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『セレスティアガーデン』第3話『堕ちた聖女』




その1 魔王降臨 前編


――中央都市リエステール――
  ――セレスティアガーデン・商品展示フロア

「へぇ~、ギルド『リトル・レジェンド』かぁ~、最近よく聞くようになったなぁ~」

 カウンターに山積みにされた新聞、その表紙に書かれた記事に惹かれ、手に取って読む。
『リトル・レジェンド』・・・最近急成長中のギルドで、酒場でもよく聞くようになった名前だ。
ギルドとしての総合力もさることながら、個々としても名の通ったメンバーが多く、
伝説という名に恥じないギルドとなっている。

「私たちもがんばらないとなぁ~・・・」
「まあ、ギルドとして頑張るのは当たり前として、リリーの場合は個人としても頑張らないとね~♪」
「それ、どういう意味よーっ!!」

 その新聞を前から覗き込むように見て、私に言ってきたのは妖精・セー。
そして、私の顔と新聞の間に入り込んで新聞の記事に目を通している。
いや、そこに居られると読めないんだけど・・・。

「いい、リリー、ウチのギルドの中で一番ピンチなのは、リリーなのよ!?」
「え? ピンチって、どういう風に?」

 目の前でそう発言するセー。
全く意味が分からないんだけど・・・。

「キャラとして立ってるかどうかよ!!?」
「はい?」
「ウチのギルド内でね、私やマグノリアは既にキャラとしての存在を確立できてるわ。 ヴィオレは元々サブっぽいからいいとして、店長は存在そのものが圧倒的だけどまあ置いといて・・・。 で、シルエラちゃんも戦場での振舞いを考えると将来有望よ。 それに対してリリーはどうなのよ!!」
「そんなこと言われても・・・。」

 畳み掛けるように言葉を浴びせられて、少し戸惑う。
というか、キャラとして立ってるかって、話の方向性からしておかしいような気がするけど。

「でも、セーやマグノリアが目立ってるのは、職業や能力のおかげってのもあるんじゃ・・・、私とか、まだ色系基本5色しか開花してない普通のマージナルだし・・・。」
「そりゃ、確かに『特殊職』系は、それだけでキャラとして目立つけど、それだけじゃないはずよ!! あくまで職業や能力は他との差別化のための補助!! キャラとして立つかどうかは本人がどう振舞うかよ!!」
「いや、そもそも私、キャラとして目立つかどうかなんて、どうでもいいし・・・。」

 そう、はっきり言って私は、みんなと楽しくギルドの仕事ができればそれでいいのであって、自分が目立つかどうかということにはあまり興味がないんだけど、
目の前の妖精はそれを許してくれるはずもなく・・・。

「ダメよ、リリー!! 仮にもあなたはウチのギルドメンバーの中でも、メインヒロイン的な立場なんだから、あなたがそんなんじゃギルド自体が没落しちゃうでしょ!!! あなたには他の作品のヒロイン打ち負かすぐらいの気持ちで振舞ってもらわないとっ!!!」

 え?
 私がメインヒロイン?
 そうだったっけ?

「そうよ!! ウチの話はリリーの一人称で書かれてることが多いんだからっ!!!」
「って、地の文に対して発言するようなセーが言っても説得力ないような・・・。」
「あら、私は別格なのよ!! で、その私が選んだあなたが、そんなんじゃ困るって言ってるの!!」
「結局そこなんだ・・・。」

 ようやく本音を漏らしたセー。
というか、そんなんだったら、はじめからセーが主役張ったらいいんじゃないと本気で思う。



「リリー、セー、何やってるんだ!! そろそろヤツが来るよっ!!」

 向かいの陳列棚の後ろからマグノリアが呼びかける。
そう、私たちは今、とある任務を遂行中でした。

「あー、マグノリア、こっちもそうだけど、とりあえず後ろで寝てるシルエラちゃんも起こしといてね。」
「え? マジかよ・・・。」

 セーの発言で後ろを振り返ったマグノリアは、陳列棚にもたれかかって寝息を立てているシルエラちゃんを発見し、やれやれといった感じでつぶやいた後、シルエラちゃんを起こしにかかる。



