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人 写せ身
理 知る者―――


 綺麗な歌声がリエステールの町にやわらかく広がる
 私は道の端で耳を傾け、一時の楽しさに身を委ねていた。
 待ち合わせはこの場所。やがて、駆け足の音が聞こえてくる。

「歌声。広場だったわよ」
「本当?」
「ええ、一度見てきたから間違いないわ」

伝記の姫が 邪な我欲の者に捕らわれ
そして今旅出つ 後の勇者――――

「ほら、判ったならさっさと行くわよ」
「ま、まってよぉ~!!」

幾千の道と 幾百の敵と
されど 彼らの 道は未だ続く


 そして、友人に手を引かれ、中央広場に来れば―――

「剣を携え 氷を放ち
 だけども 辿るは 時の終わり―――」

 ――――水芸。水を小さめにデフォルメされた人形とし、涼やかな人形劇を送りながら、歌を歌い魔力で動かし続ける。

「強い意思も 己が無力に 姫を前に 身は地に伏し
 悔やむ中に 姫の声 一条の光
 勇者 時を越えて現れて 続く時を紡ぐ――――」


 水人形が剣をふるって、化け物の形をした水人形を切り、物語りの終わりを告げた一つの冒険譚。
 最後に水人形は霧と化し、逆光を反射して虹を作った。
 歌い手はまるで幻想の空間の中でぺこりとお辞儀を一つして、一つ柔らかく微笑んだ
「す、素晴らしい!!!」
 その声から始まり、拍手喝采。
 水芸を見ていた人が大きく沸き立ち。フィズを様々な値で彼女のカバンに投げ入れていた。
「お金の方は別に宜しかったのですが、、、皆様、しがない歌劇をご拝聴くださいましてありがとうございます」
 その声は、歌の雰囲気とはまた違い、やわらかな優しいモノで、
 まるで、私と同じ位の年齢じゃないかと思った。
 そして、次第にやむ霧の中から現れる、流麗な青く長い髪が深く印象に残った。
 興奮に沸き立つそんな中、一人のスーツを着た男性が少女に声をかけていた。
「歌い手さん! 今度我が家でパーティをする予定があって、その催しに憂いていたのだが、この声を聞いてアンタしか居ないと思った! 是非来てくれんか!!」
 まだ余韻も冷め止まぬ中で、その男性に少女はニコリと一つ微笑み、
 まるで物語を紡ぐかのような口調で答えを返したのだった
「わたしはしがない流れ者の歌い手。歌いたい時に歌い、道を行く時に旅し。観光したい時には街を歩きます。
 故に、何者かにわたしは縛られる事はありません。
 申し出はお気持ちだけ頂きますわ」
 そうしてもう一つぺこりとお辞儀をした。
 それに惜しそうに男性は「ううむ、、、」と呻き、
「まあ、、ならば、仕方が無いね。だけども、実に惜しい。せめて、貴女の名前を聞かせてくれないか」
 その男性の言葉。即ち、少女の名に他の男性達も色めきだった。
 判る気がする。同じ女の子の私の目から見ても、彼の少女はもの凄い魅力を持っていた。
 お近付きが出来るなら、どれだけ幸せな事なんだろう、、、、
 そして、彼女は告げる。自らの名を
「わたくしの名前は―――――アルト・シルヴィア」

  アルト・シルヴィア、、、彼女が、とある日の一時、リエステールの街を沸かせた少女であった。

「はぁぁ、、、凄かったわね」
 わたし―――リア・スティレットは、隣で未だにぽけーと歌い手。アルト・シルヴィアを見ている友人に声を掛け、ため息をついた。
(ああ、、これはきっと聞こえてないわね、、、)
 呆れるも、友人と同じくアルトの方を見る。
 確かに綺麗で可愛い女の子。歌も素敵だ。
 しかし、感じる。同業者、、、魔術師としての、メンタル。それも、自分とは比較にならない程の。
 それはそうだ。『歌』能力を使いながら『水』能力で水芸劇を動かし続ける。
 それだけの魔力が必要となる・・・相当な“セイレーン”であるといえるだろう
(でも、、、聞いた事の無い話ね)
 そう。何よりこの劇の話し。良くある勇者が姫を助ける~というパターンだが、
 色々端折っている部分もあるせいか、原型の物語というものが判らないのである。
 或いは、ヴェイルとアルティアの話を改変したものなのかも知れないが
(その割には、アルティアの歴史とはちょっと違和感あるわよね)
 と、ふぅ。。と一息ついた時に、ハッと気付いた。
 ―――アルト・シルヴィアが。真っ直ぐにこちらを見て、ニコリと微笑み。そして、何かを告げるように口を動かしている事に
(・・・何?)
 だけども、次の時には既にアルトは熱心に声を掛けてくる男に困った顔で対応しながら荷物をまとめていた。
(今の口の動き、、、、?  、、、あなたの、、、?)

