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敵軍の旗艦、ブラック・シップの鎧となる魔術結界の構成の一部となっていた戦艦……今は大陸連合軍の一団により、その船上の敵は殲滅され、連合軍の休憩所のような形として扱われている。
……この船の占領に一役買ったパラディンナイトの女性が率いる部隊、そしてエミリア・ディン・ティールと、カネモリ・ジュリア・エンリケの6人は奥の小さな倉庫に詰め込まれていた保存食や水を拝借し、つかのまの休息をかねた補給を行っていた。
……そのうちの6人は、その船上で円陣を組むようにして並び、今後の行動の目算を立てる相談を行っていた。
「これで、今度こそ連中の親玉への障害は無くなったわけだな?」
目を疑うほど巨大な姿を誇る敵の旗艦、ブラック・シップに目を向けながら、エンリケはカネモリに向けてそう声をかける。
「そうですね。 敵の旗艦に進入する、という一点のみを見るならば残った障害は……あの艦の周囲にいる魔物くらいのものでしょう」
「でも一隻や二隻だけでとびこんでも、あんな数の魔物にいっせいに飛びかかられたらどうしようもないよ?」
8隻の内の4隻が結界の『星』としての機能を失ったところで、ブラック・シップの内部から飛行型、水中型の魔物が数多く吐き出され始めていた。
その様は『壁』を失った城砦が苦し紛れに展開する『兵士の壁』 一種の人海戦術に違いは無いだろう。
だが、ここは海上。 船に穴でもを開けられようものなら、その部隊は例外なく瞬間的に無力と化す。
「確かに、一気に来られたら進入する前に沈没ってオチだろうな……流石にあの数は俺達だけじゃ対処できない」
「やはり多数が同時に飛び込んで的を分散させ、船体が壊れる前に一気に飛び込むのがベストかのぉ……」
「……ええ、おそらく船内には今目に見えている数以上の魔物が待機しているでしょう。 近付けばそれらもけしかけてくる可能性があります。
それら全てを相手にする余裕はありませんし、船を沈められる前に敵船に取り付き、乗り込むべきでしょう」
ことり、と手に持っていたコップを床に置き、そう結論付けるようにカネモリは答えた。
全員反論は無い……と言うより、現状敵の懐に飛び込む手段で最良のものと言えば、そのくらいしか考えられないのだろう。
「よし、そうときまれば……すまぬが他の仲間へと伝令を飛ばす事はできぬか? 味方全体で侵攻のタイミングを揃えたいのじゃが……」
「わかりましたわ。 では私の部隊から数名派遣し、味方に時間を伝えましょう」
「よし、では2時間後に一斉侵攻……それ以降は体勢が整い次第あの艦に向かうように頼む」
「はい」
パラディンナイトの女性はこくり、と頷くと、手近にいた自分の部隊のレンジャーナイト数名に声をかけ、この戦艦に取り付けていた小船で、戦場の味方全体に今の会話の内容を伝えるように指示を飛ばした。
そして指示を受けた者達は、機敏な動作で戦艦を降りていき、それぞれ小船を操り海上へと駆け出して行った。
「それでは、私達はいっときの間は待機、という事になりますね。」
「だな。 骨休めはそのくらいでちょうどいいだろう」
カネモリの言葉を耳にして、ふぅ、と一息つけるディン。
他の一同も、おおまかな作戦の展開が決まった事で、張っていた緊張の糸をほんの少しだけ緩めたようだった。
―もっとも、戦場のど真ん中であることには変わりない。
完全に気を抜くことなどはとても出来たものではないのだが……
「すー……」
…ただ一人、ティールは、食べるだけ食べた直後から静かな寝息を立て、ふくろにそのへんに落ちていたらしい布切れを詰め込み、簡易的な枕にして眠っていた。
当然、作戦会議中は眠っていた事になり、発言どころか参加もしていない。
「……すでに占領した船の上とはいえ、魔物に囲まれているのはかわりない状況ですのに……」
周辺の空と海にいる魔物は、十数人はいるというこちらの戦力を警戒しているのか、遠ざかりこそしないものの、戦艦からはある一定の距離以上に近付いても来ない。
それでも、とても眠れた状況では無い事は確かである。
「神経の図太い嬢ちゃんだな。 将来大物になりそうだ」
パラディンナイトの女性は、そんな態度にどういう表情をしていいのか分からない様子だったが、エンリケはそんなどこかを気に入ったらしく、にっと笑ってそんな事を口にしていた。
「しかし、いつ周囲の魔物がかかってくるかわからない状況、そうも言ってられないでしょう。
申し訳ないとは思いますが起こして―」

『寝かせて置いたほうがいいよ、後のためにね』

「―何か言いましたか?」
「えー、ボクあんな変な声して無いよ!」
「…ですね、申し訳ありません、ジュリア」
カネモリの言葉の途中に割り込むように入り混んできた声。
それは妙に鼻にかかったようなクセのある音程で、とても人間の女性が普通に出せるような声ではない。
―だが、ジュリアもその声質を理解していると言う事は、カネモリにだけ聞こえた空耳、という事では無さそうだった。
よく見れば他のメンバーもキョロキョロと周囲を見回している。

