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―エピローグ―





――朝、リエステール市街から少し離れた二階建ての木造物件。
そこは、ごく最近『Little Legend』と名乗るギルドの者達が、本拠地として買い取った家。
……昨日はその住人の一部を巻きこむちょっとした事件が引き起こされたのだが、果たしてその結末は……



「おはようございます」
リビングでティールが一週間に2~3回程度届く新聞をぺらぺらとめくっていると、カーディアルトの僧服を身につけたリスティが、いつもの微笑みを浮かべて呼びかけてきた。
「おはようなのじゃ、ティール」
その後ろから、追従するように現れるエミリア。
そちらはいつもの黒いドレスとベレー帽ではなく、シンプルに着こなされた淡い色のワンピースを身につけている。
それは、特に出かける予定がない時に、彼女がよく着ている服だった。
「うん。 おはよ」
ティールは真ん中ほどまで開いていた新聞をたたんで、そんな二人に返事をする。
「二人とも、おはよー」
……そして、その直後に三人の耳に入ってくる声。 ティールは、最初から顔を合わせていたので特に驚く様子も無かったが……
「先生っ!?」
「エルナ。 こんな朝早くから来るとは、何か用事でもあるのか?」
その声の主は、教会の有名カーディアルト、シスターエルナ。
普段こんな朝早い時間には、めったにこの場所まで来ることは無く……メンバーにとってその行動は、”めずらしい”の一言だった。
……とはいえ、昨日の彼女との関わりを思い返すと、二人はやや驚いたものの、なんとなくその目的は理解できていた。
「それより二人とも、今日はどう?」
たたんだ新聞をテーブルの上に放り出すと、ティールは椅子から降りて、二人の前へと歩を進める。
そして、問いかけられた二人は一度顔を見合すと、互いにクスっと笑って、何も言わずにティールの方へと目を向けなおす。
この二人は、性格が対極に近いものの、基本的に仲がいい。
その行動は、互いに同じことを考えている時に行われるいつものことで……その瞬間の様子を見るに、今朝は”いつもどおり”のようだった
「ふーん……どうやら、問題無さそうだね」
やれやれ、とばかりに苦笑混じりの微笑みをうかべ、ごそごそとポケットから小さな箱とカギを取り出すティール。
そして、無言のままに箱を持った手とは逆の手を、何かを催促するように二人に向けて差し出していた。
「おお、そうじゃったな」
「あっ、はい。 これ、お返しします」
二人は特に考える間も無く、それぞれの一指し指にはめられていたシルバーリングを外し、差し出されたその手に受け渡す。
ティールは軽く指輪を見つめると、そのまま開いた箱の中に放り込んでいた。
「あら、今の……指輪かしら?」
その一連の行動を見ていたエルナは、何かを期待しているような目でそう問いかける。
それに対する答えに、エミリアとリスティは少し迷ったような様子だったが……
「これ、『換魂の指輪』って言って……簡単に言えば、身につけた者同士の精神を入れ替える道具かな」
箱にカギをかけながら、あっけらかんと答えるティール。
……いつも隠すべき事は隠し通す彼女がここまであっさりと答えを出すと言う事は……
エルナもまた、昨日の事態に気付いていた一人と言うことだろう。
「あら、そんなおもしろ……じゃなくて大変な道具、どこで手に入れたの?」
「……せ、先生……今……」
と、何かを言いかけたものの、リスティはそれ以上口にするのを止めた。
エルナの性格から、こういった道具に対して”そういう”感想を漏らすのは、普通に予測できたことである。
「とにかく、おかげさまで元通りじゃよ。 ……できれば二度とゴメンじゃがな」
「……私も、さすがに今回ばかりは……」
そう言いながら、二人揃って、”ハァ…”と大きく溜息を漏らす。
さすがに昨日の事は精神的負担の方が大きく、状況を楽しむなどということは出来なかったらしい。








