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―1―





オース海岩礁洞穴。
鉱山の町モレクから更に西に向かった先にある、海に深く密接した事で有名な中級ダンジョン。
その特性から内部には所々に海水の溜まり場があり、季節や時間による潮の満ち干きで進入できる場所などが変わってくるという。
浅い部分であればそういった事も少ないのだが、深い部分になってくるとその変化は顕著に現れ、時には完全に海水に沈んでしまう場所もある。
そんな理由から、これ以上踏み込めば海に呑まれるかと思われる場所に支援士の少女が一人。
岩塩の採取依頼を受けて入りこんだのだが、知らず知らずの内に中腹まで足を伸ばしていたようだ。
「これでもう十分かな。 さすがに水が多くなってきた気もするし」
何事も、引き際が肝心である。
満潮の海に沈んで終わるなどというのは、そういったものをわきまえていない支援士のする事。
まだまだ命を捨てるつもりなどない少女は、そこまでして望むべき価値は奥地にはないと判断している。
……とりあえず、目の前にある横穴を確認したら、手早く出て行こうと思い、足を進めて行った。




「……大空洞……なんだか、あの鉱山を思い出すな……」
かつて、『エメト・ルミナス』と呼ばれるゴーレムと戦うこととなった、モレク鉱山の『青空の大空洞』
彼女――ティールが踏み込んだ横穴の先には、あの場所とよく似た構造で、洞窟の中だと言うのに、天井を突っ切って青空の見えていた。
……あの場所には、一言では語りつくせない思い出がある。そろそろ、あの時一緒だった彼等と顔を合わせてもいいころかもしれない。
ふとそんな1年以上前の事を思い出し、感傷に浸る。
「……ん?」
……だが、その時目に映ったのは、部屋の中央あたりで水の上に浮かぶ、透き通った7色の光を放つ丸い物体。
上空の穴から降り注ぐ太陽の光を反射し、まるで虹を内側に宿しているかのようなその物体は、ティールの心を惹きつけるものがあった。
―私、宝石には興味ないはずなんだけどな……―
そう思うものの、虹色に輝く宝石、それも軽く抱えるような大きさのものは見た事が無い。
深部に差し掛かろうというこの場所に長居は厳禁だが、ティールは、とりあえずその物体を拾っていく事に決めた。
……が、しかし。
「……宝石じゃない?」
いざ近付いて持ち上げてみると、その形は球体ではなく、片方に重心が寄ったような楕円系。
そして、手触りも石のようなものではなく、どこか町の中で手に取った事があるような感触だった。
……そう、食料品の店先で持った事のある……
「……たまご?」
片方が膨らんだような楕円の形状、わずかにザラザラとした石とは違う手触り。
大きさや色こそ該当するものが思いつかないが、それは鳥かなにかのたまごであろうということは確かに感じ取れた。
どのみち、珍しいものであることにはかわりない。
ティールは、潮が満ちる前に洞窟から脱出するべく、たまごを抱えたまま歩き出した。







そして3時間ほど経ったころだろうか、たまごを抱えながら道中にいる魔物の相手をするのは少々苦労したが、通路の隅に寄せたり置いたりしてなんとかやり過ごし、どうにか岩礁洞窟から脱出することに成功する。
空洞内にいた時は真上にあった太陽が随分と傾き、雨でも降っていたのかそれと逆の方向には虹が姿を現していた。
「また降り出す様子はなさそうだね……」
空の雲の様子を見て、まばらに雨雲らしき雲は見えるものの、全体的に青空が広がっているのを目にしてそう一言。
こんな日は、町に戻ってのんびりとすごしたいものである。
そう思い一度全身をぐっと伸ばすと、片手をたまごからはなしてぐるぐると振り回す。
窮屈なダンジョンから出てきたあとは、習慣的に身体をのばす動作がでるようになっていた。
「……そのたまご……洞窟から拾ってきたのか?」
「ん?」
と、丁度振り回した手をたまごに戻し、逆の手を伸ばそうとしたその時に、一人の初老の男が自分に話かけてくる声が耳に入ってきた。
おそらく岩礁洞窟の探索に来た支援士だろう
ティールはそっちのほうへと振り返ると、一つ頷く。
「そうか、やはり……まさか先を越されるとは……情報が遅かったか……?」
すると、男は考え込むようにして目を伏せ、ぶつぶつとそんな事を口にしだす。
―……5人、か―
そうしている間に、ティールは周囲の様子を探るようにちらちらと目を回していた。
近場にある岩や木の影に、ほんのわずかだが人の気配を感じる。
恐らく身を隠したクレセントといったところかもしれないが、察したところ彼らはそれなりに熟練した者のように思えた。
比較的カンの鋭い自分だからこそ発見できたようにも感じるが……
―……怪しい―
そうなれば、目の前にいる存在も奇妙と言えば奇妙に感じてくる。
見たところ魔術師系ジョブの支援士だが、普通は前衛を連れて潜るのが常で、わざわざ一人でダンジョンに潜ろうとする魔術師系ジョブの人間は少ない。
周囲に潜んでいる者がそうだとしても、わざわざ潜む理由が見当たらない。
「……すまないがお嬢さん、そのたまご、私に譲ってくれないか? 何、相応の金は払う」
唯一理由があるとすれば、『奇襲』。
先程男が発していた『情報』という言葉から考えると、まだ確定とは言えないが最初からこのたまごが目的で来たと言うことになる。
おそらく、持って出てきたのを見て襲撃に切り替えたのだろう。
「…………いえ、常連の取引先がいますので、お断りします」
さすがに、こうも胡散臭い相手に手渡す気にはなれない。
常連、というほどの相手はいないが、こういった珍しい物を買い取り先の目星ならある程度ついている。
―なので、今の言葉はあながちウソとも言い切れない。
「……そう、か。 それなら仕方ないね……」
男は、残念そうにそう口にすると、すっと右手を上げた。
何かの文字のようなものが刻まれた指輪が光り、魔力が収束していくのを感じられる。
「……力ずくでも、渡して貰うとしようか」
そしてそう口にすると同時に、周囲に潜んでいた者達がティールを取り囲むようにして地面の上に降り立つ。
クレセントが5人に、ネクロマンサかマージナルかは特定できないが、魔術師が一人。
相手にするには微妙な線ではあるが、何人か斬り倒して逃げるくらいは可能だろう。
詰め込むには難しいだろうと思って直に手で持っていたが、ティールはここにきてたまごを半ばカバンの中に詰め込み、肩紐を首に回して落ち無いように固定する。
ダンジョンの中で多少物資を消耗していたのが幸いして、なんとかカバンに収めることには成功した。


「かかってくるなら、容赦はしないよ!」

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