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―13―





おそらく寄せ集めだろう荒くれの集団と、常に一人で戦い続けてきた支援士。
荒くれというものは総じてそれなりの力を有しているものだが、多対一における戦闘慣れをしているティールにとっては、即席のチーム相手なら立ち回り次第で対応は可能なようだった。
その動きは、常に敵軍という塊の外側に出るように足を運び、一体づつ確実に数を減らしている。
「ブレイブソード!!」
加えて、自身の能力を大幅に底上げする特殊能力の”ブレイブハート”の存在は大きく、生半可な実力では手がつけられないレベルまで戦闘力が上昇している。
……長時間連続して使う事はできないと言っていたが、覚醒状態ならばAランク後期からSランク初期程度の実力を有しているかもしれない。
「そこの二人、眺めているだけなら、依頼放棄と見る事になるが……」
「……わかった、戦えばいいんだろう、戦えば」
数で圧倒的に勝るはずの自軍が押されているのを目にし、すこし苛立った様子で男が声を発する。
――自分達が受けた依頼の内容は、あくまで『魔鳥の確保』。
確かに『親』である彼女の存在は邪魔にはなるかもしれないが、なにも命まで奪う必要など無い。
戦闘不能状態に持ち込めば、ひとまず自分達に課せられた役目は終わるだろう。
そして、この依頼の放棄は以降の支援士としての活動に大きく支障が出ることに間違いはない。
……悪評を広め、仕事をすべて奪う程度の工作は、目の前の男には造作もないことだろうから……
「エミィ、行くぞ」
一度深呼吸を行い、乱れかけていた精神を研ぎ澄ます。
生半可な相手では無い事は、自分達が一番よく分かっている。
そして、殺さずに戦闘不能状態に持ち込む事が、ただ命を奪うよりも難しい相手である事も。
「うむ。 ……油断するでないぞ?」
「ああ」
背負っていた大剣、『天羽々斬』を抜き放ち、一人敵と戦っている少女の下へと走りだす。
一人の戦士として、彼女とは一度手合わせしてみたいと思っていたのは事実。
当然、こんな利用される形で相対するのは望んではいなかったが、今は立ち向かうしか道は無い。
……そう自分に言い聞かせる事で、迷いを振り切ったと自分を騙すことにした。
「はあああああ!!」
「……来たね」
ギィン! と金属音が大きく鳴り響く。
その直後、ティールが纏う炎に揺らぎが生じたようにも見えたが、次の瞬間には安定した形を保ち始めていた。
「クク…… 予想通りだな」
「――?」
しかし、その様子を見ていた男は、怪しく笑みを浮かべ、そう口にする。
そう、彼女の炎の一瞬の揺らぎも、その後の安定も……全て、予測していたかのように。
「……大地に根差す氷の精 我が敵を貫け フローズンピラー!!」
その様子を目にしたエミリアは、ほんの少しの不安を覚えつつも、『体裁上』の戦闘に加わる事に意を決する。
唱える呪文は、大地より敵を突き上げる氷の槍。
狙いすましたその一撃は、寸分違わずティールの足元から勢いよく撃ち出された。
「せい!」
それでも、ティールは軽く飛び上がるようにして回避し、直後に叩きこんだ一撃でその氷柱をなぎ倒す。
加えて、倒れていった先にいた数名の兵士を巻き込み、そのままその重量で身体の自由を奪っていた。
「――エリアル・ブレイカー!!」
「―くっ!?」
しかし一瞬遅れて、空中に浮いているティールに向けて、地面に叩き落とすような一撃を撃ちこむディン。
剣による一撃は受け止めたものの、体制を整えきれず、そのまま地面に背中から叩きこまれた。
「けほっ……」
一瞬息が止まり、意識が飛びかけるティール。
だが、直後に剣を構えて飛びかかってきた敵兵の姿を目にし、残っていた意識を強引に引き出して身体を転がし、その一撃を回避する。
「ティール! 手加減するなって言ったのはそっちだろ!?」
その一連の動作で、ディンは僅かな違和感を感じていた。
