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「やれやれ……見事に分断させられてしまったようじゃな」
はぁ~……、と盛大な溜息を交えつつ、そんな事を口にするエミリア。
先程から何度か閉ざされた壁の向こうに呼びかけようとしているが、声が届いていないのか、向こうから返事は全く帰って来ない。
「……悪い、俺が挑発に乗ったから……」
やや落ち込んだ様子でそう言うのはディン。
その横では、同じ失敗から肩を落として反省の顔色をみせるジュリアの姿もあった。
……今この場にいるメンバーは、ディン、エミリア、ティール、カネモリ、ジュリア、エンリケの6人と、プレスコット従騎士団員6名の計12名。
最初に飛び出したディンとジュリアを止めようとして前に出ていたエミリアとカネモリ。
ティールとエンリケはその四人を反射的に追うようにして走り出していて、残る騎士団員も似たような状況でこちらに誘い込まれていたようだった。
「しかしこうなってしまった以上仕方ありません。 声が届かない以上向こうとの連携は不可能ですし、ジッとしていては直ぐに大軍が押し寄せて来るでしょう」
「……そうだね。 あのカリフとかいう人もいなくなってるし……こんな袋小路に仲間を呼んでこられたらそれこそ不利だよ」
背後はせり上がってきた壁、そして通路であるがゆえに左右は元々塞がっている。
どの道、先に進むしか選択肢は残されていないようだ。
「……だな、とにかく先に進むとするか……」
ふぅ、と疲れたような溜息をもらしつつ、そう口にしたディンはその手に持つ剣を一度持ち直して、通路の先へと目を向けた。
迷路と言うものは、回り道をして同じ場所に辿りつける場合が多い。
特にあんな仕掛けがある場合は、味方が手詰まりになら無いように回り道が用意されている事があり、運がよければどこかで合流できるかもしれない。
「そうと決まれば、急いで離れましょう」
ジッとしていては、間違いなく敵部隊はこの場所を狙ってくる。これ以上の長居は危険しか招かないだろう。
全員の判断は一致し、ひとまず通路の先に走る事に決めた。







「――しかし、思ったより中の敵は少ないな」
最初から数えていないのでもう何度目の戦闘になるかは分からないが、自らの血にまみれて倒れ込んだ魔物と兵士を尻目に、再び歩き出す一同。
戦闘をこなした回数は確かに多いが、一回一回の敵の数が騒ぐほど多くなく、12人が一丸となって進んでいる分には特に問題は見当たらなかった。
「それでしたら、考えられる理由は二つあります。 ひとつは、味方軍が他の場所からも進入していて、その分敵軍も兵士を分散させているという事。もうひとつは、狭い通路の中では大勢ではかえって戦いづらい、と分かっているという事です」
「なるほど。 しかしそれでさじ加減を間違えていては本末転倒と言う他がないのぉ」
「こっちとしては有り難いけどねー」
現在の彼らの陣形は、前衛にディン・ティールと騎士団員三名、後衛にエミリア、カネモリ……そして、挟み打ち対策の最後尾に、エンリケとジュリア、そして残った団員三名を配置している。
一度挟み打ちを受けた事は受けたが、レンジャーナイト三名による壁は前後共に狭い通路においては充分に役割を果たし、後衛の二人が魔法を飛ばし、前後の前衛の四人が、それぞれの相手を叩き潰していた。
……現状を考えるに、24名などという多数が固まっているより、かえって戦いやすいようにも感じ始めている。
「ところでエミィ、マッピングはどうだ?」
「うむ、とりあえず通ってきた道は漏らさず記録しているが……罠の位置から見て、なにやら誘導されているような気もするのじゃが……」
エミリアが手に持っている紙には、今まで通過してきた通路や部屋、そして落とし穴やせり上がる壁などの罠の位置まで事細かに記していた。
その道程は、多少迷った後が見られるものの、実質一本道を進んでいるような形で記されていて、なにやら意図的なものも感じられてくる。
「……誘導だって? 安全に見えて、実は危険な道でしたってことか?」
「いや、断定はできぬが……敵の配置や、罠の位置。 進む方向を向こうに決められているような気がするのじゃ」
「…………」
