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「―あ、出るタイミング逃しちゃった?」
「……起死回生。 出る必要がなくなっただけ」
「いや……状況はまだ悪そうだよ。 もう少し、様子を見ようか」




―14―




「――ヴァイ!?」
ティールの心臓に剣を突き立てようとした兵士が一撃の下に吹き飛ばされ、予想だにしない援軍の到来に、一瞬怖気づく他の兵士達。
「グオオオオ!!」
そして、その一瞬の隙を突くかのように、純白の体毛をなびかせ、一体のフロストファング――銀牙が戦場に飛び込み、群がっていた兵士達を蹴散らしていった。
攻撃を受けなかった他の兵士達も、完全に虚を突かれ動揺し、なす術もなく後退していく。
「くっ……貴様等!?」
その兵士達の向こう側で、驚愕の声を上げる男。
そうしている間にも、ヴァイ、銀牙に続いてリスティ、シア……そして、ユキとイリスもこの場へと集い、地面に倒れこんでいるティールを守るかのように並んでいた。
「ママ! 大丈夫!?」
その中で、一人ティールに駆け寄って、必死の表情で身体をゆさぶるイリス。
先に受けた傷に若干響くものの、ティールはゆっくりと身体を起こして、自分を囲む仲間達の顔を見上げる。
「お前が出た後、妙なゴロツキが俺達を襲ってきたからな」
「あなたの様子も変でしたし……さすがに、何かあったのかもしれないと」
なぜここに……そう口にしようとしたが、ヴァイとシアはそれを制するかのようにそう言葉を発していた。
……大方、親を引き離した後にイリスだけ攫って行こうという作戦の結果だろう。
ただ、並の支援士以上の力を持つヴァイと銀牙がその場にいたのは、敵にとって計算外の事だったのかもしれない。
「銀牙がいなかったら、この場所までは判らなかったかもしれないが……」
「間にあってよかったです……」
ヴァイの言葉を受けて、少し得意気に鼻を鳴らす銀牙。
狼も犬科の生物だけに、犬と同様に鼻の利く動物。 数十分程度の時間では、道に残された匂いは早々消えないのだろう。
―尤も、銀牙は魔物としては例外的に、教会に属しているためにそういった訓練も多少受けていたりするのも事実なのだが。
「……みんな……ごめん……」
リスティから治癒聖術を受けつつ、少ししゅんとした顔でそう口にするティール。
だが、本人以外は特に気にした様子もなく、何も言わずに敵の方へと身構え、それぞれが戦闘体制に入っていた。
その横で、イリスとユキはシアの影に隠れるように移動している。
「……ディンさん、エミリアさん……これは、どういうことですか……?」
シアはそんな二人の頭を少し撫でると、改めて目の前に立つ二人の支援士へと向き直り、悲しそうな声でそう口にした。
シアは、ディンとエミリアとは以前からの知り合いで、友人同士。
……そして、二人に対しては無言を保ってはいるが、ヴァイもまた、二人とは顔見知りの関係だった。
「……ディンとエミィは、支援士って立場を利用されてるだけ。 Aランクの依頼の放棄……口実があれば、後の仕事を奪うのも……町にいられなくするのは簡単だって、脅されてる」
その視線に何も言えず、ただ黙り込む二人に代わり、ティールはそう答えた。
それこそ嘘も何もない、戦いの中で耳にした、”依頼者”自身の言葉を借りて。
「そんなっ! ……そんなの、ただの脅しじゃないんですか!?」
「……世の中には、そのくらいの力を持つ人間もいるわ。 教会に、権力を傘に着る人間がいるように」
「シア先生!?」
「リスティ、世界は貴方のように純粋な人ばかりではないの。 フォーゲンの一件で、貴方も身に沁みて知っているはずよ」
「…………」
今までに無く神妙な表情で語るシアの姿に、思わず口ごもるリスティ。
……フォーゲンの一件から、確かにこの世には正義という暗幕に隠された悪がいる事は承知していた。
それゆえに、何も反論する事も出来ない。
「くく…っ、その姿……『聖女の守(フォルセイナル)』に『聖女(アルティア)』、そして『吟遊詩人(バード)』と『聖者の守護獣』か……なるほど、寄せ集めの兵では敵うはずもない」
「……俺達を知ってるのか」
「知らぬ者の方が少なかろう。 貴様等がいたのは、計算外だったが……アイリスを連れてきてくれたのは、礼を言おうか」
突如として不敵な笑みを浮かべ、目を見開く男。
その視線は、シアの背後に隠れるイリスへと、真っ直ぐに向けられている。
それに気付き、恐怖からか目の中に涙を滲ませるイリスだったが……






「あんたみたいな外道に、誰が渡すか!!」






そんな彼女の前に立ち塞がり、かつてない程に大きく叫ぶ『親』の姿があった。
「ママ……」
「ふん、金で動く支援士風情が、何を奇麗事を」
「……金で動く、か。 お前みたいなヤツには、俺達はそう見えるか」
男の一言に、嘲笑のような表情を見せるヴァイ。
しかし、そういう連中が支援士の中にいるのも事実であり、金だけじゃない、などと言うのは奇麗事と言えば奇麗事かもしれないが……そういった人間ばかりだと思うのは大きな間違い。
それとは対極に位置する人間も、数こそ少なくとも確かに存在している。
「……私だって生きていくならお金はいるし欲しいものもある。 最初に見つけた時は、持ってても仕方ないし売ってしまおうと思ったけど」
だが、その矢先に思いがけない言葉を口にするティール。
――予想だにしない発言に、全員が思わず声を上げそうになっていたが……
「こうやって生まれて、私なんかを『親』として慕ってくれる……そんな子を見捨てるほど、私は堕ちちゃいない」
ティールは視線を男から逸らさず、淡々とそんな言葉を続けていた。
それは、彼女自身が想う、素直な言葉なのだろう。
「それを奇麗事と言うのだ。 まあいずれにせよ、議論の余地は無いようだがね」
変わらず嫌な笑みを浮かべたまま、男は一時は後退していた兵士達に指示を出す。
……虚をつかれ広がっていた兵士達の動揺も、今の会話の間に持ち直しているらしく、確実に布陣を拡げていく。
「……ティール、シアさん、ヴァイ……」
「いいよ、私は別に恨まない。 ……でも、もう一度言うよ。 戦うなら本気で相手をさせてもらうから」
呟くように口にしたディンの言葉に、淡々と答えるティール。
その瞳は、すでに背後にいる男ではなく、ディンとエミリアを鋭く貫くように見つめている。



「ヴァイ、銀牙。 ディンとエミリアは私にやらせて」
「……いいのか? 仲間になろうって言ってくれたヤツらだろ」
「だからこそだよ。 シアとリスティも、支援よろしく」
「あっ……  はい!」
「……わかりました」

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