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「せいっ!でやぁっ!!」
『脇が甘い!』
「はっ!でいっ!!」
『返しが遅い!!』
「ふんっ!はぁっ!!」
『よし!そこまで!!』


『ふむ・・・。さすがに鍛錬を怠らないだけあってなかなかの腕前だ。だが俺に言わせればまだまだだな。大体お前は力任せに刀を振るい過ぎるのだ。そもそも刀とは他の得物とは違いそのものの重さで強引に断つのではなく刃そのものと使い手の技で「斬る」物だ。お前のように力任せで振るったのでは普通の刀なら曲がってしまっているだろう。今までの戦いでそうならなかったのは単にこの俺自身の強度が並では無いからだな。うむ、やはり剣豪であるこの俺に相応しい刀だ。』
「・・・途中から批評ではなくて自画自賛になってる気がするんだけど・・・」
クロッセルを出立してリックテールの街道を行くこと3日。十六夜・クロッセル間の行程とは違い、トートは幾度かモンスターや刀に目が眩んだ幾人かの盗賊を撃退している。実戦にて改めて斬鬼の切れ味を実感したトートはこれを使いこなすべくますます鍛錬に力を入れ始め、素振りをしている間はずっと黙っていた斬鬼に指導を申し出たのであった。流石に生前は剣豪だっただけあり、斬鬼の指導は実践的かつ厳しいものだった。何度厳しい叱責を受けたかわからないが、その所為もあってか1人でがむしゃらに訓練していた時と比べると僅かながらも確実に強くなっていることを実感するのであった。
『今の魔物はみな弱いようだからな。お前のような未熟者でも倒せるものばかりだ。だが俺の時代には強力な魔物がウヨウヨしていた。この時代の中級クラスの冒険者でも苦戦するほどの、な。今のお前ではたとえ得物が俺だとしても間違いなく歯が立たないだろうな。』
「うへぇ・・・。お前って凄い時代に生きてたんだな・・・。」
かつての動乱の時代、人と魔物は大陸の彼方此方で大きな争いを繰り返していたという。
それを終結させたのが聖女アルティアが率いる聖十字騎士団や、「白き刃の黒い剣」を振るったとされる聖勇者だと御伽噺では伝えられている。その時代の生き証人を自分が手にしているということにトートはイマイチ実感を持てなかった。
「とにかく練習に付き合ってくれてサンキューな。夜も更けてきたし、そろそろ寝るか」
『いや、待て。何処からか複数の人間の気配がする・・・』
斬鬼がそう呟いたのと同時に、激しい爆音が聞こえてきた。
「あっちの方向だ!行くぞ斬鬼!!」
斬鬼を手に取るとトートは爆音のした方へと駆け出した。


トートが駆けつけた時、1人の少女が野盗と思われる数人の男達に囲まれていた。
トートとほぼ同年代と思しき少女は、火の魔法を操り敵を凌いでいた。しかし数が多いこと、そして魔法の詠唱に時間がかかる事が次第に少女を不利にしていっているようだった。
トートは斬鬼を鞘から引き抜くと、詠唱中で無防備となった少女に斬りかかろうとしていた野盗の1人に一直線に向かっていき、右下から左上へと一気に斬り上げた。突然の乱入者に混乱した野盗達のうちの1人に、少女の放った火球が炸裂した。
「テ、テメェ、一体何モンだぁ!!」
仲間2人が倒れたことで冷静さを欠いたのか、野盗の首領と思しき男が声を荒げる。
それに対しトートは怒りと侮蔑を含んだ鋭い眼差しで首領を見据えた。
「女の子1人に10人がかりで襲い掛かるような卑怯者に名乗る名前は持ち合わせてはいないんでね。それとも、1対10じゃないと勝てないと考えてる臆病者かな?」
自分でもかなり見え透いた挑発だと思ったが、野盗達にはかなりの効果があったようだ。各々が怒りでワナワナと震えている。
「こ、このクソガキィ・・・。おい野郎ども、何やってやがる!仲間とはいっても1人のガキが飛び出してきただけだ!数は俺らの方が上なんだ!一気にたたんじまえ!!」
怒りに震えていた野盗たちはその一言で我に帰り、一斉にトートに襲い掛かってきた。
大上段で斧を振りかぶった野盗の胴を駆け抜けざまに斬り裂き、さらに返す刀でもう1人を逆袈裟に斬る。
挑発して相手の冷静さを欠くこと、そして一連の無駄の少ない動きは斬鬼指導のもとでトート自身が体得したものだった。
そして、トートの背後の少女は魔術の詠唱を完成させ、再び激しい火球を放ちさらに1人を倒していた。
「ち、ちきしょう・・・。なんだあのガキは・・・。こんな話聞いてないぜ・・・。野郎ども!ずらかるぞ!」
次々と倒されてゆく仲間を見て、他の野盗たちはすっかり戦意を喪失していた。首領が言葉を言い終わるより先に我先にと逃げ出していった。
辺りには2人が倒した野盗が転がっているだけとなった。トートに斬られた者は幸運にも急所は外れていたらしく、出血こそはあるものの命に別状はなく気を失っているだけだった。魔法の直撃を受けたものも火傷こそ酷いものの応急処置でなんとかなるものだった。
応急処置をしてやり、リックテール自警団に突き出すべくロープで縛り上げた。


