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 〈コンコン! カタン…〉
「おぉ、カネモリじゃないか!? 久しぶりだな。」
「エンリケ。前に会ったのは半年前ですね。元気ですか?」
「あぁ。お前さんの作る活力薬のおかげで、今でも若い連中に負けんくらいバリバリ
仕事できるッてもんだ!」
酒場や宿屋の並ぶ区画にあるにもかかわらず、看板らしきものを掲げていない一軒の家。
その玄関から姿を現した赤い髪を短く刈り込んだ男はカネモリより少しだけ年上に見え、
大柄でガッチリした肉体を持っていた。
「彼がわたくしの十年来の友人で元鉱夫の支援士・狂戦士(ベルセルク)のエンリケです。
それから、彼女は今回お世話になっている支援士・ブレイブマスターのジュリアですよ。」
「はじめまして! ボクはジュリア。お世話になります、エンリケさん!」
「おっ、元気な娘だなぁ! 俺はエンリケ。よろしくなっ!」
錬金術師が互いを紹介した後、ふたりの支援士が握手を交わす。

 太陽がモレク山の向こうに沈み始め、辺りが徐々に薄暗くなってゆく。
「…さぁ、夕食ができたよ。こちらにいらっしゃい。」
エンリケとほぼ同年齢の妻・イザベルが三人を食卓に招く。
ちなみに、彼らのふたりの息子のうち17歳の兄は支援士として独立、14歳の弟は
リエステールの教会にて修業中なので、今この家に暮らしているのはエンリケ・イザベル夫妻
ふたりだけだ。
「わぁー、美味しそう♪ いッただっきまーす☆」
「…ジュリア、あなたは先ほど少し食べたばかりではありませんか!?」
「アレはほんの軽食。本番はこれからだもーん!」
「はっはっはっ、ジュリアはよく食べるなぁ。ところで…」
ジュリアの食いしん坊ぶりを笑うエンリケが、表情を変えて友の方に向き直る。
「…カネモリ。今度の探索、ホントにふたりだけでいいのか?」
自ら調合した値段の高い薬を販売して羽振り良さそうに見えるカネモリだが、その生活実態は
研究費用や材料調達コストのために、いつもギリギリである。
「風の元素」探索のために費やす25万フィズ以上の大金も、彼がエリクシール研究と
並行してコツコツと蓄えてきた「虎の子」なのだ。
そこで、モレク鉱山で材料調達する際、カネモリは街道護衛が最低限こなせるランクの
支援士をひとり安く雇い、ダンジョン化した鉱山には腕ッ節が強く内部構造を熟知した
友人エンリケを加えて三人パーティーで入るのが常なのだが…
「…えぇ。今回は色々な場所を回るので、それ相応のランクの方にお願いしていますから…。」
(『ジュリアはダンジョン護衛を何度もこなした腕利きだ』と、マスターは語った。
コボルトの集団相手にひとりで戦っても、ジュリアは息一つ切らせはしなかった。
…それだけの実力を持つ支援士が側にいるというのに、さらにもうひとりを加えようと
いうのは、彼女のプライドを損ねはしないだろうか…?)
「だがな、いま鉱山(ヤマ)は『新種の鉱石』ラッシュで人が押し寄せ、お前さんの
言うような『光る塊』なら誰かが見つけて持ち帰ってるかもしれんぞ?」
「……………。」
「…俺は他の連中が滅多に入らんルートを知ッてるが、そっちは岩盤が脆くていつどこで
崩落してもおかしくない。
ルートを教えるのは簡単だが、そんな危険な場所にお前さんたちだけ行かせたとあっては、
『鉱山の男』としての面子(メンツ)がなぁ…」
「……………………………。」
「そーなんだ!?
そんなに危ないトコだったら、内部(なか)に詳しいエンリケに付いてッてもらおうよ!
ガイドさんが一緒なら、こんなに心強いコトなんてないなぁ〜。」
ふたりの男が作り上げた深刻なムードを、アッケラカンとブチ壊す女がひとり。
シチューを口元に付けながら目をドングリみたいに丸くするジュリアの姿からは、
「プライド」「面子」「こだわり」などというものはまるで感じられない。
「……………………………………ジュリアの言うことにも一理ありますね。
エンリケ、今回もお願いします。」
「あぁ。いつものように、薬の補充よろしくなっ! …特に活力薬。〈ニッ〉」
「どしたのカネモリ、何だかドッと疲れてるよぉ?」
「…うぅっ、昼間飲んだ活力薬の効果が切れただけですよ★」

 〈チチチ… チチチチ……〉
一夜明けたモレク、エンリケ宅の前。
右手に木箱を携えたアルケミスト・カネモリ。
腰にコリシュマルドを帯びたブレイブマスター・ジュリア。
…そして、大型のハンマーを手にしたベルセルク・エンリケ。
「へぇ〜、コレがバトルハンマーなんだ!? 強そうだね!」
「ベルセルク向けの大型武器は、新しいものがいろいろ出ていますよ。
…戦闘用に改良されているとはいえ、ハンマーはそろそろ厳しいのでは?」
「俺は今、支援士だ。
…だが、元はといえば鉱夫—鉱山の男—なんだ。
ダンジョン化して『鉱山』とは呼べなくなってきてるここモレクで、ハンマー振るう奴が
いなくなってどうする!?
だから、俺はハンマーを離さない。
ここがかつて『鉱山』だったことを皆から忘れられないようになっ!」
「おやおや。またおんなじこと言い合ってるよ、このふたりは★」
夫とその友人を鉱山に送り出すたび毎度変わらぬ話を聞かされて、すっかり呆れ顔の
イザベル。
「…さぁ、行っておいで。必ず帰ってくるんだよ!」
「おう。…お前だっていつも同じこと言ってるじゃないか?」
「イザベルさん、またエンリケにお世話になります。…それでは。」
「行ってきまーす! 美味しい夕食、楽しみにしてるよ☆」
鉱山で働く男たちの留守を預かる「鉱山(ヤマ)の女」の見送りを背に、三人は「鉱山」の
入口へと向かって歩き出した。