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結界宝珠を破壊し、結界魔法陣の一角としての機能を失った戦艦。
乗組員である異国の兵士もなんとか全滅させ、先の護衛艦と同様に、ひとまず大陸連合軍の海上での足として扱われていた。
「……」
そしてその舳先は、今は別の戦艦へと向けられているのだが……その先に見える敵艦の様子はいたって平穏で、すでに戦闘自体は終わってしまっているかのようだった。
「なんだか妙じゃな……」
だが、それを目にしたエミリアの口からでた言葉はそんな一言。
他の者はその声を耳にして改めて敵艦へと目を向けるも、エミリアが感じた違和感がなんであるかを察する事はできなかった。
「……妙って、なにが妙なんだ?」
周囲の反応を見て、全員が自分と同じことを考えているんだと察し、そう問うディン。
それに対してはエミリアはすぐには答えずに、周囲の状況を見ながらじっと考えていた。
「様子を見るにあの艦……戦闘が終わっているのに、まだ結界としての機能を持っているようじゃ」
「ああ、なるほど」
見る限り、船上にいるのは大陸連合軍の支援士や自警団のナイトばかり。
異国の兵士は、数人の死体が甲板に転がっているばかりのようだった。
「制圧はしたけど、宝珠が壊されていないだけじゃないかな」
ディンの横から、ぼそりとそう呟くティール。
そして続いて聞こえてくるのは、”あ”というようやく気付いたらしい一声。
「と、いうことは……あの艦も壊されるのを防ぐための仕掛けでもあるのかもしれないな」
「普通に考えてそうでしょうね」
そんなエミリアの様子に気付いているのかいないのか、レオンとクリスは冷静に状況を分析する。
とにかく理由如何は関係なく、このままファイアーウォールを放置しておいては進軍も出来ない。
仕掛けがあるのなら、貸せる知恵を貸して、仕掛けを解くべきだろう。
「よし、それじゃあ小船で私とディン、それとティールであの艦に向かう。 レオン達はこのまま向こうの艦を攻めてくれぬか?」
「了解だ。 俺は戦ってる方が好きだしな」
「レオンは指揮能力はすごいけど、その手の知恵比べは苦手だものね」
「色々と極端ですからねぇ」
あははは、と笑いながらそんな事を口にするアルトとクリス。
地図の上での指揮と、手先の細かい仕掛けを解くのは違うとでも言いたいのだろうか。
レオンは顔を引きつらせつつも、なんとか笑顔を保っているようだった。


「では、健闘を祈る!」
乗り込んだ際にくくりつけておいた小船を放し、そのまま目の前の敵艦に向かって行く3人。
既に敵艦は味方の手に落ちていて、こちらまで攻撃が飛んでくる事は無い。
ディンがオールを漕ぐ中、Uターンしてまた別の敵艦に向かっていくレオン達の艦に向かってティールとエミリアは手を振っていた。








「敵……じゃなかったみたいですわね」
突然踵を返して別の艦に向かって進み始めた艦影を眺めながら、パラディンナイトの女性が呟くようにそう漏らした。
見たところ、その艦から降りてきた小船に乗っている3人も、味方陣営の人間。
彼女に統率されていたレンジャーナイト達も緊張した面持ちで武器を構えていたが、女性の指示で向かって来た彼らを招き入れるべく、甲板から縄梯子を下ろす。
その時の全体の表情から、下手をすれば味方から敵だと間違われる可能性もあるというのに、制圧した敵の艦をそのまま使ってしまおうというその根性は意外だったのかもしれない。
……登ってきたのは、黒いドレス風の衣装を身につけたマージナル。飾り気の無い黒のワンピースに、白いコートを羽織った、ハルバードを手にした少女。そして、白いジャケット風のアーマーを身につけた、男性のパラディンナイトだった。
「ふむ、やはり敵は片づけられておったか……この部隊の指揮をしているのは誰じゃ?」
マージナルの少女はきょろきょろと周囲を見まわした後にそう口にする。
その間、パラディンナイトの男性ともうひとりの少女は、一歩下がって彼女に付き従うように立っていた。
「私です」
「そうか。 ……早速じゃが、船上にもう敵はおらぬが、隔離結界が解けていないところを見るに結界宝珠の破壊はまだのようじゃな。 どこにあるかわからぬか?」
「……結界宝珠?」
聞き慣れない言葉に、首をかしげる。
戦闘はともかく、結界などの魔法に関しては全くの専門外であるパラディンナイト。
心得があるのは、申し訳程度に使える治癒聖術くらいのものだ。
「うむ、今は炎の壁を形成しているが、先程まであそこにある艦の姿を隠しておった結界の鍵となる水晶玉じゃ。 さっき奪った艦の中にも一つ転がっていた」
「……つまり、結界宝珠とは、あの炎の壁を構成するための鍵、というわけですね」
「そうじゃ。 理解の早い人間は好きじゃぞ」
にこり、と歳より幼く見えそうな笑顔を浮かべてそう口にするマージナル。
しかし、状況が状況だけにあまり和やかな雰囲気を続けるわけにもいかないのか、次の瞬間には真剣な面持ちに戻っていた。
――知っている事を教えてくれ。
その顔は、そう言っているかのように感じられる。
「……そう、ですわね…………  っ! もしや、先程黒の錬金術師どのが言っていた、『鍵』と『扉』……」
「! 何か分かったのか!?」
「はい、実は先程、この艦の奥に向かっていた錬金術師の方が、『鍵』や『扉』と……”もう自力でやぶるしかない”とも……」
「……ふむ、ディン、ティール、どう思う?」
ここに来て、後ろで待機するように立っていた二人に向かって声をかけるマージナル。
「十中八九、その扉の中だろうな」
「だね、カギは無いの?」
「……実は、その鍵を持っていたであろう艦長が、魔物によって海の中へ……」
「…………なるほど、その扉とやらはもうぶちぬくしかないわけじゃな」
困った、と言うかのように額に手をやる。
その様子を見て、男性がぽん、とその肩を叩き……
「行くか?」
そう一言、声をかけていた。
「……うむ、そうじゃな」
彼のそのたった一つの行動で心は決まったのか、ふっと笑みを浮かべてそう口にするマージナル。
付いていたもう一人の少女も、黙ってこくりと頷いていた。
「すまぬが、お主達はこの甲板を守っていてくれぬか? その間に私達がその錬金術師とやらの加勢に行こう」
「わかりましたわ。 どうぞお気をつけて……」