※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


前略、父上母上。
私は今、シュヴァルを出る行商馬車に乗せていただく事になり
都リックテールに向かう道におります。
父上のお言葉の
『世界は広い。十六夜に篭もっているだけでは知らないような事。体験出来無い事が沢山ある』
と言う事をまさに実感しております―――――


 ため息をついて、一人の女性がその手紙を閉じた。
「どうだったかな?」
「あなた・・・」
 襖を開け、奥の部屋から戻ってきた男に対し、女は心配そうな顔をして言った。
「やはり、まだあの子には早かったのではないですか? 世間知らずで、時々ドジをしてしまう。もう少し、世の中を理解させてからでも・・・」
「なぁに、心配する事は無いさ。それに、今だから行かせるのさ。『渡る世間に鬼は無い』。何かあってもあの子なら乗り切るさ。それに、例えどんな結果で帰ってきても、あの子には良い経験になる」
 その楽観的とも取れる男の言葉に、女は「もう・・」と言って、再び手紙を広げた。
 判っている。夫の言う事はもっともなのだ。
 十六夜の民であれば職に就く場合、出稼ぎの類が多い事も。
 もちろん、十六夜の自警したり金物を打つ職等もあるが、そういった職に就かない…就く条件が満たされて居ない場合は、いずれ十六夜を出る事が多い。
 だけども、自分の娘を心配する気持ちを消せるワケが無かったのだ。
 ・・・それは、手紙の残りを見て、さらに募るものだった


――――シュヴァルでは美味しい果物を食べさせていただき、父上と母上にも食べていただきたく思い、
商人殿に頂いた「どらいふるーつ」という名前の誠に珍しい果物を送らせて頂きます。
これは、私の知っていた果物という常識を打ち破りました。まさか、こんな乾いたような果物があるなんて
シュヴァルでは、本当に色々な果物が取れるのだと知りました。
そして、世界にはこんな見たことも無いものが存在するとは思いもしませんでした。

きっと、都リックテールでの出来事は、手紙に書ききれないほどの経験をするかも知れません。
なので、次の報告は家に帰ってからお話したいと思います。

  天宮 智香




「はぁ!!」
 少女が剣を抜き、その浅い一撃。その後で足捌きを行い素早く後ろに避ける。
「チィッ!!」
 その動きに翻弄され、賊は舌打ちをした。
 本来。行商馬車を襲うなど冒険だったのだ。
 しかし、実入りが良いのは事実なので、盗賊たちは常に機会を窺っていたのだ。
 低級支援士か。またはケチって支援士を雇わないか。
 この二つは格好のカモである。
 今回の行商人は後者だった。酒場で「どうせ支援士をつけても襲われないのが常さ」とマスターに愚痴っていた。
 こうなれば、別に賊の仲間に報告する必要も無い。一人で襲っても十分に獲物を奪える。
 そうすれば、全ての盗品は自らの実入りになるのだ。
 ・・・だが、一つ誤算があった。
 リックテールまで向かう行商に、少女が一人、乗せて行って欲しい。と頼んだ事なのだ。
 気まぐれで乗せてあげた少女が、意外にも手こずらせてくれる。
 ・・・分が悪い。その上、運も悪い。
 そう判断して、賊はジリジリと間を空け・・・・逃亡を謀った。
「ま、まて!!」
 その行動に少女は戸惑い、慌てて後を追う!
 ・・・が、

  ゴ ケ ッ !!

「あ・・・」
 頭が弧を描くように前にのめり倒れ、
「わきゃあああああああああああ!!!!!!!!!」
 ゴロゴイロゴロゴロ! と、見事に転げで、その反動のままに何処かへと転がっていってしまったのだが


・・・
・・



「道中。ありがとうございました」
「いやいや。それにしても、やはり支援士を付けるべきでしたね。お嬢さんが一緒に居てくれて助かったよ。こちらこそありがとう」
 都リックテール。
 去っていく商人を見送った後、改めて都を見た。
 広い。まず、街の果てが見えるのか判らなかった。
 そして、人、人、人。
 それこそ、今この道を歩いている人だけでも十六夜の人口以上居るのではないかと思えてくる。
「す、スミマセン・・これを下さい」
「お、アリガトよ! 一つ200フィズだぜ!」
 緊張しながら店のおじさんから饅頭を一つ買うと、ニカッと笑い返して袋に入れ渡してくれた。
 初めて、物を購入したのだ。
 その食べた饅頭は、きっと忘れない味になるだろう。と、涙を流しながら食べる。

