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――結果、リーゼがとてもではないが戦闘続行できるような精神状態ではなくなった事と、カノン自身が『私達の負けです~』と口にした事で、ひとまずこの唐突に巻き起こった戦闘は終局を向かえた。
双方にとってあまり納得のいくものとは思えない終わり方ではあったが、ディンも満身創痍であり、エミリア自身も極大呪文(コキュートス)の使用でメンタル的にばててきていたので、その一言を受ける事にしていた。
結局その日は使い物にならなくなったリーゼの装備品の代わりを捜して回る事で終わり、その際にまた色々と疲れそうな事があったのは別の話。
……ただ、”男に見られたく無いならもう少し衣装にも気を使え”というエミリアとカノンの言葉の下に、彼女の様相は随分と変わってしまっていたのは確かである。
具体的には、セイクリッドは防具は動きやすい方がいい、ということで、胸当てよりも多少丈夫な素材でできた衣装に。
……腰周りが普通に露出しているような物を選んだのは誰の趣味だったのだろうか。




「――で、精霊宮(エレメントパレス)の加護……だったか? エミィのあの服と、リーゼの武器」
そしてその夜、遅くなるから泊まっていけというティールの言葉に従い一部屋借りたカノンとリーゼを交えての夕食。
その中で、ディンは昼間の戦闘で感じた疑問に対しての質問を投げ掛けていた。
「うん。 と言っても、ボクの双剣は雷の精霊宮、轟雷宮(ライトニングパレス)のトゥールからで……」
「私のクラウンとドレスは、氷の精霊宮、氷昌宮(クリスティオンパレス)のアウドムラから……じゃな」
「……属性でその管理者(パレスキーパー)とやらが違うのは判ったが……そもそも、その精霊宮っていったいなんなんだ?」
その会話のほとんどが、ディンが質問を投げ掛け、リーゼとエミリアがそれに受け答えするという形になり、ティールとイリス、そしてカノンは、その横で黙って聞いているだけの位置に自然とおかれていた。
……尤も、カノンはリーゼが始めて覚醒した時に大まかな話はきいていたらしく、彼女にとってはそれほど聞き耳を立てるような内容ではなかったようではあるが。
「簡単に言えば、その属性能力を極めた人間が夢と言う形で辿りつく精神世界…じゃな」
「そこにいるパレスキーパーと出会い、認められた者には武器や装飾品などのアイテムが与えられ、それらは現実でも『メンタルウェポン』という形で召喚する事ができるようになる」
「私とリーゼを比べてみるとわかると思うが、アイテムの特性は様々のようじゃから一概にどうとは言えぬが……その道具を使っている間は、その属性能力の力を限界まで引き出す事が出来るようになるようじゃのぉ」
「……属性能力の極み……か」
「特性上マージナルが到達しやすいらしいけど、ボクやディンみたいな前衛は……エレメンタルウェポンとかを極めるくらいしか無いね。 呼吸するくらいあたりまえに出来るレベルでないと、まぁ到達は出来ないんじゃないかな?」
…普通、エレメンタルウェポンと言った属性付加した武器は、色などの見た目にすら変化は無い。
それが、リーゼが使っていたメンタルウェポンである『紫電の双剣』は、雷そのものが唸るように発生していた。
それは属性付加というレベルではなく、性質的には”属性魔法を纏わせる”と考えたほうが分かりやすいだろう。
「……」
力を得に急ぐ必要は無い……ディンは、以前ティールよりそんな言葉をかけられていた。
そんな今でも力が欲しいと考える事が無いわけではないし、手に入るものならば目指してみたいとも思っていた。
……前衛職につくほとんどの人間は、エレメンタルウェポンという能力は攻撃の補助程度の扱いで使っている事は多く、実際にその能力を『極め』ようとするような者は少ない。
それはディンも同じで、彼もまた、剣を扱うための『力』と『技』を鍛える事で、強さを求めてきた。
炎能力は、あくまで補助的な使い方しかしていない。
―エレメンタルウェポン……確かに、そんな道もあったな―
仮にも、ディヴァイン・F(フレア)・ブレイドなどと言うメンタル技を持っている以上、多少考えてみてもいいかもしれない……
なんとなく、そう思った瞬間だった。
「他に聞きたい事は?」
「……いや、別に」
ディンは、とりあえず理解はできた、と言いながら首を横に振る。
その瞬間のティールの視線がすこし気にはなったが、そこでもう一つ思い至った。
―ティールも、『炎』の精霊宮とかには行けるんじゃないのか……?―
彼女は……異世界から持ち込んだという『魂』の力を通してではあるが、かなりの高次元で炎の力を操っているように見える。
それこそ、今日目にしたリーゼの剣のように、炎を具現化するレベルで。



