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―4―





場所はリエステール東街道……では馬車などの通行の邪魔になるので、街道からややはずれた地点を選んでいた。
地形的アドバンテージはどちらにも傾いておらず、兵力差は4:2.
単純な数字の上では、こちらが有利な状況である。
人員に関しても、ティールが斬り込み、ディンが盾に、そしてエミリアとイリスが後方から魔法で攻撃する、とバランスはとれている。
……ただ、イリスに関してはせいぜい火と風の中級魔法がかろうじて使えるといった具合で、多属性合成魔法も下級魔法同士を組み合わせて中の下程度の威力を出すのが関の山で、中級同士を組み合わせるほどの能力はまだ持ち合わせていない。
尤も、中央都市近辺のフィールドをうろついている魔物程度ならそれでも十分対応できるのだが、今回は”対人戦闘”であり、その相手をする二人組は間違いなく自分達と同格以上なので……イリス単体で魔法を使わせたところで、手も足も出ないだろう。
―イリスはできて牽制程度、魔法で実効が期待できるのはエミィか…―
それは考えるまでも無いことだが、改めて意識下でそう確認するティール。
戦う前の状況の確認は、やってやり過ぎる事は無い。
「そいじゃ、月並みだけどこのコインが地面についたら開始ってことで」
その正面で、そう口にしながらどこからともなく一枚の銀貨を取り出すリーゼ。
その足には、先程までは身につけていなかった底に車輪がくっついているという、一風変わった靴があった。
また背後に立つカノンは何か言うことも無く、にこにこと微笑んだまま”アンブレラ”の通り名に従うように、傘を広げて普通に構えている。
「オーケー。 わかりやすくていいじゃない」
ティールはちらりと仲間の様子を確認すると、頷きながら返答した。
……とはいえ、一つだけ不安要素がある。
自分にではなく、仲間の一人に。
―ヴァイも一度通った道だね。 ……”形”を見つけられればいいけど―
それは勝ち負け以前のもので、自分が踏み込んでどうにかなる領域ではないことは察していた。
それゆえに、彼女に対しては何も言わない……声をかけるのは、終わった後で十分だからだ。
「いくよ」
リーゼが手の中のコインを投げ上げ、それは銀色の光を放ちながら、空に吸い込まれるかのように高く昇っていく。
その間に、一同は意識を僅かに宙を舞うコインに向けつつ、それぞれの武器を構える。
――コインの高度は頂点に達し、今にも落下を始めようとしている。
戦闘開始の合図は近い――
「あっ」
その時、イリスがそんな声を上げていた。
他の一同も、声にこそ出さないものの、呆然とした目で上空の、”コインがあったはずの場所”を見つめている。
一羽の鳥が、上昇を止めたコインをそのくちばしで咥え、そのまま飛び去ってしまったのだ。
後にはどこか空しい風が吹き、誰もなにも口に出せず、静寂が支配していた……



