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―エピローグ―





―あれから一ヶ月。
アウロラはアトリエの中で、自身の描いた二枚の作品を額の中に収めていた。
一つは、当然の如くあの日の風景を自分なりに描いたもので、朝霧に沈む街が、朝焼けの朱に染まる様を見事なまでに再現している。
……この一枚は、それまで何も描けなかった時間がウソであったかのように筆が動き、今まで描いて来た中で、最高の出来であるという自信があった。
それはまるで、長い長い悪夢から目覚めたかのようで……そういう意味も込めて『Day Break(日の出)』という名前をつけている。
「もう迷わない。 一人でも『絵』を見てくれる人がいるなら……私は、私の好きな絵を描いていくだけだ」
「そうそ、あんまり思い詰めてもいいこと無いわよー」
「エルナさん……ノックくらいして貰えません?」
「そんな固い事言わないで。 もうすぐこの絵、どっかやっちゃうんでしょ?」
この絵は、近いうちにとある貴族に渡す事が決定している。
少なくとも、そこの主人は絵画を見る目を持っている……そう信じられる相手だからこそ、この一枚を渡す決心がついた。
自らの転機となったこの一枚くらいは、名ではなく質を見る事の出来る人の下にあってほしい。
それは、そういった心情の表れかもしれない。
「私がちょっとは関わった絵なんだし、どこかに行っちゃう前に、よく見ておきたいのよ」
「まぁ、気持ちはわかりますけど」
この絵が行く先の主人は、集めた美術品を個人的に建てた建物に移し、美術館のような形で解放しているという。
よい作品は、多くの人に見られてこそだという精神は、多くの美術家からも支持されている。
惜しむらくは、それがリックテール側に住む貴族であるということくらいかもしれない。
「……それで、もう一つの絵はどうするの?」
エルナは『Day Break』から視線を外し、もう一方の……スケッチブック程度の小さな額に収められた絵に目を向ける。
その絵の中にあるのは……青々とした木々生い茂る森の中、木漏れ日の中を楽しそうに飛び回る、赤い衣装の妖精の姿。
『ひだまりの使い』と名付けられたその一枚は、どこかでみた少女の微笑みを髣髴とさせる、穏やかな空気を纏っているかのようだった。
「コレは個人的に描いただけのものですから、ウチで飾っておきますよ」
「ふーん、でもあなたが引退した後に見つかって、未発表の名作って事になりそうよねぇ」
「そうなったらそうなったで、楽しいじゃないですか」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、そう口にする。
これから後に、いくつもの名画を生み出すであろう若き美術家、アウロラ・ピアレスティ。
その影に一人の小さな冒険者の存在がある事は、彼女の友人である一人のカーディアルトが知るのみとなっていた……