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―6―




――その夜、エミリアとリスティの二人はメンバー全員での夕食も手早く済ませて、一足先に全員の前を後にし、エミリアはリスティの、リスティはエミリアの部屋へと”戻って”行った。
外出中にはヴァイとディンになんとか最後まで気がつかれずにいたが、その間に受けた精神的負担は二人とも大きく……今は、二人とはできるだけ顔を合わせたくない気分だったのかもしれない。



「……ふぅ……」
ぼふっ、と音を鳴らすような勢いでベッドに背中から倒れこむエミリア――の姿をしたリスティ。
エミリアの部屋はシンプルで片付いていて、壁の一角が本棚で埋められている以外は、特に大きな装飾は施されていない。
……かといって何もない殺風景な部屋というわけでもなく、所々に細かいアクセントが施されているのは、結構センスはいいかもしれない。
いろんな珍しいものや綺麗なものを集めていると聞いていたので、最初にこの部屋を見た時は少し意外なものを感じていたのを覚えている。
その時はまさか、この部屋で自分が一人で眠る事になるとは予想もしていなかった。
「……エミィさんの気持ち……ディンさんへの想い……」
すっと目を閉じて、深呼吸一つ。
そして思い返すのは、今日の出来事……
朝にエミリアに叩き起こされて、自分達が入れ替わっていることに気が付いて……
ヴァイとのデートを任せる事になって、気が付いてくれない彼にちょっと怒って、鉢合わせたディンと教会に行き……
そして、気付かされたエミリアの想い。
……その感情は強すぎて、自分のものなのか彼女のものなのか、分からなくなりそうな自分が恐かった。

「リス……っと、エミィさん、入ってもいいですか?」

何に対してのものなのか、少しだけ動悸している事に気が付いた丁度その時、ドアの外から聞こえてくる声。
それは自分のもの――つまり、エミリアが外にいるということになる。
「は、はいっ…!」
あわてて返事をするその声は、軽く裏返ってしまっているのが自分でも分かった。
……少し落ち着こう、と再び深呼吸を繰り返す。
「なんだか眠れそうになくてな。 少し話をしようと思って来たのじゃが」
そんなリスティの様子を知ってか知らずか、軽く微笑みを浮かべながら部屋に入ってくるエミリア。
どうやら廊下では誰かに見られる可能性を考えて、口調を変えたままにしていたらしく、ドアを閉じたとたんに、元々の彼女の口調に戻っていた。
「あ……私も、なんだかそんなかんじです」
寝間着を来てまくらを抱えて来ている事から、話をしにきたというより一緒に寝に来た、の方が正解かもしれないが、リスティは特に気にした様子も無く、ただ微笑んでそう返事をする。
「まぁ……その、情報交換の方が……目的じゃけどな」
その様子を確認すると、ベッドに座るリスティの横に腰かけ、何故か顔を赤らめてそんな事を言い出すエミリア。
「…情報交換ですか?」
「うむ。 ……これで朝起きて元に戻ってたら、お互い”自分”が何をしたのか知らないのは問題じゃろうし……」
「あっ、確かにそう……ですね、はい……」
そして、その言葉の主旨を理解し、相槌を打とうとしたリスティだったが……
今日自分がした事、聞いた事をエミリアに伝えると言う事は、ケルトに指摘された事や、自分とディンとのやり取りも全て話さなければならないと言うことになる。
……もし隠していた気持ちだったとすれば、他人がおいそれと踏み込んでいい話題でもないのだが……
「……ディンといて何か感じたのか?」
「…え、ええ!!?」
少し顔を赤らめつつも、目を細めながらそう問いかけてくるエミリア。
リスティは、自分が何かを言う前にストレートな指摘を受け、思わず大きく叫ぶような声を上げてしまう。
「いや……私が、お主の身体でいて、ヴァイに……多分じゃが……その、恋……のようなものを感じてたから……」
「……あっ…!?」
――そう、エミリアの身体で過ごしていた自分がエミリアの思念をトレースしていたという事は、自分の身体で過ごしていたエミリアもまた、自分の思念の影響を受けている可能性がある。
どこか申し訳無さそうな表情で、顔を赤らめながらエミリアが口にしたその言葉で、リスティはようやくその事に気が付くに至った。
……同時に、胸の奥底から恥ずかしさのようなものが混み上げてきて、目の前の”自分”と負けず劣らず顔を赤くしてしまう。
「え、えっと……その……」
しかし、だからといって自分が感じたものをそのまま口にしてもいいのだろうか?
先程考えるに至ったように、もしエミリアが他人に対してその気持ちを隠していたのだとすれば、ここで答えれば彼女を傷つけてしまうかもしれない。
……自分に関しては、メンバーの中では既に周知の事実なので、”言われて恥ずかしい”程度で済むのだが……
「正直に答えてくれ。 お主は私の中で、私の心を感じたはず………私は、ディンにどんな感情を持っておったのじゃ?」

