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「……女の子?」
空中を浮遊するたまご型の椅子に座る、青空色のエプロンドレスを着た、金髪碧眼の少女。
どうひいき目に見ても、その身体は戦いができるような作りではないし、半分眠っているようなその瞳は虚ろで、ひどく頼りない。
「アル、アリス、こいつらの始末、任せたわよ」
そんなこちら側の思考など関係ないとでも言うように、椅子に座る女の子と、椅子の後ろにいるらしい誰かに向かって声をかけるカリフ。
「……仰せのままに」
一拍おいて椅子の後ろから表れたのは、トランプに使われる4つのマークが特徴的な衣装を身につけた、メイド風の女性だった。
だが、アルと呼ばれたその女性は、発した言葉に反してカリフに対してあまり好意的な目は向けていない。
……どうにも、仕方無しに従っているという空気が見て取れるのだが……
「ふふっ……」
最後に含み笑いを残して別の扉からカリフは去り、外側からガチャリと鍵をかけられる音がした。
かと思えば、自分達が入ってきた扉も突如として閉じられ、そちらからも鍵のかかる音が響く。
「……なるほど、最初からこの展開は向こうの計算づくだったってことか」
二人の敵を前にして閉じ込められる……そんな状況に舌打ちをして、剣を構えるディン。
それに続いて、エミリアとカネモリもいつでも呪文の詠唱を始められる体勢に入り、エンリケも一歩前に出てハンマーを構え、臨戦体勢に突入する。
して従騎士団の6人も同じように剣を構えたが、ただ一人……ティールだけは、武器を構えるそぶりも見せず、首をかしげるようにして敵の二人にその目を向けていた。
「アルさん……とアリスちゃんでいいのかな。 少し、話できる?」
「……お、おい。 何をそんな悠長な……」
ティールの言葉に驚き、その行動を制止しようとするディン。
……しかし、そんな行動を笑うかのように帰ってきた答えは……
「かまいませんよ。 アリス様は半分眠っておりますゆえ、問答でしたら私がお受けしましょう」
妙にやわらかで好意的な声で発せられる、ただそれだけの言葉だ。
拍子抜けした一同は、構えを解く事も忘れ、頭の中で呆然とその言葉の意味の整理を行うこととなった。
……ただ一人、問いを投げ掛けた、ティールを除いて。
「一つ目。 あなた達、本当に私達と戦う気なの?」
「……はい、それが私達に与えられた役目ですから」
そして、周囲の様子などお構い無しに問答を始める二人。
他の一同は、なんとかかけられた言葉の整理を終え、ただ聞くだけの体勢に入っていた。
「二つ目。 なぜあのカリフとかいう女を睨むような目をしていたの?」
「私個人としては、カリフ様はそれほど信用してはおりませんので」
「……三つ目。 それならばなぜ従っているの?」
「組織と言うものは、個人の感情で動く事は許されません。 上下の関係、それが絶対なのです」
「…………最後。 ”貴方の”主は誰?」
「……この船の指揮か……」
「正直に答えて」
指揮官……とでも言おうとしたのだろうか。
ティールはその言葉を制し、問いではなく、『強制』の言葉をかける。


……アルは、彼女が発する言葉の意図は最初から理解していた。
しかし、ここから先を口にしてしまっては、彼女達が自分達と戦いにくくなるだけだろう。
……だが、恐らく目の前の少女は見抜いている。
アルの本当の『主』が誰なのか……そして、こちらが戦おうと言う理由も。


