※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第五幕    暗闇の戦慄





世の中いい人ばかりじゃない――
それは最初に教えられた事であり、確かにそうかもしれないとも思う。
そうでなければ盗賊と呼ばれるような人達がいたり、少し前に聞かされたようなニセモノの薬草を持ちこんでお金を貰おうとするような人もいないはずだから。
これまで、そんな悪い人と出会った事は無いのは運がよかっただけなのかもしれない。
最初に外の世界を教えてくれた人がルディで、本当によかったと思う。
……この日は、心の底からそれを実感させられた一日だった。




「わぁ、気持ちいいですねー」
たくさんのお客さんをのせて街道を走る馬車から身を乗り出すようにして、遠ざかっていくリエステールを見つめながらそう口にする。
これまで、町の間の移動は護衛やアイテムの採取などの依頼をかねた徒歩ばかりで、こうやって馬車を利用して外を走るのは始めてだった。
変に身構えると余計に不自然になると言って、無理に故郷(リエステール)から離れようとすることは無いとルディは言っていたけど、やっぱり身を隠している立場としては、こうやって家のある街から離れると、”見つかるかもしれない”という意識は少し軽くなる。
……いっそのこと、リックテールまで行ってしまいたい気分もあるにはあるけれど……
「気になるのかしら?」
「な、なにがですか?」
「家の事。 お父様やお母様、今頃しんぱいしてるかしらー、とか思ってるんじゃない?」
「そ、そんなことは……」
ない、とは言いきれない。
家を出てからもう一週間以上は経過しているし、家の財力とかも考えてみると、行方不明になった娘の捜索に支援士を何人も雇っていてもおかしくないようにも思える。
……けれど、そんな話は全く聞かないし、リエステールにいた時もそれが騒がれているような様子は無かった。
「……お父様、私の事なんて、本当に結婚の道具にしか思っていなかったのですか……?」
誰に、というわけでもなくそう呟いてみる。
それに答えてくれる人はいないけれど……なんとなく目のやりばに迷い、馬車の中の方にいるルディの方へと目を向けてみた。
「寝てるわよ」
馬車に乗ってから走り出したその時点ですでにルディは眠ってしまっていて、未だに目を覚ます様子は無い。
ジョブとしての特技もあるから夜の間に仕事をする事が多いけれど……やっぱり、夜型の生活に馴染んでるのかな?
「ま、気まぐれなヤツだから気にするこたー無いわよ。 それより、ノド乾いたからお茶くれない?」
「あ、はい」
……まぁ、確かに気にしていても仕方がないのかもしれない。
とりあえず、ベルに水筒の御茶を渡そうと、カバンから専用の小さなコップを取り出した――
「あっ…」
――つもりだったけど、その直後に手がすべり、コロコロとコップが馬車の床を転がっていってしまう。
慌てて拾おうと手を伸ばしたけれど、それも一瞬間に合わずに、コップは手をすり抜けて行ってしまった。
「っと、大丈夫ですか?」
けれど、ころがっていった先にいた人が、コップを拾いあげてこっちに差し出してくれた。
見てみると、確か十六夜で着られているという”和服”と呼ばれる衣装に身を包んだ、一人の男性が目に映る。
「全く、何してんのよあんたは」
一歩遅れて、男の人が拾ってくれたコップを取り上げるように受け取るベル。
その険悪な目は明らかにこちらに向けられていて、見るからに不機嫌そうな表情を見せていた。
……かと思えば、どこから取り出したのか一枚の布きれでコップの表面を拭くと、”つげ”とでも言うようにこっちに突き出してくる。
サイズ的に自分で水筒が持てないのはわかるけど、この態度は少しいただけない部分もあるかもしれない。
……今回ばかりは、否はこちらにあるのだけれども。
「しかし、妖精連れとは珍しいですね」
「ホントホント、ボク、妖精なんて始めて見たよ」
そんな様子を見ていたらしいさっきの男の人……と、たぶんその連れの人だろう女の人が、なんだか楽しそうな調子でそう声をかけてくれた。