―!? ……自分の気持ちに……気づいてない……?―

一瞬、そんな結論を考えたが、それは違うと思い切り捨てる。
気がついてないなら、こんな表情で、こんな内容の質問を、こんな聞きかたで尋ねてくるはずがない。
「……自覚したのは、お主の心に触れたからじゃ。 ヴァイに対する感情は自分のものじゃないと言い聞かせている時に、ふと……あいつの顔がうかんでな」
リスティの表情から何かを察したのか、またすこし顔を赤らめつつも、俯いてそう付け加えるエミリア。
その瞬間の顔を目にし、リスティは少し迷いつつも……答える事に決めた。
カウンセリングの経験は少なく、自信などないに等しいものだが、目の前の女性が、何に悩んでいるのかは理解できた。
「……私は、エミィさんの気持ちに触れて……すごく、恐かったです」
「…え?」
自分の気持ちには気づいているものの、受け入れるには心の準備ができておらず……頭のどこかで、否定している。
その理由は、受け入れれば、いままでの関係も壊れてしまうかもしれないという恐れ……
要するに、欲しいのは他者から肯定の言葉……決心するための後押し。
「恐いくらいに、強い想い……今でも、ディンさんのこと考えるだけで……私のヴァイさんへの想いは、この程度だったのかなって、思うくらい……胸が、高鳴って……」
嘘は言っていない。
ケルトに指摘を受けてからというもの、少しでも意識してしまえば動悸が激しくなってくるのを感じてしまう。
ヴァイへの気持ちが消えてしまったわけでは無いが、このままいけば、その気持ちも塗りつぶされてしまいそうな……
そんな恐怖を、リスティは抱いていた。
「……同じじゃな。 今の私も、ヴァイに対してはそんな感じじゃよ」
ふふっ、と含み笑いを漏らして、そう答えるエミリア。
ただ、その表情には少しだけ余裕が出てきているようにも感じられた。
「……あの、こんなに強い気持ちをお持ちなのに……なぜ、いつもあんな風に普通に振舞えるんですか?」
その様子に少し安心して、カーディアルトとしての対応から、今度はリスティ個人の疑問を持ちかける。
――友達や、親友。 エミリアとディンの二人は、端から見ればそれ以上の関係には見る事はできないから。
「普通……? ……普通か……」
その言葉を受けて、今度は考え込むようにして顔を伏せるエミリア。
その瞬間の表情に、先程のような追いつめられたような様子は無い。
「……あいつとは、物心付いた頃からの付き合いじゃからな。 ……たとえ気持ちが変わっても、他の関わり方を知らなかっただけじゃよ」
「……」
「……だからこそ、自分の気持ちにも気付かなかったんじゃろうな……十八年……ずっと、互いに隣にいるのが当たり前じゃったから……」
「……エミィさん……」
…自分と、ヴァイの関係を否定したいわけではない。
むしろ、そういった関係だったからこそ、今の二人があるのだと考えている。
それでも、エミリアとディンの間柄は、なぜかとてもうらやましく感じられた。
「……長い時間の中で、自分でも気が付かない間に大きくなった想い…………まだ一年ちょっとの私が、想いの強さで勝てるはずがありません」
だからこそ、自分の心がエミリアの想いに潰されそうになった……
実際にそうだったのかは分からないが、そう思う事で、まだ救われた気分にもなる。
……ヴァイに対する気持ちは、誰にも負けない自信はあるけれど、それを塗りつぶされそうな錯覚すら覚えたという事実は、リスティにとっては大きな負担になり得るものだったのかもしれない。
「……そう言われると、恥ずかしい気もするが…………」
「エミィさんとディンさんなら、きっと上手く行きますよ。 ディンさんも、エミィさんの事とても大切に思っていらっしゃいますから」
「……確かに、そうかも知れぬな……  なんとなく、決心がついた気がする。 ありがとう、リスティ」
「はい。 どういたしまして」
お互いに向かい合って、笑い合う。
その表情の中には、不安や脅えなどはなく――ただ、安心した気持ちだけが、込められていた。









「……なんか、結果的には上手く回りそうな感じだね」
エミリアの部屋の前で、壁越しに二人の会話を聞いていたティール。
最初からずっと聞いていたわけでは無いが、すくなくともエミリアの気持ちが誰に向かっているのかくらいは理解できた。
……この部屋の前を、自分以外誰も通らなかったことに多少の安堵を感じつつ、ティールはポケットの中に入れている二つの指輪を握りしめる。

――換魂の指輪。
今回の騒動の発端となった『代理人』から受け取った、精神交換の力を持つ道具。
ティールは一度大きく息を吸い吐き出すと、いつもどおりの調子で、目の前のドアをノックした。

「エミィ、リスティ。 元に戻す方法見つけてきたよ」

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