 ――― あ な た の ――――

(、、、、どういう意味、、?)

 ――― 物 語

「どうしたの? ボーっとしちゃって?」
 声をかけられて、ハッとなる。
 余韻がさめたのか友人が不思議そうな顔でわたしの顔を覗いていた。
「あ、、うん」
「もー。ぽけぽけさんだねー」
 確かに、ちょっとボーっとしていたかもしれない。
 、、、だけど、
「って、アンタに言われたくないわよ!」
「はうー!」

 ・・・
 ・・
 ・

 主に居るとすれば都だろう。
 そう思ったわたしは、リックテールに一ヶ月の滞在をした後。南部リエステールの方に来ていた。
 人の多さは相変わらずリックテールと変わらぬものの。南部と言うだけ合って涼しいリックテールと比べれば暖かな気候であった。
 もう既に、以前の依頼を通して仲良くなった友人も出来ている。
 そんな彼女と別れ、一つの酒場へと入っていく。
 もちろん、支援士としての仕事をこなす為である。
「マスター。仕事を聞けるかしら」
「お、誰かと思えばリアお嬢じゃねぇか!」
 がははは! と豪快に笑い、マスターは「待ってな」と依頼帳簿を開く傍ら、
 繊細なカクテルをグラスに注いでそっと差し出した。
 ―――奢り。という事だろう。支援士にこういうサービスをする酒場は多いのだろうか?
「よし、これならどうでぃ? リックテールから来たなら道中のクセも判るだろ。さる貴族のリックテールまでの道中の護衛だ」
 依頼主が貴族と言うだけ有って報酬も良い。オススメの一品だろう。
 だけども、それを受けるわけにはいかないのだ。
 一番先行する目的は、クリスを探す事なのだから。
「生憎だけど、リエステールを長く離れるワケには行かないわ。その依頼は他の支援士が食いつくでしょう」
「ふーむ。支援士個人の事情によって依頼を受けねぇ。全く持って構わん事だが、懐かしい話だ」
「懐かしい?」
 珍しい事である。
 本来、支援士と言うのは冒険者を兼任する事が多い。
 その為、どんな仕事でも選り好み無くどんな仕事も平均的にこなす。
 、、、というか、選り好みなどで依頼を受けれるチャンスを潰す事が勿体無い。
 だから、支援士は大抵どんな仕事でも紹介されれば請けるのだ。
 それが、自分と同じく「事情によって依頼を放棄する」という人が居たというのは興味のある話であった。
「ああ。一年前のヴァイだ」
「ヴァイ?」
「おう。今でもバリバリ働いてる現役のAランク支援士。おめぇさんの大先輩さ」
 誰だか知らないが、何となく親近感が持てる。
 ――――いや、ヴァイ。この名前、、、
「それって、、、あのアルティアを誘拐した人じゃない?」
「お、良く知ってんな」
 そう。色々伝説的な人だ。
 アルティアの誘拐で暫らく雲隠れ。しかも、最後には教会の方が泣き寝入りをしてアルティアを自由にして構わないとさせたブレイブマスター
 支援士の間では「聖女の守」と呼ばれる他。沙々雪之迩哲をモノにしたという噂もあり。彼個人には「冥氷剣」という名もついている。
(、、、こんな人と比べられてもね、、、)
 はぁ、、とため息を付き、その後「そういえば」とマスターと会話を続けた。
「わたしの出した依頼の方はどうかしら?」
「ああ、、来ては居るんだがどうも嘘くせぇのばっかりだ」
 一応目を通しておきな。と、マスターから渡されたレポートを読む。
 どれもマスターが聞いて紙にまとめたヤツである。
 既に死亡説。既にわたしが知っている低レベルな情報。根も葉もない噂。
「それに、ストーンヴィレッジで家族と共に過ごしてるとか。。。それこそ無いわよ」
 どれもこれも、嘘か、もしくはほんの少しティサイアを知っているという程度で
 情報料だけをふんだくろうとしている魂胆がまる見えであった。
「どの情報もお金を出す価値無いわね。情報料を取りに来たらそう言っといて頂戴」
「まあ、百人いりゃあ百類の人が居る。それが良くも悪くもな」
 ふーむ、、、と呟き、マスターはポンと手を打った。
「ああ。そうでぇそうでぇ。リアお嬢」
「何かしら?」
 ファイルから“Bランク依頼”の所にあった一枚の依頼書を見せ、マスターは言う。
「ホントは良く無ぇんだが、、、オースの方で謎の発光があったらしい」
「発光?」
 謎の発光といえば、記憶にあるのはモレクの鉱山の白い石事件だろう。
 なんでも、予想外の出来事で支援士レベルと依頼のレベルに食い違いがあった。という事ぐらいしか知らないが。
 その時の反省もあり、「不鮮明な事象」に関しては依頼レベルをワンランク上げるようになったのだ。
 、、、まあ、低ランク支援士には痛い所だが、死ぬよりはマシである。
「リアお嬢の実力なら問題ねぇだろ。例外的だがコイツをBランク昇格試験にしてみるか」
「昇格試験は事前に教えないモノじゃないの」
「まあ細けぇ事は気にするな! 手に負えないならその事情を報告に戻ってくるだけでも良い!
 正確なランク付けが出来るだけでも依頼所から報酬を出す価値はあるからな!」
「ま、わたしは構わないわよ」
 依頼主は自警団。確かに自警団が未確定の事を調査する為に動いて民間を不安がらせるよりは
 支援士が小回りし、“まるで冒険に行くように”動けば十分に調査できる。
「良いわ。その依頼。受けてあげる」
「了解だ。じゃあ、さっそく取り掛かってくれ!」


