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時刻も昼時とあり、酒場には依頼を求める冒険者だけでなく昼食をしに訪れる街の人間でごった返していた。 運良く空席を見つけることができたトートは注文をした後、酒場のマスターに話し掛けた。
「おっ、見ない顔だな。新米ながらそれなりに場数を踏んでいるとみた。ランク付けするなればD+かC-って所かね。」
酒場のマスターと支援士の職業斡旋者は同義であることが多い。リックテールの酒場のマスターも例外ではなく、若かりし頃はSクラスのレンジャーナイトとして腕を振るっていたという。 トートは食事を摂りながら何か依頼が無いか訊ねた。マスターは渋い顔をして、
「まぁ、無いこともないんだが・・・、お前さんに回せそうな仕事は殆ど午前中のうちに引き受けられっちまっててな・・・。Eランク程度の店番の依頼くらいしか残ってないんだが、それでもいいか?」
と、1枚の依頼書を出してきた。依頼書には「店番求む。報酬は5000フィズ」と書かれており、店の位置を記したのであろう簡単な地図が描かれていた。もともと金欠で、依頼の選り好み等できないトートは一も二も無く承諾した。

「はぁ・・・、支援士初仕事が店番だなんてカッコつかねぇよなぁ・・・」
地図と睨めっこしながらトートがぼやく。
『元はといえばお前が寝坊なぞするからだ。自業自得だな。』
「うぐ・・・痛いところ突いてくれるぜ・・・。っと、ここだな。」
依頼主の経営する雑貨店はリックテール商店街の一角にあった。外装は他の店と同じくシンプルなものであったが、屋根に飾られた「ランディス雑貨店」の文字がトートの目を惹いた。
「『ランディス雑貨店』・・・?どこかで聞いたような・・・」
訝しみつつ店内に入ると、小ぢんまりとした店内に所狭しとばかりに様々な品物が並べられていた。そして、店のやや奥まったところにはカウンターがあり、20台半ば位の女性が気だるげに座っていた。
「いらっしゃい。何か用かしら?」
鋭い眼光に射竦められながらもトートは店主に店番の依頼の事を話した。
「ああ、あの依頼ね、私はてっきりその腰に吊ってる片刃剣の鑑定を頼みに来たのかと思ったわ。」
「えっ!?この刀のこと、わかるんですか?」
トートは驚きを隠せなかった。一目見ただけでこの刀が特別な物であると見抜いたのだ。特に見せたわけでないにも拘らずだ。
「なんなら鑑定してあげてもいいわよ。どうせ接客するのはあなただし。」
「是非お願いします!」
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私はアリシア・ランディス。この雑貨店の店主をしてるわ。従業員を呼んでくるから店番の事はその人に聞いてね。」
アリシアはトートから斬鬼を受け取ると店の奥へと消えた。

「刀人!?おまえかぁ、臨時の店番ってのは!」
「カズ兄!?カズ兄が雇われてたのってこの店だったのか!!」
店の奥からやってきたのは以前クロッセルで再開したカズマだった。カズマの話によると、普段はアリシアの妹であるフィオナが店番をしているのだそうだがそのフィオナが風邪を引いて寝込んでしまったらしい。
しかし、アリシアはアイテムの製作で、カズマはフィオナの看病でそれぞれ忙しく、急遽店番を依頼することになったのだそうだ。
「そんなわけで刀人、しっかり店番しとけよ!俺はフィオナさんの看病で忙しいんだからな」
そう言うと、カズマはそそくさと奥へ引っ込んでしまった。

慣れないながらも店番の仕事は順調で、なんとか閉店時間まで客を捌き切る事ができた。
「ご苦労様。そろそろ店仕舞いの時間ね・・・。」
アリシアが奥から出てきた時に、不意に来客を告げるベルが鳴った。
「アリシアさ~ん、いますか~?・・・ってトート!?何故ここに?」
「ミリィ!」


