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大陸北部に位置する集落「十六夜」。 そこに住む人々は他の町や村とは違う独自の文化を営んでいる。 特に支援士や冒険者達の間で噂に上るのが「カタナ」と呼ばれる十六夜でしか作られない貴重な武器だ。 片刃の長剣で、普通の剣と比べると細身で切っ先が少し反り返っている。 切れ味が鋭く、細身であるにもかかわらず丈夫で余程のことがない限り折れたり曲がったりすることが無いのだという。 また、武器としての性能だけではなく、刀身の波紋、柄やつばに施された美麗な装飾などのある種の妖しげな魅力が美術品としての価値も高めている。 しかし、十六夜という限られた地域の中でもさらに限られた鍛冶屋でしか作られておらず、滅多に見られるものではない。 物語は、そんな「カタナ」を打つ鍛冶屋から始まる・・・。


「バッカやろう!!家の店を継がずに冒険者になるだとぉ!?」
十六夜郊外にある鍛冶屋「鉄屋(くろがねや)」から十六夜中に響くほどの怒声が発せられた。 声の主は鉄屋店主の刀堂 刃(トウドウ ジン)。50代に差しかかろうかという年齢の割には身体には余分な脂肪は一切ついていない。 来る日も来る日も真っ赤に焼けた鉄を打ち続けた結果である。
「だから前々から言ってるだろッ!!『オレはこんなクソ田舎出て行ってやるし、ましてやアンタの鍛冶屋を継ぐ気なんか更々ない』ってな!!」
ジンの怒声にも負けない大声を出したのはその16歳の息子、刀堂 刀人(トウドウ トート)だった。 無造作に伸びた髪を一纏めにして後ろに縛り、まだどこか幼さを残した顔立ち。その瞳にはまだ見ぬものへの好奇心や、若者が持つ情熱が宿っている。 トートの発言で怒りが頂点に達したのか、元々赤ら顔のジンの顔が益々赤みを増してゆき、しばらくわなわなと震えていたが不意に「もういい」とだけ呟き、今度は大陸中に響くのではというほどの大声で吼えた 。
「もういいッ!!テメェとは親子の縁を切る!!勘当だ!!とっととこの家から出て行って冒険者にでもなんにでもなっちまえ!!その代わり2度と家の敷居を跨ぐんじゃねぇぞッ!!」
「おうよッ!!言われなくったって出て行ってやるよ!!」
そう言うなりトートは鍛冶場から飛び出していった。


「まったく・・・あの分らず屋の石頭の頑固親父が・・・」
と、思いつく限りの言葉で父を罵りながらトートは旅支度をしていた。 冒険者になると心に決めた日からコツコツと貯めつづけたお金。ハンターには遠く及ばないものの得意としている弓矢。 野宿をする時に使用する寝袋など、旅に必要な様々なものを一心不乱に麻袋に詰め込む。
「まったく・・・、何もあそこまで派手にやりあわなくてもいいんじゃない?十六夜中の人たちがビックリしてたわよ」
唐突にトートの後ろから声が懸かる。
「なんだ、サヤかよ。餞別でもくれに来たのか?」
「冗談。ひやかしにきただけよ」
と、刀堂 鞘(トウドウ サヤ)は皮肉っぽく微笑む。 サヤはトートの双子の姉で、トートとは反対に鍛冶に強い興味を抱いていた。「女は鍛冶屋になるものではない」と言う父の反対を押し切り刀を打ち始めてみたら、その出来は未熟とはいえ名工であるジンですら舌を巻くほどだった。 鍛冶に全く興味を示さないトートと、その姉であるサヤを見比べて「せめてサヤが男に生まれてくれば・・・」とジンは常日頃から嘆いていた。
「ま、冒険者やるんだったらせいぜい野垂れ死にしないように気をつけなさい。父さんのほうも心配しないで。私がちゃ~んと宥めて置くから。辛くなったら尻尾巻いて逃げて帰ってくることね。」
心配しているのだか嘲っているのかわからないような台詞を言い捨てるとサヤは部屋から出て行った。


旅支度を済ませると、トートは真っ直ぐに村外れにある古びた蔵に向かった。 なんでも数百年以上前から存在するらしく、入り口が鎖で封印されている為に誰も入れず、何時の間にか忘れられてしまっていたのだ。 狩りの帰りにたまたま見つけた時からトートはこの蔵には何かあると直感していた。十六夜を出て行くに当たってそれを確かめに来たのだ。
「さーてと、どんなお宝が待ち受けているのやら・・・」
完全に錆付いてしまった鎖を手近にあった石で壊し、重い扉を開けて入り込む。 蔵の中は真っ暗で、自分の足元もおぼつかない。荷物から松明を取り出し、火を点けると蔵の中が浮かび上がった。 随分と広いようだが、ガランとしていて何も無い。古い蔵にありがちな蜘蛛の巣や、ネズミの気配1つとして無い。 少しばかり無気味に思ったトートだったが、まだ蔵に奥があることを知り、用心を怠らないようにして進んだ。 一番奥に辿り着いたトートが見つけたのは一振りの太刀だった。蔵の入り口と同じく、鎖で雁字搦めに縛られているが、やはり錆付いてしまっている。
「ハァ・・・、期待して損した。この刀以外何も無いじゃん。」
『・・・何者だ・・・?』
「な、何だ!?誰だ?」
急に何者かに話し掛けられ、慌ててトートは辺りを見回す。
『俺はここだ。ここにいる。』
「ここ、って一体何処にいるんだよ!隠れていないで姿を見せろよ!!」
『お前の目の前にいるぞ』
そう言われ、トートの目は太刀に注がれる。
「じゃぁ、アンタはまさか・・・」
『そう。お前の目の前にある刀。それが俺だ』
「・・・・・・・」
『・・・?どうした?』
声が怪訝深そうに聞いた。トートは鎖で雁字搦めになった刀を見て口をパクパクと動かしている。
「か・・・か・・・かか・・・」
『・・・?』
「刀が喋ったーーーーーーーー!?」


・・・それが少年トートと妖刀と呼ばれる刀の物語の始まりだった・・・。