……でも、ベルは妖精なんかじゃなくて……
「私は悪魔よ。 確かに今はこんなナリしてるけど……」
とりあえず、ベルもお茶を口にしながらいつもの調子で言葉を返していた。
「ふーん、でも小さくて可愛くて、とても悪魔なんて思えないよー。 ねぇ、さわっていい?」
「ジュリア、それはさすがに失礼というものですよ」
「えー、カネモリもケチなこと言わないでよー」
「……あのね、私はオモチャじゃないし、許可なら私に求めるのが普通でしょ?」
「え、さわっていいの?」
「ヤダ」
もう打ち溶けあっている……と言っていいのかどうかは分からないけれど、会話はうまくとおっているみたい。
……カネモリさんとジュリアさんか。 なんだか、いい人そうだな。
「あ、あの、お二人は旅をしているのですか?」
旅は道連れ世は情け……という言葉を聞いた事がある。
こうしで話をするのも何かの縁だろうし、馬車でも町ひとつを行こうと思えばそれなりに長いし、その間の会話を楽しむくらいは許してくれるだろう。
「……私は屋根の上にでも行っとくわ、うっとーしいし」
かと思っていると、どこか疲れたようにそんな声を出したベルが、馬車の外へ出て上の方へと飛んで行ってしまうのが見えた。
……うーん、機嫌損ねちゃったのかな……
「そうですね、私達は風の元素というものを捜す旅をしているのデス」
そんな中、カネモリさんは少し笑って私の呼びかけにこたえてくれていた。
「風の元素……ですか?」
だから、こっちも何事もなかったように振舞うことにする。
……それにしても聞いた事のない名前のアイテムだけど、語感から考えると風に関係する何かの材料なのか……な…?
「……んぅ……?」
なんだろ…急に、すごく眠く……
「くっ…これは……?」
見ると、カネモリさん達や周りにいる人達……それに、騎手の人や馬車を引く馬達も、今にも眠りに落ちてしまいそうにフラフラとしている。
……一体急に何が起こったのか……その時には、既にそれだけの事も考えられないほどに眠気が強く……後から思い返してみれば、意識が途絶えるまでに、そんなにかからなかったような気がする。








「―――……なかなかの上玉だな、高く売れそうだ」
……なんだろう、頭がぼやーっとして……眠っちゃっていたのかな……?
……なんだか聞き慣れない人の声も聞こえてくるし……周りもなんだか薄暗くて、ほこりっぽくて……洞窟の中?
なんで、こんなところで眠って……
「――……っ!!」
「おぉ? 目ぇ覚めたか?」
眠りに落ちる直前……馬車の中で、何の前触れもなく強い眠気に襲われた事――それを思い出して、急激に目が覚めた。
いくら冒険の経験が浅いと言っても、今おかれているこの状況がまともでない事くらいは分かる。
「あ、あなたたちはっ……!!」
目に入る範囲にいる人のほとんどが、いかにも悪そうな人相をした男の人。
服装もどこかボロボロで、なんとなく誰もが頭のどこかで一度はイメージしそうな盗賊の姿のようだった。
――いくらなんでも、危なすぎる状況。 なんとか動こうとするけれど……
「っ!?」
腕と足が、太いロープで縛られているらしく、立ち上がる事すら出来なかった。
……立てたところで、こんな人数を相手に一人で何とかできるとも思わないけれど……
「あっははは!! 無駄だ、簡単にほどけるようなもん使うわきゃねぇだろ」
「っ……あなた達はなんなんですか!? なぜ、私をこんなトコロに……!?」
「さてなぁ、どっかにでも売りとばそうってんじゃないのか」
それだけ返事をすると、また品のない大笑いを始める男の人達。
売り飛ばすって、もしかして話に聞くような奴隷商人ってこと…?
……そんなのイヤだ……ルディやベルと一緒に旅をしていたいのに、こんなところで、どことも知れないところに連れて行かれるなんて……
「泣くか? はっ、んなことしても誰も来やしねぇよ。 こんな穴の奥までな」
そう言われると、余計に涙が出そうになる。
ついさっきまでのんびりと馬車の旅を楽しんでいたのに……どうして、こんな事に……?
ただただ悲しくなって、目から涙があふれ出てくる。
――もう、彼の元にも、家にも戻る事はできないの……?
