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―10―





クウヤの途中参戦もあり、鎧武者の一団をなんとか退けた一行。
撃退後に本来町から出る事の無いクリエイター系列であるはずのホタルがあの場所にいた経緯も話し、その後はクウヤも交えてオーロラの発生を待つ事となった。
……しかし、その日はオーロラそのものを見る事は叶わず、一旦十六夜へと帰還することとなり、町へついた後にもエミリアとディンは少し残念そうな表情を見せており……特にエミリアの方はかなり露骨な溜息を交えていた。
ただ、その横で非常に充実した表情を見せるホタルの姿もあったことを、クウヤは見逃してはいなかった。

……そして、その2日後の早朝。
十六夜のはずれにある、どんな寒さでも凍らず流れ続けるという霊水の池に、ホタルは一人向かっていた。
昨日一日を使い天衣岬で見えた『答え』の意味を考え……今、戒めと決意の意味を込め、禊を行う。
今すべきは、剣を打つこと……それは自身の存在意義であり、望み。
「―よし」
気合一声。
今こそ、新たな一歩を踏み出す時だ。





「…………」
沈黙に支配された工房。
その場にいる者達には、ぱちぱちと火の燃える音だけが奇妙に大きく感じられ、張り詰めたその空気からは神聖さすらも感じられる。
その中心で、ひらかれたディンの手の平を静かに見つめるホタルと、その姿に少し気圧されつつあるディン。
……使い手の手を見る事。 それは、使い手の一部ともいえる武器を創り出す刀工にとって、重要なことなのだろう。
「……始めます。 ディンさん、あちらでお待ちを」
そう言うと、すっとディンの腕から手を放し、部屋の隅に用意された椅子へと座るよう促すホタル。
ディンは無言で頷き、その席へと腰を落ち着けた。
「ホタル殿、何かを掴んだようですね」
その横で呟くようにそう口にするのはクウヤ。
純粋に幼馴染の成長を喜ぶそのやわらかな表情は、先日の修羅のごとき戦いを見せた剣士とは思えぬほどの、優しいものだった。
「……まぁ、確かにこないだよりいい表情をしておるようじゃの。 これは期待できそうじゃ」
「おい、集中してるんだから静かにしてやれよ」
「大丈夫ですよ。 焼ける剣の前に立ったホタル殿の耳には、何も入らない」
あっけらかんと思ったことを口にするエミリアに、やれやれといった顔で注意をするディンだったが、クウヤはその横で笑うような顔で口を挟み、そう答えた。
そして、一泊置いてキョトンとした顔で返す二人に、付け加えるようにもう一言。
「話をしたければ構いません。 ……あのホタル殿の前で、口を聞く事ができれば、の話ですが」
「……!?」
その言葉を受けて、思い出したかのようにホタルへと目を向ける二人。
彼女は焼ける剣の前で目を閉じ、すべての意識を一点へと集中させている。
……そして

「―っ!!」

ある瞬間に閉じていた目を開き、共にその手の槌を振り下ろす。
同時に工房中に鉄を打つ音が高らかに鳴り響き――彼女のその様を目にしたディンとエミリアは、何か異様な圧迫感を感じると共に、思わず目を見開き……その瞬間から、剣を打つ彼女の姿に完全に目を奪われていた。
(一心不乱、明鏡止水。 剣を前にしたホタル殿は、何者も寄せ付けない……だが同時に、見る者の目を奪う美しさも秘める)
その中で、ただ冷静に剣を打つ姿を眺めるクウヤ。
(……あれほど楽しそうに打つ姿は久しぶりに見る……これは、期待できそうだ)
そこまで考えた後にふっと笑みをこぼすと、改めて鉄を打つ槌の音と、それを操るホタルの姿に意識を向けた。










「……ほぉ~……」
そして、どれほど時間が経っただろうか。
今ディンの手には、かつてのバルムンクであった一振りの大剣が握られ、エミリアと共にその姿を唖然とした様子で眺めていた。
「―見た目こそ普通の大剣ですが、片刃剣の技術を使わせていただきました。 多少なり、強度も切れ味もよくなっているはずです」
そして、この日二本目の――クウヤの剣も打ち終えたホタルは、手近に置いてあった布で汗をぬぐい、二人にそう呼びかける。
さすがに間を置かずに二本打ち続けた負担は大きかったのか、若干槌を振るっていた腕が震えているように映るものの、その表情は非常に充実したものとなっていた。
……その二刀は、紛れも無く極みの作品と呼ぶにふさわしいものとなっているだろう。
「それで、名はつけてあるのか?」
修復という名目とはいえ、バルムンクを丸ごと鋳潰し、事実上一から作り直したようなもの。
確かに、新たに名をつけてもいいのかもしれないが……
「いえ……ディンさんの剣ですし、お好きに呼んでいただければ」
そう答えるホタルの顔には、何の曇りも無かった。
「んー……じゃあ、天羽々斬(アメノハバギリ)はどうじゃ? 十六夜の神話に伝わる龍斬りの剣の名じゃが」
「まぁ、悪くは無いと思うが……それ片刃剣の名前じゃないのか?」
「……いや、天羽々斬は両刃の直刀。 十六夜に伝わる伝説としては珍しい形状のものですが……私は、悪くないと思います」
ディンの疑問に、笑って解答を口にするクウヤ。
両刃の直刀、というと、まさに今目の前にある剣の形そのものだろう。
「……そうか。 なら、それでいくか」
そう口にし、改めて刀身に目を向けるディン。
鋳潰す前のような傷は当然のように消え去り、新たな姿と名で生まれ変わった愛用の剣。
……むしろ、打ち直す前よりもその手に馴染むようにも感じられ、まさに”自分の剣”である、とその手から伝わってくるようだった。
「しかし、エミリア殿は十六夜の文化にも詳しいようですね」
「うむ、お婆ちゃんが十六夜出身じゃからな。 小さい頃に色々教えてもらったからのぉ」
あっはっはっは、と楽しそうに笑う二人。
ディンはやれやれ、とばかりに苦笑しつつ溜息をひとつつくと、思い出したようにホタルの方へと目を向け、再び口を開いた。
「そういや、報酬まだだったな。 結局一から作ってもらったようなもんだし……いくらだ?」
本来、『修復』だけの依頼だったが、こうなってくるとそれだけの金額では申し訳がたたないかもしれない。
そう考え、少々苦笑しながら尋ねてみたが……その問いかけに対する答えは、すでに決まっているようだった。
「いりません。 貴方のおかげで、大事な事に気付けましたから……せめてものお礼です」
「……そう、か。 なんか悪い気もするが……それなら遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらうかな」
十六夜の民は義理堅いもので、気にいった相手には協力を惜しまないという。
そんな土地柄を思い出し、言葉通り気は多少ひけるものの、この場は有り難く厚意を受けておこうと判断した。
―なにかした覚えもないが……まぁ、深くは聞かないでおこう―
人には、その人の悩みがある。
ただ、天衣岬に言った前と後では、随分と雰囲気が変わっているように感じたのも確かで、あの一晩に、自分達の何かが影響したのは確かかもしれない。
そう思い、ディンはそれ以上の追求は止め、口を閉ざした。