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 一夜開けて二時(ふたとき)余り。
太陽は中天の空に向かって歩みを続けている。
〈コンコン!〉
「(カネモリぃー!)」
…………………………。
〈コンコンコンッ!〉
「(ねぇー、イザベルさんが『昼食は何がいい?』ッて…)」
……………………………………………。
〈ガタン!〉
「起きてよぉ! カネモ…」
…………………………………………………………………。
「…リ……!?」
ジュリアが扉を開いたのは、昨日の冒険で負傷した錬金術師がベッドで寝ているはずの部屋。
しかし、その空間に人の姿はまったく存在していなかった!?
「…………?」
ベッドの上には脱いで置かれた寝間着と、彼の頭に巻かれていた血の滲んだ包帯。
壁に掛けてあった灰色の着物と黒い羽織、そして木箱は主とともに姿を消していた。
…そして、中途半端な角度で開いたままの窓に目をやると…
〈キキィ…ガタガタッ…〉
頭の上から足の先まで、普段どおりの格好をした『黒の錬金術師』が潜入してくる!
「わわっ!?
こっそり部屋抜け出して、ドコ行ってたのさ?」
「ジュリア!?
…ちょっとした、お見舞いですよ。」
「???」
首をひねる彼女に構わず、バツの悪い顔のまま彼は続ける。
「きのう鉱山で危険な目に遭ったのは、わたくしたちだけではありませんでした。
ここに来た日に酒場でお会いした『レアハンター』さんもまた、鉱山でご気分を悪くなされて
お仲間の助けで宿に戻られたというのです。」
「『レアハンター』?
…あぁ、あのマージナルの女の子だね!
どーだった?」
「お仲間の方に聖術の心得がお有りのようですから、大事には至っていないことでしょう。
…もっとも、わたくしがお伺いしたときには布団の中でぐっすりお休みのご様子でしたから、
枕元にお伽話の書を見舞いの品として置き、お暇(いとま)させていただきました…。」
事の顛末を説明しながら着物を脱ぐカネモリの肩に…
「うぐッ!」
完治していない骨の痛みが走り、平静を装っていた表情が崩れてしまう。
「もぉーっ!
『この傷は薬を飲んでも治るまで二・三日はかかる』
ッて自分でも言ってたじゃん!?
お昼食べたら無理しないで、ちゃんと寝てるんだよ。」
「…申し訳ありません、ジュリア。」
「…ところでさぁ、お昼…、何がいい?」

 モレク鉱山探索から三日後。
「カネモリ、ジュリア。
今回は…、期待に副えず…悪かった。」
傷の癒えた錬金術師と護衛の支援士を見送る友人夫妻の姿があった。
「…エンリケ、あまり気にしないで下さい。」
「あのルートの向こう側がどーなってたのか気になるけど、あのときはあのとき。
無事出てこられただけでも儲けモンだよっ!」
「……そうだな。
崩れた坑道は、俺たち元鉱夫が頑張って直しておくさ。
冒険者さえも寄り付かなくなってしまっては、モレクもお終いだからなっ!」
気落ちしていた友が元気を取り戻してニッと笑うのを見届けた錬金術師は、
「わたくしたちはとりあえず、先を急ぐことにします。
しかし、『風の元素』が見つからなければ、ここに戻ります。
そのときには、またお願いしますよ!」
「あぁ。そのときこそはきっと力になるさ!」
ふたりの男が、しっかりと握手を交わす。
「…さぁ、ふたりとも行っておいで。
でも、またいつか来るんだよ。
怪我などしないで…ね!」
「うん! イザベルさんのお料理、また食べたいよ!
行ってきまーす☆」

 こうして、カネモリとジュリアは鉱山の町・モレクを後にした。
ふたりが探し求めるものは、はたしてこの世のどこに存在するのだろうか?
まだ見ぬ大地に吹く風だけが、それを知っている。

                                  《次回に続く》