――そして、ヴァイとディンもリビングに現れ、朝食ができる頃合いにティールがイリスを起こし、エルナも交えて朝食をとる一同。
その間、昨日の事を意識してか、エミリアとリスティは若干男性二人から視線を逸らすような形を取っていたが……
「……ディン、ヴァイ、ちょっとそこに立ってくれぬか?」
全員が一通り食べ終え、そろそろ中身の片付いた食器を流し台に持って行こうかと言う時に、意を決したようにエミリアが二人にそう声をかけた。
ディンとヴァイの二人は少し首をかしげつつも、真剣なその表情に押され、言われた通りの位置に移動する。
……エミリアはその間にリスティの腕を引くようにして立たせ、そのまま引っ張って二人の前に立たせていた。
「ママ、エミィおねえちゃん何やってるの?」
「うーん……まぁ、”確認”でもしようとしてるんじゃない?」
その一連の動作に意味を見出せないイリスと、なんとなくその意図を理解したらしいティール。
エルナもまた、黙ってニコニコと笑いながら事の次第を眺めているようだった。
「……エミィ、何を始める気だ?」
「いや、二人は別に何もしなくてもよいぞ? ……さて、リスティ」
「は…はい?」
いたずらを思いついた子どものような笑みを浮かべ、そのままリスティの顔に目を向けるエミリア。
そして未だにその意図が読めず、戸惑うリスティだったが……
「――せいっ!」
「きゃっ……!?」
さっとリスティの背後にまわりこみ、思いっきり正面に立つディンに向けて突き飛ばすエミリア。
いきなりの行動に意識がついていかず、リスティはそのままディンの胸板に倒れこむようにして身体を預ける形になった。
「っと……大丈夫か?」
「あ、いえ……大丈夫です」
その事態にディンも多少驚いた様子ではあったが、倒れこんできたその身体を支え、落ち着いた様子でリスティを立たせている。
……リスティは恥ずかしげに少しだけ顔を赤らめて彼の元を離れるが、その直後に再びエミリアに引き寄せられ、倒れはしなかったものの軽くバランスを崩しかける。
「…エミィさん、どうしたんですか……?」
「……いや。 今ので、何か感じたか?」
その問いに、彼女にしか聞こえないような小声で語りかけるエミリア。
リスティは、一瞬その言葉の意味を考えるが……
「え? ……あっ、いえ。 ……ちょっとドキッとしましたが、昨日と比べたら……」
それが”後遺症”の有無の確認であったことに気付き、真剣な表情で返事をする。
……さすがに、男性の胸に押し付けられるという事態そのものに慣れていないので、顔に差しこんでいる赤みは、動揺からくるものというのが正解だろう。
「……ま、昨日の今日で意識するなと言う方が無茶じゃし、そんなもんじゃろ」
その様子を確認して、エミリアは”ふむ”とでも言うようにあごに手を当ててそう答えた。
とりあえず、リスティに関しては安心といったところだろう。
「…さて、と……」
しかし、”確認”はそれだけでは終わっていないのか、今度はエミリア自身がヴァイの方へとスタスタと歩いていく。
「……さっきからなんだ?」
「いや、ちょっとな」
先程からの妙な行動に怪訝な顔を見せつつ、ヴァイはエミリアに呼びかける。
だが、エミリアはそれにまともに受け答えするような様子は見せず……代わりに、ヴァイの背に手を回して、ぎゅっと抱きつくという行動に出ていた。
「……だから、なんなんだよ」
現状、過去何度も行われたエルナの抱き付きに慣れてしまっているせいか、この程度の行動では特に動揺もしないらしいヴァイ。
しかし、エミリアの後方でやや危機感に満ちた顔を見せるリスティに対しては、少しだけ揺らいだ様子を見せていた。
……エミリアは少し顔を動かし、横目でリスティの様子を確認した後に、再び口を開き、こう答える。
「愛の抱擁…かの? 私、ヴァイの事結構気にいっておるからな」
「…………」
やや頭を抱えるように溜息を漏らすヴァイと、その隣で僅かに沈んだような顔を見せるディン。
……そして、その突拍子も無い言動に耐え切れなくなった少女がひとり……
「……え、エミィさん!! 何言ってるんですか!!!」
ヴァイとエミリアの間に割って入り、怒ったように声を上げるリスティ。
相手がエルナならばまだ”いつもの事”と言い聞かせて我慢できたが、それが他の女性になるとまた話は別ということだろうか。
「落ち着け、冗談に決まってるじゃろ? 私は、人の彼氏を取るような無粋な女では無いぞ」
しかし、当のエミリアは特に反省した様子も無く、ケラケラと楽しそうに笑ってそう答えるだけだった。
「も、もう……そんなこと、やめて下さい……」
「ふふっ。 ああ、すまぬな、ヴァイ。 実は昨日リスティからお主のことをいくつか聞いておってな。 もしエルナ以外の女がこういう行動に出たら、リスティのヤツはどんな反応するかなと」
……もはや、リスティはちょっとした怒りと大きな恥ずかしさで、顔を真っ赤にして俯いたまま、何も言わなくなっていた。
テーブルでは、状況がよく分かっていないらしいイリスと、すこし苦笑気味の表情を浮かべるティール……そして、かなり楽しそうにその状況を眺めるエルナの姿。
「エミィ、いったいどうしたんだ? ……さっきからおかしいぞ」
そして、普段の彼女の様子を知るディンは、いつも以上に突拍子の無さ過ぎる彼女のそれらの行動に、ただ疑問ばかりを抱き……
さすがに見ていられなくなったのか、いつもより少しだけ語調を強めて声をかけていた。
「…………」
しかし当のエミリアは、急に真剣な顔を見せるものの、何も言わずにスタスタと彼の元へと近寄っていく。
「……ぅ……?」
そんなただならぬ気配を放つ彼女に気圧され、思わず後ずさりかけるディン。
それでも、エミリアはかまわずに近付いていき……あと一歩で自分と相手の身体が触れるという位置で、ぴたりとその足を止めた。
「……ディン……」
少し顔を赤らめて、すっと目の前の相手の首筋に両手を回すエミリア。
その瞬間の表情は、どこかこわばっているようだったが、その中に妙な艶っぽさを感じさせる、今までディンも見た事の無いものだった。
「……お、おい……?」
背後では、見るからに興奮して目をみはるエルナと、やれやれとばかりに新聞を手に取るティール。
そして、やっぱり状況がよくわかっていないらしいイリスと、何も言葉がでてこない様子のヴァイとリスティ。
……そのままの状態で、数秒が過ぎ……
「んっ…」
ある一瞬が過ぎた瞬間、つま先立ちで足を伸ばし、同時にぐっと回した手に力を込めるエミリア。
直前の、今までに無いような出来事だけでも若干動揺していたディンは、その行動に抵抗する事もできず、そのままその顔を引き寄せられていた。
「ん゛っ……!?」