思いかえしてしてみれば、ある曲がり角を曲がろうとした時には、その先には対処しきれないような数の敵が密集し、また別の場所では普通に避けられそうなバレバレな罠が仕掛けてあったりしていた。
敵の集団は密集し過ぎて進軍がままならなかったりしている隙に逃げてきたし、罠はわざわざ踏む事も無いと思いその通路は避けてきた。
……ダンジョン馴れした者で無ければ発見が難しい罠がある一方で、そこまでわかりやすいものがあるのは、冷静に考えれば不自然である。
「どうする、戻るか?」
「……いや、敵陣のど真ん中をうろついている以上、それはそれで危険すぎる。 いずれにしても、先に進むしかないのじゃ」
ふぅ、と溜息をつきながらエミリアはエンリケの問いにそう答えた。
行きはよいよい帰りは恐い。 ……そういえば、そんな歌が十六夜では歌われていましたね……と、カネモリはしみじみと思いかえしていた。
「侵入者だ!!」
「くそっ、またか……」
そして、もう何度目か分からないT字路に差し掛かったところで、突如として右への通路から敵軍の兵士の声が聞こえてきた。
先頭に立つディンは剣を構え、立ち向かおうとしたが……
「……また多いな、あれも突破するのはムチャだ」
どこかで見たように、狭い通路にみっしりと密集された兵士と魔物。
セオリーだけを考えると、戦って無駄に消耗するより、大人しく左の通路に向かった方がいいのかもしれないのだが、今それについての話をしていたばかりなので、その行動はなんとなくはばかられる。
「道、戻ってみるか?」
「いたぞー!! こっちだ!!」
そう思った矢先に、今来た道からこれまた大きな団体が。
「くそっ、やっぱ思った通りか!? エミィ!!」
「うむ、全員左に駆け込め!!    ――フローズンピラー!!」
これも、もはや何度目か分からないが、エミリアが飛び込んだ通路一杯の氷の柱を発生させ、敵の進軍を食い止める。
全員、その隙にその場を離れ、なんとか今回も敵の大軍の追撃を振り切る事に成功した。






そうして疑念は晴れないまま戦い、突き進んでいる間に、一同はなにやらひときわ立派な扉の前に差し掛かっていた。
その扉には、キング・クィーン・ビショップ・ルック・ナイト、そしてポーンと、左は黒、右には白のチェスの駒のような形をした彫刻が掘られていて、特にその存在感をアピールしている。
「……やはり、出来すぎておるのぉ。 あれだけ追い回されてたどり着いた先が、いかにも重要そうな扉の前」
「ですが、素通りしようにも先には見え見えの罠、後方には恐らく大量の兵士が待機しているでしょう」
「素通りすれば確実に罠の餌食、戻ろうとすれば捌ききれない大軍と戦わされる……気に喰わないが、入るしかないなこりゃ」
もう何度目か分からない溜息をつきながらもメンバーを一歩下がらせると、ディンはノブに手をかけ、有無を言わせぬ勢いで両の扉を解き放った。
……その向こうにあったものは、大軍の兵士でも魔物でもない。 重要な物資を詰め込まれた倉庫でもない。
そこは、チェスボードを思わせる白と黒のチェック模様の床の、今まで歩いてきた通路からは考えられない程の広さを誇るホール。
壁に刻まれた彫刻も、巨大な白と黒のチェスの駒をかたどっているものだと分かる。
一つ気になる事があるとすれば、部屋の奥にある巨大な羽の付いた卵のような物体だが……
それよりもなによりも、そんな物体の前に立ち、この部屋の番人とでも言うかのようにしていたのは……
「…………よくたどり着いたわね、とりあえず、誉めてあげようかしら」
「――カリフ!」
「人を誘導しておいて、言うセリフがそれか。 つくづくイヤな女じゃのぉ」
余裕の面持ちで振舞うカリフに対し、すでに嫌悪感が出来上がっているらしいエミリアは、露骨に嫌そうな顔を見せてそんな事を口にする。
そんな表情に対しての反応なのか、カリフはやや満足気な笑みを浮かべ、また口を開いた。
「貴方達に丁度いいお相手を用意して差し上げたのよ。 感謝しなさい」
妖しげな笑みを浮かべながら、たまごのような物体の前から移動し、パチン、と指を弾くカリフ。
すると、音も立てずに物体が回転し出し、その『表』の姿をディン達に現した。
その正体は、卵を楕円系にくりぬいたような形状をし、呪術加工がなされた翼の模型の力で宙に浮く椅子。
そしてその椅子に座るのは、青空色のドレスを身につけた、12歳かそのあたりの少女だった。