※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

―22―






ティールとイリス、エミリア、ディン、そしてヴァイとリスティという大所帯で、女性で四人部屋と、男性で二人部屋を借りて昨日の夜は過ごしていた。
現在集まっているのは、女性陣が使っていた四人部屋であるが、さすがにクローディア、シア、ユキのプラス3人ともなれば、本来入るべき人数の二倍以上の人数となり、比較的広い部屋とはいえ窮屈に感じられる。
……が、今はそんなことを気にしていられる状況でも無いのか誰も気にした様子もなく、先に現状の確認をするべきだと踏んだのか、廊下へのドアを閉めたクローディアに向けて、エミリアが真っ先に声をかけていた。
「自警団と教会はどう言っておった?」
気になる点は二つ。
一つは、自分達に課せられていた依頼の扱い。
そしてもう一つは、”教会と自警団における”イリスの扱い。
前者については昨日の間にクローディアの口から”強制破棄”という答えを聞かされていたので、最終確認のようなものではあるが……
「エミリアさんとディンさんの依頼については、昨日お話したように破棄、という形で決定されましたわ。 加えて、今後件の組織の不正を暴く足がかりにもなるだろうという事で、多少ではありますが謝礼金が出されるそうですわ」
「……とりあえず、無事解放されたと考えていいわけだな?」
「はい。 ……問題があるとすれば、依頼者の男性の身柄を確認できない状態であることですが……」
……”先代”がイリスの中に戻っていった後、男が倒れているはずの場所に目を向けたら、そこには誰一人として見かける事はできなかった。
魔法の炸裂による発光のどさくさに逃げられたのか、アイリスの魔法が強力すぎてチリと化したのかは不明だが、生死すらも不明というこの状況は、捜査上あまり好ましい状況とは言えないだろう。
「これに関しては自警団が捜索する形になると思われますので、お二人にこれ以上の実害は無いですわね」
「……そうか、それについては安心した」
クローディアの言葉を受けて、ほっとしたように溜息を漏らすエミリア。
今回の件が今後の自分達の活動に関わってくるようであれば、色々と対策を講じなければならないからである。
それが取り越し苦労で終わり、ひとまずは安心した、ということだろう。
「教会側については……シアさん、よろしくお願いしますわ」
「はい」
クローディアが一歩下がり、今度はシアが同じ位置に立つ。
依頼の件については少々崩した姿勢で聞いていたティールも、シアが出てきた事で佇まいを直し、改めて聞く体勢に入る。
「……教会からは、事件そのものよりもイリスの事について問われましたので、その件については詳細に話させていただきました」
「詳細に?」
「はい。 ……依頼内容に『虹彩の魔鳥』の名が出ていたので、実際はどうだったのかと問われましたので……ぼかして報告してもよかったのですが、それをすれば今後どうなるかはわからないので、今回の件は、全て」
「……そっか」
ティールの表情に、危機感にも似たものが走る。
アイリスは”虹彩の魔鳥”や”虹の精霊王”とも呼ばれ、世界にとっても大きな影響力を持つ存在。
”先代”がアルティアを『親』だったという事実は教会には伝えられていないのか、信仰の対象としては見てはいないようだが……
そのように大きな存在を放置して置く事は、危険であると考える者がいてもおかしくは無く、加えていえば、手近に置く事でなんらかの利用価値を見出そうとする者も、決していないとは言い切れない。
「……心配していた通り、今朝伝えたところ、教会において管理すべきという意見が出されました」
「そんな!! ティールさんから……『親』から引き離すんですか!?」
少し声を沈めてそう口にするシアに、リスティが叫ぶように声を上げる。
……かつての彼女のように”死に分かれ”ではなく、”生き分かれ”という形になるのでまだ救いはあるかもしれない。
しかし、アイリスは明らかに影響が大きすぎる存在。
例え『親』と称されている人間だとしても、そう簡単に会えるような環境にはならないだろう。
「…………それは、通ったの?」
しかし、ティールはただ冷静に言葉を発する。
まるで、その先に帰ってくるだろう答えを知っているかのように。
「いえ、その件に関しては私が差しとめさせていただきましたし……最司教様にも、そのようにしていただくように直接お願いいたしましたので……」
「さ……差しとめたじゃと? お主個人の意見が通るものなのか?」
「いや、その前に……最司教って教会で最も上のヤツだろ? そんなヤツに直接ものが言えるって……」
露骨に驚きを見せるディンとエミリアの二人。
……それはそうだろう、シアがそんな行為を行う事が出来たのは、教会の人間か教会にある程度縁のある者でないと知ることは無い事が関係しているのだから。
「……このようなお話を御存知ですか?」
苦笑に近いような、なんとも言えない微笑みを浮かべながら、シアは二人の疑問への答えとして、一つの歴史を語り出す。


――それは、昔の時代。 教会におけるバードの役目とは、神話伝承、法律、歴史を歌として伝えることで、その発言には絶対的な力が約束されていた。
極端な話、大陸に存在するすべての上に立つ『王』の、さらに上と言っても過言では無い存在だったのだ。
それゆえに、多くの貴族達は自らをけなすような歌を歌われまいと彼らの存在を恐れ、また敬うような風潮も、当時は容易に見てとれる程の状態だっただろう。
そんな中で、ある貴族が一人のバードの機嫌をそこねたがために自らの首を差し出したという逸話が持ち上がる。


……現在でこそ”聖歌の歌い手”というだけの存在として扱われているが、当時の名残として、今のバードにも大きな権限は残されているのである。
「……だからこそ、私達バードは『歌』の能力を持つだけでなく、最司教様を初めとした方々が認める人格者が選ばれるという話なので……私のような者が選ばれたのが、未だに少し信じられません」
「そんなことありません。 シア先生はご立派な方だと思います。」
リスティのその言葉については、その場にいた誰もが同意していた。
と言うより、彼女ほど聖人君子に近い性格の人間が人格者でないと言うのならば、この世にバードになれる人間などいないということになってしまうだろう……
それが、シアの言葉に対して全員が抱いた感想だった。
「私個人としては、そのような権限は必要ないと常々思っていたのですが……こうしてひとつの『親子』の絆を守れたかと思うと、今はこの立場も誇らしく思えます」
ティールとイリスにむけて優しく微笑むシア。
……世の中、このような人間ばかりならば争いなども無い世界になるのかもしれないが、そんな事にはなりえないのが現実。
今は、ひとまず丸くおさまったと言う事で満足しておくのが得策だろう。

<<前へ     次へ>>