確かに、歳のわりにいい動きをしているし、能力の使用によってパワー、スピードと上昇して入るのは理解できる。
……しかし、かつてエメトを相手にした時の、全てを焼き尽くすような勢いが彼女の纏う炎からは感じられない。
むしろ、自分が手を出した瞬間からその勢いが弱まっているようにも感じられるが……
「いやいや、今の彼女にはそれが精一杯なのだよ」
「…………」
無言のままに体制を立て直し、向かい来る兵士を相手にするティール。
しかし、その意識は男の言葉へも向けられているらしく、わずかな動揺が表情に滲み出る。
「私は、特に名前の通った支援士の素性は多少調べておくタイプでね。 君達の関係を知っていたのは事実だ」
その様子を目にし、嫌な笑顔を浮かべつつ、男は言葉を続ける。
「……彼女の能力……『ブレイブハート』だが、彼女が能力を使った際の情報を集めたところ、彼女自身の精神状態が非常に大きく出力に影響するという結論に達してね」
「……何!?」
その言葉を耳にし、思わず他の兵士と戦っているティールの方へと目を向けると、その炎の勢いは、また少し乱れ始めているようにも映った。
……能力の使用が当人の精神状態に影響するのは極めて普通の事だが、会話の流れから察するに、『ブレイブハート』のそれは、その振れ幅が異様に大きいということだろう。
「少しでも戦意を削がれれば、ごらんの通りその力は大きく低下する。 ……まぁ、現物を見たことはなかったので、推測の域を出なかったがね」
「くっ……」
ここに来て、ようやく男の真意を理解した。
要するに、自分達二人が敵軍に属しているというだけで、十分に牽制の効果を得る事が出来たということだ。
以前の『黒船』における戦いでは、まだ『世界そのもの』という大義があったし、『アリス』は戦いたく無いタイプの相手とはいえ、初対面だったためにそこまで精神的影響を受けなかったのだろう。
しかし今回は、守るべき対象の『親』としての自覚も不完全な状態で、しかも相手がよく知った友人……それも、『仲間になろう』と約束した相手。
そんな状況で、そんな相手と戦えと言われれば、誰だって動揺するだろう。
「私に剣を向けたいのなら向ければいい。 ……だが、そうなれば支援士としての活動はおろか、町にいることも難しくなるだろうがね」
「くっそ……」
それが自分だけなら、迷わず手を出している。
……だが、その”妨害工作”はエミリアとティールに対しても行われることに間違いはない。
相手がどの程度の力を持った組織なのかは分からないが、それだけは確実だった。
「しかし、ぼーっとしていていいのかな? 反抗する気がないのなら、はやく行動したまえ」
「……外道め、そのような態度を取っていては、ろくな死にかたせぬぞ」
楽しそうに笑みを浮かべるその顔は、ディンとエミリア……そしてティールにとって、何よりも醜く、許し難いものへと映っていた。
しかし、手を出せば後がどうなるか分かったものではない。
―……クローディア、早く援軍に来いよ……―
リエステールでクローディア率いる騎士団と交わした約定。
コトが纏まればこの依頼を強制破棄し、次第によっては相手組織の全ての権限を封じた上で解放する事が出来る、と。
しかし、今はそんな助けを待っていられる状態でもない。
どうにかして、この危機を脱する方法を考え出さなければ……
「……あっ!?」
「――!? ティール!!」
……その時、ついに兵士の包囲の中に叩きこまれ、今にもとどめの一撃を受けようかというティールの姿が目に入った。
依頼主に反抗して飛び込むにしても、自分の足では到底間に合わない。
―……すまない……っ!!―
……そう、思った瞬間だった。



「……襲破――死点突!!」
嵐のように巻きこむ剣閃が、一人の兵士の身体を吹き飛ばしていた。

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