―――フハハハハハハッ!!!―――

「来たよっ!!」

 セーが小声で伝える。
店の奥から不気味な笑い声が響いて来る。
そして、遂にヤツがこの部屋に姿を現した。



「どうした小娘ども!! 鬼ごっこはもう終わりか!!?」
「ぷっ・・・、ぷししししっ!!」
「あーっはっはっは!!!」
「わ、笑うでない!!!」

 対峙した瞬間、堪えきれずに笑い出すセーとマグノリア。
なぜなら・・・。

「いやー、ホントにいるとはねー、本になっちゃう魔王なんて、ゲームの中だけの話だと思ってたけど・・・。」
「いくらなんでも、あの格好はないだろ!! あーっはっは!!」



 それは、ほんの30分ほど前の話・・・。

―――回想・セレスティアガーデン・店長の部屋―――

「私としたことが・・・、あんな失敗作を・・・」

 そこにはいつになく落ち込んでいる店長の姿があった。

「店長、どうしたんですか?」
「とある方から依頼されていた全知全能の書『エルスクーラリオ』・・・、ネジを一つしめ間違えて『ヨタ本』に・・・。」
「リリー、聞いちゃダメよ!! これは店長のネタなんだから!!!」

 そこに割って入ってきたセーが私を強引に連れ出そうとする。

「セー、ネタって?」
「台詞回しがロマサガ3に酷似しているわ!! 最後まで聞いた場合、確実に後者の・・・」

 しかし、セーの機転も時既に遅く・・・。

「待って!!」
「しまった、遅かったか・・・。」
「アイツを破壊して!!」
「そう、こうなるのよ、最後まで聞いちゃうと後者の破壊依頼を受けることになるの・・・。」

 何故か悔しそうに私に言うセー。
店長の頼みぐらい、素直に受ければいいと思うんだけど。

 しかし、すぐに何かを思いついたと言わんばかりの表情になったセーは、店長に反論する。

「あんなのの破壊を頼むぐらいだから、奥の扉の中にプロトタイプがあるんでしょうね!!?」
「あら、あるわけないじゃない、そんなもの。 この私が物を作るのに、試作品が必要だと思って?」

 すると、何故か先ほどまで落ち込みムードだった店長まで、いつもの余裕の表情を見せる。
やっぱりさっきの店長の態度は、セーが言うように単なるネタの芝居だったの?

「プロトタイプも無いのに、アレの破壊を私たちにやらせようと言うの?」
「それじゃあ逆に聞くけど、何故倉庫の奥に厳重に保管されていたはずの『魔王ヨタ』を封印したネジが、私の書斎に転がっていたのかしらね~。」
「そんなの・・・、私が仕掛けたに決まってるじゃない!!!」

 店長の質問に対して、堂々と、勝ち誇ったように胸を張って答えるセー。
つまりそれって・・・、

「はい、やっぱりセーの仕業ね。」
「しまったっ!!」

 こうして私たちは、店のどこかに潜んでいる、『魔王ヨタ(本)』の破壊に駆り出されることになったのである。

「ってか、店長、絶対分かっててネジ使ったでしょ!!」
「あら、セー、何か言った? セーの責任なんだから、しっかりやりなさいよ!!」

―――回想おわり―――



「このっ!! 小娘の分際でわらわを笑うとは!! 許さんっ!!!」

 本の表紙に顔だけ浮き出たような姿になった魔王は、眼前の通路でからかうセーとマグノリアに怒りをあらわにする。
ちなみに普通に女性の魔王らしい。
すると、本の表紙に浮き出た魔王の顔、その2つの瞳が光り出し・・・。

「ヨタビームっ!!!」

 ズゴゴゴゴゴゴーーーーっ!!!

 とてつもない出力の光線が放たれる。

「おっと、危ない・・・。」

 それを避けるセーとマグノリア。
光線は壁を突き破り、軌道上の全てを消し飛ばす・・・。

「街が・・・あれ?」

 一瞬、街にも甚大な被害が出たかと思ったが、大穴が開いた壁の向こう側に広がる景色がおかしい。

「大丈夫よ、リリー。 この部屋は盗難防止用に元の次元とは隔離されてるから、正面から扉を開けて出ないとリエステールには繋がってないわ。 まさかこんな形で役に立つとは思わなかったけど・・・。」

 外に広がる景色は、黒い空に無限の荒野。
 そのはるか遠方にまで、先ほどのビームの跡が続いているのを見ると、あまり楽観視できる状況でもないようだけど。



「どうした小娘ども!! 逃げる回ることしか出来ぬのか!!?」
「よく言うわね、誘い込まれているとも知らずに・・・。」
「ぬかせっ!! ヨタビームっ!!」

 ズシューーーッ!!!