……そう、思ったときだった。
「お、親分!!」
多分出口があるだろう方向から、一人の男の人が駆け込んできた。
その声に、こに場にいる全員が振り返って、その男の人へと目を向ける。
「なんだ、見張りはどうした」
「い、いえ……今、仲間に入れてほしいってヤツが来て……」
「なに?」
「どうしますか?」
「……おもしろい、通せ」
にやり、と妖しく笑う親分と呼ばれた一人。
それに合わせるようにして、周囲にいる全員がそれぞれの武器を手に取り、何かに警戒するような体勢に入っていく。
……仲間になりたいって相手を向かえるのに、これは一体……?
「……えっ……!!?」
――驚いた。
呼びかけに答えるようにして現れたのは、黒い衣装に身を包んだ一人のクレセント。
それがだれかなんてもう言われずとも分かる、大切な仲間。
「…!?」
……思わず名前を叫びそうになったところで、ふとルディが自分の口に軽く手を添えて入るのが目に入った。
”黙っていろ”
何かあった時に――と、互いに決めておいたシークレットサイン。
まさか本当に使いような状況になるなんて考えてもみなかったけれど……本当に用意がいいというか、周到な人なんだなと思わされる。
「その女がどうかしたのか?」
にやにやと笑いながら、親分の人がそう口にする。
それに対して、ルディは”いや……”と呟くように口にすると、添えていた手を放して、改めて相手の方に向き直り、どさりとカバンを足下に置くと、再び口を開く。
「なかなか上玉な女だと思ってな。 手足縛ってるようだから仲間ってワケじゃ無さそうだが……どこで拾ってきた?」
「さっき馬車を襲ったついでにな。 それよりだ、俺らの仲間になりたいって? 何が目的だ」
ふんっ、と鼻息も粗く問いを続ける親分の人。
ルディはそれに対しても表情を変えることなく、言葉を続けて行く。
「ここ最近力をつけてきてるって話を耳に挟んだからな、それにあやかろうとしたんだが……まさか、女を売るまでしてるとは思わなかった」
「ははは! 確かにな。 だが人売りはリスクもでけぇ、そこまで頻繁にやっちゃいねぇよ」
「……なるほど、それを心得ているなら選んだ価値もある。 無謀なヤツの仲間はごめんだからな」
「言ってくれるな。 だがここに入ってきた時点で選ぶ権利があると思ってるのか?」
「……」
周囲を改めて見回すと、武器を持った人達がぐるりとルディを囲む用に立っている。
当然の如く、いま入ってきた方向も封鎖されていて、このまま無事に出て行こうというのは難しいことくらいは容易に分かる。
……そうか、仲間になりたいと言った人でも、後になって気が変わる事もあるだろうし、他にも”敵”が仲間になりすまして近付こうとしているという考え方もある。
仲間にしてくれという相手に武器を持ち出して向かえるのは、つまり保険ということなのかもしれない。
「それに、タダで入れてもらおうなんてムシのいい事考えちゃいねぇよな? それなりのもんを見せてもらわないとな……」
でも、それで本当に言いのかなと思う。
それじゃ結局力と損得だけの関係にしかならないと思うし、それはなんだか本当の仲間と言うには違うようにも思える。
……それに、”それなりのモノ”って……結局、お金かなにかってことなんだよね…?
