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 東の海の彼方から大軍と魔物どもを従えて、長き平和に包まれていた大陸に攻め入った
褐色の大王・シャマル率いる大艦隊。
『………………………………………。』
そのうちの一隻。
そのさらに奥にある一室の扉の前に立つ三人。

 「あのさ…、ホントにやるのぉ?」
肌に密着した緑色の薄手な衣服と胸の形に合わせて成形されたプロテクターが
ボーイッシュな言葉遣いとは裏腹に女性的なプロポーションを表現する
ブレイブマスター・ジュリア。
「お前さん、さっきは『「爆裂薬」も危ない』ッて言ったじゃないか!?」
「洗いざらしのシャツと藍色の染料がところどころ剥げ落ちた厚手の綿ズボン」という
坑夫の伝統的な衣服をガッチリした肉体に着込み、使い込まれたプロテクターを身に着けた
ベルセルク・エンリケ。
「鍵を失ってしまった現状では、もう手段を選んでもいられません。
…幸いと言っては何ですが、今わたくしの右手は包帯で覆われていますから、
その手で爆裂薬を振り掛ければ、たとえ電気が伝わってきても幾らかは耐えられるかと…。」
十六夜に伝わる灰色の着物を青い帯で締め、上から黒い羽織をはおった
アルケミスト・カネモリはゆったりとした袖の中を左手で探り、
それぞれ液体の入った大小ふたつの褐色瓶を取り出していた。
「…さぁ、混ぜ合わせて爆裂薬を反応させますよ。」
そのとき、
〈カツカツ…〉
何者かが部屋に向かって近付く足音が聞こえてきたので、素早く薬を仕舞って
身構えていると…
「…やはりお主じゃったか…、カネモリ。」
小柄ながらもバランスの取れたスタイルを黒のドレスで包み、ベレー帽の下から覗く
菫色の長い髪が深い知性を漂わせるマージナルの女性。
「まぁ、『黒服の錬金術師』ッてところで心当たりはあったが。久しぶりだな。」
5フィート10インチほどもある鍛えられた長身に、内側から補強が施された白のロング・
ジャケットを颯爽と着こなすパラディンナイトの青年。
「エミリアさんに、ディンさん!?」
…そして、彼らと行動を共にするは、
「…また会えたね、ジュリア。」
歳相応のあどけなくも繊細な顔貌を白銀の髪の下から垣間見せ、
歳不相応なまでの強さや頑なさをモノトーンの衣の奥に仕舞い込んだ
ひとりの少女。
「ティール! キミも来たんだね!?」

 かつてこの大陸の上、ひとりひとりの物語の中で紡がれてきた縁(えにし)が、
時代の流れを変えんばかりの大きな局面で一堂に会する不可思議。
…しかし、その状況は再会を喜び合うにはあまりに切羽詰まっている。
とりあえず彼ら六人は互いの紹介を手短に済ませ、引き続きこれまでの経緯や知り得た
情報などを交換してゆく。
「…なるほど、やはり旗艦の周囲に艦船で『結界』が仕掛けられていたのですね?」
「そうじゃ。
しかも、最初は8隻の艦(フネ)で『幻』の結界魔法陣を構成しておき、
6隻に減っても『炎』の結界・ファイアーウォール、
5隻でも『大地』の結界・ガイアフォースが次々と張れるようになっておる。」
「それは何とも用意周到な…。
…そういえば、先ほどから艦の外から莫大な『火の元素』の気配が伝わって…、
いや! 今度は艦体から発せられる以上の『土の元素』の気配が…。」
「カネモリ。さっき俺たちが結界をひとつ壊した。
もう1隻、結界を積む艦が沈んだのを見たからな、今はファイアーウォールのはずだ。」
「でも、気配が『火』から『土』に変わったってことは…、さらに1隻分の結界が破られて
ガイアフォースに切り替わったのかもしれないね?」
「ディンさん、ティールさん…。」
エミリアとティールがそれぞれ艦船の位置を書き込んだ2枚の海図を囲み、相談し合う六人。
「う~ん…。結界の事など俺にはよく理解できんが、そいつがこの扉の向こうにあると見て
いいんだな、エミリア?」
「エンリケ殿、間違いないじゃろう。
台座の上には魔法陣の描かれた円盤。さらにその上には、妖しげに輝く無色の宝珠がひとつ。
そうやって組み立てられた結界がこんな感じの船室の中に置かれておったのを、
私たちは見たのじゃ。
結界を解除するには、その宝珠を打ち壊せばいいのじゃが…」
「…そのためには、この触れただけで電気が襲ってくる扉を何とかしなければ
なりませんね。」
「『でんき』!? 何じゃそれは? 危ないのか??」
「はい、うっかり触れれば…こうなりますよ。」
カネモリが右手の包帯を解き、痛々しい状態を皆に見せる。
「…電気の恐ろしさはこれだけではありません。
襲われた者の意識を失わせ、心臓の働きをも妨げてしまうのです。
運悪ければ命まで失いかねない、恐るべき罠…」
「あぁ、そんな傷放っとくなんて見てらんないぞ! …手を貸せ。」
「?」
「……、『治癒《リラ》』。」
焼けただれたカネモリの右手にディンが手をかざし聖術の法を唱えると、その傷痕は
見る間のうちに消え去った。
「…ふぅ。アンタもアルケミストなら、自前の傷薬で何とかできるんじゃないのか?」
「えぇ。すでに傷薬は塗ってありましたから、あと半時(はんとき:約1時間)もすれば
ほぼ完治するはずでしたのですが…。」
「…半時で…完治!? 薬でか?」
「はい。『錬金術師の傷薬』とは、そういうものなのですよ。
…もっとも、聖術のように『傷痕も残さず』とは参りませんが…。」
「…………………。」
「…ディン、早とちりじゃったな!? …ぷぷっ★」
「いいえ。ディンさんのお気持ちは嬉しくいただきますよ。
ありがとうございました。」
「しまった」と言わんばかりの表情で苦笑するディンに対し、カネモリが温和に
フォローを入れる。

