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―3―




――朝。
今日も、何か変わったことでもないものか、とつぶやく人もいるかもしれない平凡な日々がまた始まる。
それでも、この平穏はこの街が平和である証でもある。
特別な事件というものは、悪い兆候を交えるものが多く存在しているのだから。
それでも、”本当に何も起こっていないのか”といえばそれは否であり、中には、必ず小さな非日常に見舞われている人たちも存在している。
……何か変わったことでもないものか、そう口にする人は、たまたま”非日常”が訪れていないだけ。
世界は、小さな非日常の繰り返しで成り立っているのだから。



それは、ちょうど朝食を食べ始めようかという時だった。
ヴァイとリスティは三日ほど前から街を離れているので、今この場にはいない。
その一点については特に珍しいことでもなく、残されているメンバーも気にするようなことはないだろう。

「たーのもー!」

玄関の方から、ノックと同時にそんな声がギルド内に飛び込んできた。
それは、少なくともいまここにいるメンバーは耳にしたことのない声で、来客が来るような知らせもない。
全員が軽く考え込む中、ふとティールが”直接依頼しに来た人かな?”などと口にしながら席を離れ、玄関の方へと歩いて行った。
「……直接依頼人が依頼に来るほど有名か?」
そう口にしながら、ブルーベリージャムを塗ったトーストを口にするディン。
尤も、一度だけ名指しの依頼があることはあったかもしれないが、あの時は依頼人が悪巧みに利用するだけの目的だった。
……その事件があったからこそ、今この場所に自分たちがいるのだが……
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、なぁに?」
その事件の発端となったイリスに、そろって目を向けるディンとエミリア。
思うところは色々あるが、彼女にはなんの罪もないし、結果的に今はいい方向に回っているので、恨むような理由もない。
二人は微笑んで取り繕うと、再び目の前の朝食に手をつけ始めた。
「エミィ、ディン、イリス。 さっきのお客さん? 通すよ」
そして、そうこうしていると玄関の方から聞こえてくるティールの声。
……なにやら言葉の間にハテナマークを交えるという微妙なニュアンスが含まれていたのが気になるものの、特に逆らう理由もないのでてきとうに返事をする。
その後、これといった間も置かずに帰ってくるティールと、その後ろをついて歩くようにやってくる二人の客人。
片方は14~15歳程度に見える小柄な体型をしており、左右に下げている双剣から、ツインエッジかセイクリッド、もしくはクレセントのどれかといったところだろうか。
そしてもう片方は、膝ほどまで髪を伸ばしてドレス風の衣装を身に着けた女性で、その手には日傘と思わしきものが握られている。支援士だとすれば、マージナル系だろう。
「……あれ、ここってあと二人ほどいるんじゃ?」
ふと、小柄な方がそんなことを口にする。
おそらく、ヴァイとリスティの事を言っているのだろう。
「残念だけど、あの二人なら今はいないよ」
「……フルメンバー揃ってないのか……まぁいいや」
ティールの答えを聞くと、独り言でも言う用にそう一言呟く。
その表情はどこか残念そうな空気をにじませているものの、それをひきずるような様子も無く、次の瞬間にはその雰囲気は消え去っていた。
そして、少し間を置いた後に、改めてティールとテーブルについている三人に向けて、高らかに宣言するかのように口を開く。
「ボクの名はリーゼ・エルヴィオン、見ての通りセイクリッドだ」
その様は小柄なその体躯からは考えづらいほど勇ましく、自信に溢れたものだった。
とてもではないが、わざわざ何かを依頼しに来たような様子には見えない。
そして、それに続くかのように、今までその横で終始微笑んだまま黙っていたもう一人が、ここにきて初めてそのままの表情で言葉を発した……が、
「はじめまして~。 わたしは~リーゼの姉で~カノンと申しますの~。 この度は~突然押しかけて~もうしわけありません~~」