 ・・・
 ・・
 ・


 オースまでの道のりは片道約一日。それを考慮するなら、夜にモレクに到着するように出かけて一日宿を取り
 オースに行って帰って再び宿。リエステールに戻ってこれるのは二日目の昼過ぎになるだろう。
 回復剤と精神剤の購入を果たし、西口からリエステールを出る。
 一番効率の良い店というのはいまいちまだ掴めては居ないが、少しずつ店を回って研究はしている。
 まあ、、とにかく準備が整い馬車に乗り込んだ所である。
 そこに、一匹の鳥が肩にとまっていつもの鳴き声をした。
「ピピ。お疲れ様」
 チィと鳴いてから、差し出すフードを食べ、わたしは足に括り付けられていた手紙を広げる。
 それは、支援士になる為の修行を『竜泉家』という所でつけて貰っている十六夜のチカからの手紙である。
 こうした手紙を定期的にやりとりして、わたし達は情報の交換や交流を深めている。
 今回の手紙には、他愛ないいつものドジや、修練して身につけた技が書かれていた。
 ―――彼女は、強くなる。たぶん、ペアを組んで満足出来るくらい。
 そんな確信―――と言うよりも、勘のレベルか。そんなのが、わたしの中に確かにあった。
「お嬢さん。そろそろモレクへ出発するけど良いかい?」
「ええ。―――ピピ。手紙を書き終えたら直ぐにあなたを飛ばすわ」
 チィ。ともう一つ鳴いて。ピピは大人しく肩で毛づくろいを始めた。
 馬車が出発し、モレクへ向かって走る。
 到着予定は大体七時頃。
 途中魔物との交戦もあるだろうが、リエステール街道の魔物程度なら取るに足らないだろう。
 ――――だが、その考えは甘かった。



