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スペード・ハート・クローバー・ダイヤの模様が刻まれたトランプ兵。
ブレイブマスター相当の『A』4体を先頭に、レンジャーナイト相当の各マークの『2』から『10』の36体。
その後方に控えるのは、パラディンナイト相当の『J』4体とベルセルク相当の『K』が4体。
最後尾には、火、水、風、地のマージナル相当の『Q』が1体づつ。
そしてそのはるか後方には、それら全てを指揮するアリスと、彼女に付き従うアルの姿。
そんな目の前の光景を表現するならば、圧巻の一言しかないだろう。


「ブレイブソード!!」
ブレイブハートの炎を纏い、最前線で縦横無尽に駆け回りながら、手当たり次第に斬りつけるティール。
その後に続くように、他の前衛にあたる仲間達も奮戦しているが、相手のレベルがワンランク下とはいえ、こちらの4倍以上の数で向かってくる兵士達にはさすがに苦戦を強いられていた。
「——!? まずい!!」
まだ倒されていないレンジャーナイトのトランプ兵が、横一列に並ぶようにして全く同じ動作で一斉に剣を構え、突撃体制に入る。
——リンクスチャージ、周囲の味方と完全に行動を同期させ突撃。
その様は文字通り剣の”壁”が迫ってくるような形で、こちらも従騎士団のレンジャーナイト部隊が先頭で盾を構えるくらいしか対処方がみつからなかった。
30体近くのリンクスチャージになると、横に飛び出して避ける事はもはや不可能に近い。
『—!』
そしてチャージを耐え切ったかと思えば、直後に飛び出してくるAの4体と、後衛のQの魔法攻撃。
すでにAの2体とQの1体は葬っているものの、直前の攻撃で体制を崩された状態ではそれらの回避は困難を極める。
「チャージストライク!!」
少し離れたところに、JとK一体づつを突撃技で貫くティールの姿。
……防御能力は他より高いものの、比較的魔法防御が低く行動速度の遅いJとKは、他よりはこちらの攻撃を当てやすく、エミリア、カネモリの魔法と、ティールとジュリアのスピードをもって、他よりは早めに殲滅することができた。
そして、Qの魔法はこちらの6体いるレンジャーナイトの『属性防御』の特性により、こちらは牽制程度のダメージしか受けず、向こうは耐久力も低いので、倒すことそのものにそれほど苦は無い。
問題は、今だ残像のように並ぶレンジャーナイト兵と、Aの残る2体。
なまじ纏まって行動されるために、こちらからうかつに飛び込むことの出来ない状態だった。
「……この数なら、なんとか……」
しかし、エミリアはその敵の配置を目にして呟くようにそう口にする。
一瞬、他の味方がその言葉の次の行動を計りかねてそちらへ目を向けたが、エミリアは構わず一歩前に出て、左手で杖を構え……そして、あいた右手には一粒の宝石のような青い物体が握られていた。
「……其は古なる王が築きし城——」
「——!?」
そして、呪文の詠唱に入ったその時、ディンが驚いたように表情を変える。
——何か危険な呪文なのだろうか?
周囲はそう考えつつも、エミリアの詠唱を完成させるために、彼女を中心にした防御陣形に移行する。
「——在りしは雲海を見渡す天空 今ここに遥かなる時を超え——」
今まで使ってきたものとは数段レベルの違う魔力が、エミリアの杖に集中を始めている。
アリスもその呪文を行使させてはまずい、と気がついたのか、兵を彼女の方へと集中させようと操り始める。
「——青の精霊の力を持って其の姿を写し——」
——しかし、数で劣れど一丸となって壁を作るこちらの陣形を崩すには至らず、詠唱の完成は確実に近付いていく。
そして、詠唱の終盤に差し掛かったその時、数体の敵を相手にしながら、ディンが大きく声を張り上げた。
「……カネモリ、敵を止めろ!!」
「は、はい! ——偉大なる錬金術の祖・ヘルメス=トリスメギストゥスよ 我が水に宿りし精霊・ウンディーネの力借ること許し給え」
その勢いに一瞬戸惑うものの、カネモリもエミリアに続き呪文の基本詠唱に入る。
……二つの呪文の詠唱時間には大きく差があり、両者の詠唱はほぼ同時に完成を見せた。
「水の精霊・ウンディーネよ 彼の者に足下の煩い与う可し! 水膜潤滑《ハイドロ・スリップ》!!」
「——汝の威光をもって 我が敵を大地に伏せよ!!」
カネモリ自身、20体以上はいる敵全体を巻きこむような、かつて無い規模の範囲に展開する水膜潤滑の呪文。
絞り出すように発動させたそれは、かろうじて敵全体を巻きこむ事に成功し、足を取られたトランプ兵はその場で体制を崩し、その動きを止めた。
そしてエミリアは、魔法の発動の鍵となる最後の言葉を口にする直前に、右手に収めていた青い石を、敵が纏まっている丁度真上に投げ上げる。
「離れろ!!」
同時にディンの声がホール内に響き、一瞬遅れて味方は敵が纏まっているその場から離れるように散っていく。
……そして……
「——<ruby>氷結の天空城<rt>アイシクル・ラピュータ</ruby>!!!」
直後、上空に投げ上げられた青の宝石が輝き出し……一瞬の後、すべてを覆い尽くすような巨大な氷山が、石を中心にして発生し、そのまま足を取られ倒れている兵士達を押し潰した。
「……はぁ…はぁ…… くっ……なにをしている! 残った連中を早く片づけるのじゃ!!」
今までにない大魔法の行使で、相当の力を消耗したらしいエミリア。
そのばでぺたりと床に崩れ落ち、残った渾身の力で、予想を超えた規模の魔法に放心していた仲間達を我にかえらせた。
かろうじてカネモリの呪文を逃れ、エミリアの魔法を回避していたらしい、スペードの『A』『4』『6』、そして、ハートの『3』とクローバーの『5』。
だが、残り五体という最初とほとんど変わらない状況でこちらを倒す事は敵わず、数分後には全て葬り去られ、元のトランプの姿に戻り、アリスのトランプケースの中に吸い込まれるようにして戻っていった。





………そして、
「エミリアさん、これを……少しは回復するでしょう」
呼吸が乱れ、壁に寄り添うようにして座りこむエミリアに、メンタルを多少回復させるという治療薬を手渡すカネモリ。
エミリアは黙ってそれを受け取ると、一度呼吸を整え、それを一気に飲み下した。
だが、それだけではやはり足りなかったのか、そのままぐらりと体制を崩してその場に倒れ伏し、間もなく寝息を立てて眠り込んでいた。
「……無茶するからだ。 今のは、実験中の魔法だろ……」
その横で、呆れたようにそう口にするディン。
実験中ということは、まだ安定して使う事の出来ない大魔法ということになる。
たしかに、20体以上は残っていた相手を纏めて倒そうと思えばあの規模の魔法を使わざるを得ないのは確かだったが、それで倒れていては後が続かない。
ひとまず、全滅させられたのは運が良かったとしか言えないだろう。
「しかし、先程エミリアさんが投げたのは……あの時の、水の元素では?」
「……らしいな。 大量の水を触媒にしないと使えないって言ってたし」
水の元素。 錬金術師のみが作りだす事ができるという、水の力を結晶化させた石。
それは、以前モレクで出会った際にカネモリが手渡したものだった。
結果的にこの場で役に立ったとはいえ、二度と手に入らないかもしれない物を迷わず使う姿勢に、カネモリは正直感心していた。
「……しばらく休んでいてください。 敵は、もういませんし」