―……遅い……―
その言葉に対してティール達が抱いた感想は、ただその一言だけだった。
喋り口調はどこかお嬢様をイメージさせるもので、その雰囲気はリーゼと対象的に穏やかで優しげな女性のもの。
……しかし、そういった雰囲気を差し置いても、とにかく喋り方が遅い。
もはや”間延びした声”などという領域も超えてしまっているのではないだろうか。
「……カノン……エルヴィオン? まさか、『アンブレラ』のカノンか!?」
だがそんな中で、エミリアだけはその言葉の中身に反応していた。
……尤も、話す口調に対しては、周囲と同じ感想を抱いていたのも確かな話ではあるのだが。
「確かに、わたしは色々な方から~アンブレラと呼ばれていますので~、そう呼んでいただいてもかまいませんよ~」
「……ボクもいつも一緒なのに、なんでねーちゃんばかり通り名があるかな」
カノン本人は大して気にした様子も無く、ただあっけらかんと返答しているようだったが、リーゼは自分との名声の差に多少不満があるようだった。
とはいえ、『アンブレラ』が二人組のチームの一人である、という話も世間では有名なので、リーゼの存在が認められていないというわけでもないのかもしれない。
「ま、いいや。 そんな事よりも……」
とりあえず、このリーゼと言う人間はあまり細かいコトを延々と考え込むような性格では無いようだ。
それを証拠に、不満そうだったその表情は、さっきと同じようにさっさと消え去ってしまっていた。
そして、そのまま続く一言。 それは―――
「あんた達、ボクらと勝負しろ!!」
……それはお願いなどではなく、だれがどう聞いても命令口調。
しかし、その一言のおかげで最初にティールが?マークをつけたような言い回しをした理由を理解できた。
勝負を挑んでくるというのは、『お客さん』というより『道場破り』に近いからだ。
「勝負しろって言われてもな……」
もちろん、こちら側には命令されて従う義務もなければ義理もないし、そもそも勝負を挑まれるような事をした覚えも無い。
単刀直入に本題を口にするのは悪くないが、言われた側にしてみればあまりいい気分はしないだろう。
「あんたたちは、モレクのエメト・ルミナスを倒したって言う『レアハンター』と『パピードラゴン』だろ?」
「……もう一年と半年くらい前の話じゃな」
「まぁ、あの時も色々あったけど、今となってはいい思い出だよね」
あの後、ティールがモレクの酒場のマスターに巨大ゴーレムと”白い鉱石”の関係を話し、”白い鉱石探し”の依頼のランクが調整されたのは有名な話である。
その派生で、『レアハンター』と『パピードラゴン』がその巨大ゴーレム……エメト・ルミナスを倒したんだという噂も広まっていたというのも、一応本人達も認識していた。
とはいえ、そちらに関してはすでに忘却の彼方においやられそうになっていた事なのだが。
「だったら、それなりに強いはず。 ボクは、ボクとねーちゃんのチームが最強だって証明したいんだ!!」
「……最強の証明、か」
リーゼの言葉に、やれやれとばかりに溜息をつくティール。
別にその目標が悪いとも思っていないし、そう口にする人間が嫌いなわけでもない。
……しかし、”最強”という称号はそんなに甘いものでない事も知っている。
それゆえに、どこか滑稽に感じる気持ちも確かにあった。
「……もうしわけありません~。 突然おしかけてお願いするような内容ではないのは重々承知しております~……
ですが~、リーゼのわがままのために~一度だけお時間いただけないでしょうか~」
「……うーん」
言葉のニュアンス通りの、どこか申し訳無さそうな表情でそう口にするカノン。
その顔を見れば、彼女の方は、どうやら勝負すること自体にはそれほど乗り気では無いような印象を感じられる。
……それでもリーゼの行動につきあっているのは、何か考えでもあるのだろうか?



「……私は別に構わないけど、皆がどう言うかだよね」
そこまで考えると、ティールはただそれだけを口にし、テーブルにつく三人にその視線を向けていた。

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