 天井付近から挑発するセーに、ビームを放つ魔王。
セーはそれをひょいとかわす。
天井に大穴が開き、黒塗りの、星一つない空をビームが貫く。

「ここに誘い込んだ理由は3つあるわ!! 1つはさっきリリーに言ったように、外の被害を気にしなくて済むこと。」
「小賢しいわ!!」

 ズシューー、ズシューー、ズシューーッ!!!

 セーの余裕めいた態度が気に入らないのか、魔王はビームを連射する。
が、セーはくるくると踊るように避ける。

「2つめは、直線的なビーム攻撃を避けるのに、狭い廊下より、360度使える広い部屋の方が都合がいいから。」
「くっ・・・」
「おまけに、相手はろくに身動きが取れない本。 固定砲台にしろ、戦車の回転砲塔より遅いし、目線ですぐに照準も分かるし・・・。」

 セーが大きく右に回り込むが、本の魔王はなかなかそちらを向くことができない。

「こら、使い魔どもっ!! 早く回さぬかっ!!!」
「チュー、チュー!!」

 移動手段である担ぎ役の使い魔は、倉庫で知り合ったネズミだったりする。
所詮は即興の手段、ネズミ同士の息も合わず、移動速度は亀より遅い。

「そして3つめ、最大の理由が、ここだとお店の商品が使い放題なのよっ!!!」
「充電完了っ!! 『リミッター解除MAXブレード』っ!!」

 ようやくセーのいる方への回転を終えた魔王が、ビームを放とうとした瞬間、
マグノリアが後ろから、今まで見たこともないような極太のビームの剣を振り下ろす。

 ドゴォォォオオオオオオオオン!!!

 すさまじい光が魔王を包み込む。
マグノリアの大技、『MAXソード』のさらに上の技、『MAXブレード』。
それは普段は電源の関係上、出すことのできない出力。
店内に設置してある大型電源と接続することで、はじめて可能になる一撃。
これならばあの魔王もひとたまりもないだろう。

 振り下ろしたマグノリアのライトセイバーの柄には、電源と接続するためのケーブルが伸びている。
ケーブルはそんなに長くないので、マグノリアの移動可能範囲はケーブルの延びる範囲に制限される。
それをカバーするために、セーが魔王を挑発しながら、マグノリアのいる方向が視界に入らないように誘導し、
その隙を突いて一撃をお見舞いした・・・、とまあ、そんな連携プレイだったりする。



「やったか!!」
「油断しない方がいいわ、相手は魔王・・・、リリー、念のためアレを使うのよ!!」
「わかった!!」

 マグノリアの『MAXブレード』の光が弱まる前に、次の一撃を加えるべく、詠唱に入る。

「統風主アイオロスの能力宿りし肖像よ、今こそその力を解き放ち、大気を神風の能力で満たしたまえ!!」

 リリーの詠唱により、店内の壁にかけられたアイオロスの肖像画が光りはじめたかと思うと、
次の瞬間には魔王のいる辺りを中心に、その姿が天をも貫くような巨大サイズで現れる。
それに合わせて、周囲のメンタルの性質が、極端に神風に傾いていく。
実際に現れた幻は、肖像画をそのまま拡大したような一枚絵ではあるが。



「大気に宿りし風の精よ、敵を切り裂け!! 『エアスラッシュ』っ!!!」

 ズシャシャシャシャっ!!!

 肖像が具現したのを確かめた後、今度は初級魔法を詠唱し、
今やマグノリアの『MAXブレード』も収まりつつある、魔王のいる所へと放つ。

 それは、大気を満たす神風の力で、多少は強化されてはいるものの、普通の初級魔法。
だが、実はここまでが前段階。

「いっけぇぇええ!! 神風派生魔法『テラ・エアスラッシュ』っ!!!」

 ドゴォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!

