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「消えたな」
目の前の結界艦が沈没していく中、重厚な威圧感と存在感をもって中央に鎮座するブラック・シップを囲むファイアーウォールが、海の中に吸い込まれるように消えていった。
「おーいそこの、大丈夫かー?」
どこか感慨深げにその光景を眺めていたセオ達5人だったが、ちょうどその時、背後からなにか大きなものの影が落ち、同時にそんな声が聞こえてくる。
「なっ!? 敵の艦か!!?」
それは、紛れもなく最初の方にまみえた敵の護衛艦、セオとイルはとっさに武器を構える。
……だが、レオン達は平然とした顔で、その舳先にいる誰かに向かって手を振っていた。
「ああ、今敵を落としたところだ。 悪いが怪我人がいる、乗せてくれないか?」
「わかった、今梯子を下ろす」
そしてそれだけの言葉を交わすと、少し経過して戦艦の上から縄梯子が降りてきた。
「…味方?」
「ああ、パピードラゴンのお嬢さんが奪ったらしい。 今はべつの船を攻めてるみたいだけどな」
「セオさん、とりあえず上に上がりましょう、この小船では満足に休めませんし、広いところに出たほうがいいでしょう」
梯子に手をかけながら、レオンとクリスはそう答える。
なんどかしたに向けてぐっと引っ張り、しっかりと固定されていることを確かめると、二人は先に上り始めた。
「セオ、大丈夫? 上れる?」
腕に受けた傷を心配しているのだろうか、次に上ろうとするセオに、イルがそんな言葉をかけていた。
「ああ、このくらいならまだ大丈夫だ」
そう口にしてはいるが、正直なところをいえば少しきつい。
最低限の止血は施しているものの、体力の低下も含めて身体的負担はかなり大きなものになっているようだった。





「……さて、とりあえずこれで敵の懐に攻め込めるわけだが……」
戦艦の上で包み込んでいた炎の幕が消えたブラック・シップを改めて眺める一行。
セオは戦艦に乗っていた味方の手当てを受けているが、聖術士がいないこの状況では完全な形での治療は不可能。
せいぜい包帯と傷薬を使い、少しでも傷がふさがるのを早めるのが関の山だった。
「……一旦戻ったほうがよさそうですね。 その怪我で敵の本陣に飛び込むのは自殺行為です」
「ああ、それ以前に接近して乗り込むまでが問題だ。 侵入させまいと、艦の中から鬼のように魔物を吐き出してくるだろうしな」
セオ、イル、レオン……そしてクリスとアルト。加えて、この艦に乗っていた5人も足すと10人。
その人数を警戒しているのか、この近辺に魔物は近づいてこようとはしないが……ブラック・シップにこれ以上近づこうとすれば、それこそ餌に群がる鳥のように纏めておそってくるだろう。
「…………」
支援士として活動を始めてからずっと使い続けてきた黒い剣。
クリスの呟きを耳にしてその欠片を懐から取り出し、セオはどこか感慨深げに眺めていた。
「……ん、どうした? アルト」
そんな中で、アルトがじっとブラック・シップを眺めながら、何かを思案するようにぶつぶつと呟いていた。
普段無口で、常にやさしい微笑みを絶やさない彼女が、無表情でそんなふうに口を動かすことは非常に珍しい。
あるとすれば、なにか複雑な事に対しての思考をしている時くらいのものだが……
「……まだ、仕掛けが残ってる」
「…何だって?」
「エミリアさんから聞いて、さっき確かめてみたけど……あの結界宝珠に施された術式、星の数に応じて違う魔法が発動するように仕掛けが施されてた」
「違う魔法ですか……」
「うん。 最初の状態……つまり、魔方陣の『星』に見立てた宝珠が8つある状態では、『幻』の力であの艦を隠し、6つの状態ではさっきまで見えてた『炎』の隔離結界。
…それと、これは予想になるけど……5つの状態だと『大地』の隔離結界が発動するようになってるはず」
『炎』と『大地』のメンタルを融合することで、『幻』の力を生み出す。
それは大陸でも知られている複合能力の形式のひとつで、魔方陣として力を使おうとしても、その二つの効果を統合する仕掛けを刻み込む必要がある。
また、通常『星』のひとつがなくなれば魔力の統制が崩れ、結界そのものが崩壊するのだが、星の数で術式が変わるという仕掛けを施すことで、何個かを消されても別の術で補うことができるようにする……これは、そういう仕掛けだった。
「今あそこに飛び込んでも、その後を発動されれば、結界の内側で孤立状態になる。 もう一隻が落ちるのを待って、他のチームとまとまって攻めるのが上策ね」
「同感だ。 幸い、一隻はもう制圧してる。 あとは仕掛けをはずすだけの状態だったみたいだしな」
ティール達が向かっていった結界艦のうちのひとつ。
あそこは、確かに味方以外の兵士は見当たらなかった。結界の解除もまもなく行われるだろう。
「―よし、一旦港に引き返してくれ。 カーディアルトかビショップの一人や二人くらいはいるだろう」
「ああ、それならさっき伝書鳩で通達が来たぞ。 教会から援軍が来てるらしい」
レオンの一言を聞いて、先に艦に乗っていたうちの一人がそう答える。
それにひとつ安心したのか、レオンは”にっ”とひとつ笑うと、船の舵をもつ男の方へと歩き、こう伝えた。
「全速後退、補給に戻るぞ!!」