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―8―





「……まぁ、話せることと言っても、状況を見る限りの推測でしかないけどね」
さすがに一般的な宿の一人部屋に6人も入りこむと狭くも感じられるが、ベッドやてきとうなところに腰かけたり、一部は壁に背を預けて立ったままの状態でいたり、とすることで、どうにかスペースの確保は行われた。
ちなみに、話題の渦中にいるはずの女の子は、ベッドに腰かけるティールにべったりと張り付くようにして抱き付いている。
「昨日岩礁洞窟から拾ってきたたまごから、七色の羽根をした小鳥が生まれたの。 その鳥、私のことを親だと思ってたみたいだけど……」
ティール本人は、多少その状態を気にしながらも、正面に陣取る四人に向けて話を始めた。
色々とあらぬ誤解を招きそうな状況だっただけに、心なしか表情がわずかに必死そうなものが見え隠れしている。
「鳥……ということは刷り込み現象かもしれませんね。 最初に見た動く物体を親と思い込むという……」
「かもね」
「しかし、そんな小鳥、いないようだが……?」
シアの言葉に同意したティールに、さらに問いかけるヴァイ。
確かに部屋の中を見回したところ、そういった鳥の姿は見受けられない。
「……だから、この子がそうなんじゃないかなー……と、私は思ってるんだけど」
ティールは抱き付いている女の子の頭をぽんぽんと叩きながら、真顔でそう口にする。
……それに対しては、シアとヴァイは唖然とした表情を見せて絶句する。
確かに、どこかで人の形を取る事が出来る龍の子の存在を聞いた事がある気もするが、話を聞いた限りでは、今の話の中にでてくるのは鳥であるし、もしそうだとしても、そんな存在がいざ目の前にいると言われても、ピンとこないのが現状。
……もっとも、そう言ったティールにとっても推測の範疇を超えず、確証があるとは逆立ちしても言えない状態である。
「ママ?」
その迷いの感情を察したのか、覗きこむようにしてティールの顔に目を向ける女の子。
――もっとも、こういう結論に達した最大の理由は、いるはずだった小鳥がいないことと、ティールのことを『ママ』と呼ぶその態度だったりするのだが。
「……」
自分から言える事はそれだけだ、とでも言うかのように黙りこむティール。
ヴァイとシアは言葉を返すのを待たれているのか、と思いつつも、頭の中の整理にはもう少しかかりそうで、声に出して明確な返事をするには、少し時間が必要な様子である。
「……アイリス? でも、そんな……」
しかし、そんな中でただ一人……リスティが、ぼそりとそう呟いていた。
「……リスティ、何か知っているのか?」
「あ、いえ……私が、と言うより……アルティア様の記憶の中に『アイリス』の事があって……」
ヴァイの問いかけに、少し自信なさげに答え始めるリスティ。
『アイリス』という名称は、ティールが小鳥に名前をつける際に、図書館の本を呼んだ時の記憶の中から引き出してきたものと同じ名前である。
「アイリスって……もしかして、『虹の精霊王』のこと?」
「はい。 『記憶』を探してみると、アルティア様は人間の姿をしたアイリスと会ったことがあるようです」
「……ちょっとまて、話の腰を折って悪いが……その『アイリス』っていったい何なんだ?」
ここまで一度の耳にしたことの無い単語を前に、思いっきり首をひねるヴァイ。
それは横に座っていたユキも同じらしく、頭上にハテナマークを浮かべてリスティとシアの方へと目を向けていた。
「確かに、アイリスは教会の授業じゃあんまり触れられない存在でしたね……それじゃ、特別授業ということで、簡単にお話しましょう」
ぽん、と微笑みながら手を合わせて、ヴァイの言葉にそんな返事をするシア。
そして、周囲が一度コクリと頷いたのを確認すると、軽く咳払いをして再び口を開き、数年ぶりの”授業”を始めることとなった。
「――アイリスとは、『虹彩の魔鳥』や『虹の精霊王』と言った名称でも呼ばれ、この世界に常に一体だけ存在していると言われる高位精霊のひとつです」
「常に一体って……それじゃ、なんでタマゴなんてあるんだ? 魔物なら死んでも”コア”から再生するらしいから、一体しかいないって言われてもわかるが……」
