「・・・聞こえる」
「リスティ?」
「声が・・・」
どこか遠くを・・・そう、それは遥か北東の方。そこには、ルナータがある筈。
今。そこでは多くの支援士達が黒き船を相手に戦いを仕掛けている筈である。
・・・それを証明するかのように、ヴァイの足元には幾つもの『飛行魔物』が転がっている。
エルナの魔法で落とし、斬り抜き倒す。
もしくは、止水で構え。受け流しで斬る。そうして倒していった奴等だ。
・・・ただ。それでも相手は馬鹿ではなく、エルナは負傷したケルトの治癒に回っている。
「・・・けて」
「?」
そして、リエステール東街道中央都市側にヴァイとリスティは立っているワケだ。
・・・更に、リスティの先ほどの言葉。
「・・・助けて・・・?」
「? 何か、聞こえたのか?」
「わ、判りません・・・。アルティア様の感応能力の一つかも知れませんが・・・ホラ。最司教様の物から思念を読む能力です。あれが・・・あっちの、空間の方から」
「・・・誰かがやられかけてるって事か・・・」
「ごめんなさい・・そこまでは判らなくて」
「何。今はやれる事をやれば良い。声が聞こえても今は気に留めるな。今度は、自分が危うくなる」
「はい!」
そう会話し、東の空を睨みつける。
・・・今は、海上戦に集中しているのかも知れない。
ふと、その西の空から何かが飛んできた。
「・・はと?」
「!! ヴァイさん、足に!!」
「・・・伝書か」
そう。それは一羽の伝書鳩。
そこに書かれていた文字・・・それは、
「っ!! ドラゴンクラスの進入を許しただと!!?」
「!!!」
戦慄が走る。
ドラゴンクラス。飛龍ではあるだろうが、その実力はSランク支援士でも勝つことが難しい。
何故か集中的に攻められているリエステールでの防衛力ではこのドラゴン一匹の為に崩れ去れ兼ねない勢いだ。
「せめてリックテールに行ってくれりゃ・・・!!」
「・・・」
あっちには、経験。実力共にヴァイより上の兄貴・・・ヴァジルが居る。それに、攻めに入られはしても、こっちほどの被害は実際に出て居無い。
だが、その願いも虚しく、東の空からはドラゴンの影が見えるのだ。
(くっ・・・)
「・・・ヴァイさん・・」
苦虫を噛み潰したような苦しげな顔をするヴァイに、そっと手を添えるリスティ。
そのリスティに、ヴァイは告げた。
「リスティ。逃げろ。・・・町の人の傷を癒せ」
「! 嫌です!! 絶対に・・絶対に離れない!!」
「馬鹿言うな!! テメェが居ても邪魔なだけだ!!」
そう。ドラゴンの炎がリスティに掠りでもすれば、彼女は致死のダメージを受けかねない。
だが、リスティはヴァイの腕にしがみ付き、一向に離れなどしなかった。
「死にたいのか!!」
「じゃあ、ヴァイさんはどうなんですか!! 回復無しなんて・・・それこそ、死ぬ気でいるじゃないですか!!」
「っ・・はっ。オレは今まで一人で戦ってたヤツだから、気楽に戦えるほうがラクだから邪魔だって言っただけだ。回復無しでも死なねーよ」
「・・・嘘です。嘘。だって、死ぬ前のパパとママも、今までに無かった位、優しい目でわたしの事を見てた!!」
「・・・・」
ヴァイは歯噛みし、突き飛ばしてでも中央都市に避難させるとまで考えた。
・・・だが、底辺にも必ず兆しはある。
「――――その娘の言うとおりだ。お前の護るべき存在。お前が傍に居てやらなくて・・・誰が護る? まして、その娘はアルティア。この興に乗じてよからぬ事を考えるヤツも出るだろう」
「!! アンタ・・何者だ」
そこに現れたのは、黒いコートを着た、右手に黒い剣を持った青年・・・いや。その黒い剣は、ただそれだけではない。
時々、光を返し、『まるで、透明の刃が黒い剣の上を覆う』ように、白く光るのだ。
「・・・履き違えるな。お前の目的は何だ? 中央都市の防衛か? 否。その娘を護ることだ。・・・先ほども言ったが、街の中が絶対安全とは限らん。絶望した人間など、何を仕出かすか判らんからな」
「だけどコイツはリスティだ!! アルティアじゃ無ぇ!!」
「だろう。だが、そう思わない人間も居る事を理解しろ」
その黒コートの言葉に、ぐっ・・・と、ヴァイは言葉を詰まらせる。
淡々と、まるで感情無く冷たく語るそれは、何を言っても言い負かされる気がしたのだ。
・・・そんなやり取りをしている間に、龍はすぐそこまで来ていた。
「・・・」
「お、おい・・・」
リスティを背後に庇いつつ、ヴァイは黒コートに声を掛ける。
まるで、龍を見つめる目は『無』。何も考えているようには写らない。
そして、構えをするでもなく、ただ龍の前に立つのだ。
・・・正直、不安になった。
だが
「なっ!!」
ヴンッ!!と、龍が振り下ろす爪。
それが、確実に黒コートを切り裂いたと思えば、瞬移したかのように消えうせたのである。
(速い・・!!)
そう。ブレイブマスターであるヴァイですら、目で追うことが出来なかった。
黒いコートは、光の下では目立つ。その残像ももちろんだ。
だが、今、ヴァイは黒コートが何処に居るのか探している。
そして、ヴァイが龍を見た刹那
「・・・」
けたたましい咆哮と共に、龍が地に倒れる。
その背より、黒コートが現れ・・・彼は、相変わらずの無表情であった。
「・・・中央都市は問題ない。行くといい」
「行く・・・?」
コートの裾を翻し、黒コートはそう言ってリエステールの方に歩いていく。
だが、投げかけられたその言葉には、何の意味があるというのか。
「ヴァイさん・・・助けてって。あの声・・それに、ルナータでは、ビショップ・カーディアルトも不足しているでしょうから」
そう。先ほどアルティアの能力で感知した声。
さらに、教会の人間が戦地に行く事などほぼ無い。ルナータでの回復役不足は目に見えて明らかだ。
「・・・そうか」
去り行く黒コートの背を見て、ヴァイは頷く。
「じゃあ、行くか」
「はい。」
そうして、ルナータへと駆け出す。
「ちょ、ちょっとマテー!! ケルト治ったし、わたしも一緒に行くから!!」
「テメェヴァイ!! 二桁万の依頼。独り占めになんかさせねーぞ!!」
その後ろから、グリッツとエルナさんの声を聞きながら、
走る。ルナータへ行く為に
最終更新:2007年04月10日 08:13