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翌日の昼前にトートは港町クロッセルに到着した。
規模こそは同じ港町であるルナータやフローナに劣りこそすれど、北の海でしか取れない貴重な海産物や、北の部族との交易品を売る店などで市場は多くの賑わいを見せている。また、北の雪原を目指すと思しき毛皮のコートを幾重にも羽織った冒険者の一団が酒場にたむろしていた。


(取り合えず今日はここに1泊して、それからリックテールに向かうとするかな・・・)
誰もいないところでは斬鬼と会話することができるのだがここでは人の目もありそれもできない。もし迂闊に会話しようものなら周囲の目はトートのことを自分の得物と会話する不審人物として見るだろう。その後の展開はいくら十六夜から出たことが無いといういわゆる「世間知らず」なトートでもわかることだった。


宿にチェックインし、一息つくと腰から下げていた斬鬼をベッドに立て掛けた。
「んじゃ、オレは食料やらなにやらを買って来るから留守番、頼んだぜ?」
『大丈夫なのか・・・?いくら町の中とはいえ丸腰で行動するなどと・・・』
心配そうに斬鬼が聞くものの、トートはいたって楽天的に、
「別に誰かにケンカ売るわけじゃないから大丈夫だって。それに刀は珍しいって言ったろ?その所為で妙な因縁付けられたら大変だしな。」
そう言ってトートは部屋を出た。


港前の市場には北の海から取れたという珍しい魚や、北の部族から手に入れたというアクセサリーや毛皮など様々な物がトートの目を惹き付けた。だが、財布にあまり余裕の無いトートにとっては物珍しさはあってもそれを買おうという気は起きなかった。
(はぁ、早いとこリックテールに行っていい仕事ガンガンこなさないとな・・・)


寒くなりつつある懐に合う値段の良心的な店で買い物を済ませ店を出ると、トートは50メートルほど離れた店の前に所在無く立っている1人の人物が目に止まった。
十六夜の人間と思しき黒髪を短めに刈り上げた青年は、待ち合わせでもしているのか店の前でボンヤリと辺りを見回していた。
ちょうどトートと目が合ったのか青年は驚いた顔をして近付いて来た。
「刀人!?おまえ刀人だろ!?いやー、懐かしいなー!!」
トートが訝しんでいると、
「おいおい、忘れちまったかぁ?無理もねぇかぁ。4年前に俺が十六夜を出て行ったきりだからなぁ・・・。俺だよ!一真!碧櫻 一真(へキオウ カズマ)!」
「・・・あーっ!カズ兄かぁ!随分背が伸びたし顔つきも大人っぽくなってて気付かなかったよ!!」


カズマはトートと同じく十六夜出身でトートより2歳年上の18歳である。家が近い所為もあり、2人とそしてトートの双子の姉であるサヤは兄弟のように遊んでいたものであった。
カズマが冒険者として一旗上げると言い残して十六夜を出て4年。その間1通の手紙も無かった。カズマの両親は「便りが無いのは元気な証拠」と楽観視していたものの、当時のトートには少し寂しかった。
「それにしても本当に久しぶりだよなぁ~。サヤやお前の親父は元気にしてるか?」
「ああ、そりゃもう!2人とも元気過ぎて憎たらしいくらいさ!」
「それにしてもお前も冒険者になったんだな。その旅装を見ればわかるよ。よくお前の親父が認めてくれたもんだな」
「うん、オヤジとは勘当して飛び出してきたんだ。サヤがなんとか取り成してくれるらしいけど余計なお世話って感じだよな。」
それから、カズマは自分がいない4年間のことをトートにいろいろと尋ねた。カズマの両親のことに触れた時、トートはカズマの顔に申し訳なさそうな顔と元気で良かったという安堵とが混じり合っていたのを見逃さなかった。
「ところでカズ兄はなんでここに?やっぱり支援士の依頼?」
「う~ん、まぁ、そうなるかな・・・。実は今とある人に雇われているんだ。その人の護衛ということでここまで来たのさ」
「へぇ・・・。雇い主はどんな人なんだ?」
トートがそう聞くとカズマは急にびくびくし始め、店の中をうかがった。そして蒼ざめた顔で話し出した。
「いいか・・・、ここで俺から聞いたことは他言無用だぜ?あの人はリックテールにある冒険者御用達の雑貨店の店主なんだけどな、ありゃ鬼だ。人の皮を被った鬼だ。人使いは荒いし人を自分の作った魔法道具の実験台にしようとするし金には汚いしとんでもないワガママだし・・・」
「そ、そんなに凄い人なんだな・・・」
鬼気迫る表情でまくしたてたカズマに少々辟易しつつトートは言った。
「ああ・・・。だがクリエイターとしての評判は凄く良いぜ。お前も旅先で珍しい物や用途不明の物を見つけたら持って行ってみると良いぜ。おまけに品揃えも豊富だからな。」
「わかった。ところでカズ兄はいつまでここに?オレも明日にはリックテールに向かおうと思ってるから一緒に行けたら良いと思ってるんだけど」
「うーん、あの人は気紛れだからなぁ・・・。まぁ、少なくとも3日はここに滞在するだろうな」
「そっか、じゃぁその人が帰ってきたらお店に寄らせてもらうよ」
「ああ、だが気をつけろ。あの人に決して気を許すんじゃねぇぞ・・・」
最後に念を押されてトートはカズマと別れた。