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―21―






――翌日、ティール達はモレクの宿の一室を借り、全員がてきとうに腰かけ、今回の事件についてそれぞれどのような経緯で昨日のような状況に追い込まれたのか、情報を交換していた。
ティールはオース海岩礁洞窟に向かったところから、たまごをひろったところまで。エミリア達は、リエステールに戻ってから酒場によったところまで答え、ひとまず全員の間で事件の流れが確認される事となった。
シア達三人とクローディアは、昨日の間にリエステールの自警団と教会へと今回のあらましについて報告に行き、ヒミン、ソール、マーニの妖精三人組はあの後モレクに帰りつくその前にいつの間にか姿を消しており、今この場にはいない。
ただヒミン達に関しては、別れる前にすこし聞いた話では、彼女達は先代のアイリスと一緒に暮らしていた時期があったらしく、手を貸してくれたのもその辺りが関係しているのかもしれない。


「ママ、おなかすいたー」
「うん、もうちょっとで終わるから、もう少し待ってね」
服の裾を引っ張ってねだるイリスをなだめるように頭を撫でるティール。
するとイリスはすこし不満そうな顔をしながらも、ベッドに腰かけて大人しく待つ体勢に入る。
もっとも、このやり取りはこれで3回目ではあるのだけれども。
――”先代の記憶”がイリスの奥に戻った後、イリスはその間の事を何も覚えていなかった。
どうやら、彼女自身は『自分が気を失っている間にママ達が悪い人をやっつけてくれた』と解釈しているらしく……変に掘り起こさない方がイリスのためだろう、ということで、とりあえずはそういうことにしておこうということになっている。
どちらにしろ、何年後になるかまではわからないが時が来れば全て”思い出す”事にはかわりないものの、今のイリスに背負わせるには話が重すぎる。
「……ま、とにかくみんな無事でなによりってことかな」
紆余曲折あったものの、全員がこの場に生きて戻り、こうして顔を合わせている。
それだけで、今は十分なのだ。
「そうじゃな。 ……じゃがティール、あの蹴りは痛かったぞ」
ちょうどお腹の辺りに手を当てながら、渋い顔をして口を挟むエミリア。
強烈な体内破壊技を食らった上に、同じように強烈な蹴りを叩きこまれていたディンは、特に何も言わずにやれやれとでも言うように苦笑を浮かべている。
「ああ、ごめん。 ……でも、あの場は気絶でもしてくれないとおさまらないと思ったから……手加減して、下手に意識が残られても困るし」
結局のところ、二人に対して戦わなくていいという方便を作るための一撃だったということだろう。
……確かに、一撃で気絶させる程の威力なので、かなり”痛い”一撃だったのは確かかもしれないのだが。
「エミィ、状況が状況だったわけだし、これ以上そんなことひきずっても仕方ないだろう」
「……まぁ、確かにそうじゃな」
ティールと対峙したその時点で、覚悟ができていなかったわけでもない。
なにより、誰でもない親友のその手でやられたからこそ、多少の文句だけで気が済むのだろう。
見ず知らずの相手に殴られては、さすがにここまであっさりとは認められない。
「しかし、これからどうするつもりだ?」
ひとまず会話に区切りが付いたと見切りをつけたのか、ヴァイが静かな表情でティールにそう問いただす。
”何を”どうするつもりか聞いているとすれば、すでに彼女の答えは決まっていた。
「イリスは私が育てる。 それが『親』としてのつとめだと思うし……何より、私自身がこの子を守ってあげたいって思うから」
「そうか……」
「わかってるよ、ヴァイ。 誰かを守る事は、甘いことじゃない……それは、痛いほどにね」
自分を守るために、命を捨ててくれた人達がいて……そして、残された自分には、ただ憤りと悲しみだけが残った。
だからこそ、誰かを守るという事は、口にするほど簡単な問題では無い事はよく理解している。
守るべき者と共に生き残る事こそが、真に守人と呼べる者であると。
「……ティール、そこまで言うくらいなら、俺との約束は憶えてるだろうな?」
「え?」
少し昔の事を思い返していると、珍しくにやりとした笑みを浮かべたディンが、自分に向かってそんな事を口にしていた。
彼と交わした約束……それは一年以上昔の事、モレクの裏路地で交わした言葉……



―それなら、俺達と来いよ。 昨日のは運が悪かっただけだ、ティールなら……!―
―今度会う事があったら、その時に……もう一度誘ってくれないかな。 その時には、きっと乗り越えてみせるから―