 先に放った初級魔法『エアスラッシュ』によるカマイタチが消えかけた瞬間、
リリーの叫びに合わせて具現したのは、とてつもない空気の暴流。

 それは、エアスラッシュの発動していた地点、魔王のいる辺りを起点に舞い上がり、
天井の大部分を巻き込みながら、数百メートルはあろうかというアイオロスの幻影の、そのはるか上空まで立ち昇る。
やがて嵐は収まり、アイオロスの虚像もぼんやりと消えていった。



 肖像画・精霊宮シリーズ、精霊宮の加護を受けていない者でも簡易的に『特』クラスの魔法が使える一品。
売り出してはいるものの、まだ試作品の域を出ていない。

 肖像画自体が3メートルを超える巨大サイズであり、持ち運んでの使用が事実上不可能。
発動には肖像画の力を具現し、初級魔法を一回唱えて照準を定めた後、
一回目の初級魔法が消える前に、二回目の初級魔法を、呪文名に『テラ』をつけて詠唱することで発動するという、
とてつもなくややこしい手順を踏むことになる。
(事実上、初級魔法を詠唱破棄できるか、かなりの早口でないと使用不可。
 リリーはフラワーリングロッドの効果で初級魔法を一回の詠唱で二回撃てるので使用できた。)

 また、肖像画の力が具現した後、他の属性の魔法の割り込みがあった場合は成功せず、
肖像画具現中に敵が先に条件を満たした場合にも発動してしまうという問題点も残されている。

 肖像画に描かれた人物は紛れも無く精霊宮の管理者本人だが、店長がどうやってそれを描いたのかは全くの謎。
発動の原理は、「精霊宮の最も力のあるものを描くことで、秘宝と同等の効果を与える」ことらしい。
とはいえ、肖像画の完成度に比例して効果が決まるので、
絵が本職でない店長の描いたものでは、実際の威力は『大』と『特』の中間程度に留まっている。
なお、描画する精霊宮の管理者によっては多少美化した方が効果があるとか。

 店長は、5年後にはプロマイドカードサイズで売り出すと宣言しているが、実際どうなるかは怪しい。
(というか、そんなものが出回ったら危険なような・・・。)





その2 魔王降臨 後編


「やった・・・。」
「やった・・・、じゃない!!!」

 ベシン!!
セーのツッコミ、『龍槌扇』が炸裂する。

「ったー、何よ!!」
「あのねー、リリー、私たちがあの魔王相手に、今まで大した怪我もなく戦っていられたのは、相手がろくに動けないからよ。」
「えっと・・・。」
「でも、さっきの魔法でリリーが吹き飛ばしたから、相手の位置が分からなくなったじゃない!!」

 そう、セーの放った魔法で、魔王ヨタ(本)ははるか空の彼方。
だが、今や魔法の効果を失った魔王は、単体では身動き取れないとはいえ、自然の法則に従い、自由落下を開始し・・・。

「この様な辱めを受けるとは・・・、許さん!!」
「げ、あいつ、まだ生きてるのかっ!!」
「相手は魔王よ、生半可な攻撃では傷一つつけることもできないわ!!」
「生半可って、今私たちが撃った攻撃は・・・。」

 そう、先ほどの連撃、マグノリアの『MAXブレード』も、私の『テラ・エアスラッシュ』も、
支援士ランクで言うなればAにも満たない普段の力を、店の設備を使って強引にSの上にまで上げた攻撃。
 けれど、それは、あの魔王にとっては、セーの言うように生半可な攻撃だったらしい。
本の体には、目立った傷一つついていない・・・。

「焼き尽くせ!! 『ヨタフレア』っ!!」

 グゴゴゴゴゴゴーーーッ!!!

 魔王ヨタは、自由落下をしながら、無詠唱で巨大な火球を眼前に作り出す。
それは、まだはるか上空にあるにもかかわらず、今や全て吹き飛んでしまった天井から覗く異次元の黒い空を、一瞬で覆い隠す。



「ちょっ・・・、あんなの喰らったら・・・。」
「もう・・・ダメかも・・・。」

 火球の放つ熱は、その距離にもかかわらず、こちらまで伝わってきて、今や体感温度は50度を超えている。
戦い慣れしたマグノリアも、眼前の光景に慌ててセーに助けを求める。
が、いくらセーでも、あんなのを相手に対抗できるわけがなくて、導き出された回答は・・・。