「……こいつでどうだ?」
そう言ってごそごそとふところから取り出したものは、手の平に収まるくらいの大きさの一つの碧玉の宝石。
それは素人目にも分かるほど高価そうなもので……なぜ、ルディがそんなものを持っているのかすらも疑問に感じられた。
「北部にいた時に盗ってきたものだ。 すぐに売り払ったら足がつくと思って売らずにいたが……」
「……くっ、ははは!! 面白いヤツだ……そんな見るからにすげぇモン、普通は隠して自分だけうっぱらおうって考えるやつがほとんどだ! そいつをポンと出すとはな!!」
「ごたくはいい、どうなんだ?」
「いいだろう”新入り”、仲間に入れてやるからそいつを渡せ」
「ああ、感謝する」
結局、こういう人達は欲に負けるということなのか……目先のお金のために、全てを許す親分の人。
ルディの考えもまだ読めないけれど、きっと、何とかしてくれる。
そう思って、ここまで何も言わずにただ待っていた。
「……ん?」
…ふとルディの足下に目を向けてみると、そこにはコロコロと転がる小さな球が一つ。
そういえば、宝石を取り出した時に何かが一緒に転げ落ちていたようにも見えたけど……
「ぬっ!? な、なんだ!!」
宝石が親分の人の手に渡されようとした丁度その時、足元の球から突然ものすごい量の煙が噴出し始め、それはみるみるうちにこの狭い洞窟を埋め尽くしていく。
「わり、俺の煙幕だ。 はずみで落としちまってたみてーだな」
しかし、次の瞬間にはケロリとした表情でそんな事を口にするルディ。
それとは対象的に、周りにいる人達はみんな突然の事にあたふたと慌てふためいている。
「このっ! てめぇなんとかしやがれ!!」
「……ああ、今止める」
……その一瞬に、ルディがにやりと怪しく笑みを浮かべていたのは……きっと、見間違いじゃない。
親分の人に言われ、宝石を持った手を一旦引くと、スタスタと球が在るだろう場所へルディは移動を始めた……その直後。
「ぐっ……!?」
突然、親分の人が身体から力が抜けたように膝をつき、そのまま地面に倒れ混んでいくのが目に入った。
煙で何がおこったのかはよくわからないけれど……一瞬、ルディの手が親分の人の首筋に触れるような動きをしていたようにも見えた気がする。
「な、なん……だ……? 何…が……」
……でも意識はあるみたいで、ルディを見上げるようにして口を動かしている。
でも、口までもがマヒしているらしく、その口調は御世辞にもまともな状態とは思えなかった。
「……乗客のフリして馬車に乗り込み、出発した街から極力離れるのを待つ」
「なっ……なに…?」
そんな彼の様子を尻目に、何かを語り出すルディ。
馬車に、乗客のフリ…? いったい何の話をしているのだろう。
「かといって次の街に近付きすぎては意味が無いから、事を起こすのは中間地点だ。 丁度いい位置に馬車が差し掛かったところで、気化型の眠り薬をばら撒いて全員を眠らせ、其の隙に荷物を盗み出す」
「ぐっ……」
「目を覚ました後に乗客が自警団に連絡しようとしても、街まで距離があるからすぐにはどうしようもないし、たまたま乗り合っただけの赤の他人の顔なんて覚えていないだろうから、顔が割れる心配も少ない。
……で、盗る物を盗ったお前等は、眠っている間に悠々とアジトに帰るだけだ……とまぁ、お前等の手口はそんなトコだろ。 以上、訂正はあるか?」
「キ…サマ……いったい、何だ……!? 俺に、何をした……!!?」
「俺は馬車に乗り合わせただけのただの支援士。 二つ目の問いは、この針を刺させてもらった。 強烈な麻痺毒入りの、な」
親分の人の言葉に淡々と答えを返しながら、こっちの方へと余裕の表情で歩み寄ってくるルディ。
そして、そのまま目の前まで近付いたところで、手足にかけられていたロープを、手持ちの短剣で切り放してくれた。
「くっ……おいっ! お前ら何してんだ!! 早くコイツを……」
「ムダよ、ム・ダ。 他の連中もアンタと同じ状態だからねー」
「なっ……だ、誰だ!?」
突然聞こえてきたその声ももう聞き慣れたもので、自分にとっては特に驚くようなものでは無かった。
まだ煙が立ちこめているから分かりづらいけど、さっきルディが見せていたのと全く同じ針を手にしたベルが、得意気に空中に浮いていた。
……ここまで姿が見えなかったのは、多分カバンの中にでも隠れていたからなんだろうな。
「この煙の中、こいつみたいな小さいのが飛び回っててもわかりゃしないよな?」
「ごくろうさま、しびれが抜けるまでゆっくり寝てなさいよ」