アリシアとミリィの話によると、ミリィはここの常連で、看板娘であるフィオナとも歳が近く仲が良いのだそうだ。そのフィオナが寝込んだと聞いてお見舞いに駆けつけたのだという。
「それにしてもトートがここで仕事をしていたなんて驚きました・・・。」
「オレもミリィがここの常連だとは思わなかったなぁ・・・。」
奥からカズマが4人分の紅茶を運んでくる。
「フィオナの具合はどう?」
アリシアが訊ねる。
「もう熱も下がりましたよ。さすがアリシアさんの作る薬は効果抜群ですね!」
「そう、それは良かったわ。・・・ところでトート君、キミの刀のことなんだけど・・・」
アリシアは預かっていた斬鬼をトートに返すと言った。
「まずあらかじめ言っておくけど私はブラックスミスじゃないから片刃剣については詳しくは無いわ。ただ、この片刃剣に使われている鉱石はかなり特殊な物よ。」
その言葉にミリィも頷く。
「私も薄々気付いてはいましたが、この片刃剣には魂が宿ってますね。私も形見を持っているからなんとなくですけどわかります。それがアリシアさんの言うことに関係があるかはわかりませんが・・・」
「ミリィちゃんは鋭いわね。この片刃剣に使われている金属の元となった鉱石には、魂を引き寄せる力があるの。ただ、普段の力は弱いから輪廻の輪の中から引っ張り出すようなことは出来ないけどね。」
「それじゃあ斬鬼・・・この刀の中に閉じ込められてる人間の魂のことですけど・・・斬鬼はその所為でこの刀に?」
「話は最後まで聞くものよ。鉱石そのものの魔力は低いわ。ただ、その鉱石に強大な魔力を注ぎ込むことによってたとえ輪廻の輪の中からであろうとも魂を引きずり込むことが出来る・・・。」
そう聞かされ、トートの脳裏に昼間の神父の言葉が蘇る。『魔力のようなものによって無理矢理宿らされている』と。そのことをアリシアに話すと、アリシアの顔に僅かばかりの嫌悪感が滲み出た。
「ふぅん・・・。ま、頭のお堅い教会の連中じゃそれが精一杯でしょうね。私はクリエイターという職業上多くのアイテムを見て来ているわ。だから、鉱石に莫大な魔力を注ぎ込むためのアイテムのことも知っている。」
そこでアリシアは一呼吸置き、紅茶をすすった。
「『グリモワール』・・・。我が物とした者に遥か古代の禁断の知識と膨大な魔力を授ける本だと言われているわ。そして魂を操るのなら系統的にはネクロマンサーが近いかしらね。おそらく、その斬鬼とかいう人間の魂を片刃剣に封じ込めた奴はグリモワールを手にしてるわ。何のために魂を引きずり込んだのかはわからない。けどこれだけは言えるわ。そいつはかなりの術師だということね」
締めくくりに、「私にはその魂を開放することはできないわね」と言い放つと、アリシアは残りの紅茶を一気に飲み干した。
「さ、そろそろ店仕舞いするわよ。それが終わったら報酬を渡すわ。今日はご苦労様。」


「『グリモワール』かぁ・・・。なんだか途方も無いスケールになってきたなぁ・・・。」
トートは借家の自室にてひとりごちた。今日1日で大きな手がかりを得ることが出来たが問題の解決には殆ど近づいていないように思えた。
『うむ、俺もこの刀はどこか普通の刀とは違うと日頃から思っていたが・・・。まさか魂を喰らう物だったとはな・・・』
「はぁ、今日はいろいろあって疲れたなあ。明日からは依頼をこなしながらグリモワールについて調べなくちゃいけないな。そうと決まれば取り敢えず寝よう。おやすみ~」
『ふぅ・・・暢気な男だ』
斬鬼は嘆息した。今なら刀となった身でも溜息が出るような気がした。