「危ない所を助けていただき、ありがとうございました。私はミリエラと申します。これでもウィッチの端くれですわ。」
助けた少女はそう名乗った。トートも自己紹介を済ませると、自分のキャンプ地点にミリエラを案内した。
改めてトートはミリエラを眺めた。パッと見で自分と同年代に見えたのはおそらくやや幼い顔つきだからだろうか。しかし、実際に話をしてみるとおっとりとして落ち着いた雰囲気をしていて自分よりも少し年上だろうと予測した。
藍色のフード付きローブを羽織り、腰まで届く髪は銀色で、白い肌と相まってどこか儚げな雰囲気をしていた。
「ところでミリエラさんは・・・」
「ミリィでいいですよ。トートさんも私と同年代みたいですし」
「わかった、ミリィ。それじゃオレのことも呼び捨てにしてくれないかな?」
ミリーもトートと同じくリックテールを目指していたらしい。夜が更け、野営の準備をしようとした所をさっきの野盗に襲われたそうだ。
「リックテールに向かうんならオレと一緒に行かないか?2人よりも3人のほうが安全だし、何より楽しいだろうからさ!」
「えっ・・・?今3人と・・・?」
ミリィには斬鬼のことを話していないことを失念していたトートは慌てて訂正した。
「えっ、ああ、ゴメンゴメン『1人より2人のほうが』だったね。アハハ・・・」
乾いた笑いで誤魔化すトートをミリィは怪訝な顔で見つめていた。


「やれやれ・・・。10人がかりでかかってたった一人のウィッチにも勝てないのですか・・・?」
野盗たちの目の前の暗闇からその声は発せられた。・・・否、そこには1人の黒いローブの男が立っていた。
しかし、その男の漆黒のローブは声が聞こえなければ何も無いただの暗闇にしか見えないだろうというほどに男と暗闇を同化させていた。
また、その男の持つ雰囲気そのものも底知れない深い闇を湛えていて、野盗たちに本能的な恐怖を植え付けるには十分すぎるほどだった。
「ち、違うんだ。取り囲む所までは上手くいった。だがガキが1人飛び込んできてだなぁ・・・」
必死で言い訳を探すものの男の持つ圧倒的な闇に圧されて上手く言葉が出てこない。心なしか息苦しさまで感じるほどだ。
男がどんな表情で自分の言い訳を聞いているのか野盗の首領にはわからない。ただ、間違いなく嘲りと侮蔑の感情はあるだろうとは推測できた。『闇そのもの』に感情があるとすれば、だが。
「ふぅ・・・。言い訳はもうよろしいです。貴方たち如きでも首尾よく事を運んでくれるだろうと期待していた私が甘かったようです。」
抑揚の無い声でそういうと、男は低い声で何事かを呟いた。その途端、野盗たちの周りの暗闇が急激にその濃さを増し始めた。
野盗たちは激しい息苦しさと急激に増加した圧力に悶え、苦しみ始める。
「がぁぁっ!!て、テメェ・・・何をッ・・・」
全てを言い終わる前に野盗達は全て絶命した。どの野盗たちの顔にも苦悶と絶望的な恐怖の表情が刻まれている。
男がまた何事かを呟くと、絶命していたはずの野盗たちが次々と起き上がり始める。ただ、その表情は酷く虚ろで、どこか惚けたような表情をしている。瞳の中に光は無く、何も移さないガラス玉のようになっていた。
「フフ・・・、役立たずとはいえこうしてしまえば少しは使い道があるでしょう。生ける屍となって私の為に働けることを喜びなさい・・・。フフフ・・・、アハハ・・・、アハハハハハハッ!!」
狂ったように男は、否、『闇』そのモノは笑った。
月は新月。全てが暗闇に閉ざされた夜に起きた出来事だった・・・。