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 一行がグロウクローチと遭遇してからさらに一時(いっとき)が過ぎたばかりのとき、
その出来事はやってきた。
〈ワサッ…〉
最初のきっかけは、脇の小部屋から姿を見せた一体のエビルプラント。
〈カサカサカサッ…ワラワラワラワラ……〉
蔓状の本体から生えている葉を擦り合わせて発した音を合図に他の個体が次々と現れ、
瞬く間に廃坑道を埋め尽くしてゆく…。
「…クッ! カネモリ、退くぞ!!」
「どしたのエンリケ!? そんなに慌ててぇ?」
「ジュリア、今ここで奴らに暴れられたら…」
〈ピキッ……〉
脆い岩肌を這いずり回る植物どもの鈍い振動が、屈強な鉱山の男さえも恐れさせる
最悪の危機を現実のものにしてしまった!
〈カラッ…ガラガラッ!!〉
『落盤!!!』
哀れなエビルプラントの大群を飲み込んで押し潰してゆく、無情なる岩石の大雨。
しかし、その様を見届けるゆとりなど三人にありはしない!
『…!!!』
魔物にも人間にも等しく降り掛かる災厄から逃れるべく、彼らはすでに駆け出していた。

 〈ゴゴゴゴ……〉
不気味な地鳴りを背にしながら、探索ルートを逆向きに走る三人。
先頭は身軽で俊足なジュリア。
次は筋力に物を言わせて突ッ走るエンリケ。
そして最後尾は…
「…はぁッ、はぁぁ………」
お世辞にも身軽とは言えない体格の上、全くの体力不足なカネモリ。
「カネモリぃー! ほら、頑張ってぇぇ〜〜!!」
「木箱なら俺が持ってやる! あと800ヤードで安全な場所だっ!!」
「…いいえ、これだけは…。」
鉱夫がハンマーに誇りを持つように、錬金術師もまた木箱にプライドを託している。
それがたとえどんなにハンデとなろうとも、カネモリは決して手放すことはないのだ。
〈カラッ…ガラガラッ!!〉
「ウソぉっ!? どーして前から??」
「落盤は岩盤(いわ)の脆い順にどこからでも起こるんだ!
…参ったな、もう前にも後ろにも進めんぞっ!」
廃坑道のド真ン中。
前後両側から迫って来る岩の崩落。
『……………!!』
エンリケが大きな身体を盾にして落石からジュリアを庇う(かばう)!
そのときカネモリは…
「…偉大なる錬金術の祖・ヘルメス=トリスメギストゥスよ、我(われ)が
土に宿りし精霊・グノームの力借ること許し給え……」
袖の中に仕舞ってあった淡く琥珀色に光る一握りの塊を掲げ、ひとりで何かを詠唱している。
「…土の精霊・グノームよ、我の前にその力示す可し(べし)。
『元素解放《エレメント・リリース》』!!」
〈カッッ!!!〉
彼の左手の上で「土の元素(エレメント)」が一段明るい輝きを放ちその姿を消した次の瞬間、
〈ゴゴゴゴ……〉
あたかも時間を逆回ししたかのように三人の周囲で降り注いでいた岩石が軽々と舞い上がり、
崩れ落ちる前に在るべき岩盤に向かって戻ってゆくではないか!?
〈ピキピキピキッ…………ピシッ〉
………………………………………………………。
…………………………………。
…………………。
「もう大丈夫ですよ。」
暗い静寂の中で発せられた錬金術師の声にふたりの支援士が恐る恐る顔を上げてみると、
彼らの前後30ヤードの坑道はひび割れひとつない状態に復元し、そこで落盤はしかと
食い止められていた。
しかも、出口に近い方はわずかに小石が降り積もっているだけで、注意深く通れば脱出にも
それほど危険はない。
「…まさか……、あれほどの落盤を…止めたのかっ!?」
「…コレが…、元素のチカラなんだ?」
「はい。
精製するのに3年を要する量でしたが、みなさんの命には……
うぐッ!」
額から血を流しつつ、カネモリが顔をしかめてガックリと膝を着く。
「おいっ!
…頭だけじゃない、肩の骨までやられてるぞ。
ジュリア、こいつに肩貸してやれっ!」
「わかった! …カネモリ、悪いけど、箱はボクに持たせてもらうよ。」
「…うぅっ、ふたりとも……申し訳ありま…」
「謝らなければならんのは俺の方だ。
やっぱりこっちは危険過ぎた…、すまなかった。」
「それに、みんなが助かったのはキミのおかげなんだから。
…ありがとう。」

 両脇をジュリアとエンリケに支えられたカネモリは、傷付いた身体を庇うようにゆっくりと
落盤地点を脱出し、奥に向かうときよりも時間をかけて鉱山の入口まで引き返してきた。
「おーい、鉱山で怪我人が出たぞー!
手が空いてる者がいたら、宿まで案内してやってくれーー!!」
薄暗くなった道をエンリケの家まで歩く途中、支援士のひとりが周囲に助けを呼ぶ声を
彼らは背中で聞いていたのだった。
『………………』
他の誰かが自分たちと同じように危険な目に遭ったのかと、心の片隅に思い浮かべながら。