※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

……静寂。
周辺を飛んでいた魔物の大半は、海上にそびえるブラック・シップに向かって守りに立つ様に集まっていた。
隔離結界が消えた今、向こうが唯一張る事が出来る魔物の壁……海戦における最終防衛ラインといったところだろう。


「13・・・12・・・」
戦場全域に伝令を飛ばしてから、あと少しで2時間が経過する。
周囲の海上に浮かぶ味方の船も、タイミングを測るようにブラック・シップと一定の距離を開けて、待機しているようだった。
「8・・・7・・・6・・・」
今自分達が乗っている船は、敵から奪ったもの。
少なくとも、敵艦を攻めいる際につかっていた小船よりは頑丈で、多少の攻撃を受けたところで沈みはしないだろう。
……どのみち、敵を倒して出てくるころには沈められているだろうから、こちらが乗り込むまで船体がもてばそれでいい。
「3・・・2・・・1・・・」
勝負は、敵艦に横付けて乗り込むまで。
戦場全体に、緊張の糸が張りつめていた。




「突撃ーーー!!」




カウント0に代わり、精一杯の声を張り上げるレオン。
その一声に呼応するかのように、周囲の味方船が同時にブラック・シップに向かって走りだした。
上空を舞っている敵も多いが、味方も小型船、大型船共に相当の数があり……敵が全体に分散しても、一つ一つ集中して狙われても、その間に全体の何隻かは確実に到達できる。
「……くそ……味方の犠牲が前提なんて、考えたかなかったけどな……」
当然、自分達の艦がその犠牲になる可能性も含めての話である。
……大規模な戦争というのは、おとりという側面を避けて通る事ができないので、どうしても好きにはなれなかった。
「……割り切れないことなんて、どこにでもあるよ」
舌打ちするレオンの横でぼそりとそう呟くティール。
彼女自身、かつて仲間や家族と読んでいた存在の犠牲の上に生きている人間である。
本人を除けば、それを知っているのは直接話を聞かされたディンくらいのものだが、時折彼女が纏う空気には、何も知らない者にも威圧感を感じさせるようだった。
「おしゃべりはそこまでだ、来るぞ!」
艦がある一線に差し掛かったところで、周囲を飛んでいた魔物が艦に向かって殺到するように攻撃を仕掛けてきた。
ディンの声で全員が戦闘態勢に入り、一種の持久戦とも言える戦闘が、今始まった。
「構わず突っ込め!! スピード落とすなよ!!」
操舵管を握っている者に向けて、思いっきりそう叫ぶ。
動力付きの艦と言うのは、こういった場合こそ有利で、風任せの帆船では、方向は制御できても速度まで維持できはしない。
「だいじょうぶか!?」
後衛に当たっているカネモリにその爪を突きたてようとしたガーゴイルを、エンリケがその大槌で叩き落とす。
その直後、別の方向から鷹のような姿をした魔物が飛びかかってきたが……
「グギッ……ギャアアアアア!!!」
首筋に棒手裏剣が数本突き刺さったかと思うと、突如その軌道を変え、狂ったように他の魔物と同士討ちを始めた。
「カネモリ、な、なにしたの!?」
「狂化剤です。 即効性に優れる反面効き目は短いですが、この状況ならば充分です!」
言葉通り、自分達が立っている艦はトップスピードを維持したまま海面を駆け続け、薬を打ち込まれた魔物は、別の魔物を数体巻き混んで後方の景色へと消えていった。
「行きますわよ! ソニックランサー!!」
船の右舷で、レンジャーナイト部隊と共に乗り込もうとしてくる魔物を迎撃するクローディア。
3名のレンジャーナイトによる一糸乱れぬチャージの壁に叩かれた相手に、追い討ちをかけるようにその手の張るバードで急所を貫き、トドメを刺す。
「戦乙女ヴァルキュリアの名の下に……貫け! グランスピネル!!」
また、一瞬遅れて飛びかかろうとした魔物も、どこからともなく召喚された『神の槍』に身体の中心を貫かれ、そのまま海へと転げ落ちていった。
「食らえ!!」
―それとほぼ同じ瞬間、『雷の剣』を振るい、まとわりつくように囲む数体を蹴散らすセオの姿があった。
「セオ、伏せて!!」
倒れていく魔物を尻目に、次の相手を見定めていたその時、イルがそう叫びながら、真っ直ぐにセオに向かって弓を向けていた。
言葉通りに、前のめりに転がるようにして移動しながら、体勢を低くするセオ。
その直後にイルの弓が放たれ、セオを背後から狙っていた魔物の眼球を二つ貫いた。
「……っ!!」
”ダンッ!!”と床を蹴る音を大きく響かせ、上空の敵に向けて飛び上がるティール。
蒼く染まった瞳で敵を見据え、その勢いのまま大きくハルバードを振りかざし――
「<ruby>F<rt>フレア</ruby>・クロスブレイク!!」
燃え盛る青白い炎と共に、敵の肉体に十字を描くように攻撃を叩き込んだ。
……その直後、宙を泳ぐ彼女を狙うように接近する2体の敵が現れる。
「――全てを裂く刃をここに  ブラックセイバー!!」
「――全てを貫く槍となれ  アイスニードル!!」
しかし、一瞬早く呪文の詠唱が完成したアルトとエミリアの闇と氷の刃がその肉体を貫き、ティールはそのまま船の上へと着地する。
「不用意に飛ぶな! 的になるだけだ!!」
双剣の乱撃で数体を撃破したレオンが、一呼吸置く間に注意を飛ばしてきていた。
その一言を受けて、言葉は返さずに、コクリと頷いて返事をするティール。
それを確認すると、レオンは再び手近にいた魔物に向けて斬りかかって行った。
「くっ……」
「もうすぐだ、頑張れ!!」
クリスを船の端に追いつめていた敵を、背後から斬り伏せるディン。
……自分達が立つ船の位置は、その言葉通りにブラック・シップの付近まで接近していた。
「あそこだ! あの穴に横付けろ!!」
その先に見えるのは、断続的に魔物を吐き出している横長の出入り口。
見たとおり、従えて艦内に捕らえていた魔物の排出口、といったところだろう。
外壁を登って甲板に出ようにも、甲板の位置は艦のスケールに比例するかのように高く、登っている途中に狙われてしまう。
……飛び込むにしても危険すぎる場所だが、他に進入出来そうな場所もない。
艦は、魔物の排出が収まる一瞬を狙い、排出口へ飛び込める位置まで接近する。
「ディン、クリス、ティール、イル、あと5、6人先に行け!! 次はアルトとエミリア、カネモリも飛び込め!!」
穴の先にいるのは、魔物に間違いは無い。
それを見越したレオンは前衛の一部を先に飛び込ませ、次に後衛である三人を走らせる。
残されたレオン、クローディア、エンリケ、ジュリア、セオの5人と、他のプレスコット騎士団兵6名は、飛びこんでいく者達へ追撃しようとする魔物を食い止める役目を受けていた。
「大丈夫じゃ! お主達も早く!!」
「わかった、行くぞ!!」
数秒経過して、エミリアの声と共に続けて排出口へとなだれ込む11人。
最後のレンジャーナイトの一人が飛び込んだ瞬間、エミリアが排出口を塞ぐ形で『フローズンピラー』による氷の壁を発生させ、外部でむらがる魔物の進入を食い止めた。




「……なんとか、進入成功……だな」
その瞬間、全員張り詰めていた息を大きく吐き出していた。