 「ねぇ、カネモリおじさん。
さっきの右手、まるで雷に打たれたみたいだったけど?」
14歳の少女ティールにとって、もう40にも手が届かんばかりのカネモリは
紛れもなく立派なおじさんだ。
…いや! ふたりの年齢差はもはや「親子」の領域にまで到達しているではないか!?
その残酷なる事実に直面して軽からぬ眩暈(めまい)を覚えるカネモリに構わず…
「そーだっ♪
カネモリ、キミさっき『電気は雷みたいなもの』ッて言ってたっけ!
エミリア、キミってマージナルだよね? どんな魔法使えるのかなぁ?」
「わ、私か!? 『氷牙』と『轟雷』じゃが?」
「『轟雷』!? やったー、バッチリだよぉ☆」
ジュリアのペリドットの瞳がキラキラ輝いている!
「…そうか! 電気と雷が同じようなものならば、電気の流れる扉にも『轟雷』の魔法でなら
攻撃できるわけじゃな!」
エミリアのアイオライトの瞳も負けじとキラキラ輝いている!
「試してみる価値はありそうですね。
…エミリアさん、お願いします。」

 電気を伝える真鍮が張り巡らされた分厚い木の扉に、アクアマリンの宝珠を頂いた杖・
サンタマリアを横薙ぎに構えて対峙するエミリア。
「………………………………………………。」
呼吸を整えるための沈黙の後…
「…雷よ走れ、『稲妻《ライトニング》』!」
〈カッ!〉
杖の先から発せられた青白い雷光が扉に接すると、
〈バッ!! バチバチバチ……ボンッ!!!〉
雷光は空気を引き裂きながら真鍮の装飾を縦横無尽に走り抜け、その直後部屋の中で何かが
弾け飛ぶ音が響き渡った!
〈……………………………………〉
…あとに残るものは、静寂。
カネモリが再び粉薬を扉に振り掛けてみるが、何の反応も示さない。
「やりましたね!
『稲妻《ライトニング》』の威力で、扉に電気を送る仕掛けが破壊されたようです。」
厄介な電撃さえ排除されれば、そこにあるのは鍵の掛かっていないただの扉。
こうして六人はようやく扉を開き、部屋の中に踏み込むこととなった。

 厳重な仕掛けによって守られていた「結界」。
それはエミリア一行の目撃証言通りの形状をしていた。
しかし、結界を司るとされる無色の大きな宝珠の周りには6色の小宝珠が配置されており、
さらに小さな結界を発生させて接触を拒んでいる。
「ふむふむ…。
『赤・青・橙の珠は右回り 緑・黄・紫の珠は左回り 6個とも一度に回すべし』
とな?
…こっちのシールドは解除が面倒じゃのぉ★」
「でもエミィ、今度はちょうど6人いるんだから、ひとり1個ずつ回せばいいんじゃない?」
「ティールの言う通りだよ。
しかも、ボクたち男女3人ずつだから、男は右回り、女は左回りの珠回そうよ!
それならわかりやすいんじゃないかなぁ?」
「…そうじゃなジュリア、それでは取り掛かるとするかの。」
こうして六人は、それぞれ持ち場の珠に手を掛けた。
 赤の珠にはディン。
 青の珠にはカネモリ。
 橙の珠にはエンリケ。
 緑の珠にはジュリア。
 黄の珠にはティール。
 紫の珠にはエミリア。
『せーのっ!!!』
掛け声に合わせて六つの小宝珠を同時に捻るとそれらの輝きもまた同時に失われ、
中央の宝珠を覆っていた小結界は安全に解除された。
「…ふぅ、あとは結界宝珠を打ち壊すだけじゃよ。」
「わかった。…さんざん手間掛けさせやがって……こうしてやるッ!!!」
〈バンッッ!!!〉
エンリケが力を込めて降り降ろす鉄槌の前に、結界宝珠は木ッ端微塵に砕け散ったのだった。

 〈ザワザワザワ……〉
「…錬金術師殿、ついにやりましたわね!
旗艦(フラッグ・シップ)を取り囲んでいました『結界の壁』が、先ほど姿を消しましたわ!」
甲板に上がってきた六人を迎えたのは、いつになく上機嫌な女パラディンナイト。
守備警団・ナイト師団のリーダーで、今は支援士集団の指揮統率も兼任しているのだ。
「…いえ。無事に結界を破ることができましたのは、後から駆け付けて下さった
エミリアさんのおかげですよ。
本当に何とお礼を申し上げれば……。」
「…カネモリよ、謙遜するでない。
私が魔法で仕掛けを破ることができたのは、お主の『電気と雷は同じもの』という知識が
あればこそなのじゃからな……。」
「…それはそうとして、あなた方。
旗艦に攻め込む前に一休みいたしませんこと?
この艦の食料庫と資材庫を接収して、ただ今ナイトや支援士に交代で食事と手当てを
させているところですわ。」
「…そうだよな、エミィ。
俺たち海に出てから、ロクに食事も休憩もしてないからな…。」
「私も…そうだよ。ジュリアたちは?」
「…うぅっ、ボクぅ…今お腹ペコペコなんだよぉ★」
「まったく、ジュリアは腹ペコさんだなぁ!?
…実は俺も、一息つきたいと思ってたんだ。」
………………………………………………………………。
「『腹が減っては戦はできぬ』。
昔からの名言じゃよ。」
「…そうですね。ここはお言葉に甘えることにしましょう。」