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-吟遊詩人と子龍-





「よいしょっと」
白いボブキャップに白系の服を身につけた少女が、そのへんの店でパンとコーヒーを買い、教会近くにある広場のベンチに腰かける。
この”紙コップ”という食器は使い捨てではあるが、使い捨てであるがゆえに、本来の陶器の食器のように”飲食店から外には持ち出せない”というデメリットは解消されている。
まぁ要するに、使い捨てなりだからこそ持ち歩けるという便利さがあるのである。
「……様子見に来たつもりだったけど……この様子だと、”人攫い”でもしたのかな」
なにやら遠目に見ても妙な騒がしさを見せているが、確か今日はアリスキュア達の昇格の儀式の日。
……と思って眺めていたが、どうやら儀式に対する慌しさとはまた違った様相を見せていた。
”アルティア様はどこだ!”などという声が飛んできている事から、大体なにが起こったのかは想像がつく。
「あら、ティールじゃないですか」
そんなある意味滑稽な情景をながめながらパンをかじっていると、一人の女性がその少女―ティールに声を掛けてきた。
「―シア。 こんにちわ、2か月ぶり?」
「そうですね。 私が南部(リエステール)に戻ってすぐでしたから、そのくらいでしょうか」
聖歌隊(バード)の法衣を身につけたシアは、佇まいを直し、ティールの隣に腰を落ち着けた。
「服、前に着ていた法衣と違うね」
「世を渡る吟遊詩人(バード)ではなく、聖歌隊(バード)としての法衣です」
「どっちかに統一できないの? ややこしいし」
二つの顔を持つ人間など珍しくもなんともないが、彼女の場合は性質も呼び名も同じで、性質的にもほとんど同じ扱いである。
と言うよりは、バードと言う同じ呼び名で”戦闘形式の”ジョブとしての吟遊詩人と、式典などで聖歌を歌うとしての聖歌隊に大別されるだけなのだが。
……どうやら、儀式とやらで一度歌ってきた後らしい。
そういえば騒動の中で路上でも歌っていたが、おそらく”何があったか”理解した上で、”彼ら”を送り出していたのだろう。
「それを言えば、貴方もいつもと着ている服が違いますよ?」
「まぁ、私にも気分を変えたい時もあるよ」
ティールはいつもの地味な全身黒のワンピースに白いコートのような上着を羽織ってはおらず、今日は全身白っぽい色で統一されていた。
……髪の色が白がかった銀髪なだけに、これで教会の中の白い壁の部屋にでも行ったら保護色になって姿が非常に見にくいかもしれない。
シアは内心、好みが極端な女の子だなと思ったが、それは声に出さずに微笑んでいる。
「…というか、”あの”ブレイブマスターの様子を見に来ただけだけで、色々言われそうだから変装してきたんだけど」
確かに、ここまで極端に色を変えられるとぱっと見分からないかもしれないが……。
ハルバードは目立つので、酒場のマスターにこっそり預けてきたらしい。
―その際に、”そのブレイブマスター”がマスターと話しているのが目に入っていたのだが。
「エルナさんから何があったのかは聞きましたけど……みなさん、貴方にお礼を言いたいって顔してましたよ?」
「……あの人、私となんか似てる気がしたから放っておけなかった……グノルで手を貸したのもただの自己満足。
……それでお礼言われても、なんだか、ね」
「……自己のための行いだから、お礼はいらない、ということですか?」
コーヒーを口に付け、こくり、と頷く。
シアは、その様子を見て少し呆れたような微笑みを浮かべた。
「……正直、教会も自警団も純粋な正義とは思わない」
ティールはまた一口飲み込むと、教会の方へと目をやりながらそう語り始める。
呟くような小声ではあるものの、こんな場所でそんな事を言い出す彼女に、シアは少し焦りを感じさせられた。
……とりあえず、騒ぎにまぎれて誰にも聞こえなかったようだった。
「というより、正義をこれ見よがしに振りかざす人間は好きじゃない。 そんなの、綺麗な仮面の裏で何を考えてるのかわからないし……
私には、善悪の間で”自分が何者か”と迷っている人の方が輝いて見える」
「……」
エルナから聞いたと言っても、シアはあまり詳細な事を聞き出すような事はしなかった。
詳しく聞かされた事と言えば、教会全体で知る事となった副司祭の失脚の顛末くらいなものだ。
……が、それだけでも十分ティールの言葉を肯定するに足る要素でもあった。
「『自分』を見つけた人は私は好きだよ。 そんな人には、正義も悪も関係ない、確固とした信念があるから」
「……信念こそ本当に信じられる、と?」
「うん。 その中には、その人の全てがかけられているから」
「……」
―目の前のこの少女の内が計り知れないのは、出会ったその時もそうだった。
こんな風に、ある種の悟りを持って世界を見る目を持つには、若すぎる。
……恐らくそれだけの考えを持たせる”何か”が、まだ短いはずのこの子の人生の中にはあったのだろう。
「だから、今のあの二人は私にはまぶしすぎる。 この先どう生きようか迷っている私には、ね」
「それで、会いたくない?」
「今は、ね。 こうやって、遠目に見てるくらいが丁度いいよ」
ティールは空で輝く太陽を見上げ、そこに向けて手をかざした。
……指の間から差し込む光に目を細め、どこか遠くを見つめている。
「……そうですか……」
残念そうに肩を落とすシア。
…もっとも、今この状況で彼女をあの二人に会わせたところで、落ちついて話など出来ないのは目に見えて明らかなのだが。
「―さて、と。 それじゃ、ユキと銀牙にもよろしく言っておいて」
コーヒーを飲み乾し、近くにあったくず入れに放り込むと、ぐっと背を伸ばしてそう口にするティール。
「あの子たちなら孤児院の方で遊んでいると思いますけど、直接会った方が喜びますよ?」
「んー…まぁ、今日は一人でぶらぶらしたい気分だから、もうこのまま別の町に行く事にするよ。 もうすぐお昼の馬車が出る時間だし」
「そうですか、残念です」
「……そだシア、どうせまたあっちこっち旅するんだろうから、あの二人に会うことがあったら、”ガンバレ”って言っておいて」
「ガンバレ?」
「あの二人にはこの先色々ありそうだから、心折れずに頑張ってほしい。 自分を貫くのは、大変だから」
…それは、心を決めた人に憧れる、”迷い人”からのせめてもの呼びかけなのだろう。
今の自分が言うには、その太陽はまぶしすぎるから―
シアは、それ以上は何も言わずに、ただ頷いた。







「じゃ、またね」