「アイリスは死に至る際に、その身をタマゴのような膜の中に封じ込め、再び幼生体に還ることで生をつなぐと言われ……子に還る際に全ての記憶と力は封じられ、新たに産まれた後の成長に応じて、その記憶と力は再生されていく、と伝えられています」
「シア先生、それって……輪廻の輪を介さずに転生するって事ですか?」
”はい”とばかりに手を上げて、疑問を口にするリスティ。
彼女の中に残るアルティアの記憶がどこまで残っているのかは不明ながら、アイリスの細かな生態についてまでは残されていないのかもしれない。
「解釈の仕方は色々あるかもしれないけど、大方そう考えて間違いは無いかもしれないわね」
「……そうだとしたら、なんだか魔物と動物の中間みたいな感じですね」
魔物はたとえ死んでもコアが無事な限りそのままの姿で再生され、動物は親が子を産む事で新たな生を繋いでいき、その魂は輪廻の輪を通る事で新たな肉体に宿り、生を得る。
対してアイリスの場合は、まるで死の瞬間に子を産み落とし、その転生の先が産み落とした子どもである、と……まさに、今リスティが口にした言葉のような輪廻の姿を持っていると考えられるだろう。
「となると、アルティアが会ったっていうのはこの子の『先代』かそれ以上ってことになりそうだね」
ここに来て、ここまで黙っていたティールが口を挟む。
……しかし、表情は真剣なものの、べったりと小さな女の子にへばりつかれているその様は、緊張感にはどうにも欠けるものだった。
「その子が本当に『アイリス』だとすれば、そうかもしれませんね」
「……しかし、そうなると転生した先の子どもは誰が育てるんだ?」
シアが纏めた話に続き、また別の疑問を持ちかけるヴァイ。
……最も、この質問に限っては、ヴァイも、他の全員も、すでに大体の結論はでているのだが……
「それは……『人間』です」
自らの中に眠る記憶を元に、今度はシアに代わってリスティが口を開く。
「アイリスはタマゴの中から自ら親を選び、選ばれた親の前でのみ産まれてくるそうです」
「……なるほど。 それで私に白羽の矢が立ったってわけか」
「はい、恐らく。 ……そして、そんな形を取るが故に、生まれてから短い時間で、人間と同じ姿への擬態を取ることができるようになるようです」
「それは、恐らく保護色的な要因でしょうね。 木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中……精霊は、その身を狙う者も少なくありませんから」
ここまできて、ようやく現在の状況と『アイリス』という存在に確かなつながりが見えてきた。
『先代』が死んだ先に産みだされたタマゴは岩礁洞窟の空を覗く空洞へと落とされ、それをティールが拾ってきた。
……そしてそのまま『親』へと選ばれ、昨日の夜から今朝にかけてで、その雛は擬態能力を得ていた、といったところだろう。
「……イリス、人間に変身できるのはいいけど、人騒がせなタイミングはやめてほしかったな」
「?」
どこか疲れたような表情で、女の子―イリスにそう語りかけるティール。
当人を除く周囲のメンバーは、ただ笑う以外の対応が見つからないようで、そんな二人を囲んで思い思いに声に出して笑っていた。
「……で、最後に誤解の無いように言っておくけど、私の服が乱れて、ベッドに倒れてたのはこの子に思いっきり抱きつかれたから。で、この子がこんなぶかぶかの服着てるのは、私の替えの服を着せてるだけだからよ」
「確かに……人型とれるって言っても、服までどうにか出来るわけないものね」
「中には変身する時にメンタルから服を『生成』できるヤツもいるって聞いたことあるけど……イリスはそういうタイプじゃないみたい」
―本当に人騒がせな……―
その言葉を口にした瞬間のティールの表情からは、そんな一言がありありと伝わってくるかのようだった。


「……ところで、イリスってその子の名前ですか?」
「うん、『アイリス』だからイリス。 我ながら単純だけどね」

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