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「『虹彩の魔鳥』の雛の捕獲依頼じゃと!?」
ある日の朝の、南部中央都市リエステールの酒場。
ここしばらく北部で行動していたと言う二人の支援士が、久々に顔を合わすマスターと談笑混じりに仕事の依頼を受けようとした時の出来事だった。
……この二人の支援士ランクがAに昇格したのは十六夜に向かう少し前の話になるものの、これまでAランクの依頼というものは一度も来た事が無い。
もっとも、拒否権のない依頼なので、若干苦手意識も持ってはいたのだが、基本的に報酬も高くなるのでそう悪い話でもない。
「ああ、昨日の夜にきた依頼でな、『レアハンター』……お前達を名指しで依頼したいと」
どこか渋い物を食べた後ような顔をしてそう口にするマスター。
確かに、『虹彩の魔鳥』と呼ばれる鳥は、常に世界に一匹しかいないとされる貴重な魔物の一つ。
ランクとしてはAに属していても間違いは無いだろうし、比較的レアアイテムに縁が深いと言われているこの二人に頼むのも妥当と言ったところだろう。
……だが、二人にはひとつふに落ちないところがあった
「……ディン、こんなヤツの捕獲を頼むような知り合いがいたか?」
「いや、知らないな。 むしろエミィの方がそういう知り合いいそうな気がするが」
そう、わざわざこんな依頼を投げてよこす相手の心当たりは、二人には全くといっていいほどない。
また、二人の『レアハンター』としての噂を聞きつけてきたにしても、捕獲対象が見ず知らずの相手に預けておけるようなものではないのだ。
「……ディン、エミリア。 Aランクの依頼だから、強制になるのは分かってるな?」
そんな不毛な議論をしているレアハンター……ディンとエミリアの二人に、いつになく真剣な面持ちで語りかけ始めるマスター。
二人はそれを耳にすると議論を止め、”当然”とでも言うように頷くと、無言でマスターに次の言葉を促す。
「大きな声では言えねぇが、依頼先が黒い噂が絶えないところでな、話によると売買が禁止されている薬剤の製造や、違法な研究をしてるとか……」
そうして帰ってきたのが、二人以外には聞こえないように、抑えた声によるそんな言葉。
「……そんなところの依頼も、出されたら受けるのか?」
「――俺個人としては、そんなところの依頼を通したくはないが……確固とした証拠がねぇ以上、依頼を差しとめる理由もねぇんだ……すまない」
「…………」
神妙に謝罪するその表情に、思わず黙り込む二人。
Aランクの依頼として通してしまった以上、二人には受ける義務があるのだが……
ここまで言われてしまっては、余計に気が進まなくなるのも当然というものだろう。
「……まぁ、こうなってしまった以上、とりあえず行くだけ行ってみるしかないしのぉ」
「ああ、マスターが気に止む必要ない」
だが、二人は軽く笑って気を沈めるマスターに向けてそう口にする。
「……ふっ、俺が慰められてどうするって話だな。 まぁ、とにかく相手が相手だ、気をつけてくれ」
「わかった。 ……けど、依頼として出してくる以上、雛がどこにいるかくらいの目星はついているのじゃろう?」
「ああ、それについては依頼人の方から詳しく話すそうだ。 集合場所はモレクの――」
「待ってください、その件について少しお話がありますの」
と、マスターが詳細を口にしようとしたその時、店の出入り口から一人の女性の声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには純白の鎧を身につけた一人の女性パラディンナイトの姿。
……彼女は、ディンとエミリアの二人には、見覚えのある女性だった。
「クローディア、お主、なぜこんなところに……」
クローディア・プレスコット。
南部に本邸を置く貴族、プレスコット家の息女で、プレスコット従騎士団を従える『白麗の戦姫』
以前の黒船騒動で知り合って以来出会う事は無かったが、二人の記憶に彼女の存在ははっきりと残っていた。
「……現在、我々プレスコット従騎士団はその依頼先について調査を進めているところなのです」
「はあ、それで?」
「先日、オース海岩礁洞窟付近で、その以来先の組織に属していると思われるクレセントの男を、強盗の容疑で自警団が捕縛し、現在取り調べ中なのですが……」
「……オース海岩礁洞窟か……」
岩礁洞窟最寄の町と言えば、先程マスターが以来人との合流場所として指定しようとしたモレクの町。
偶然なのかどうかは未だ不明だが、うまい具合に重なっているのも早々見過ごす事はできないだろう。
「組織の『裏』の件について知っている気配を見せているので、そちらの件に対しても取り調べを続けていますわ」
「……ふむ……そういう事はお主らよりも自警団や教会――ジャッジメントの仕事では無いのか?」
「はい。 ですが、我々プレスコット従騎士団は自警団とは連携を取り合う関係をもってますの。 必要とあれば、我々が自警団からの依頼として現場に出向くことも珍しくはありませんわ」
『統治』という形ならその二つの組織が中心に立ってはいるが、この大陸の平和は自警団や教会だけで守られているわけでもない。
例えばプレスコット家のように個人で小規模な騎士隊を持っていたり、支援士ギルドという形で複数の支援士が纏まって行動していることもある。
……中には、自警団や教会と密接な関係を持つ組織があってもおかしくは無いだろう。
「……それで、出向いてきたという事はこの依頼を差しとめる理由でもみつかったのかの?」
「さすがにそれは……やはり、組織自体が不正な存在であると立件できなければ、Aランクの依頼を差しとめるのは難しいんですの……」
「ふむ……」
「ですが、もう少しで不正が暴けそうですので……今回は、お二人に出来る限り時間を稼ぐようにお願いしに来ましたの」
「……時間を?」
「はい。 組織からの依頼を受けつつ、できるだけ話を引き伸ばしてくださいまし。 不正が発覚し、組織そのものの存在が崩れれば、Aランクの依頼でも遂行する理由が無くなりますわ」
こちらに与えるプレッシャーを和らげるためだろうか、クローディアは上品な微笑みを浮かべながらそう口にしていた。
……わざと依頼を長引かせ、失敗するように仕向ける……はっきり言って、今までに無い依頼の内容である。
しかも気付かれないように自然に、とくれば難易度はかなり高い。
「……まぁ、話を聞く限り気が進まぬ依頼じゃしな……」
「…というかマスター、なんでクローディアがこの依頼の内容知ってるんだ?」
「ああ、さっき言ったみてぇに裏が怪しい組織からの依頼は、内容によっては自警団や教会に連絡する事もあるんでな。 自警団、教会の指示待ちで保留になることもある」
「……なるほど、今回はおとり捜査のために通したと言ったところか」
話を聞き、露骨に疲れたような溜息をもらすエミリア。
人生初のAランクの依頼にしては、精神的負担が大きすぎるということもあるかもしれないが、その溜息には、また別の理由が込められていた。
「……念願の”虹の精霊王”の情報が手に入ったかと思えば……もっと別な形で知りたかったのぉ……」
世界に散りばめられた『感動』を追いかける冒険者として、この出来事はどうにも納得しきれない様子だった。

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