「緊急回避よ!! シルエラちゃん!! そこのスイッチをいじって、店の位相を通常次元に戻してっ!!!」
「は、はい!!」

 セーの指示を受けたシルエラちゃんは、慌てふためき、2,3度棚に頭をぶつけながら、
半壊したカウンターの後ろの壁に設置されたスイッチの所へとたどり着く。

「あ、シルエラちゃん!! スイッチ2つあると思うけど、一方は店の自爆スイッチだから気をつけてね!!!」
「え? えっ!? えーーーっ!!?」

 スイッチとセーを交互に見ながら、シルエラちゃんは叫ぶ。

「う~、熱い~、熱で頭が・・・。」
「シルエラちゃん、どっちでもいいから早くスイッチを切るんだ!!」



 頭がボーっとなってくる。
視界がぼやけてきた。
マグノリアが何かとんでもないこと言ってるような気がするけど、もう私にとってはどうでも・・・。

「・・・って!!」

 そこで、私は、あまりの熱でとろけそうになった意識を呼び戻す。
そして・・・。

「ってか、セー!! どっちが目的のスイッチか分かってるんでしょ、あんたが行きなさーーいっ!!!」

 バシーーーン!!!

「ぐへ・・・」

 私は、店の一角に落ちていたハリセンを手に取ると、おもいっきりセーをカウンターめがけてひっぱたく。
それは、まだ迷っていたシルエラちゃんの顔のすぐ横を猛スピードで突っ切り・・・。

 ベチン!!

 壁に激突したけれど・・・。

「わ、わーーーっ!! リリーのバカーーーっ!! 自爆スイッチ押しちゃったじゃない!!!」

 今度はセーが騒ぎ出す。
慌ててクルクルと縦横無尽に飛び回るセー。
そしてほどなくして、轟音とともに視界が白色に包まれ・・・。

「というのは私の仕掛けた悪戯で、実際には自爆スイッチなんてなかったり~~♪」
「・・・は? って、んなことしてる場合かーーーっ!!」

 セーの魔法で出現した白い光と音が晴れると、そこにはもうすぐそこにまで迫った大火球が・・・。
もはや、初級火系魔法を永続的に受け続けているかのような熱量だというのに、セーときたら悪戯を・・・。

「シルエラちゃん!! もう一方のスイッチを!!」
「はいっ!! ポチっとな。」

 シュシュシュシュシュ~~~~!!

 突然視界が揺らぎ始め、店の位相が元の次元へとシフトする。
天井を覆いつくしていた火球は消え失せ、そこには骨格がむき出しになった店の屋根が見えていた。
外から入ってくる冷たい空気が気持ちいい。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・、まったく、セーは、なんてタイミングで・・・。」
「くるくるぅ~。」

 マグノリアがセーを責めるが、一方のセーは、目を回している。
どうやら熱で頭をやられたらしい。

「うぅ~~~。ばたんきゅ~~・・・。」

 シルエラちゃんも、完全にダウン床に這いつくばって、近くにあった金属製の鎧を枕に、頭を冷やしている。



「魔王、異次元に置いて来ちゃったね。」
「あー、まあ、いくら魔王と言っても、そう簡単には追って来れないだろう。」

 その表情には疲れの色を隠せない。
はっきり言って、もうあんなのとは戦いたくないという気持ちでいっぱいだろう。
あれだけ圧倒的な力の差を見せ付けられたのだから。
 しかし、それは淡い願い。
圧倒的な力を持つ魔王の前では、次元の壁など全く意味を成さず・・・。



「ふふふはは!! それでわらわから逃げたつもりか!!?」
「げ、この声は!?」

 すると、店の玄関付近の空間が歪みはじめ、姿を現したのは・・・。

「「ヨタ本!!」」
「魔王ヨタじゃっ!!!」

 現れて早々、怒り出す魔王。
だが、よく見ると・・・。

「ってか、なんか黒こげ・・・。」
「それを言うでないっ!! わらわとて、本の体がこうも燃えやすいと知っていれば、あんな炎系の魔法など使うとらんわっ!!」

 どうやら先ほどの自分の放った大火球の爆発に巻き込まれて、大ダメージを受けたらしい。
まあ、身動きの取れない体で、自由落下しながら、真下に炎系の魔法を使ったら、
自分が一番被害を受けるのは、よく考えたら当たり前のことなんだけど。



「だが、おぬしたちも、直接当たっておらぬと言うのに、満身創痍ではないか!? その様な状態で、わらわの攻撃をいつまでもかわせるとでも思うておるのか!!?」
「えっと・・・、まずいかも。」

 その言葉を聞くや否や、さっと横に転がり、ビームの軸線上から退避するマグノリア。
それに対して私は・・・。

「リリー!! 早くこっちへ!!!」

 腰が抜けてて立てない!!