 ・・・ついでに、
「あの子・・泣きながら饅頭食べてるわよ・・」
「あのお店危ないのかしら・・・?」
 と、道行く人にささやかれ、店のおじさんがかなり慌て困惑していた事に気付いては居ないが

(これが・・・都リックテール!)
 その殆どが見たことも無い物。
 明らかに自分よりも強いだろうナイト達。街を奇抜な格好で歩くマージナル。
 街角で老人達に優しく治癒を施すビショップ。自らの工房へと帰っていくクリエイター。
 そうでなくとも、生活する人々が居る。沢山の人。
 それを見ているだけでも、時間を忘れそうな気がした。
(あ・・)
 饅頭を食べ終え、空を見上げれば白い鳥が横切る。
 それを見上げた時の光に目を細め、一つ気合を入れた。
(さて!)
 目移りする店。装飾や小物に武器防具。
 父と母にどんなものを買って帰ろうか。
(はっ! だ、だめだだめだ!)
 浮き足立っていた事に気付き、首を左右に振る。
 剣士たるもの、いつでも落ち着いていなければいけないのだ。
(少し喉が渇いた・・・飲み物でも飲もう)
 先ほどの饅頭もあってだろう。
 道先の休憩所にある蛇口の前で懐に手を入れ、財布を取り出そうとした。

 ・・・
 ・・
 ・

「・・・」
 硬直。
 懐に・・・財布が無かったのだ。
「な・・無いぃぃぃ!!!!」
 その叫びに、休憩所に居た人がぎょっとなってそちらを見た。
 その中で、一人の青年が声を掛ける。
「どうしたんだ? というか、水飲まないのか?」
「くぅぅ・・お、お金が無ければ、物を得る事は出来無いのでしょう・・!?」
「・・・・・・は?」
 男は、このトンデモ発言に困惑し、蛇口を捻って水を出してやる。
「うわわっ!! い、今私は財布を落としてお金が無いというのにそんなに水を出して!!」
「いや・・・どう説明したものかな。この水を飲むのに金は必要ないぞ・・」
 困りながらも男は、「なんでこんな事説明する必要あるんだ・・・?」と思いながら口にして引きつった笑いを浮かべた。
「な、なんと・・・! 都にはこんな慈善な事が・・・」
 とりあえず、十六夜での井戸もフィズを必要とするハズも無いのだが、生憎水汲みなどした事も無いために知る由も無い。
 物を得る為には等価のお金を払わなければいけない。という言葉を守っていた為に、こういった無料で物を得るのは、シュヴァルで商人から物を貰った時と同じ感覚であった。
 つまり、善意である。
「それより、財布をなくしたって言ってなかったか?」
 恐る恐る口に水を含んでゆっくりと飲み、
 そして、その男の言葉にハッと振りかぶった
「そ、そうだった! 探さなければ・・!!」
 来た道を戻ろうとするが、男は襟首を掴んでそれを止めた。
「無駄だよ。どうせ落としても既に拾われてるだろうし、盗まれてる可能性もある」
「え・・?」
「それより、もっと確実な方法を教えてやるよ」
 そう言って、男は「ついて来な」と言葉を残し、歩いていったのだ。

 ・
 ・・
 ・・・

「とまあ、そう言う訳で。ついでだからこっちに連れてきたワケだ」
「ふぅむ・・・」
「んじゃあ、前の依頼の報酬も貰ったし、オレはもう行くわ」
 そう言って男は、半ば押し付ける形でマスターに任せ、
 手を振って立ち去って行った。
 ・・・確かに、物探しは支援士の仕事である。ナイトは相手にしてくれないだろう。
 そう考えれば、確かにここに連れてくるのは正しいのだろうが・・・
「でもなぁ・・・」
 目の前で、明らかに困惑している娘を前にして・・・正直、他の客の目線が痛い。
 それに耐えつつ、マスターは提案をした。
「あー。お嬢さん。とりあえず財布を取り戻したいのかい?」
「はい。・・あれは、父上と母上が私の為に用意してくれた物・・・それを無くすなど、不覚!!」
 そう言ってマスターに掴みかからんばかりの勢いで近付き
「お願いします! ヘルパー殿に頼んで見つけていただきたく思います!」
 そうマスターに頭を下げて言った。
 その勢いにマスターは半ば引きつった笑みを浮かべながら、言葉を返す。
 これは…断ったら自殺しかねない勢いである。
「あ、ああ。判った、判った・・じゃあ、依頼書に必要事項を書いてくれ」
「いえ! ヘルパー殿にお願いするのであれば、直接頼むのが礼儀! ヘルパー殿という方は、今何処に居るのですか!?」
 その言葉のニュアンスに、マスターは少し疑問になる。
 今どき、支援士というあり方について知らない。というのも不思議なものだが・・・
「あー・・お嬢さん。支援士は酒場で依頼を受けるのが常なんだ。もちろん個々人で交渉する事もあるが、こうして酒場に居るのだし、依頼届けを書いたほうが早い」
「つまり、ヘルパー殿は此方にいらっしゃるのですね!?」
 そのズレた受け答えにマスターはため息をついて、諦めたように答えた。
「そうだよ。ヘルパーさんはこっちに来るから(涙」
「判りました。郷に入れば郷に従えと言いますし・・・挨拶は惜しいですが、依頼書を書かせていただきます!」
 そうしてようやく筆を取った事に、マスターはほっと一息をついたのだった。



