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エピローグ





――あれから一ヶ月。
結局件のネクロマンサの男の行方は知れず、現状も捜査隊は編成されているものの、情報が全く無いことからその士気は目に見えて落ちてきているとの事だった。
ティール達にとってもそのあたりは気になる要因ではあるが、実際のところ今更関わりたい相手でもなく、特に気にしようという様子はない。
……それよりも、この日はもっと重要な出来事がある日で、その程度の事に気を割くような気分にはなれなかった。


「う…わぁ……」
その気になればちょっとした宿でも開けるんじゃないかという家屋を前に、感嘆の声を上げるティール。
……クローディアの口からこの家の買い取りの話が出てきてからの一ヶ月間、改装工事の際にも色々と自分達の希望を取り入れてもらっていた。
その結果、内装に関してもほぼ自分達の理想通りの姿になっている事は間違いないだろう。
「メンバーが6人もいますし、スペースに余裕があったので小さめですがお風呂も用意させてもらいましたわ」
共用風呂という形なら、一般のアパートなどでも配置されている場所は多い。
現状他人同士が同じ家に暮らすという状況には変わり無いので、感覚的にはそちらと変わりはないだろう。
「うん、ありがとう。 ……でも、なんだか嘘みたい……私が、本当にギルドを作れるなんて……」
その時のティールの表情は、周囲の面々に言わせれば、ほぼ全員が『意外』の一言で統一されていた。
常に明るくも冷静で、何があってもほとんど動じない彼女。
……そのせいか、感極まって半ば呆然としている姿など誰も想像した事も無かった。
「何を言っておるか。 お主がずっと望んでおったことじゃろ?」
しかし、”あまり期待していなかったはずの大きな夢”が叶った瞬間など、誰にしてもそんなものだろう。
エミリアはそこを察して、笑ってティールの肩を叩き、そう口にしていた。
「そうですよ、ティールさん。 それよりも、入ってみませんか? 皆さんのお部屋も決めないと」
リスティも、新しい我が家となる家を前に、少し心が躍っているようだった。
そんな様子を見るヴァイとディンはあまり態度に出した様子はなく、その感情は計るに至らなかったが、ディンの方は僅かに笑みがこぼれている。
「うん、そうだね。 イリス、今日からここが私達の家。 入るよ」
「ママ、待ってー」
リスティの言葉を受けて、意気揚々と玄関を開けて中へと踏み込んでいくティール。
呼びかけられたイリスも、すこし慌ててそれについていく。
「あらあら、初日から賑やかですね」
そしてそんな様子への素直な感想を述べながら、新たに現れるのは二人と一匹。
「シア先生、ユキちゃん、ギンガ、来てくださったんですか!?」
「ええ。 それと、エルナも夜前には仕事も終わるので、遊びに来ると言っていましたよ」
驚いて声を上げるリスティにシアは微笑んで答え、ユキはにこりと笑ってぱぱっと手を動かし――その手話の内容は『遊びに来た』といったもの。
リスティはそれを受けて微笑むと、開いた扉を支え、シア達三人を招きいれ、エミリアもその後に続くように扉をくぐる。
「さて、俺達も入るとするか。 我が家に」
「そうだな」
その様子を一通り眺めた後、ディンとヴァイも一度顔を見合わせて、ティール達に続いていった。








「ギルド開設を祝って、かんぱーい!」
宴会を始めるにしては太陽も高く、まだ昼と言った方がいい時間帯だったが、エミリアの音頭でギルド開設記念パーティーは始まっていた。
ディンはやれやれとばかりに苦笑しながらもコップを手に持ち、軽く対応する程度に持ち上げている。
「はいはい、それじゃギルドマスター様からなにか一言言ってやるのじゃ」
そして、ぐいっとコップの中のオレンジジュースを一息に飲み干すと、ささっとティールの後ろに回り混み、肩を叩くようにしてそう呼びかける。
エミリアのテンションがやや高いのはいつものことだが、ここまでテンポ良く話を進めるのも珍しい。
……というより、彼女のテンションが高い時は逆に話が進みづらくなる事が多いのである。
「……私がマスターでいいの?」
その行動に、少し迷うような顔を見せるティールだったが、彼女を見る周囲の目には特に異論を述べるような意思は無く、むしろ歓迎、といった様相を見せている。
「――俺は人を纏めるのは苦手だからな。 そういう事は、ティールの方が適任だろう」
少しづつコップの中身を口にしながら、そう言葉を挟むヴァイ。
それに対してリスティはなにを思ったのか、クスリとちいさく笑いを漏らしていた。
……その表情から察するに、その笑いには”納得”の意思が込められているようにも感じる。
「そういうわけじゃ。 まぁ、いたらぬ部分は私も含めて全員でカバーしていくから、任せてもよいかの?」
「……うん、そうだね。 私が”あの人”みたいにできるかわからないけど……こうなったら、精一杯やらせてもらうよ!」
その声に、わっと全員から拍手が上がった。
後に聞いた話によると、ティールの言う”あの人”とは、彼女が前に所属していたという冒険者ギルドのマスターの事らしい。
またその人は、実は初恋の相手だったとか、戦闘技術の師匠であったとか、親代わりであったなど……彼女とはかなり深い関係でもあったということもその中で聞く事になるのだが、どちらにしても、あった事も無い相手の事で比べられてもいまいちピンとこず、最終的に、”ティールはティールでやっていけばいい”という結論に達したのは別のお話。