「ヨタビィィ・・・」

 無慈悲にも発射されようとするビーム。
その時、奇跡が起こった。

 ガチャ。

「あの~、こちらでギルドをやっていると聞いて来たんですけど~?」
「「あ・・・」」
「ぶぬ~・・・」

 それは、一瞬の出来事だった。
ヨタが背にしていた店の扉が開き、一人の少女が店内に入ってきた。
そして、偶然にも本の体をしているヨタを踏んづけたのである。

 ボフンッ!!

 しかも、前のめりに倒されたヨタは、発射寸前だったビームを止めることができず、地面に向けて発射し、結果、自爆
本の淵から白い煙が立ち昇る。

「あ・・・、私、もしかして、邪魔?」
「・・・いやいやいや、全然そんなことないよ!! だからもうちょっとそのままで!!!」
「ばびゃぶぼばんばー、ばばばほはへはほおぼーへほふぼびゃー!!(早くどかぬかー、わらわを誰だと思うておるのじゃーっ!!)」

 突然乱入してきた少女は、足元でじたばた暴れる本に気づき、足を退けようとするが、マグノリアがそれを制止する。
こうして、セレスティアガーデン内で突如として勃発した魔王(本)との決戦は、一人の少女の活躍により終息することとなった。





その3 人探し


「はい、魔王捕獲完了~♪」

 店長が、少女の足の下敷きになった魔王を、専用の封印器具で捕獲する。
とはいっても、見た目はただの虫取り網なんだけど。
一応、魔王の魔力を無効化する、特殊な術が掛けられたものではあるらしい。

「ったく、一時はどうなるかと思ったよ。」

 マグノリアが、やれやれと言わんばかりに諸手をあげる。
休日の午後を襲った魔王との戦い。
あの巨大な火球は生涯忘れることはないだろう。
まだ頭がクラクラする。

 対する魔王はというと・・・。

「あらあら、女の子に踏まれて負けたのがよほどショックだったのかしら。」

 魔力を封じられ、話すに話せないというのもあるだろうが、
本の表紙に描かれた目は閉じられ、口をへの字に曲げ、だんまりを決め込んでいるようにも見える。



「ちょっと、私、ギルドに用があって来たんですけど!?」

 魔王を倒した英雄の少女は、魔王を捕獲し、店の奥へ向かう店長を見て、
自分が忘れられていることに気づき、慌てて呼びかける。

「あら、お客さんがいらしてたのね。 もう、リリーもマグノリアも、ちゃんと応対しなきゃダメじゃない!!」
「この状況でそんなこと出来るかーーっ!!」
「さあさ、どうぞこちらへ・・・。」

 マグノリアの叫びを無視して、店長は客の少女を店の奥へと案内する。
…のはいいけど、

「誰か、助けて・・・、立てない・・・。」
「リリー、まだやってたの・・・。」

 私は先ほど腰が抜けたのが直らず、まだ立てないで地べたにへたりこんでいたりする・・・。



  ――セレスティアガーデン・客間

 中央には表面がガラスでできた長めのテーブルが配置され、上にはこれまたガラス製の灰皿、
そのテーブルの両サイドに、長めのソファーが一つずつ並べてある。

 その、入り口側のソファーにお客さん、窓の方に店長と私が腰掛ける形で席に着いた。

「私はセレスティアガーデンのギルド長をしている、店長といいます。 あなたのお名前は?」

 店長は、両肘をテーブルに着き、組んだ手の上にあごを乗せる形で、少女を下から覗き込むように見ながら尋ねる。

「はい、シスラと申します。」

 シスラと名乗った少女は、丁寧にお辞儀をする。
服装からすると、どうやらアリスキュアらしい。
っと、そこで・・・。

 バターーン!!

