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―3―





「な……何……?」
恐る恐る目を開くと、いつの間にか空間そのものを飲み込むような勢いの光は消え、たまごに群がっていたはずの四人のクレセントと、ネクロマンサの男はなぜか全身にダメージを負った状態で、地面に倒れ伏していた。
先程たまごが発していた光の影響なら、抱きかかえていた自分自身もただではすんでいないはずなのだが……
「……あ、たまご……」
そこまで思い返し、ようやく今自分がおかれている状況を思い出す。
とっさに受けとめた、割れかけのたまご……自分の手元を見下ろすと、そこにはそれがあるはずだった。
しかし、そこにあったのは……いや、”いた”のは、七色の羽毛をした小鳥。
その結果は、直前の展開から考えると予想できたことではあったのだが……
「孵っちゃったか……」
ティールは、今の自分が抱いている感情を、どう表現するべきか分からなかった。
拾ってきたたまごを孵すつもりもなければ、食べるつもりもなく……ただ、珍しそうなものだから拾ってきた。それだけの話である。
よって、目の前でこうして生まれたところで、大した感慨もない。
「……でも、生まれたばっかりの鳥って……こんなちゃんとした格好してないよね…?」
それよりも気になったのは、今たまごから孵ったばかりだというのに、羽根はある程度生えそろっており、ぱっと見の成長具合は子どもであることに間違いないかもしれないが、とても生まれたての鳥とは思えない外見だった。
ただ、目の前の男のたまごへの固執具合も考えの中に入れると、間違いなくこの鳥は特殊な存在。
少なくともろくでもない相手に渡せるものではない、と悟った。
「ぐっ……こんな小娘が……『親』に選ばれただと……?」
……その時、ふらふらとした足取りで立ち上がるネクロマンサの男。
一瞬遅れて、ティール自身が倒した一人を除いたクレセント達も、順に立ち上がり始める。
「『親』?」
ティールはそう問いかけつつも警戒するように小鳥を抱き、逆の手で武器を構えた。
相手の様子を見るに、とても戦えそうな状態では無いが……
「……全員、一旦引くぞ!」
その見立ては当たっていたのだろう、男は自分の身体を引きずるようにして歩き出し、四人のクレセントもその後を追うようにして立ち去って行った。
ティールは小さくなっていくその後ろ姿を見つめるつつも、追いかけることなく武器の構えを解く。
後になると再びこの鳥を奪いに来る事は明白だが、おそらく今回現れたのは氷山の一角。
相手の真の規模が分からない以上、追いかけてまで倒すのは現実的ではない。
なにより、ダンジョンを出てきた直後の自分にも、強がってはいたもののそこまでの力は残っていなかった。
「――ピィ?」
そんな状態を知ってか知らずか、小鳥は首をかしげるような動きを見せて、鳴き声をあげる。
「……やれやれ、また妙な事に首突っ込んじゃったかな……」
生まれてきただけのこの鳥に罪は無いが、ティールはとりあえず微笑んでみるものの、心の底に溜まり始めた疲労の色は隠せなかった。
たぶん、相手を安心させる事ができるような笑顔は出せていないだろう。
「さすがに捨てていくなんて出来ないし……あんな連中もいることだし、連れてくしかないか」
溜息をひとつつきながら、ティールは肩掛けの紐が切れたバックを持ち上げる。
そして手提げ用の取っ手もついているのを選んでおいて正解だったな、と思いつつ、先程の連中のような者はもういないかと、周囲を確かめるように目を回すと……
「……あれま」
最初に自分で倒した一人のクレセントが、いまだに同じ場所に倒れこんでいた。
恐らく、去って行った5人には拾っていくような力も無かったのだろう。
「……自警団の人でも呼んでおこうかな」
とりあえず息はあるようだが、足の辺りに思いっきり攻撃を叩き込んだので、目を覚ましたところでまともに歩けはしないだろう。
放置しておくのも不安ではあるが、さすがに少女の身で大の男一人を街まで運ぶのは無理がある。
ティールは取り急ぎモレクへと帰還し通報しておく事に決めた。


「ピィ」
「……私が『親』ね……仕方ないとはいえ、なんだかなぁ……」
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