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「東に昇りくる月、西に沈み行く太陽」
「この時間に出番なんて偶然かな? 二つの光が同じ空に在るよ」
「今なら――ごく短い時間でも、全員が本来の力を出せる。 行くよ!!」





―18―






最後の一歩で、ティールの身体は重力の魔法陣を抜け出していた。
……しかし、その際に発現した怒りの劫火……それは彼女の肉体の限界を超えた炎で、攻撃そのものが不発に終わった上に、その炎は自らの身体を焼き、ティールはそのまま倒れてしまう。
「クク……ハハハハ!! そうか、感情が炎と化すならば、強すぎる怒りは自ら身を焦がす事になるのだな……」
「ママ! ママ!!」
男の腕の中で、必死に暴れて母親の元へ走ろうとするイリス。
しかし相手が魔術師とはいえ、小さな子どもの力では大の男の腕を振り解くなどとても不可能なことで、その叫びも空しく逃れる事は出来なかった。
「くっ……リスティ! シアさん!!」
「……だめです……身体が、動きません……!」
見たところ胸が僅かに上下しているので、まだ息はあると言うことだろう。
だが、魔法陣の外側で倒れたと言う事は、もはや普通に立つことも出来ないという状態。
それは、取り急ぎ治癒を行わねば死に至る可能性もあるということだった。
「くそっ……これで終わるのか!? 俺は認めねーぞ!!」
「最後の一撃も外れた。 ……貴様等はもう逆らえぬ定めなのだよ」
ハハハハハ!! と再び大きく高笑いし、男は倒れ伏している全員を見下ろす。
その瞳は正に、愚民を見下ろす帝王のようで――身を起こせないヴァイ達は、ただ怒りを募らせることしか許されてはいなかった。



『―界の調停者たる我が命に従い 見えざる大地の鎖を解き放て――ジオフロート!』



その時、どこからともなく少女のような声が一つ、その場に響き渡った。
「――動く!? 呪文が解けたのか!!?」
「何!?」
そしてその瞬間から、突如として全員に掛けられていた重力の枷が消え去り、ヴァイ達は次々と身体を起こしていく。
……だが、よく見てみれば周囲に描かれている魔法陣は未だ反応し続けている。
それは未だに魔法が発動しているという証拠で、もし魔法効果が消え去っているならば、地面に敷かれた魔法陣も輝きを失うはずである。
……加えて言えば、重力魔法から解放されたのはヴァイ達だけで、敵兵は未だに地面に張り付いてもがいている。
「まさか……呪文の相殺? となると、これは同じ月の力……重力反転の魔法……一体誰じゃ!?」
自分達にとって都合のいい展開ではあるが、あまりに唐突なことのせいか一同は冷静に対処しきれない。
幸い、男も”自信作”だったらしい月の呪縛をいともあっさりと破られ、動揺を隠せない様子だった。
……その時、エミリアの叫びに答えるかのように、頭上の木の上から月のような淡い光を纏う、一体の妖精が舞い降りてくる。
「……喧々囂々、蛙鳴蝉噪……貴方達、騒ぎすぎよ」
「ム……妖精(ムシ)だと!? 妖精(ムシ)ごときが私の方陣をやぶるなど……!!」
小さなその姿を目にし、男はますます困惑した様子で叫び散らす。
確かに、一般的に見る事のできる妖精は―まぁ妖精自体が珍しいのだが―魔術に秀でているものの、『月』などといった特殊クラスの力を持っている者はいない。
ましてや、味方の周囲だけ中和し、敵には一切影響を与え無いように術を使うなど、相当の力が無ければ行う事は出来ない。
「くっ……これでは陣も無意味か!!」
「あら、もう終わり?」
男が手をかざし、今まで光を放っていた指輪から4色の輝きが消え去ると、ヴァイ達の足元に広がっていた魔法陣からも光が失われ……周囲で倒れていた兵士達も、順次身体を起こし始めた。
「……まずい! リスティ! シアさん!! ティールを早く!!」
「は、はい!!」
それに先駆けて叫ぶヴァイに反応し、思い出したかのようにティールに駆け寄るリスティとシア。
二人とユキ以外の全員が武器を構え、再び始まる戦闘を警戒する。
「ママ!! ママー!!!」
「くっ、静かにしろ!!」
しかし、その間に男はイリスを抱えたまま走り出そうとしていた。
イリスのティールを呼ぶ声に一同はそれに気が付くが、一瞬早く周りこまれた兵士達に阻まれ、それ以上男に近付く事が許されない状況。
急いで斬り倒し、そのまま追おうとするものの、焦りが生じた今の状態では思い通りに身体が動かない。
このまま逃げられるのか……そう、半ばあきらめかけた時だった。