「……それより今日の勝負、ボクには納得いかない終わり方だった」
「……まぁ、あれは確かにそうじゃろうなぁ……」
少し間を開けて、会話は再び昼間の戦闘の話に舞い戻る。
アレで負けたとか勝ったとか決められて、納得しろと言う方が無理な話だろう。
……あくまであの時の事は単なる事故ではあるのだが、ある意味その元凶となったディンは、気まずそうな表情でリーゼから目を逸らしている。
「……ですが~、あのまま続けていたとして~私達の不利は否めませんでしたよ~」
「ねーちゃん!」
「いくら私が速く詠唱できるとしても~……あの時点で~エミリアさんも上位魔法の”短縮詠唱”ができるようになっていましたし~……アドバンテージは~ティールさん達にあったと思いますよ~」
「うっ……で、でも……」
「……あの状況を見て~もしフルメンバーのこの方達と戦っていたら~……結果は見えていますよね~?」
相変わらずの微笑みと、非常にスローペースの語り口調。
それは最初この場所に現れた時から変わってはいないのだが、どこか強い力が言葉の中に宿っているかのようだった。
……元々、戦いを挑んできたこと自体、リーゼが勝手に先走っているような印象は受けていた。
そして、カノンは気は進まずともとりあえず付き合っていた、というようにも映る。
「”最強”などというものは~そう簡単に口に出来るものではない~……以前から~この子にはそう言い聞かせていたのですが~……」
ぽん、とリーゼの頭に手を乗せて、どこか深みを感じさせられる溜息を交えてそんな事を口にするカノン。
そしてリーゼは、何かをこらえるように若干顔を赤くして、その状態に甘んじているようだった。
「だったら、と言って~今日みたいな道場やぶりみたいなことをはじめだして~……正直~私もどうしようか迷っていたのです~」
「……で、仕方なくつきあっていたと?」
正直、挑まれる側にしてみればはた迷惑な話である。
とはいえ、今回ばかりはエミリアの精神状態を持ち直させるきっかけになったので、全部が全部を否定する事はできないのだが……
それでも、やはり納得のいかない部分は多く存在していた。
「誰か~私達を負かせるチームの方達がいれば~、この子も少しは考え直してくれるかな~と思いまして~」
「……って、ねーちゃん! まさか手抜いてたんじゃ……!!」
「いいえ~。 手加減して負けても意味がありませんから~……私も全力でやらせていただいてました~」
「……うっ……」
「……まあ~、いざ負けてみると~……悔しいものがあったのは~確かですけどね~」
カノンは微笑みを崩さないまま、そう口にする。
確かに、ティール達に放っていたたたみかけるような、そして隙の無い大魔法の連続は、とても手加減していたようには思えない。
この姉妹のチームワークは本物であり、それがこの先さらに洗練されていくとするならば、『最強チーム』の座を夢見ても仕方の無い事かもしれない。
それは、果てしなく険しい道には変わり無いけれど、追い続けるのは自由である。
「とはいえ~、今日こそはっきりと言わせてもらいます~」
「……ぅぅ……」
……その瞬間、カノンの目つきが厳しいものに変わった。
そして、次に口を開いたその時発せられた言葉、それは……


「……目指すものは悪くありませんが、その過程で傲慢を抱いては本当の意味で強く在ることはできません。 それに、他者に問答無用で挑むというやりかたも私は納得できませんでした。
強さを示したいなら、それを言葉や力ずくで誇示するのではなく、行動で示しなさい。私達は支援士なのですから、依頼やダンジョンの探索、いくらでも方法はあります。
人は行動の自由が認められていますが、今まで私達がしていた”道場破り”などというものは自由で無くただの横暴。
今まではたまたま私達の実力で勝てた相手というだけで、世の中にはそれ以上の存在はいくらでもあるのです。
これ以降同じ事を続けると言うのなら、もう私はあなたとの縁を切ります。 いいですね」

「…………は、はひ……」


…………それは、その場にいた全員を完全に硬直させるには十分過ぎる光景だった。
それはそうだろう、今の今まで、呪文の詠唱以外では超スローペースでしか話すことの無かったカノン。
しかも、その表情は常に穏やかなもので、”怒り”などという感情は想像できないものでもあった。
それが、否が応にも脳裏に入りこんでくるかのような通った声で、しかも怒りに満ちた表情をもって妹に語りかけている。
……それがあまりに唐突に訪れたせいもあり、身構えてもいなかったティール達は、完全にあっけにとられていた。

「……ふぅ~……お騒がせしました~。 あ、ティールさん~カレーお代わりいただいてよろしいでしょうか~?」
「あ、うん……」
あとでリーゼから聞いた話によると、あの瞬間のカノンは、ごくたまーに本気になった時に出てくるもう一つの顔だそうな。
そして、どっちが素と聞かれれば、『どっちも素』としか言いようがない、ということも。

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