「……なぜ、わかったのですか……?」
――おそらく、カリフが自分達を彼女達にけしかけたのもこれが理由だろう。
目の前にいるのは、見た目からして甘い考えをもっていそうな戦士達。
それこそ、ほんの少しの理由で敵を斬れなくなるような……
「貴方のその姿勢は、アリスちゃんに対してのものに見えた。 カリフには、敵対意識しか無いようにも感じたしね」
「……鋭いですね」
「”相手の腹の中を見る事が出来るようになれ” ……私の師匠がそう言ってたから……」
「……え~っと、お嬢ちゃん、わりぃがちゃんと説明してくれないか?」
神妙な顔で話を続けるアルとティールに、さすがに答えが欲しくなったのか、エンリケが口を挟んでいた。
他の者も、口を出すに出せない状態だったのだが、考えていた事は同じらしく、特に制止する様子もなく彼女達の言葉に耳を傾けている。
「……多分この二人、無理矢理戦わされてる」
「――!?」
「人質か、もしくは脅しか……理由は分からないけど」
「……人質ですよ」
今度はアルがティールの言葉を制し、言葉を発する。
その瞬間の表情は、無表情の仮面で取り繕っているようだが、その仮面はややはずれつつあるようだった。
……言ってはいけない。  言ってしまえば、カリフの思う壺となる。
「我が主の……アリス様の大切な友達が、この船のどこかに幽閉されているのです」
「……一応聞くけど、私達が助けに行ってあげるから、この場は見逃してって事にはならない?」
それは、ティールにも分かっていることで……この時点で、背後で聞き耳を立てているカネモリやエミリアも、カリフが自分達をここに誘導した真意を理解するに至っていた。
そう、自分以外の意思で戦おうとしている相手は、『まっとうな人間』にとっては最も戦いにくい相手となる。
だからこそ、アルは相手に何も知らせないままにしておこうとしたのだが……
彼女の問答を受けた時点で、ささやかなその抵抗は脆くも崩れ去っていた。
「できません。 それこそ、人質を殺されてしまうでしょう」
「……人質は、生きているからこそ人質。 貴方たちにとっての人質がたった一人しかいないのなら、向こうも総簡単には……」
「そんな、甘い相手ではありません。 ……それに、人質は人間ではなくウサギです…… 動物を殺すことに、躊躇など感じるはずもない」
「ウサギって……」
「ウサギだとか人間だとかは関係ありません!! ラビはアリス様に残された最後の家族なのです!! 軽はずみな言動は許しません!!」
思わず呆れるような声を出しかけたディンだったが、アルはその言葉が彼の口からだしきられる前に察し、急に語調を荒げるようにして攻め立てた。
その瞬間の形相に、思わず一歩あとずさるディン。
……とにかく、そのラビというウサギは彼女達にとってそれだけ大切な存在である、ということは理解できた。
「……ァル……もういぃよ……」
と、その時。 寝惚けまなこを両腕でこすりながら声を出すアリス。
「あ、アリス様……申し訳ありません、私とした事が、あのように叫ぶなど……」
その声を受けて、さっきの怒りに満ちた叫びがウソであるかのように静まり、佇まいを正すアル。
一同の視線は、すでにアリスの方へと向けられていた。
「……ごめんなさい……わたし……ラビと、おわかれしたく……ないから」
ぱっと見寝惚けてふねをこいでいるような状態だが、その言葉に込められた意思は、確かに感じ取れる。
その声を聞く全員が、いたたまれない気持ちで満たされ、そして怒りにも似た感情がこみあげ……武器を取る手に、行き場のない力が篭っていた。
……ティール達がそうしている間に、アリスはゆっくりとした動作で、ポケットから一組のトランプを取り出していた。
「たたかわないと……おねがい…………せめて、しんじゃわないで……」
祈るような声でそう呟き、その手のトランプのケースを開く。
――その次の瞬間だった。
「――!?」
突如として53枚のカードが、アリスを中心に4つの円を描くように広がり、ぐるぐるとその周囲を回り始める。
……そして、すっと差し出されるアリスの手に従うかのように、その中からスペードのA、クローバーのJ、ハートのQ、ダイヤのKが飛び出し、ゆっくりと地面に降り立った。

「――出てきて、アルカナ・ナイト――」