最後に、そろって層口にして笑みを浮かべる二人。
仲間にしてくれという言葉と、相手の欲を的確についた物で一瞬の油断を誘い、そのタイミングを逃さずに行動に移す。
……本当に、鮮やかな手口だと思わされる見事な判断。
彼が、悪い人でなくて本当によかったと思った。






ケムリが晴れるのも待たずに、ルディに洞窟を出ようと促され、しばらくぶりに太陽の下に出る事が出来た。
そこは街道からは大きく離れた、地下に伸びていくような小さな洞窟だったらしく、出入り口は随分と急な坂になっていたけど……
もう、そんなことは気にする必要は無いし、決していい気分にはなれないので、したいとも思わなかった。
……魔物にさらわれたお姫様なんていうものは物語の中にはあるけれど、本当にさらわれるっていうのは、物語のように綺麗なだけじゃない。
「よ、おまっとーさん」
洞窟からでて少し歩いたところに、馬車の中で会った二人が待ってくれていた。
たしかカネモリさんとジュリアさん……だっけ。
「よかった、無事でしたか……私の薬は役に立ちましたか?」
「ああ、さすがはアルケミストだな。 効果は十分だったよ……っと、コイツは返しとくぜ」
カネモリさんにそう返事をすると、ルディはさっき洞窟の中から持ち出してきていた木箱をカネモリさんに手渡していた。
……そっか、さっきの煙幕と麻痺毒の針は、カネモリさんが持っていたものだったんだ。
「ありがとうございます。 ……アルケミストの誇りである木箱を奪われるとは……私も、注意が足りませんでした」
「いんや、ありゃ性質の悪い相手だったししかたねーって。 それと、困った時はお互い様ってな」
それだけ言葉を交わすと、二人は”はははは”と笑いを漏らしていた。
これも、旅人同志の交流、か……
見ず知らずだったはずの人達が、こうして仲良くなれる……なんだか、素敵だな。
「むー、なんだかカネモリばっかりいいところもってってる……」
と、その後ろで退屈そうにしていたジュリアさんが、そんな声を出した。
そういえば、身軽そうな外見と武器の形から察するにブレイブマスターのようだけど、洞窟の中までこなかったのは……
「まあ、今回は俺とベルだけの方が動きやすかったからな。 今度機械があったらたのむよ」
うん、まぁそんなところだと思う。
確かに、あんな狭いところだといざと言う時数が少ない方が動きやすいのは分かるし、洞窟みたいに薄暗い場所なら、なおさらクレセントのルディの方がなにかと都合がいいはずだから。
「……しかし、よくこの場所が分かりましたね? 街道からは離れているのに……」
と、そこでジュリアさんの表情を察したのか、話題を逸らすようにそう口にするカネモリさん。
……確かに考えて見ればそうだ。
あの時ルディは馬車の中で最初から眠っていたけれど、周りが薬で全員眠らされている中でひとりだけ起きて追いかけたっていうのは考えづらいし……?
「あー、それ私よ。 ほら、馬車の屋根に移ってたから、中で充満させてた薬の影響受けなかったの」
そういえば、眠気が襲ってくる直前にベルは馬車の外へと飛び出していっていた気がする。
えっと……それって結局、今回は運がよかったってことなのかな?
「で、俺らが寝てる間に馬車からでてった盗賊の連中を追いかけて、あの洞窟見つけてきてくれたってわけだ」
「そうだったんですか……いや、本当にありがとうございます」
ぺこり、とベルに向けて頭を下げるカネモリさん。
あの木箱が彼にとって本当に大切なものだったって事は、その態度からも見て取れるかのようだった。
対するベルは、少し照れくさいのか視線をそらすようにしながら、ぽりぽりとほっぺのあたりを掻いていた。
「よっし、まぁ一件落着って事で、さっさと街へ行くか。 この辺からなら歩きでも夜にゃ街につくだろ」
「そうですね。 ジュリア、私達も先へ進みましょう」
「はーい。 あ、そういえば三人も同じ場者に乗ってたってことは、行き先は私達と同じなんだよね? だったら一緒に行こうよ」
あんなことがあった直後なのに、何でも無いかのように振舞うみんな。
……そりゃ、思い出したくも無いような目に合っていたのは自分だけだったのかも知れ無いけど……その雰囲気は、安心できるので嬉しかった。
「……あの、カネモリさん。 馬車で聞きそびれたお話、していただけませんか?」
だから、できるだけ自分も楽しい空気の中にいようと、声を出す事にした。
――いい人達に囲まれて、それが本当に幸せな事なんだと思う――