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そこまで話がまとまったところで、ティール達は宿を立つ事にした。
そもそも宿の一室に留まって話をしていた理由は、他に聞かれては少々面倒な事になりかねないという点であり、今回の件について話もついた今となっては、あそこに留まってもただ狭いだけである。
ひとまず外へと出た一同は、すこし遅れた昼食を食べるべく、酒場へと向かっていた。


「……そういえば、さっきシアさんが”夢”とか言っていたが、あれはどういう意味じゃ? 私達とチームを組むのと、関係あるのか?」
スプーンでカレーを口に運ぶ途中で手を止め、思い出したようにそんなことを口にするエミリア。
その目はしっかりとティールの方に向けられていて、その”夢”は誰が語ったものなのか、しっかりと把握しているようだった。
確かに、シアは部屋に入ってきた際に、ティールに対して『ようやく、夢への第一歩ですか?』と言っていた。
そしてその前に、”チーム”という単語が入っていた事も。
「ああ、うん。 なんていうか……」
その問いに、珍しく恥ずかしげに視線を逸らして返事をぼかすティール。
さすがに、実際にその一歩となってくれた相手には、面と向かって言いにくいものがあるのかもしれない。
……しかし、少し間を置いてから、意を決したように顔を上げると、エミリアとディンに向かって、はっきりとした調子で口を開く。
「支援士のギルドを作りたいの。 大きな家を買って本拠地にして、たくさん作った仲間と冒険したり、何もない日はその家で集まったりして、皆で楽しく生きていきたい」
それは、昨日ヴァイ達の前でも口にした夢。
かつての自分は、その世界において『英雄』と称された冒険者を中心にしたギルドにその身を置き、今語った言葉通りの日々を送っていた。
……未練がましいと言われればそれまでかもしれないが、いつか自分で自分のギルドを持ちたいと思っていたのもまた事実。
これまで、”仲間を失う恐怖”を抱く事を恐れ、仲間を作る事をためらってきた。
しかし、もう大丈夫。 そう思ってしまえば、夢のままで終わっても仕方ないという想いが、夢を現実にしたいと思えるようになっていた。
「私としては構わぬが、イリスをいれても四人……どうしても”チーム”の域を出ぬな……せめてあと二人くらい……」
「名乗るだけならタダじゃないのか? 人数は関係ないんじゃ……」
「確かにそうかもしれぬが、イメージの問題じゃな」
「……ディン、エミィ……」
昨日のヴァイ達は素直に聞いてくれていたが、その時も今も、笑われるのでは無いかと少しだけ思っていた。
しかし、ヴァイ達もこの二人も、そんな事なく素直にその夢に答えようとしてくれている。
それが、何よりも嬉しい。
「いいよ。 どうせまだ本拠地だってないんだから」
だからこそ、笑って呼びかける。
どこまでも、そして何よりも大切な仲間達に。
「本拠地ねぇ……最初はそんなに大きく無くてもいいと思うが」
「さすがに、親もおばあちゃんもいる私の家を、というわけにはいかぬしな……」
そこまで言って、うーん、と首をひねる二人。
もしかしたら、これまで意識した事も無かった”ギルド”という存在に、心を弾ませているのかもしれない。
人間、楽しい事を考える時は他の事は浮かばないものである。
「……あの、ティールさん、ディンさん。 つかぬことをお聞きしますが、アパートは借りてますの?」
「え? あ、うん……リエステールに一応」
「私達もリエステールじゃが……」
――そんな中で、何かを思い出したように三人に語りかけるクローディア。
その瞬間のその表情は、どこか楽しそうに振舞う少女のようなもので、少しだけその顔を幼く見せているかのようだった。
「お家賃はいくらですの?」
「えっと……私は月30,000かな」
「二人で40,000だが……それがどうかしたのか?」
いきなりの質問の意味が分からず、とりあえず答えるといった形で質問に返していく三人。
対してクローディアは、ブツブツとなにか計算をするかのように小さく呟くような声で数字の羅列を口にしている。
「……そうですわね、じゃああとは……」
何か結論のようなものが出たらしく、にこっと笑いながら顔を上げ……
そして、今度はヴァイとリスティの方へと顔を向け、再び口を開いた。
「せっかくですし、お二人も参加されてはいかがですか? ギルドに所属すること自体は、教会では禁じられていないはずですし」