「……っせぇぇぇぇえええい!!」
一拍置いて、その沈黙を切り裂くようにリーゼが駆け出した――いや、靴底の車輪を使い、”滑り出した”と言うべきだろう。
その足元からは僅かに雷系のメンタルの気配が発せられていることから、使用者のメンタルを動力とする”機械仕掛け”の靴なのかもしれない。
その速度は初速から予想を遥かに上回るもので、同じスピード型のティールですら、一気に距離を詰めてくるその勢いに気圧されかけていた。
「くっ……エミィ!」
その軌道は、一直線に後方に立つエミリアに向けられている。
瞬時にそれを察したディンは、その軌道上に割り込むように飛び込んで、相手の速度と間合いを計り、剣を構える。
相手の得物は刃渡りにして30cmもない双剣。 多少タイミングが遅れても、こちらの2M近い射程ならば斬り返す事は可能だろう。
「――!?」
二人の剣が邂逅するその直前、ディンはリーゼの表情に得意気な笑みが浮かぶのを見た。
――セイクリッドとは、日の下において堂々と戦いを挑み、その攻撃は力では無く、その速力と技……そして”知略”をもって戦うジョブである。
それに気がついたときには、目前まで接近していたその姿は既に視界から消え去っていた。
「――ぁあ!」
「!!」
後方で響く金属音。
目を向けて見ると、エミリアへ向けられた双剣を、槍の柄で受け止めるティールの姿。
ディンに斬りかかる――と見せかけて突如進行方向をきりかえ、視界外にあるうちに後方に回りこむ。
速型のフェイントとしては常套手段だ。
とっさにそれを見抜き、その一撃を受け止めたティール。
リーゼはつばぜり合いなどという力勝負になると、負けが目に見えていると踏んだらしく、受け止められた時点でその場を離れ、間合いの外へと離脱していた。
「エミィ、なにボーっとしてるの! 戦闘中に黙りこんでるマージナルなんて意味がないでしょうが!!」
「――っ!!」
……ここまでだけでも、開始からほとんど一瞬の出来事だった。
それでも、マージナルにとっては移動しながらでも詠唱を始めなければならない時間。
狙いは、詠唱している間にいくらでもつけられる。
「吹き荒ぶ緑を纏う風精 その息吹は――」
「万物を包む大気 風精の契約の下に命ず 万象を絡めとる輪舞曲(ロンド)を奏で――」
「―なっ!?」
その間に、閉じた日傘を杖のようにして振り、詠唱を始めていたらしいカノンとイリス。
それは当初口にしていたような極度のスローテンポな口調とはうってかわって、常人がかろうじて理解できるかもしれない、というレベルの早口。
「――緑旋の矢となりて」
「――ここに舞い踊れ サイクロンウェイブ」
……魔術のレベル的にも”イリスが使おうとした魔法の詠唱の方が短い”上に、その開始のタイミングも同時だった。
しかし、カノンのそれはさも当然のように、イリスよりもはるかに早く完成される。
――直後に巻き起こる暴風の渦。 それは砂塵と小さな草花を巻き上げ、勢い良く接近してくる。
「ぅあっ……」
その勢いからくるプレッシャーに、思わず詠唱を中断してしまったイリス。
竜巻は、その間も確実に彼女の元へと向かっている。
「…くっ…!」
―バーストステップ―
足下に小さな青白い爆風を巻き起こし、トップスピードで駆け出すティール。
竜巻の進行速度と、ティールの足……きわどいタイミングではあるが、間に合う――
そう、思った瞬間だった。
「残念、そう簡単に行かせないよ」
「―っ!!」
割り込むように、二人の間に滑り込んでくるリーゼ。
この状況でイリスを救い出すならば、ティールの足では”直線距離で無ければ間に合わない”
これは、それを見越した上での行動。
「どいて!!」
勢いを止めず、槍を突き出すティール。
しかしリーゼは僅かに身体をそらし、その顔に一筋の赤い線を残しつつも回避する。
そして、そのままティールの懐に飛び込み、両手の剣をその身体に突きつけた……
が、その直前にティールは地を蹴り飛び上がる。
「…やるね!」
ゼロコンマ1秒の差でティールの身体はリーゼの剣の軌道上から離れ、そのままイリスの下へと着地。
間を置かず抱き上げて、竜巻の射線上から退避していく。
「――雷の精霊よ 我が前に在りし敵を包みこめ! ライトニングコート!!」
その直後、詠唱を完成させたエミリアが、リーゼを中心に雷で満たされたフィールドを創り出す。
攻撃を空振り、僅かに体勢を崩した直後と、理想的なタイミングだっただろう。
「MAXドライブ!」
……だが、紙一重のタイミングで足元の車輪を最大出力で回転させ、雷撃が展開される直前にそのフィールド上から退避するリーゼ。
「――その息吹は緑旋の矢となりて 万物を貫かん! エアロスティング!!」
そのままがら空きになったエミリアの元へと走ろうとしたらしいリーゼだったが、その足下にイリスの風の矢を撃ち込まれ、ほんの一瞬その足を止める。
そして、その間に風の矢と同じ方向から一気に駆け寄り、エミリアの前に立ちふさがるティール。
抱き上げていたイリスは、既に地面の上に下ろされていた。
「ドミニオンなんて中途半端と思ってたけど……なかなかあなどれないね」
「それはどうも、でもそんな悠長に構えてていいのかな?」
「……ん?」
――エミリアが、無防備の状態だった。
つまり、彼女の守りに立っていたはずのディンの姿がそこにはなかったということ。
それは何を意味しているのか? ……答えは簡単である。
前衛であるリーゼが離れている、それは、カノンが無防備な状態と言える。
……防御能力の低いセイクリッドが『壁』になるのは少々役不足だが、前衛と後衛の耐久力の差は、普通に考えればそれ以上。
パラディンナイトの攻撃を一撃……多くても二撃食らえば、大体は行動不能になる。
「言葉を返そうか。 そう簡単に行かせないよ」
ディンの接近を止めようとしたのか、身体の向きを変えようとするリーゼ。
だが、それを防ぐかのようにティールは立ち塞がり、少しでも遠ざかるように攻撃を加える。
「……そっちが挑んできた勝負だ、食らえ!!」
その間にカノンをその射程に捉えたディンは、てにした大剣を大きく振りかざす。
マージナルの力では、パラディンナイトの重い一撃は到底受けきれるはずもない。
……そう、普通ならば、それは盾になるはずもないものだった……

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