は受けようとも思わなかっただろう。
……実際は、集団戦闘だけれども。
「でも、仲間がいるってのもいいものだぞ?」
「うん……わかってる」
この人は、多分信頼できる仲間と共にあることを楽しんで支援士をやっている。
自分も、この大陸に来る前まではそうだった。
そして今は、もう一度あの時のように、信頼できる仲間を作りたい……それを願って、”仲間を作る事への恐怖”を克服しようと戦っている。
「私、がんばるから」
「そう言ってくれると、お嬢さんと組んだ甲斐があるってもんだ」
以前のように小さく両拳を握り締め、よしっと気合いを入れなおす。
これこそ、新しい自分への第一歩だと信じて。

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