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 ダンジョン化したモレク鉱山に足を踏み入れたカネモリ一行。
入口付近では外からの光が差し込み薄明るいものの、奥の方には光源となるものが
ほとんど見られず、果てのない闇だけがその口を開いている。
「ジュリア、これを着けて下さい。」
カネモリが袖の中からふたつのペンダントを取り出し、一方をジュリアに手渡す。
エンリケはそれと同じものをズボンのポケットから出して、首に掛けている。
「ナニこれ!? ペンダントが枠だけで、宝石もなにも付いてないよ?」
「はっはっはっ、コレはこうして使うのさ、ジュリア!」
もう一方のポケットから直径1インチ大の乳白色の珠を取り出し、エンリケはジュリアの
手にあるペンダントの枠にカチリとはめ込んだ。
すると…
〈…………〉
松明やランプで灯した明かりとは異質な白色の光が、珠から溢れ始めたではないか!?
「ほえぇ……〈ボーゼン〉」
「暗いダンジョンを明るく快適に移動するために作り出した『光珠(ライト・オーブ)』です。
これをペンダントにして首から掛ければ、両手は自由になりますよ。」
自らの発明品・光珠を解説しながら、自分のペンダントにもそれをはめ込むカネモリ。
「すごーい☆
こんなに便利なアイテム、初めて見たよぉ!
…でも、どーして道具屋とかに売ってないんだろ? 冒険者ならきっと飛び付くハズなのに。」
「いやな。カネモリの話では光珠はまだまだ量産できず、道具屋には卸せないッてんだ。
それに、一回ダンジョン探索すると光が切れちまうモノが一個5,000フィズもするんじゃ、
俺みたいに個人的なコネでもなければなかなか使えないさ。」
「…残念ながら、現状はその通りです。
エンリケ、案内をお願いします。」

 光珠のペンダントを首にした三人が到着した最初の分岐点。
その一方は多くの冒険者たちが足を踏み入れた痕跡が残っているが、もう一方は木の柵で
厳重に塞がれている。
「この柵の向こうが、滅多に人が入らんルートだ。
…もっとも、落盤が頻発しちゃ困るッてわけで、俺たち鉱夫がこうして立ち入りを制限
してるからなんだけどなっ。」
長年の鉱山暮らしで鍛え抜かれた力強い腕で柵をずらし、通り道を作るエンリケ。
「ありがとう。…さぁ、先に進みましょう。」
「うん。」

 〈カラ…カラカラ……〉
冒険者たちの立ち入りを制限された、鉱山の男エンリケとっておきのルート。
その足下には周囲の岩盤からはがれ落ちた小石が幾つも転がっており、この辺りの岩質が
脆いことを沈黙のうちに物語っている。
「…いいかジュリア。ここで激しく動き回っては、岩盤(いわ)がたちまち崩れちまう。
魔物が出てきても絶対騒がず、できるだけ小さな動作で仕留めるんだ。〈ボソボソ〉」
「…わかった。〈ボソッ〉」
脆弱な岩盤の領域では、大声さえも命取りとなりかねない。
一行は声を落としながら、大昔に鉱石を採掘した小空間を入念に調べつつ鉱山跡を行く。
このルートに踏み込んでから一時半(いっときはん)ほど過ぎたとき、
〈……………〉
坑道の奥から幾つかの光の点が浮かび上がって、近付いてきた。
「あれっ!? 誰か先客がいたのかなぁ?」
「いいえ。あれはおそらく…」
「…そうだな。
ジュリア、戦闘準備だ。」
錬金術師を背後に控えさせ、静かに武器を構える支援士ふたり。
やがて光珠の光が届く距離に到達すると、光の主が明らかとなった。
『!!!』
それらは尻の先を発光させた、体長3フィート余りもあるゴキブリのような巨大昆虫!
「やっぱりグロウクローチだ。
気をつけろ、ヤツらは肉食だぞ!」
「……………。〈コクリ〉」
剣を抜いたジュリアの心は虚無の境地へと向かっている。
彼女は鉱山の男の忠告に、黙って首を縦に振った。
〈…カサカサカサッ!〉
グロウクローチの群れの一匹が目前まで迫って来た刹那、
〈ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!〉
コリシュマルドが風切音だけ残して姿を消し、その直後巨大昆虫は全身から体液を
流しながら動きを止めた!
「…………………。」
臓器や中枢神経が全身に分散している虫どもは、一点だけを突き刺しても斃れはしない。
素早く攻撃の手数を増やす「多段突き」で全身にダメージを与えるのが効果的なのだ。
「ふんッ! はっ!」
鉱山の男・エンリケの誇りを体現したバトルハンマーはここでは思い切り振り回すことが
できないが、鋭く尖らせた石突でグロウクローチどもを次々と突き刺し仕留めてゆく。
〈カサッ……〉
残るグロウクローチはあと一匹。
バトルハンマーの石突とコリシュマルドの切ッ先が二方向から迫る…
そのとき、
〈カッッ!〉
虫の尻の先が瞬間的に光珠の光よりも眩しく輝き、
『!!』
武器を突き出していた支援士たちは目が眩んで、思わず隙を作ってしまった!
〈パサササッ!〉
グロウクローチは背中の翅を広げ、ふたりの間をすり抜けて飛び上がる。
…その向かう先には、無防備なひとりの錬金術師がッ!!
『カネモリっ!!!』
〈トスッ!〉
彼の左手から投げ放たれた一本の鋭い鉄棒が黒光りする虫の身体に突き刺さると…
〈パタッ…トサッ!〉
その物は空中で突然羽ばたきを止め、カネモリの目前で墜落して果てたではないか!?
〈……………〉
尻の光がゆっくりと消えてゆくグロウクローチの全身は、白く冷たい霜で覆われていた。
「…相手の体液と反応して激しい冷気を発する『氷結薬』。
体の熱を自ら持たない虫にとっては、致命的な一撃ですよ。」

 「…いや、面目ない。
ヤツらがあそこまで光るのは、滅多にないことだからなぁ…。」
「『滅多にない』ことと『全くない』ことは、同じではありませんよ。
でも、グロウクローチならわたくしにでも対応はできますから、あまり気にしないで
下さい。」
「それにしても、アルケミストってああいう戦い方するんだね? 
もっと魔法でバリバリやるのかと思ってたよ。」
「いくら魔法が使えるとはいっても、わたくしたちにはマージナルや断罪者(ジャッジメント)
ほどの精神力(メンタル)はありません。
敵の弱点を見極め、最も効果的な薬を手裏剣や投げナイフなどに塗って打ち込むのが
錬金術師の主な戦法なのです。」
グロウクローチとの戦闘を終えた三人が落ち着きを取り戻すと、カネモリは昆虫どもの
尻の先をナイフで切り取り、集め始めた。
「ナニやってるのさ、カネモリ!?」
「材料集めですよ。
グロウクローチの尻にある光を発する成分は、光珠の貴重な原料となるのですから。」
…………………………………。
「…この光の成分が…、巨大ゴキブリの……尻から★」
ジュリアは胸元で輝く光珠を改めて見つめながら、ゲンナリした表情(かお)になってゆく。
「…俺もカネモリとは長い付き合いだが、いまだに錬金術ッてヤツは理解できん。」
「エンリケ、ジュリア。お待たせしました。先に進みましょう。」
頭を抱える支援士たちの気持ちを知ってか知らずか、カネモリがいつもの口調で声を掛ける。