「と、言うわけでお嬢さんには品出しをして貰うよ」
「はい!」
 迂曲歪曲。あれからマスターの紹介で一つの店屋に派遣された。
 言うなれば、その日限りのバイトである。
 もちろん、マスターもシッカリ考えた。少なくとも、店屋の簡単な仕事程度なら世間知らずであっても出来るだろうと。
 ――――しかし、このバイトは波乱を呼ぶ。


1.仕事中に無駄口はしない。

「・・・」
 裏から足りない商品をテキパキと運び出し、それらを売り場に並べていく。
 流石に緊張からか、転んで商品をぶちまける程のミスはしていないが…そのあまりの緊張からか、鬼気迫る様子が客達に不信感を持たせる
(あの子・・危ない人じゃないかしら・・・?)
(というか、『いらっしゃいませ』の一言も無いの?)
 だが、主婦達のささやきが広がるもそれを気にせず、ただ自らの仕事をこなして行くのであった。


2.人の迷惑になる事は絶対にしてはいけない

「お客様!」
 噂(?)のバイターが店の後ろに戻る時の事であった。
 突然の大声に、客達が振り返る。
「このような所に商品を置かれては他のお客様の迷惑になります! 反省しなさい!」
「な、なんなのよ・・・」
 その『店員から注意を受ける客』というありえない状態に客は戸惑い文句を言う。
 が、その態度が更なる火をつけた!
「貴女は人を困らせてゴメンナサイと謝る事も出来無いのですか!!」
「はぁ!?」
 一触即発の自体。
 だが、それを破ったのは店の店長であった。
「お客様! 申し訳御座いません! なにぶん初日な者で・・! こちらからよく言って聞かします故、今回ばかりはご容赦を・・!」
「もう良いわよ…失礼するわ」
 そう言って、客は店を後にする。
 その直後、店長は告げた。
「はぁ・・・悪いけど、君クビね」
「・・・はい?」
「もう仕事しなくていいよ。それに、来なくても良いから」

