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―5―






「……この剣は、私の技の全てを込めたものです」
手の中にある剣を目の高さまで持ち上げ、そう口にするホタル。
「ほう? …………何かあるようじゃが……見せていただけぬか?」
そして、エミリアがその行為に答えるように言うと、ぴくり、とディンがまた何かを言いかけた。
しかし、その瞬間のホタル自身の表情と、エミリアの真剣な瞳を目にして、出しかけた手を引き、開きかけた口を閉じる。
今のこの二人に、口出しは無用。 そう感じたのだろう。
「……先代……お主の父は、シエンと言ったな」
「はい。 ……父から伝えられた技の全て……その剣に打ち込みました」
ゆっくりと鞘から刃を抜き、その刀身を眺めるエミリア。
そして、真剣な眼差しで、その様を見つめるホタル。
「同じ…じゃな。 多少の違いはあるようじゃが、モレクで見た『天乃』の剣と違いの無い作り。 見事な作品じゃ」
「…………ですが、ある方から”よくできた贋作”と……」
「ふむ、確かにそういう見方もあるかもしれぬが…………」
「……だから、天乃の名を刻むには値しない……と」
一見だけなら冷静さを保っているようだが、よく見れば相当追いつめられている様相を見せているホタル。
その”誰か”から言われたその言葉が、18代目の頭首としての責任と役割と共に、その背に重くのしかかっている。
……真面目なのは悪い事では無い。 むしろ万人に好感を持たれるものだろう。
しかし、それが過ぎれば一つの障害から前に進めなくなる場合も多く存在する。
「私は、父の技を全て受け継いだと言う自信はあります。 ……でも、それだけでは天乃を継ぐには足りないとでも言うのでしょうか……」
「…………足りないもの、か」
その表情をじっと見つめ、エミリアは呟くようにそれだけを口にする。
そうして、そのまましばらく思案するように互いに黙り込み……一分は経過した頃だろうか、突然エミリアが気が抜けたように表情を崩し、肩から力を抜いた。
「そんな状態じゃ、まともな剣など打てやしないじゃろ。 また今度出なおすことにするか」
「お、おいエミィ……」
そのままの表情でそんなことを口にするエミリアに、ディンが焦ったように口を挟もうとする。
だが、ホタルはその言葉が事実である事をどこかで認識していたのか、落ち込んだように表情を曇らせ、さらに深く黙り込んでしまう。
「―そうじゃ、酒場で集めた情報によると、今夜あたりにオーロラが見れるかもしれないという話じゃ。 ホタルさん、その天衣岬という場所にはどのくらい歩けば行けるかわかるかの?」
しかし、そんな状態に構わず一人で話を進め始めるエミリア。
身勝手な言動もここまで来てしまうと、さすがのディンもどう言葉をはさんでいいのかわからず、困惑するかのようにホタルの様子を眺めていた。
「…え、ああ……大体一時から一時半(2時間~3時間)程のはずです」
「そうか、すまぬな」
声をかけられてようやく我に返ったホタルの言葉に、にこにこと笑って答えるエミリア……だったが、次の瞬間にはどこか優しげな微笑みを見せて、俯きがちなホタルの顔を覗きこむようにして、あらためて口を開いた。
「ホタルさん、そこまで落ち込んでいるのなら、一つ提案があるのじゃが……」
「……提案?」
先程までの印象を一気に覆すような、やさしく包みこむような温和な表情に押され、表情から少し硬さがとれたらしいホタル。
エミリアは返答と共にその様子を確認すると、表情を変えずにゆっくりと頷き、言葉を続ける。
「私達と一緒にオーロラを見に行かぬか? 落ち込んだ時は一度全て忘れて、気分を変えるべきじゃ。
反省も大事じゃが、その後に落ち込んだ気力を蓄えねば、何事も前には進まぬよ」
「……オーロラ……」
それは、極北の天空に広がる自然界の奇跡。
ごく身近に、それを目にする事のできる場所がありながら、身近ゆえに見に行こうとした事など無い現象。
そして多くの見る事が叶ったという人間が、感動を口にするという―
「……感動……」
それを見れば、何かが分かるだろうか?
なにも分からなくとも、心のつかえはとれるだろうか?
……気分を変えれば、なにか掴めるだろうか?
「……行きます。 ぜひ同行させてください!」
思い詰めすぎても先に進まないのは道理。
気分を変えるだけで道が開けるというのなら、その可能性にかけてみるのも悪くは無い。
ホタルはようやく笑顔を見せて、大きく頷いた。




「アイツのあの笑顔って、見てると妙に安心するんだよなぁ……」
……その横で、ここまで黙って見ていたディンが、呟くようにそう一言。
天真爛漫で、思い込んだら一直線……そんな彼女が時折見せる優しい笑顔。
彼は幼馴染として、幾度と無くそんな年下の『姉』の顔を見てきたが、その顔が他人に向けられる光景は、あまり見る事が無かった。
……少し悔しいような感情がこみあげてきたが、そこで邪魔をするほど無粋な男でもない。
ふぅ、とひとつ溜息をつくと、ディンは表情を取り繕い、壁に立てかけていたバルムンクに手をかけた。
「あ、ディン。 このまま行ってもバルムンクは大丈夫かの?」
「ん? そうだな、まぁ折れそうってわけじゃないし、近場なら別に問題ないだろ」
話は終えたのか、とてとてと剣を背負うディンの下へと近付くエミリア。
当初の目的は、刃こぼれなどが目立ち始めた剣の修復を依頼することだったのを思い出す。
「あ、それなら一刀お貸ししましょうか? パラディンナイトの方なら、丁度いいものがあります」
「……パラディンナイト用の片刃剣?」
片刃剣と言えば、一般的にブレイブマスターなどの軽装備のジョブの支援士が好んで使う剣であり、ブレイブマスターやベルセルクなどのパワーに重点を置いたジョブ相手には少々軽すぎるという。
もちろん、それでも使う人間はいるのだが、やはり武器とジョブの相性と言う点はそれほど高いとは言えない。
……そんなディンの思考など構わずに、少し経過すると、奥に向かって行ったホタルが、一本の片刃剣を持って工房へと舞い戻ってきた。
「天之荒龍(アメノコウリュウ)。 父の作品です」
その剣は、今まで見てきたどの片刃剣よりも長く、大きく、重量感に満ちた姿をしていた。
とてもではないが、ブレイブマスターなどには重すぎて使いこなす事は不可能だろう。
「これは……太刀か!? 大剣並の全長と重量で、ブレイブソード系にしか扱えないという片刃剣の亜種……」
「……ふむ。 エミィ、ホタル、ちょっと離れてくれ」
驚くエミリアを尻目にそれを受け取ったディンは、鞘からその刀身を抜き放ち、ゆっくりと確かめるような動きで一振り。
「間合いと重さはバルムンクとほぼ同じ、使い勝手は少し違う感じだが……使えそうだ」
そしてそう口にすると、かちりと刃を鞘に収める。
「我が家に残された数少ない父の作品なので、差し上げる事はできませんが……」
「いや、借りるだけで充分だ。 元々バルムンクを直してもらいに来たわけだし」
「よし、ひとまずはこれで万全じゃな。 あとは日が傾くのを待って、出発するのみじゃ」

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『巣窟』や『大空洞』はダンジョン内なので指定しづらいので割愛しましたが、天衣岬の地図上の位置を示してみました。
http://jewelryheaven.fc2web.com/rukai/nouse/amenoi.jpg

MAPは設定の所からお借りしましたw