『こっちこっち、よく見なよ』

そうしている間に再び同じ声が聞こえ、全員が誘導されるようにその方向へと顔を向けた。
「……ネコ?」
その一言は誰が呟いたのかは分からなかった。
しかし、そんな事は大した問題ではなく、重要なのは、言葉の内容通りに視線の先に一匹のネコがいたということ。
……ニヤニヤと笑っているような表情をしているそのネコは、甲板の樽の上に座ってこちらの方を見つめている。
『その子は特別な力を持った人間だろう? 消費を抑えて使っていたようだけど、最初からなら随分と長時間だ、今は寝かせて置いたほうがいいよ』
「……特別な力? なんですの、それは」
何? とばかりに首をかしげるパラディンナイトの女性と、その一団。
カネモリとエンリケも何の事かまでは分からないのか、同じような目で眠っているティールの方へと目を向けた。
「あ、もしかしてあの時使ってた力?」
だがその中で、ジュリアは初めて出会った時に彼女が見せた力を思い出し、その事を口に出していた。
「……ブレイブハート……」
そして、その能力の名を知るディンは、女性とジュリアの問いに答えるかのように、ボソリとそう呟いた。
―『この状態』はもって数分だから―
彼が始めてその力を目にした時、ティール自身はそう言っていた。
全開で発動させて数分しか使えないのなら、どれだけ抑えて使っても丸一日は持たないだろう。
『その子の力はメンタルといっしょに体力も大幅に削ってしまう。 眠って回復するならさせておいたほうがいいよ』
ニヤ~っとした表情を崩さず、そう口にするネコ。
まるで全部分かっているようなその言葉は、聞き手によっては挑発に聞こえるかもしれない。
『それより、君達はあの艦に向かうんだね。 だからいいことを教えよう』
「……何?」
『あそこには”1人で53人の兵士の力をもつ”人間がいる。 戦うのは大変だから気をつけなよ』
「1人で53人分の力? それってどういう意味……あれ、いない」
ジュリアがネコへ問い返そうとしたが、その言葉を口にしおえる前に、そのネコの姿は一同の眼前から消滅していた。
まさか夢か幻だろうか、と自分の目と目を疑ってみるが、周囲の全員が同じ反応をしているために、どうやら現実ではあったらしい。
「まさか魔物? ……いやでも、このへんにいる魔物は全部操られるんじゃ……」
「…だったら、撹乱させるための罠じゃないのか?」
「……エンリケ、それはないでしょう」
「なんでだ?」
「操る、と言う事は対象の精神を乱し、他者の意識が入りこむということ。 特に人間並の精神を持っている生物が相手となると、操るための魔力と対象の精神がぶつかりあい、あんなふうにまともな会話のできる状態にはなりません。
……それに、あの猫からは『魔物』というより『精霊』や『使い魔』に近い気配を感じましたが……」
そこまで言うと、うーん、と考え込むような体勢になるカネモリ。
また、この場にいる人間の中のもう一人の魔術の専門家、エミリアもまた、同じようにぶつぶつと考えているようだった。
「たしか『精霊』や『使い魔』…他に、ネクロマンサが使うような『悪魔』は、魔物の一種ではあるけど宿主や契約者と特殊な力で結ばれていて、契約者が死なない限りは、契約の力で外部の力で操られる事はまずありえない……」
「なるほど、精霊か使い魔なら、敵の支配領域内でもまともな精神を保てると言うわけですね」
「……エミィ、よくわからんが、それってネクロマンサの知識じゃないのか? なんでお前が……」
「いや、魔術を心得るものなら、一度は目にする記述じゃからな。 なにより『精霊』と『使い魔』は別にネクロマンサでなくとも従える事はできる。
クレセントが妖精という使い魔を従える事で、『フェアリーティア』と呼ばれる特殊ジョブとして扱われることは知っておろう?」
「……なるほど」
「……そんなことより、気になるのはあのネコの言葉じゃ」
納得したらしいディンの顔を確認すると、ふぅ、と一度呼吸をして、話を切り替える。
今この場で必要を要求されない問いを考えていても仕方がないのだ。
「”53人の兵士の力”とはいったいどういうことじゃ?」
「え? 1人で53人分の戦力があるって事じゃないの?」
あっけらかんとした顔で、ジュリアが素直にそう答えた。
その答えに同意していた者は多いのか、うんうん、とほとんどの人間が黙って頷いている。
「それにしては数が具体的すぎる。 ……例えば、Aランクの兵士53人と、Cランクの兵士53人では差が大きすぎるじゃろう?」
「……なるほど……」
「だから、こういう場合は”50人分”とキリのいい数字でとどめるのが普通なのじゃが、”3”などと細かい数字が入るのは不自然じゃ」
「……何か意味がありそうですね」
「意味? そういえば53ってトランプの枚数だよね? それぞれ12枚づつと、ジョーカーが1枚」
「……ジュリア、確かにそうかもしれませんが、この場にトランプがどう関係してくると言うのですか……」
ジュリアのその言葉を耳にして、カネモリは疲れたような顔をして額に手を当て、そう切りかえしていた。
その横では、ティールが未だに寝息を立てて眠っている……