 ・・・
 ・・
 ・

「はぁ・・・」
 夕暮れ時・・・にはまだ早いか。
 中央広場のベンチに腰掛け、空を見ながらため息をつく。
 このまま酒場に戻るのが正しいのだろう。だが、仕事を紹介してくれたマスターに申し訳が無かった。
「私は・・・なんてダメなんだ」
 というか、正直な気持ちは『何がダメだったんだ?』なのだが、きっと自分が悪いのだろう。と思う。
 財布を落とし、なにやら店長の気に障ることをしてしまい・・・気が沈んでいく。
 ・・・だが、刹那
「! 何奴!!」
 背後からの気配を読んで、飛びずさりながら敵方を見る。
「へぇ・・・こんな小さな子の気配に気付くなんて、凄いわね」
「え? いや、私はそれ程でも・・・」
 そこに居たのは、おおよそ敵とは言いがたい、ブロンドの髪にウェーブをきかせた二匹の白い鳥を使う少女であった。
 年齢としては、きっと同じくらいだろう。
「それより、ホラ」
「わっ・・っと、これは!!」
 急に投げられた物を思わず受取ったが、それを見て今までの沈んだ気持ちが一気に吹き飛んだ。
 そう、それは・・・無くしたと思っていた自分の財布だったのだ。
 しかし、何故こんな少女が自分の財布を持っていたのか・・・
「! さては貴様! 私から財布を盗んだ張本人だな!!」
 その反応に、相手はガクッと呆れたように肩を落としため息をついた。
 そして、顔を上げて疲れたように言って返す。
「あのね・・・はぁ。アンタ、昼に酒場で依頼出したじゃないの。その依頼を請け負ったのがアタシで、ついでに持って来てあげたのよ」
「あ・・・と言う事は、貴女がヘルパー殿・・・?」
 ヘルパー。様々な依頼をこなし、それの報酬で生計を立てる人のことだ。
 しかし、それがまさかこんな少女の事だとは思って居なかったのである。
「これはご無礼の程を申し訳ありません・・・! 財布を見つけていただき、感謝します!」
「べ、べつに・・・ついでみたいなもんよ!」
 少女は顔を逸らし、そう言ってそっぽを向く。
 だが、財布が戻ってきて何よりなのだ。ヘルパーには感謝してもしたりないだろう。
 その一方で、今日の自分を振り返ると・・・すこし、自己嫌悪を感じてしまう。
「はは・・・それにしても、私は何て不甲斐ないのだろう。財布を無くし、人に迷惑をかけ・・・ヘルパー殿に時間を使わせてしまった」
「・・・」
 その愚痴に対し、少女はベンチに座り・・・そして、口にした。
「アンタ。支援士に向いてるんじゃないの?」
「え?」
「少なくとも、ピピの気配に気付いたのは研ぎ澄まされた感覚の持ち主だと思うわ。誰しもが得意不得意ってあるだろうし・・・アンタの場合なら、戦闘とか護衛とかの方が得意なんじゃない?」
「・・・」
 そう言えば、確かに商人の馬車を襲った盗賊を撃退したのは自分だ。
 それに、その商人も言っていた。「やはり支援士を付けるべきでしたね。お嬢さんが一緒に居てくれて助かったよ」と。
「しかし・・・私も、ヘルパー殿に?」
「は・・・? まあ、ヘルパーになるのは酒場の出す認定試験の依頼さえクリアすればそれで良いんだし、自由だと思うわよ。アンタの周りで支援士の人って居ない?」
(ヘルパー殿・・・そう言えば、竜泉家の若様がそう呼ばれていたハズ・・・!)
 じーっと、少女を見、その目線に気付いた少女は困惑しながら言葉を返す。
「な、なによ・・・?」
「・・・貴女は、竜泉殿の血族なのですか?」
「・・・は?」

 ・・・
 ・・
 ・

「と、言うわけで・・・これがリックテールで私が経験したことで御座います」
「はっはっはっ!! ヘルパー殿か! チカ、お前は面白い事を言うなぁ!」
「あなたったら・・・でも、チカ。本当に無事でよかったわ」
 帰宅後。その残金でなんとか馬車を拵え、十六夜へと帰ってきた少女。天宮智香。
 そして、数時間に渡って色々あった事を両親に話して聞かせたのだ。
「ふむ・・・それで、チカ。お前はどうしたいんだ?」
「え・・?」
「その、リアさんと言ったか? お前の財布を見つけてくれた支援士の言うように、お前も支援士の道を志すか」
「あなた・・その話はまだ」
 しかし、母の意見に父は首を振ってさえぎり、チカに聞く。
「必ずしも支援士になれとは言わない。生きる道など多用だ。だがもし、自分の生きる道を見出せるなら、私はお前が支援士になる事に喜んで協力させてもらうよ」
「父上・・・!」
 その父の言葉にチカは感謝を覚え、
 ・・・その上で、チカは父に告げた。
「父上。私はリア殿の言うように戦いや護衛に向いているのかも知れません。商人殿の馬車を守り、感謝された喜び・・・私の中に残っております」
「ふむ・・」
「だから、父上。チカは、ヘルパー殿のようになりたいと思います!」
 その言葉に、父は頷き、立ち上がった。
「宜しい。ならば、今日は疲れただろう。ゆっくり休みなさい」
「は! ・・ところで、父上は?」
「娘が支援士になるというのだ。少し知り合いの所に話を持ち込みに行くよ。・・・明日から、頑張ってもらわねばな」
「! はい!」
 出かける父をチカは笑顔で見送り、支援士としての自分に思いを馳せる。
 ・・・支援士、天宮智香。



 だけども、そこに至るまでにさる支援士が相当苦労するというのは次回以後より



(3プロローグ 完)