 両開きの扉を勢いよく開き、入ってきた妖精は声を上げて叫ぶ。

「異議ありっ!!」
「はい、セー、何かしら?」

 とっさの出来事に目を丸くする客人をよそに、セーは続ける。

「店長の自己紹介、すっごくおかし・・・」
「却下。」
「早っ!!」
「・・・(汗)」

 何か大切なことを言おうとしたセーだったが、それは店長によってあっさり却下されてしまう。

「セーにはセクハタの容疑で懲役15年を言い渡すわ。」
「なぬーーっ!!」

 一体何がどうなっているのか、キョロキョロとそのやりとりに目をやるシスラ。

「あ、気にしないで下さい。 店長とセーはいっつもこんな感じなんで。」

 苦笑いする私。
言ってて自分で、何言ってるんだかと、本気で思う。
セーも店長も、お客さんの前なのにーーーっ!!

「なんかさぁ・・・。」

 そこで、お客さんの少女、シスラが私の耳元で囁く。

「ウザいよね、あの虫。」
「え?」

 ちょっと、シスラさん、それは言っちゃまずいんじゃ・・・。
恐る恐る、セーの方を見る。 するとそこには・・・。

「だ・れ・が・虫だぁぁーーーー!!! 『ヨタフレア』ーーーっ!!!」

 いつの間にか取り払われた天井、そして迫り来る巨大な火球。
それは太陽のごとき灼熱の業火をまとい、ここまで膨大な熱量が伝わってくる。

「あわわわわなななななっ!!!」

 シスラは、その光景に驚き畏怖する。
セーったら、さっき見たのを早速使うなんて・・・。

 ズゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーン!!!

 火球が地面に衝突し、凝縮された破壊の力が解き放たれると、
一瞬にして大地を包み込み、後には何も残らない・・・。

 というのは勿論、セーの悪戯魔法であり、数秒後にはさっきまで居た客間に変移していたのだが、
肝心のお客さん、シスラは、目を回して口をポカンとあけたまま気絶しているようだった。

 私は、最初こそ驚いたものの、セーにあんな大魔法は使えるわけないので、すぐにいつもの悪戯だと分かっり、あまりショックを受けなかった。
ただ、魔王がアレを使う所を見ていないにも関わらず、セーの悪戯と初見で看破し、表情一つ変えなかった店長は流石・・・。

「セー、クレクレ詐欺で懲役25年ね。」
「なんとーーーっ!!!」

 店長による謎の裁きは続く。



「さてと、続きを聞きましょうか。」

 やがて、セーが「この事件の謎は絶対に私が解いてやるーーっ!!」とか叫びながら、
部屋の外へと飛んでいったので、とりあえず依頼の内容を聞きにかかる店長。
その頃にはシスラもショックから立ち直り、普通に話せるようになっていた。

「何だったの、今のは・・・。」

 しかし、恐らくあと数ヶ月は、あの光景が目に焼きついて離れないだろう。



「シスラと言ったわね。本日はどういう用件で?」
「ああ、えーっと、実は人を探してもらいたいんです。」

 そう言うと、シスラは、一枚の写真を取り出す。

「ん、なになに?」

 私も突然取り出された写真を前に、思わず身を乗り出す。

「集合写真? 教会の?」
「はい・・・。」

 そこに写っているのは、アリスキュアの集合写真。
賛美歌でも歌った後なのだろうか。

「あ、これシスラさんですね。」

 こくこくとうなずくシスラ。
恥ずかしいのか、若干顔を赤らめている。
日付を見ると、どうやら今から2,3年前のもののようだ。

「それで、探し人というのは?」
「この人です。」

 写真の中に写っているアリスキュアたちの中から、一人を指差すシスラ。
そこに写っていたのは。

「って、これ、リスティじゃん。」
「知ってるんですか?」

 そこに写っていたのは、店長からよく聞かされている少女、リスティ。

「知ってるもなにも、聖女アルティアの記憶を受け継いだとかで、一時期すごい騒がれてたし・・・。
 あの時はここでもリスティグッズとか作って売りましたよね~、店長♪」
「まあ、あの時は便乗して荒稼ぎしたわね。 数ヶ月であっと言う間に売れなくなったけど・・・。」