「……ところで、新しくメンバーは募集していないんですか?」
しばらくしたところで、コトリと食器をテーブルに置いたシアが、そんなことをティールに尋ねてきた。
実際、その件に関してはあまり深く考えていなかったのか、ティールは少し考えるような様子を見せるが……
「入りたいって言う人がいるなら、拒む理由も無いけど」
結果的に、彼女の中に根付いているらしい”来る者拒まず去る者負わず”の精神が大きく影響したのか、そういった答えを返す。
「でしたら、私達三人も参加してよろしいでしょうか? お部屋は教会の自室があるので必要ありませんが、何かあった時、お互いに力になれますし」
その言葉を受けて、隣に座っているユキの頭を撫でながらそう口にするシア。
銀牙も何がどういう状況なのかは分かっているらしく、嬉しそうに一声上げると、ぱたぱたとその大きなしっぽを振っていた。
「シアなら大歓迎だよ。 実はちょっと誘ってみたかったから」
「シア先生も参加なさるんですか!? わあ、なんだかすごく嬉しいです!」
そして、その一言に素直に喜びを口にするティールとリスティ。
他のメンバーは特に大きな反応をする様子は見せていないが、全員がシアとは親しい間柄。
拒むなどという意思は、決して持ち合わせる事は無いだろう。
「よーし、それじゃあ色々と纏まったことじゃし……ティール、そろそろこのギルドの名前教えてくれぬか? もう決めておるのじゃろ?」
「あ、うん。 そうだったね」
名前を決めよう、という話自体は、もう随分前に持ち上がり、ティールが『もう決めてる』という言葉で、その時はその時点でその話は収まっていた。
本拠地が完成した時に、全員の前で言うと決めていたので、まさに、今がその時と言うことになる。
「ギルド名は、『ブレイカーズ』。 これは前に私が参加してたギルドの名前で、最初はそれにしようと思ってたけど……」
「…けど?」
「それじゃ、”あの人”に『いつまでも俺にしがみつくな』って笑われちゃうから。 別なのにしたの」
”あの人”と口にする瞬間に、少し苦笑じみた笑顔を見せたティール。
しかし、その中に悲しみや後悔というものは無く……過去失った『名前』を斬り捨てた事からも、その心情の変化は伺い知れる。
……周囲が黙って聞く中、少し間を開けて、ティールは改めて口を開いた。
「『Little Legend』  こっちの方が、私達にぴったりな名前だと思う」
「リトルレジェンド……”小さな伝説”か。 確かに、かの『沙雪』の使い手に『聖女』、『虹彩の魔鳥』に『魔龍の血を得し者』。 加えて、私とディンは『伝説を探求する者(レアハンター)』とも呼ばれておるようじゃし、ぴったりかもしれぬな」
ははは、と笑いながらそう答えるエミリア。
周囲に座るそれぞれの呼び名や能力を持つ一同もまた、少し苦笑するかのような笑顔でその一言に答えていた。
「全員、異論はないようじゃな? なれば、支援士ギルド『Little Legend』、これから、皆でがんばっていくとしようぞ!」
そう言いながら、”おーっ”とでも言わんばかりに手を突き上げるエミリア。
……恐らく北の”オーロラ”に続き”虹彩の魔鳥”をもその目で見た事で、テンションの高い状態が持続的に続いているのかもしれない。
そう察した周囲は半ば呆れつつも、笑ってその行動に付き合うように手を上げていた。








――虹のふもとには宝物が埋まっている――
それは誰が言い出した伝説なのかは分からないけれど、確かに宝物は埋まっている。
多くの仲間達と共に雨上がりの空を見上げ、虹の姿を一望すれば――感動という名のほんの少しの幸せが、仲間の数だけ膨れあがる。

Foot of The Rainbow ――虹の足元(ふもと)
―――それは、小さな喜び



THE END