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―4―






その後、足早にモレクまで帰還したティールは自警団の駐屯騎士に事のあらましを告げた。
……ただ、今の自分は事の大きさを理解しきれていないと考え、”ダンジョンから出たところを、荷物を狙われた”とだけ伝え、小鳥の存在についてはまだ隠しておく。
珍しい存在というものは、あらゆる方向から狙われる要因となり、加えて今自分がおかれている状況から考えると、騒ぎを大きくせずに、相手の出方を見る方が得策……そう考えての行動でもあった。
「……とはいえ、どうしたものかな」
自警団が岩礁洞窟方面に調査に出たのを見送ると、ティールは再びモレクの町を歩き出す。
とりあえず酒場に依頼されていた岩塩を届けるのは確定として……
「ピィ~……」
「……あ、お腹すいた?」
コートのポケットからちょこんと顔を出し、なにやら切なげに鳴く小鳥。
思い返せば、たまごから孵ってからここまで何も食べさせていない。
特殊な存在とはいえ、お腹はすくものなのか……などと考えつつ、エサになりそうなものを探すために歩き出した。
「鳥なんだから、やっぱりムシとか食べるのかな?」
途中目に入った木の上を眺めつつ、そんな感じの事を口にする。
とはいえ、この鉱山の町ではムシなどというものは早々見当たらない。
そういった系統のエサを探すくらいなら、普通に食料品店街にでも行ってパンでも買ってきた方が早いだろう。
そう思い、ティールはその足先を通りの方へと向けた。



「へー、結構食べるね、キミ」
てきとうな店でパンを購入して、手近にあったベンチに座り、そのパンを細かくちぎって食べさせる。
やはり小鳥はおなかがすいていたのだろうか。 差し出した手の平の上のパンくずを、出すたびに残らず平らげていく。
「こうやって見てると、けっこう可愛いかもね」
一生懸命に食べるその姿を見て、自然と微笑みが浮かんでくる。
人間でも魔物でも、どんなものでも赤ん坊というものは可愛いもの……どこかの誰かがそんな事を言っていた記憶があるが、あながちウソでも無いかもしれない。
ティールは別に買っておいたパンを取り出し、少し落ちついた気分でそれを食べ始めた。
「……そだ、いちおう名前決めとこうかな」
そんな中で、ふと呼び名をつけていない事を思い出す。
……今後この小鳥とどの程度の付き合いになるのかわからないが、今この子にとっての『親』は自分だけ。
鳥には”刷り込み”という本能的な現象があると言うし、小鳥自身も少女の事をそう認識しているだろう。
そう思うと多少の情も湧いてくるもので、なにかてきとうな名前はないかと考え始める。
「んー……なんだったかな……」
「ピィ?」
”七色の鳥”……以前この世界の事を知るために行った図書館で、それっぽい記述を見た憶えがあり、そこから持ち出そうと記憶を掘り返し始めるティール。
……それはもう一年も前のことで、当時は特に興味のなかった記述であったためか、その名前を思い出すだけでもかなりの時間がかかりそうだった。







……モレクにある、とある建物の屋根の上。
今その場所で、一人の人間と二人の妖精が並び、眼下の何かを眺める姿を見せていた。
「――間違いない、あれ『アイリス』の幼生体だ」
その中の、星のような無数の細かい光の粒子を纏う妖精――ヒミンが、驚いた様子でそう口にする。
「邂逅遭遇、運否天賦。アイリスは『親』を選ぶ、あの子がたまごを拾ったのは偶然だけど、『親』としての器のない人間の前では決して孵化することはない」
それに付け足すようにして、もう一人の妖精――マーニが口を開く。
二人の瞳に映るのは、ベンチで小鳥と一緒にパンを食べている少女の姿。
「まぁ、それなら任せておいても大丈夫なんだろうけど……」
全てを知っているかのような様子で会話を続ける妖精の二人だが、不安要素が無いと言えばそれはそれで嘘になる。
……人間と言う生き物の中には特殊な存在に対して過剰な感心をもつ者がいて、そういった人間は時に手段を問わずに行動を起こす事がある。
だからこそ、『アイリス』は本能としてたまごの内側から『親』を選ぶという能力を宿していて、孵化の瞬間に悪意をもって近付く者は、裁きの光をもって退かせるという。
だが、生まれてくる雛にその自覚は無く……”そういうふうにできている”存在だということは確かである。
「うーん、じゃあ、しばらく様子を見てみようよ。 私達が動くのは、その後でもいいしね」
今後の指針に迷い、首をひねるヒミンとマーニに対し、二人の間に座っていた少女――ソールがのほほんとした調子でそう口にした。
状況に似合わない雰囲気をまとっているソールだったが、それは生来の性格からくるものらしく、二人は特に気にした様子も無く、彼女の言葉に頷いて同意する。
「それにしても、幼生体がここにいるってことは、先代様はお亡くなりになったってことか……」
最後にヒミンはどことなく残念そうな表情を見せて、そんな事を口にしていた。



『……アイリス。 そうだ、虹の鳥の名前、確かアイリス! だから、んー…………イリス、でどうかな?』
『ピィ♪』




「名前、決まったみたいよ。 イリスだって」
単純ねぇ……とでも言いたげな表情で、ヒミンにそう呼びかけるマーニ。
それに関しては同じ事を思ったのか、特に何か言う様子も無く、ヒミンは微笑ましげなその光景をただ見下ろしている。
眼下では、一人の少女と一匹の小鳥が、仲よさそうに、互いに微笑んでいるかのようだった。

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