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正直に言えば、今まで自分がしてきた旅の話を誰かにするというのは大好きだった。
以前住んでいた世界で、始めて冒険者として街から出たときの小さな旅や、かつての家族達……『英雄』率いる冒険者ギルドのメンバー達との遠征討伐。
そして、この世界に迷い混んでから出会ってきた人々との思い出や、冒険譚。
それらはすべて自分という存在が歩んできた道程で、それを誰かに知って貰うという事は、自身の誇りを知ってもらう事につながっている。
きっと、その時に感じられる感情は子どもが些細な自慢話をするようなものと同じかもしれない。
……それでも、こうして誰かに自分の事を話すという行為は久しぶりで……自分でもわかるほどに、心が弾んでいた。


「――ああ、そういえば前に聞いた事があるな。 鉱山の巨大ゴーレム」
そして今話しているのは、この世界に来てからの冒険の中で、自分にとってもっとも思い出深いもののひとつ……
モレク鉱山深部、『巣窟地帯』における、『<ruby>白い鉱石<rt>エメトの欠片</ruby>』探索の時の話だった。
「『白い石』の正体が上級モンスターの身体の一部だと判明してから、酒場の方では随分とランクの決定に苦労したそうですよ」
その話になれば必ずと言っていいほど持ち出されるのが、『エメト・ルミナス』と呼ばれる白いゴーレムタイプの上級モンスター。
そのあたりの話はモンスターに対する注意として、教会の方にも伝わっているのだろうか。
ヴァイに続いて口を開いたのは、シアだった。
「ああ、それならCだったのがBまで吊り上げられたらしいけど……アレを倒そうと思ったら、実力的にはAに昇格が近い人じゃないと難しいと思うよ」
「……というか、あの話を報告したのはティールだったのか」
「ん、まぁ結果的にね」
とは言っても、たまたま一番最初にエメトがいる部屋に到達したのが自分達だったというだけで、もう少し時間が経てば、自分達があそこに行かなくとも誰かが発見していたようにも思える。
手柄は手柄なのかもしれないが、そう思うとそれほど大した事はしていないようにも感じてしまうティールだった。
「それで、その時一緒にいたっていうお二人はどうしてるんですか? 一緒にチーム組もうって言われたんですよね?」
同じ話でも、人によって食いついて来る場所は違うもので、それはその相手の関心がどんな方向に向いているかよく分かると言うこと。
そんなちょっとした違いを楽しめるのは、ティールが自分の旅の話を誰かにするのが好きという理由の一つだった。
「少し前に会う機会はあったんだけど、その時も少し考えたい事があったから……」
「そうなんですか……」
「まぁ一年前と比べると、頭の中も大分落ちついてきたって自分でもわかる。 そろそろいいかなとは、思ってるんだけど……」
「……だけど?」
なぜか苦笑し出すティールに、リスティが素直に疑問を持ったような表情で言葉の続きを促すような一言を口にする。
すると、ティールはとなりの席に座っているイリスの頭に、ぽん、と手を乗せて、苦笑したような表情のまま、再び口を開き、こう口にした。
「この子の事もあるしね」
「――ママ?」
その一言に、当人以外の全員が納得したような表情を見せる。
精霊王という存在は、だれに狙われるか分かったものではなく、つれて歩くには少々肩の荷が重いようにも感じられる。
とはいえ、さすがに『先代』の記憶も力も再生されていない今のイリスを、唯一のよりどころである『親』が見捨てるわけにも行かない。
理由はそれだけというわけでもないが、ここで長期間――それこそ半永久的に続けるためのチームを組むのも、その責任を押し付けるような感覚もするので、ティール自身は気が進まないようだった。
「……教会なら警備の点でも安全ですが、『お母さん』と引き離してまで預かるというわけにもいきませんしね……」
そんな中で、ふとシアがそんな一言を口にする。
その視線はユキの方へと向き……『親を失った子ども』をひきとった身として、今の言葉は他人事として片づける事ができない一言だった。
「……」
そして、黙り込むもう一人の”かつて親を失った少女”。
シアの言葉を実行したとしても教会に”預ける”と言う形なので、会おうと思えばティールの方から会いに行く事はできる。
ただ、イリスは孤児院の子ども達と違い、世界的に見ても希少な存在。 もし教会に預ければ、教会側としても面会者を通す事に立場上慎重にならざるを得ず、それゆえに『親』であっても気軽に会いに行く事は出来なくなる可能性は充分にある。
……なにより、そんな存在が近くにいては、普段は表に出ないような教会の黒い部分にも、多少なりの影響は出るだろう。
「……依頼にしても、宿にこの子預けて私だけ行くのも心配だし……受けるやつもちょっと考えないとなぁ……」
「なるほど、確かにそういう心配もあるな」
「はぁー……お金貯まらないなぁ」
最後にそう口にしながらテーブルに突っ伏すようにして体重を預けるティール。
イリス本人は話の内容を理解しきれていないのか、渦中にいるにもかかわらず、ハテナ顔でそんな母親の様子を心配そうに見つめていた。
「ティールさん、お金貯めてるんですか?」
「え? うん、20人くらいでも入れる、おっきな家買いたいから」
「い……家? しかも20人って」
いきなり拡げられた大風呂敷に、ヴァイ達は驚きを隠せず、ただ呆けた様子で言葉を返していた。
本人は笑っているものの冗談を言っているような様子は無く、笑顔の裏にしっかりと真剣味を帯びた表情が隠れているのは、周囲の目にも明らかである。
「……昔みたいにたくさんの仲間と、その家を本拠地にした支援士ギルド作って……仲間と、楽しく生きていきたい。 そのための第一歩だよ」
「支援士ギルド……」
”ギルド”を作る事自体は、この大陸では特になんの規制も無く、ギルドとは支援士の”チーム”を大規模にした程度と考えればいいだろう。
要するに”集団で一つのグループを作る”行為は本人達の自由意志であり、ギルドというのも設立自体は特に許可も必要ない。
……ただ、集団が纏まって入れるような『本拠地』となる家を欲しいと思うなら、それなりにお金も必要である。
本人が言う第一歩は、支援士一人だけでは途方も無い場所にありそうだった。
「まぁ、確かに道は長いかもしれないけど、私はあきらめないよ」
身体を起こし、にこりと笑ってそう口にするティール。
その表情に迷いは無く、今その口で語ったことは、自分の中で真剣に描いている夢である、と一同に思わせていた。
……が、丁度その時だった。
「……ん?」
何か見えたのだろうか。 急に表情を消し、店の外の通りへと窓越しに視線を向けるティール。
一瞬遅れて、それに吊られるように他の全員もそちらの方へと顔を向けるが、そこには変わったものなど何もなく……なんの変哲も無い、いつも通りのモレクの昼の光景が広がっているだけだった。
「……ごめん、イリスちょっと見てもらってていいかな」
「え? あ、はい……構いませんが、どうしたんですか?」
「ちょっと、”知り合い”が通った気がしたから……見て来るね」
「……ママ、どこか行っちゃうの?」
がたん、と椅子から立ち上がるティールを、心配そうな目で見上げるイリス。
「ちょっと見て来るだけだから、大丈夫」
そんな『娘』に、優しく微笑みながらそう答える。
そして、そのまま周囲の返事も待たずに、ティールは駆け出して行った。

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