 そう、何を隠そう、ここセレスティアガーデンでは、今から1年以上前、
リスティが神託の儀を受けた際、便乗商法で一山築いていたりする。
 そういえばあの時、利権がどうのって押し寄せてきた教会関係者、
店長と一時間ほど話し合った後、帰り際には丁寧な敬語口調で、何度もお辞儀しながら帰っていったけど、
店長はあの時一体どんな話をしていたんだろう・・・。

「・・・・・・。」
「あれ? どうかしました?」

 見ると、なにやら不機嫌そうに顔を歪めているシスラ。
何かまずいこと言ったかな、私・・・。

「そういえば、リスティって、あれから教会には居ないみたいだけど、どこにいるんでしょうね。」

 まあ、言ってみればそれが依頼内容で、それを私たちが調べないといけないんだけど、誰にというわけでもなく言ってみる。
すると・・・。

「あら、リリー、知らないの? 新聞読みなさいよ。 リスティって言ったら、今はギルド『Little Legend』のメンバーでしょ。」
「あれ? そうだっけ・・・。」

 なんと、どこに居るのか分からないと思っていたリスティは、意外と近くにいるらしい。
つい先刻も新聞を読んでいたはずなのに、そこまで知らなかった。
やっぱり新聞は中身まで読まないとダメなんだろうか・・・。

「え? あっちのギルドにいるの?」

 そしてもう一人、ここにも新聞を読まない社会情勢に疎い人が一人・・・。
シスラは、向こうを先に訪ねるべきだったと、少し疲れた顔をする。
そして、おもむろに立ち上がると、礼を言って立ち去ろうとするのだが・・・。

「丁度いい機会ね。 挨拶もあるし、私も行こうかしら♪」

 おもいっきり乗り気になっている店長。
一応これでもギルド長。
代表者として、近くに出来た同業者(?)に挨拶に行くぐらいはしておこうということらしい。
 シスラを制止して、外出の準備を始めている。
というか店長が外に出るのを見るのは黒船の一件以来のような・・・。



 バターーン!!

 準備が終わり、いざ出かけようとした矢先、扉の奥から現れたのは、妖精セー。

「ちょっと待って下さい、店長!! この事件には不可解な点がいくつかあります・・・。」
「あら、セー、謎は解けたのかしら?」

 っていうか、今度は何故探偵モノ風? さっきは裁判だったし・・・。

「まず一つ目、それは、リスティ探し依頼だと『フィークベル』と話が被っちゃうこと!!」
「あら、問題ないわよ。所在は分かってるんだし、私はこっちのギルドを束ねる者として挨拶に行くだけよ。」
「むむむ・・・。」

 なんか、セーの言っていることがよく分からないけど、店長の反論の言葉を詰まらせるセー。

「それじゃあ二つ目!! このシチュエーションで外出すると、行った先で誰かが死体が発見されちゃうわ!!」
「え? ウソ?」

 莫大発言をするセー。
シチュエーションってなんだか知らないけど、それは嫌だ。

「今回探偵モノ風に家具配置をアレンジしたのはただの私の趣味よ。」

 しかし、これまた店長があっさり返す。
ネタがなくなったセーはついに・・・。

「そして、なにを隠そう、店長の自己紹介が・・・。」
「犯人はセーで決まりっ!!」
「なっ・・・!!」

 推理を披露するセーを逆に犯人呼ばわりする店長。
数秒の沈黙の後・・・。

「よく分かったわね、ええ、そうよ、私が犯人よ!! でもね・・・。」

 あっさり自白するセー。
そもそも何の犯人なのか、全くの謎だけど、弁解を始めるセー・・・。

「やっぱりこの虫、ウザい・・・。」

 そこでシスラの一言。
犯行動機を語りだそうとしていたセーは一瞬の沈黙の後・・・。

「一度ならず二度までも・・・、虫って言うなーーっ!!! 『ヨタビーム』っ!!!」

 セーの目が怪しく光った後、店長とシスラの間を駆け抜けるビーム。
壁を貫き、海のはるか彼方に、大陸と同程度の大きさのドーム状の爆発を生み出し・・・。

「こら、セー!! お客さんの前なんだから・・・、あ、シスラさん、しっかり・・・。」

 こうして出発はシスラが意識を取り戻すまで、30分延長となったのだった。