「界の調停者たる我が命に従い 彼方より出でよ星界の矢――スターライト!!」

先程現れた『月』の妖精とは違う、また別の少女の呪文を紡ぐ声。
そしてその詠唱の完成と共に、遥か上空から無数の光弾が降り注ぎ、次々と周囲に展開している兵士達を薙ぎ倒していく。
「ぐっ!? また妖精(ムシ)が……今度は『星』だと!!?」
光弾の一部がその進行を塞ぐかのように降り注ぎ、男は一時その足を停止させる。
――そして最後に現れるのは、陽光のごとき輝きを身に纏い、両手より光の刃を展開する”前衛職”の妖精――
「えええーい!!」
『スターライト』の光弾を逃れたわずかな兵士を、驚異的な速度の立ち回りで縦横無尽に切り裂いていき――
敵兵は妖精というあまりに小さい体長と、驚くべき素早さを誇る彼女を捕らえきれず、次々と薙ぎ倒されていく。

「サンレイズ・ソール、義によって推して参った♪」

そして一通り敵兵が倒れたのを確認すると、全員の視線が集中する中央部で停止し、元気そうな笑顔とポーズで、高らかに、そして楽しそうに名乗りを上げていた。
「サンレイズ……『太陽騎士』…………なんなんだ、こいつらは……!?」
しかし、ソールのそんな態度に対応するような余裕は、男には既に残されていなかった。
あまりにも、企画外の能力を持った……しかも、自分が見下しているような妖精という存在がその力の持ち主で、脳の整理がついていかないのだろう。
「ムシムシ言うけど、私にはマーニ、この子達にはソールとヒミンって名前があるの。 ……失礼な人」
そんな男に対して、律儀に名を名乗る月の力を宿す妖精、マーニ。
「ちょっと理由があってね、貴方達に手を貸すよ……って、肝心の『親』が寝たまんまか……まぁ、さっきの見る限りじゃ仕方ないね」
一方、星の力を宿す妖精、ヒミンはティール達の方へと顔を向け、そう口にする。
その口ぶりから、少なくともティールが倒れる直前あたりからこの戦いを覗いていたと言うことになるのだが……
そして最後の一人、太陽のソールは……
「悪い事した子は逃げちゃダメだよ?」
『子』か? というどうでもいい疑問を一同に持たせつつも、どこかのんきな空気を纏ったまま、男に向けて言葉を放っていた。
良くも悪くも、彼女は場の空気を沈める力をもつタイプの性格だろう。
「……いずれにしても、形勢逆転ですわね。 大人しく投降なさい!!」
そんな中、クローディアは気を取り直すかのように男にそう呼びかける。
限界を超えた身体運用を可能にする術式を加えられ、不死身に見えていた兵士達も、ついに本当に肉体の限界を超えたのか、もう立ち上がる様子は無い。
もう、目の前の男に打つ手は無い――それが誰の目にも明確なこの瞬間、男は、苦し紛れの一計を出すこととなった。
「――あぅっ……!?」
「…なっ!!」
イリスの首筋に、一本のナイフを突きつける。
「ククッ……貴様等は、こいつが『死ぬ』ことは望んでいないだろう」
――哀れな。
それが男を見る者達の抱く、感情の全てだった……が、ある意味今までで最悪の状況とも言える。
戦う事で場を乗り切る事ができる今までの状態より、こちらの行動が守るべき対象の『死』を招くという状態。
「……あなたも、イリスがいなくなると……困るはずじゃないの……!?」
「ティール!」
そんな中で、未だ痛みに顔を歪める状態ではあるが目を覚ましたらしいティールが、息も絶え絶えの、強引に振り絞るような声でそう口にする。
だが……予想に反して、男の言葉は真逆の内容を含むものだった。
「……クク……忘れたか、アイリスの『死』はその場でたまごに『転生』するだけだ……私にとっては、現状の雛がたまごに戻ろうと、大した問題では無い」
「……こいつ……!!」
むしろ、『研究者』という目からすればたまごから観察することの方が都合がいいのかもしれない。
……そうなれば『イリス』の死は確かに男にとっては問題では無く……あくまでも、今目の前に存在している子を助けたいと望むティール達には、不利な状況だった。


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