「ええっ!? た、確かに、特に禁止されているとは聞いたことないですし……ティールさん達とならきっと楽しいと思いますし、そういうのも、悪くないと思いますけど……」
「俺も参加自体は構わないが、ティール達のOKが先だろう」
突然話題を振られ、少しうろたえる様子を見せるリスティと、至って冷静にリスティの言葉の代弁をするヴァイ。
とりあえずは、ギルドへの参加に異議は無いと見て間違いは無いだろう。
「だ、そうですけど。 あなたがたはどうお思いですの?」
そんな二人の反応を確認すると、そのままの笑顔で再びティール達の方へと目を向けるクローディア。
先程のアパートの家賃といい、いまいちその行動の意味を掴みかねる一同だったが……
「いや……お主等ほどの支援士が仲間になってくれると言うなら、むしろありがたいがのぉ」
「私も同じ。 嬉しいくらいだよ」
そして二人に続き、無言で頷いて答えるディン。
加えて言うならば、二人も参加してくれるなら、最初にエミリアが口にした人数的なイメージも埋める事が出来る。
そう言う意味でも、三人にとっては歓迎すべき提案だったのかもしれない。
「でしたら、本拠地に関しても、広くてちょうどいい物件があるので、御紹介いたしますわ」
イリスはいまいち分かっていないようなので、クローディアはそんな五人の言葉を確認すると、ぽん、と手を打ちながらそんな事を口にする。
……あまりにいきなりの事で、一瞬何を言われたのか整理が付かなかった一同。
「……そ、それ本当!?」
しかしその次の瞬間には、食いつくようにティールが大きく反応を示す。
彼女がそういった態度を見せるのは、かなり珍しい光景かもしれない。
「ええ。 先日、あるお店を閉めた方から譲り先を探してくれと頼まれましたので……元々広い家で二階建てなので、改装すればギルドとして十分なスペースを確保できると思いますわよ」
「しかし、そうなると高いんじゃないのか? 俺達全員合わせても、そんな家一軒買い取るほどの持ち合わせは無いと思うが……」
「あっ……それもそうか……」
ヴァイの冷静な答えに、ティールは少し残念そうな表情を見せて、肩を落とす。
普通に考えれば気付きそうなことだが、思いの外家が手にはいるということに浮かれていたのかもしれない。
……しかし、クローディアは思惑通り、とでも言うかのようにクスクスと笑みを浮かべている。
「確かに、いきなり払えと言われて払える金額にはならないと思いますが……その家、私が一度個人的に買い取り、その後あなた達に譲り渡す、というかたちにしようと思ったのですわ」
「……ほう? まぁ、確かにプレスコット家ならそのくらいは可能かもしれぬが……」
「まさか、”譲り渡す”って言ってもタダになるわけないよな?」
提案自体は、理に叶っている。
一度クローディアがその家を買い取れば、所有権自体はクローディアのものとなり、それをどう扱うかは彼女の意思になる。
しかし、それをさらにティール達に譲り渡すとなれば話は別で、家一軒をタダで渡すとなると、クローディア個人の都合にはならず、プレスコット家自体が関わってくる事も考えられるだろう。
「ですから、ギルドの皆さんが今家賃として払っている分を、私に回していただければいいんです。 ギルドに住んでしまえば、アパートを借りる理由も無いですわよね?」
「……なるほど。 確かにそうだが……」
「えっと……つまり、一人一人の家賃はそのままで、クローディアさんが大家さんになると言うことですか?」
「いいえ。 毎月今まで通りの金額を私に払っていただくのは確かですが……その金額の合計が、私が前の家主さんに払った家の代金に達した所で、全ての所有権をあなたがたに譲渡する、という形をとろうと思ってますの」
「……なるほど”分割払い”ってやつじゃな。 また珍しい方式を持ち出してきたものじゃな」
半ば呆れたような口調とは裏腹に、エミリアのその表情は少し楽しそうなものを見せていた。
それを見てクローディアはもういちどクスリと笑みを浮かべると、再び口を開く。
「あなたがた全員でなら、2、3年もあれば全額払い通せると思いますの。 ……どうですか? 悪い話ではないと思うのですが」

――一瞬、”白麗の戦姫”の姿が、一人の商売人に見えた瞬間だった。

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