「……あれか……」
今思えば、あの時は始めて自分の思いのたけを他人にぶちまけた瞬間だった。
誰かと共にあることで、誰かを失うかもしれないという恐怖を抱く。
……それは、この世界にきてからずっと持ち続けていたものだったが……
「イリスを最後まで守り通す――そんなこと言ったくらいだ……俺たちとなら、なんてことないだろ?」
「……あっ……」
そう、確かに昨日はティールに軍配が上がったものの、今のディンとエミリアの二人はAランクの依頼を受けられる程の実力者。
現状で戦闘能力が微弱なイリスを連れ歩けると言うのなら、この二人を連れ歩けないと言うのは筋が通らない。
……加えて言えば、この先イリスを守る上でもこの上ない力となってくれるだろう。
「……ディン、私はそんな話聞いてはおらぬが?」
が、そんな思考に横槍を差すかのように、頭上に疑問符を浮かべたエミリアが口を挟む。
それがあまりに唐突で、一瞬ティールの思考もエミリアの方へと向いてしまっていた。
「あ……そうだったか……?」
「全く、以前お主が言った言葉をそのまま返そうか? ”頭の中ばっかり先走って、伝えてもいないこと伝えた気になってるんじゃろ”?」
「ぐっ……」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらディンを追いつめるエミリア。
……実際は、言葉通りに以前ディンに言われた事を言い返しているだけなので五十歩百歩なのだが、この場はエミリアの方が優勢のようだった。

「……ぷっ……」

「ん?」
その時、突如として聞こえてくる噴き出すような声。
次の瞬間には、全員の目がその声の主に向けられ……そして、その直後。

「くくっ…あはははははは!」

ティールはかつてない程に、大きく笑い声を上げていた。
今までの彼女の中でも、誰も一度たりとも見た事が無いその表情は、もしかしたら本当の意味で彼女の素顔を現しているのかもしれない。
――全員がそう考える間に、彼女は半ば必死にその笑い声を抑え、ディンとエミリアの二人の方へとなんとか顔を向けていた。
「――ゴメンゴメン。 なんだかあなたたち全然変わってないなって思って」
「……まぁ、そうかもしれないが……」
「だからって、そこまで笑うこと無かろう」
多少文句じみた事を口にするも、そんな二人の表情もまた、ごく自然に浮かび上がったような笑顔だった。
二人のその様子を目にし、もう一つ安心したのか、ティールは呼吸を落ち着けるように一息つけると、少しスッキリしたような表情で、言葉を続ける。
「それに、言われて気付いた。 ……確かに私、誰かを守りたいって平然と言ってたし……もう、大丈夫なのかなって」
「ティール……」
「そう思うと、なんだか今までの自分もバカバカしくなってきちゃって、つい、ね」
てへ、とでも言いそうな表情でそう答える姿は、以前のモレクで感じたような影はほとんど見受けられなかった。
……そのままもう一度軽く深呼吸をし、隣にいたイリスを引っ張るようにして、ベッドから立ち上がってディンとエミリアの前まで移動し……
「……私と、チーム組んでくれる? これからは、イリスも一緒だけどね」
握手を求めるかのように右手を差し出し、そう口にした。
そしてそう問いかけられた二人は、一度顔を見合わして、互いにコクリと頷き合うと……
「そんなの、当たり前じゃろ?」
「その言葉、待ってたぜ」
二人同時に差し出された手を握り、心からの笑顔でその言葉を受け入れる。
その横で、なにが起こっているのかよく分からない様子だったイリスが三人の様子を見上げていたが、とにかくいいことがあったという気配は察したのか、自分も三人の手が重なるところに手を乗せて、ニコっという擬音が似合いそうな笑顔を浮かべていた。




「……なんだか、素敵ですね」
自分とヴァイとの関係とは大きく違うものの、その関係性の美しさは、きっと同じくらい尊いものだろう。
そう思うに至ったリスティは、優しげな微笑みを浮かべながら、素直に心に浮かんだ言葉を口にしていた。
ヴァイは何も言わず、特に表情を変えた様子も無かったが、リスティのその言葉には、こくりと一つ頷く事で同意の意思を示している。
どことなく勇ましくもあり、それでいて安心させられるその光景は、直接関係無いはずの二人の意識にも多少響いていたのだろう。
「チーム……ということはティール、ようやく、夢への第一歩ですか?」
……調度その時、廊下へのドアの方向から、聞き慣れた女性の声が聞こえて来た。
そして同時に、もう一人別の女性がドアを通って入って来る。
「シア先生、クローディアさん。 もうお戻りになられたんですか?」
そう、その二人とは、昨日の夜の馬車でリエステールまで報告に向かっていた、シアとクローディアの姿。
……そんな二人に一歩遅れて、少し眠そうにしているユキもトコトコと現れていた。

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