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 風をもとめて —モレク〜モレク鉱山—


 〈チィ チィ! パタタ……〉
「…カネモリ、歳の割には頑張るねぇ〜。
支援士(ヘルパー)のボクとおんなじペースで、もう一時(いっとき:約2時間相当)以上も
歩き続けてるじゃない?」
「これもわたくしが調合した『活力薬』のおかげですよ、ジュリア。
冒険に出る以上、自分の体力不足はきちんと補わなければいけませんからね。」
「えぇーっ、自分だけそんなクスリ飲んでズルイよぉ〜〜!
ボクにもちょうだいちょうだーい!!」
「それは困ります。あなたまで一緒に飲んでは、体力の差が埋まらないではありませんか…」
南都リエステールと鉱山の町・モレクを結ぶ街道をモレク方面に向かって歩くは、
黒髪の中年男・錬金術師(アルケミスト)カネモリと
栗色の髪の若き女剣士・支援士ジュリア。

 ふたりが早朝にリエステールを発ってから二時(ふたとき)余りが過ぎ、
太陽はもう南天の空近くに差しかかっている。
『……………………』
「近ごろ街道の魔物が増えている」と噂に聞くものの、まだ彼らはそのような危険には
遭遇していない。
それは単なる、旅人たちに注意を促すための決まり文句に過ぎないのだろうか?
『!?』
やはりそうではなかった。
「ソコノ人間ドモヨ、出スモノ出シテトットト失セナ!」
人間とほぼ同様の体躯に、野犬のような頭。
粗末ではあるが衣服を纏い、その手には使い古しの武器。
「言ウ通リニシナケレバ、タダデハ済マサヌゾッ!」
街道の人々を襲っては金品を強奪する魔物・コボルトが二頭、カネモリたちの行く手を
遮っている。
…いや! 二頭だけではなく、その背後や周辺にも数頭が控えているではないか!?
「…ここはボクに任せて…、退がって!〈ボソッ〉」
「お願いしますよ。それでは…。〈ボソッ〉」
……………………………。
「ヤなこった!!」
ジュリアが宣戦布告の台詞を言い放つと同時に、すばやく後ずさりするカネモリ。
『グォワァァーーッッ!!!』
魔獣らしい雄叫びを上げ、錆び付いたロング・ソードを振りかざしてコボルト二頭が
襲いかかる!
〈トストスッ!! …ドサッ〉
次の瞬間、その物どもは胸から血を噴き出してジュリアの目前で崩れ落ちた。
「………。」
彼女は最初の位置から一歩だけ踏み込んで、腰を落とし左手を掲げてバランスを取りながら
右手で腰から抜き放った細身の片手剣を突き出している。
その深緑の瞳に、底知れぬ虚無の深淵を宿しながら。

 『グゥワオォーーッッ!!!』
目前で瞬時に仲間二頭が斃(たお)されたのに臆することなく、控えのコボルトどもも一気に
ジュリアに近寄ってきた!
ある物は離れた距離を保ちながら、丸木の弓で矢を放ってくる!
「…………。」
彼女は時に魔物の攻撃を紙一重でかわし、時に魔物の振り降ろす凶器を右手の武器だけで
払いのけながら、一頭、また一頭と仕留めてゆく。
いずれも心臓や脳などの急所を鋭く一突き。
その戦いの動作に、余分な要素などほとんど見られはしない。
 〈ヒュッ!〉
生き残っているコボルトは、弓矢で武装した二頭のみ。
残りの矢が少なくなってきたからか、弓を引き絞った構えで牽制しながらジリジリと間合いを
縮めてくるが、まだまだ切ッ先が届くような距離ではない。
…しかし、ジュリアはその場から一歩も動くことなく…
「『空針刺突《エアロ・スティング》』!」
敵が目前にいるのと同じ感覚で、剣を素早く二度突き出す!
「グフォッ!」
「ギャハッ!」
あたかもその剣先が達しているかのように、10歩ほども離れたコボルトどもの身体を
目に見えない何かが貫き通し、致命傷を与えていたのだ!
「……………。」
ジュリアが静かに剣を鞘に収めるのと、愚昧で哀れな魔物どもが遠くで倒れ伏すのは、
ほとんど同時だっただろうか…。

 〈トットットッ…〉
「…いや、無駄のない体捌き(たいさばき)と正確無比な攻撃。
さすがは剣闘士(ブレイブマスター)ですね、ジュリア!」
「そんな…、照れちゃうなぁ〜☆」
「その上、『風』を操る心得まで持っているとは…。羨ましい限りですよ。」
「はうぅ〜〜…〈テレテレ〉」
カネモリの称賛の言葉に対し、無邪気な少女のように頬を赤らめるジュリア。
先ほどの戦闘時に垣間見せた「虚無」の表情が、未だに信じられなくなってしまう。
 「…ところで、その剣は何なのでしょうか?
他の剣士が手にしているのを、あまり見たことはないのですが…。」
「えっ!? 『コリシュマルド』のコト?」
「えぇ。〈うなずく〉」
ジュリアがカネモリによく見せようと、腰の剣を鞘から抜き出す。
そのコリシュマルド、剣身が根元の一部を残して細く絞られており、典型的なロングソード
よりもずっと軽量に仕上げられている。
彼女の「片手だけで武器を器用に操り、敵の急所を的確に突き刺す」戦闘スタイルは、
この剣の形状に由来するものに間違いない。
「この剣はねー、ケーニヒスマルク伯爵様からの仕事をこなしたとき、その報酬として
いただいたモノなんだよ。
ブレイブマスターに転身したばかりの頃だったから、3・4年くらい前のコトかなぁ〜…。」
「その名は耳にしたことがありますよ。
たいへん武芸家な貴族で、新しい武器を考案する趣味をお持ちだとか…。」
その「伯爵の発明品」は、鋭利ではあるが細身の剣身に強度を持たせるのが困難なようで、
考案から数年を経た現在でも市中の武器屋で量販される様子はない。
「コリシュマルドは軽くて扱いやすいからボクも気に入ってるけど、
『十六夜(いざよい)の武人』が使ってる『片刃剣』もカッコ良くて、憧れちゃうなぁ〜♪」
「…………。」
「カネモリの工房に挨拶に来た日も、他のブレイブマスターさんから片刃剣見せてもらッ
ちゃってさぁ…。
クウッ! 思い出しただけでゾクゾクするよぉ☆」
「……………………。」
橄欖石(ペリドット)のような瞳をキラキラさせて、別境地に旅立たんばかりのジュリア。
黒曜石(オブシディアン)の瞳にさらに深い陰りを漂わせて、黙り込んでしまうカネモリ。

 そんな他愛のない会話を繰り返して歩くうちにさらに二時(ふたとき)余りが過ぎ、
ふたりの目前には岩山に寄り掛かるように開けた町が見えてきた。
「ねぇっ! アレがモレクの町だよね!?」
「そうです。ここに来るのも久しぶりですね…。」