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―Wonderland of Alice―


「なっ…!?」
床に降り立った4枚のトランプが突如光を放ち、次の瞬間には手足と兜を被った頭のようなものが現れ、丁度人間と同じサイズにまで巨大化。
スペードのAは刀身にスペードのマークが刻印されたロングソードを、クローバーのJはクローバーマークが刻印された長槍を、ハートのQは先端がハートの形をした杖を……そしてダイヤのKは、ダイヤマークが刻印された戦斧を構え、アリスを守るような布陣でティール達の前に立ちはばかった。
「武器から察するに、Aがブレイブマスター、Jはパラディンナイト、Qがマージナル、Kがベルセルクといったところですか」
周囲が驚く中、カネモリは冷静に現れた敵のいでたちを分析する。
「……しかし、チェスボードの舞台にハンプティ・ダンプティの椅子、そしてウサギとにやついたネコ、トランプの兵士……『不思議の国』に迷い込んだ気分じゃな」
その一方で、エミリアは今までの状況から連想されるある物語を思い出していた。
その一言を受けて、そういえば乗り込む前に喋るネコが話しかけてきたな、と思いかえす一同。
確かに、コレまでの話を統合すると、かの『夢の国』と『鏡の国』の冒険を描いた物語の中に飲み込まれたような錯覚を覚えても仕方のない事かもしれない。
「…なぁ、やっぱり戦うしかないのか?」
一時の判断が戦局を一変させるような戦争では、こんな考えは甘いものでしかないのかもしれないが……
相手は悪ではなく、どうひいき目に見ても戦いには無縁そうな小さな女の子。
事情を聞いてしまった今、目の前の少女に刃を向ける事ははばかられた。
「どうしても立ち塞がるなら、それも仕方ないよ」
だが、ティールは無表情のままそう口にして一歩前へと進み、愛用のハルバード『飛龍』を構える。
「ティール……」
「何が正しいとか間違ってるとか、くだらないよ。 誰にだって譲れないものはある……ぶつかり合わない方がおかしいんだから」
ディンの呼びかけに、振り返りもせずそう答えるティール。
彼女は今、どんな顔をしてそんな事を口にしているのか。
「人の想いを否定はしない、戦わずにすむなら戦いたくは無い。 でも、私の道を塞ぐのなら……戦わないと、通してくれないなら……」
「…………」
「私も、あの子に槍を向けたくは無いよ。 でもね、あの子はトランプの兵士という剣を抜いた……たとえ仕方無しとしても戦う意思を見せた以上、私達には答えるしか道は無い」
「けどっ!」
「……いいの………わたしは、ラビとおわかれしたくない……でも、あなたたちも、この世界をまもりたいって、思ってるんでしょ?」
叫ぶように出された声を制止するように、相変わらずの寝惚けたような顔で、そんな事を口にするアリス。
アルは、その足元で黙ってその声に耳を傾けていたが……その心中はいかなるものか、主の決断を、どう受け取っているのか。
それは、彼女自身だけが知る事なのかもしれない。
「……だから、いくよ?」
「うん、手加減はしないよ」
12歳と14歳の二人の少女……そんな、この場で最も歳の低い二人が、”戦うこと”に関して自分なりの答えを持っている。
それを目にした大人達は、なにやら複雑な心境に駆られ……何も言えず、武器を構える事しか出来なかった。
アリスの座る椅子がより高いところへと舞い上がり、その足元に立っていた4体のトランプ兵が動き始める。
「ひとつ御安心を。 兵士達を傷付けても、アリス様にダメージは通りませんので」
最後に、アルがそう答えたところで、4体の騎士はティール達に向けて駆け出した。



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その後に表れた2から10番のカードはどうやらすべて『レンジャーナイト』相当の能力を持ち、最初の4体より若干戦闘力は低いようだった。

……一言で言えば、戦闘そのものは全くもって問題がない。
アリスの能力で操られるトランプ兵の数はどうやら最大で同時に4体が限度らしく、前・後衛合わせて12人いるこちらからすれば、不利になる要素など一つとして見当たらなかった。
しかしただ一つ、こちらにとっての難点があるとすれば……倒したところで、キリがないといったところか。
力尽きた兵士は瞬時に元のトランプに戻り、上空で指揮するアリスの元へと飛ぶ。
しかし同時に別のカードが舞い降りて、最初の4体と同じく兵士となり、襲ってくる。
かといって倒したカードは使い物にならなくなるわけではなく、アリスの元に戻れば徐々に修復され、他のカードが相手をしている間に復活し、また戦場へと舞い戻るのだ。
「くっ……」
泥試合、という言葉が最も似合うかもしれないこの戦い。
数の差がありすぎるために、こちらも適度に前衛が交代することで、体力的にも全く問題がない。
後衛についてはエミリアとカネモリ二人しかいない状況だが、こちらはほぼ全員がAランク以上か限りなくAに近いBランクの支援士。トランプ兵も、あえてランク付けするならB以上の力はあるようだが、最高4体では前衛の数だけで押しきれる状況だった。
……要するに、終わりがみえない。そういう事である。


「もう召喚主を叩くしか手はないようじゃの……」
そんな中で、ふとエミリアが漏らしたそんな一言。
――全員それは分かっていたが、なにしろ座っている椅子がホールの高い所まで浮き上がっているので攻撃は届かず、それができるエミリアとカネモリも、年端もいかない少女を攻撃するのはやはり抵抗がある。
「……そうだね、やっぱりそれしかないか」
だが、そんな中で一人……ティールだけは、このへやに入って最初に見せたものと同じ眼で、そう口にしていた。
ここまで彼女がその一言を口にしなかったのは、なんだかんだと言って傷つけたくはなかったということかも知れない。
だが……
「――ブレイブハート――」
このホールにおける戦闘中、一度も使用していなかった魂の力を、ここにきて始めて解放する。
燃え上がる炎のようなオーラが現れていない分全力の解放は行ってはいないようだが、その黒い瞳は確かに蒼い輝きを宿すものへと変化していた。
「殺しはしないよ。 でも気絶させれば、召喚もできないでしょ!!」
そう口にして、手に持つハルバードに魂の力を流し込む。
ここまで何度か見せてきた、彼女の持つ遠距離攻撃の一つ。 青白き炎の槍――ブレイブスピア
「ティール、待て!!」
その威力はどう贔屓目に見ても気絶だけですむようなものでは無い。
技の構えに入ったティールを、ディンが止めに走ろうとしたが……

「いっけぇぇぇえええ!!」
一歩早く、その切っ先から二発の閃光が解き放たれた。