―沈黙―









「えっ……え……ええええええええええええ!!?」



十秒にもわたる静寂を撃ち破ったのは顔を熟したりんごのように真っ赤に染め上げた、リスティの叫び声だった。
その目の前では、唇を振れ合わせたまま動く事の無い男女の姿。
……と言っても、男性の方はあまりの事に全ての思考が停止し、ただ硬直しているだけの状態なのだが……
「……ふぅ………」
リスティに負けじと顔を赤らめつつも、どこか満足した様子で唇を離すエミリア。
「……お……え……?」
ディンは、もはや完全に硬直し、今までになく耳まで顔を真っ赤にして、自身の口に手を当てたまま硬直していた。
……その様子を見ていた観衆はというと……
ヴァイは呆れて頭痛を抑えるように額に手をやり、リスティは叫んだままの耐性で固まって……エルナは、もはや笑いをこらえるのも限界といった様子で机に突っ伏している。
また、イリスは”キス”という行為に多少関心を持ったのか”おお~”とでも言いそうな表情で二人を眺め……ティールは新聞の端から横目でその様子をながめていたようだが、特に大きな反応も見せず、ぺらりとページをめくっていた。
「……」
エミリアは、そんな彼らの状態に目を向けた後に、再びディンの方へと向き直り、再び口を開き――



「……ディン、私はお主の事が好きじゃ!! だから、絶対に私以外の女に振り向くな!!」



――顔を真っ赤にしたままそう叫んだかと思えば、バタン! と大きく音を立ててリビングの扉を開け放ち、そのまま自分の部屋へ向かって走り去っていってしまった。
……ドタドタドタ、という音の後に、自室の扉まで思いっきり強く閉じた音が響いてくる。
「あーらら。 あそこまではっきりと彼女宣言されるなんて、ディンも罪な男よねー」
……そんな中で、エルナだけは思いっきり状況を楽しんでいるようだった。






「返事、せめて今日中にしてあげなさいよ?」




―END―