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『少しは落ち着いたか?』
「あ、ああ。なんとかね・・・」
刀が喋り出すという普通ではありえない状況に錯乱気味だったトートだったが、段々と落ち着きを取り戻してきたようだ。
『さて、お前も落ち着いたことだしお互い自己紹介といこう。俺は斬鬼(ザンキ)訳アリで刀になってしまっている。』
「オレはトート。これから冒険者として一旗上げる予定さ。」
『さて、自己紹介も済んだ事だ。トート、この鎖から俺を解き放ってくれ。』
言われるままにトートは錆びた鎖を壊し、斬鬼を鞘から抜いてみた。
数百年は封印されているはずなのだが、刀身には錆一つとしてなく、外からの僅かな光を受けて鋭く輝いてさえいる。
その輝きに見とれてトートは声を失ってしまった。
「スゲェ・・・こんな業物、家でも見たことねぇ・・・。」
『当然だな。俺の生前の得物だったのだからな』
「生前の・・・って、お前生きてこうしてオレと話してるじゃないか。そもそも刀が喋ること自体ありえないんだけど。」
『そうだな・・・。そもそも何故俺が刀になってしまっているのかすらもよくわからない。』


話によると、かつて魔物と人間の間に大きな動乱があった時代に斬鬼は剣豪として名を馳せていたらしい。
魔物と人間の動乱があったのはここ10年や20年ではない。御伽噺として語られるほどの昔・・・。少なくとも300年以上前なのだろうとトートは推測し、驚きを隠せなかった。
動乱が終結した後、斬鬼は更なる強さを求める旅に出てそのまま一生を終えたのだそうだ。
『しかし気が付いていたら何時の間にかこの刀になっていた・・・と言うわけさ』
「うーん、『形見』なのか・・・?」
『形見の品が自分の意志で話をすると思うか?それに俺は死の間際に未練など無かった。形見にはなり得ないだろう。』
「それで?おまえはこれからどうしたいんだ?」
斬鬼が何を言いたいのかがイマイチよくわからずトートは尋ねた。
『うむ。今の俺は刀という牢獄に閉じ込められていると言えるだろう。お前はこれから冒険者として旅立つのだろう?その旅の中で俺を解放する手段を探し出して欲しいのだ。』
「まぁ、別にかまわねーけど・・・。でも、上手いこと見つけられるかわからないぜ。なんせ俺は十六夜から出た事は無いんだからな」
『むぅ・・・。まぁ、多少の時間がかかることには目を瞑るとしよう。とにかくよろしく頼む』
「ああ、こちらこそよろしくな!」
斬鬼を腰の帯に差すとトートは蔵を出た。


十六夜から出て数時間。トートは雪降る街道を西へ進んでいた。
『トート、これから何処へ向かうのだ?』
地図と磁石を見比べながら進むトートに斬鬼は尋ねた。
「ああ、まずはクロッセルの町を経由してこの北大陸の中央都市リックテールへ行こうと思う。この北大陸では一番デカイ街だから斬鬼を解放する方法も必ず見つかると思うぜ。」
『そうか、俺は自分では動くことは出来ないからな。旅の道筋はお前に任せるとしよう』
「あ、そうだ。おまえ町の中ではあまり話すなよ?ただでさえ刀っていうのは珍しい物らしいからな。その上喋るなんてあっちゃあ盗賊に狙われかねないからな。」
『わかった。善処しよう。ところで、クロッセルの町まではどのくらいかかるのだ?』
「えーと、街道を進んで2日ってところだな。もちろん魔物や盗賊に襲われなければ、だけどな」
それからさらに数時間。日が暮れ、夜の帳が降り始めた。トートは火を起こし野営の準備を始めた。
雪を溶かした水で米を炊き、干し肉を軽く炙ったものをおかずに夕食を済ませた。
「ふー。食った食った」
『やはり生身の肉体があるというのは羨ましいものだな。刀となった俺は美味い飯を食う事もできないからな』
調理に使った飯盒や食器を片付けたあと、トートは斬鬼を抜き素振りを始めた。
『鍛錬を怠らないとは感心だな』
「ま、日課だからな。冒険者として一旗上げる為には精進、精進」
辺りにはトートが素振りの回数を数える声だけが響き、静かな夜は更けていった。