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「………。」
「寝れないんですか?」
軒下からライの声がした。
「寝れないんじゃなくて、寝ないんだ。」
「あの、僕も屋根に登りたいんですけど手伝ってくれます?」
「ん。」
片手を差し出す。
「あの…。」
「いいから。」
ライは差し出された手を握る。すっと足が床から離れた。
あの細い腕でライを持ち上げる…どんな体をしているのか?
「此処、景色いいですね。」
屋根の上に寝転がって言った。
今夜は夜空が綺麗だ。
「セオさんのいた世界ってどんなのでしたか?」
「…俺が住んでたところは、その、まぁ」
それだけ言うとまた目を閉じてしまった。
「…というと?」
「普通のところ。」
「え?じゃあ。村とか?」
「森の中、人に見つからないところに。ね…」
「じゃあ、食べ物とかは?」
「盗むか、自分で探すか。
ずっとまえに派手なキノコ食べたら幻覚が見れてさ、結構楽しかったぜ?」
セオさん、それは毒キノコです…。
心の中で言いながらその体験談を聞いていた。
「そう。ですか…。」
それから数分間の沈黙。
「イルさんとは、いつ出会ったんですか?」
「俺がこの世界に来て三日…森の中をぶらついていた時。」
「詳しく聞かせてください、ダメですか?」
「あまり覚えてないから。イルに聞いて…。おやすみ。」
「此処で寝るんですか?!」
「悪い?骨折野郎と同じ部屋なんていやなんでね。」
それだけいうと本当に寝てしまった。
今日はもう遅い、部屋に帰って寝ようかな…
そう思い、改めて思った。
「…どう降りればいいんだろう。」

当時、イルはごく普通の女の子だった。
支援者ではない、普通の女の子。
姉のルウが風邪をこじらせたその日、彼女はリックテールから現在住んでいるところまで続く暗い森の中を走っていた。
護衛の支援者を雇う金も無く、薬を貰うお金が精一杯だったイルは薬が入っている茶色の紙袋を両手で抱きしめながら走っていた。
その後ろから大きな音を立てて追いかけてくる魔物が数体。
餓えていた魔物たちは、その少女一人にありつこうと必死だった。
そして少女はその魔物たちから懸命に逃げていたが、途中、土から出ていた太い木の根につまずき、魔物に囲まれた。
「…うぅっ。」
逃げ道は無く、武器も何も無い。
此処で死ぬのかと諦めた少女は目をつむった。
その時上から声がかすかに聞こえた。若い少年の声が。
「…殺されそうだね。」
その声に対し、イルが反応した。
「そうだね…、私の人生は此処までかな?
どうせ餓死しちゃうかもしれないんだし、ここで魔物に食われちゃうのも…。」
すると声はまた返ってきた。
「…死にたいのかい?」
「うーん。できれば生きたいけど、生き残っても餓死するんなら同じだよね。えへへ…。」
魔物たちはそんな彼女にじりじりと近づいてきている。
木の上から聞こえる声は静かに言った。
「じゃあ、第三の選択をしよう…。」
「え?」
それを聞いて、訳がわからなくなった。
第三の選択…それがなんなのか。
「いい?よく聞くんだ。君の後ろにある弓矢をまず両手でつかんで、連中に見えないようにね。
それから片手で弓をつかんで、もう片手で矢をセットするんだ。
…そして正面の一体に向って直ぐに射るんだ。突然の攻撃で相手が動揺するから。そしたら直ぐに首を狙って放つんだ。わかった?」
「…う、うん。」
言われたとおりの手順で矢をセットした。
そして、ビュッという音と共に矢が正面の魔物に刺さった。
急に出てきた武器、そして攻撃。魔物の頭が首を見事貫いていた矢
倒れてしまった頭を見た魔物は動揺していた。
「うまいうまい。」
次々と魔物を倒していくイルを見ていた少年はそういいながら喜んでいた。
「…はぁ、つ、疲れた。ありがとう。」
「どういたしまして、後は俺が片付けていくから安心して道を行くんだわかったね?」
姿は見えなかった、ただ道の中を走っているときに黒い影が視界に映っている。
そしてイルに襲い掛かろうとする魔物を片っ端から倒してくれたのだ。
そして、森の出口で少年の姿をはっきりと見た。
「ありがとう!」
それだけを言い、片手には茶色の紙袋、
もう片方には弓矢を持ってイルは家に向ってまた走り始めた。
「………これから、どうしようか。」
少年は呟き、森の中へまた消えていった。
「はい、おしまい。」
「ありがとうございました。イルさん。」
「んーん。別にいいよ。暇だしね…それにしてもセオ帰ってくるの遅いなぁ…。」