  -リエステール・酒場-

「マスター!!」
「おお?」
 飛び込んできたのは、セイクリッドのグリッツ・ベルフレイン
 彼はセイクリッドとなった為に、これから夜にかけての時間帯は大抵酒場か家で仕事は行わない生活スタイルになっていた。
 夕飯時間になり、家に帰るまで食事と酒をするのだろうが、今日の彼は少し慌てていた。
「聞いたかよ! リエステールから西側。それもオース周辺から強く“空間からいきなり魔物が現れる”って現象が起きてるって話しだぜ!」
「何ぃ!!!??」
 ダン! と机を叩いてマスターは立ち上がり、その拍子に机がベキッ! と音を立ててへし折れる
「ああ。ルティア・・・って、ヴァイの同級生のクリシュナだけどさ。そいつから聞いた話さ。間違い無い!
 低ランクの魔物が出るときもあれば、ちょいと強い魔物が出たりもする。それに、今までどのダンジョンでも見た事が無いようなヤツまでだ!」
「しまった、、」
 マスターは、リアにあの依頼を渡した事を悔やんだ。
 今まで通りオーバーなランクのつけ方をした依頼を中々来ない下ランクの支援士に与えたのだが、このイレギュラーな事態まで予測は出来なかった。
 それに、これはリアだけではない。リエステールの西側に仕事に出かけた支援士全員が危険の対象である。
「仕方がねぇ。とりあえずヴァイやディン共にも話は通すぜ! 流石に範囲が広ぇが全員で対応すれば出来無い事もねぇ!」
「うむ。必要となれば儂も動こう」
 振り返り、駆け出そうとするグリッツ。
 しかし、
「いいえ。それには及びませんわ」
「なっ、、アンタ、、、!?」
 その声に、グリッツはその動きを止めた。
 返答から察してグリッツの話を聞いていたのだろうが、
 その割には落ち着いており、動揺を見せている様子も無い。
 しかも、、、その人物は、グリッツより年下に見える『少女』なのだから。
「このイレギュラーな事態に、既にわたし達の仲間が動いています。それに、わたしもこれから動きませんと」
「あんたは、、一体、、、?」
 グリッツの質問に答えず、少女は一つニコリと微笑み、
 そして、酒場を後にした。


「っ、、、!」
 振り下ろされる魔物の腕を回避し、後ろに飛ぶ。
 しかし、地面を砕いた破片が飛び散り、それが身体に傷をつける。
 、、、目の前に居るのは、白熊。本来なら、十六夜にしか現れぬタイプの魔物である。
「嬢ちゃん。大丈夫か!」
「大丈夫ですわ! 良いから安全なトコに下がってなさい!」
 短詠唱でファイアーボールを放ち、再び避ける。
 しかし、コレでは埒が明かない。
(なんだっていうの、、、)
 ―――それは、数分前のこと。

『嬢ちゃん。そこの袋に娘が作ってくれたクッキーがあってね。自慢の品だからお客さんには食べてもらってるのさ』
『へぇ、、いい娘さんをお持ちなのね』
 馬車のおじさんと話をしながら、おじさんの言う袋を見ると、確かにクッキーが入っていた。
 他のお客さんにも好評だったのだろう。残りは数枚しか無かったのだが。
『ま、なんの変哲もねぇバタークッキーだがよ。やさしい味がしねぇか?』
『、、、ええ。すごく』
 食べると、まるで母上を思い出すような味がした。
 ・・・今ではもう、食べる事など出来はしない。
 だが、感傷に浸っていたせつな。馬が急に止まり、嘶きをして前に進まなくなったのである。
『なっ! どうしたってんだ!?』
『っ!』
 嫌な予感がした。テオとピピを扱う以上。“動物はわたし達人間以上に危険感知が高い”事を知っている。
 ブルルッと震え、一歩も動かぬ馬。
 馬車から飛び降り、そこで目にした。
『なっ、、!!』
 そう、空間がぐにゃりとねじれ、そこから魔物が出てきたのだ。
 ―――白熊である。
 十六夜に生息するタイプのこの魔物は、Aランク級の魔物だと言って良いだろう。
 だけども、ここに戦えるのは自分しか居ないのである。
『おじさんは安全なトコに下がりなさい!』

 そこから交戦をしたのだが、、、
(さすがに、、、厳しいわね、、、)
 息も上がり、今回の調査の使用予定だった分全部の回復剤も使い切った。
 相手の白熊は多少のダメージを受けた様子はあったが、まだ十分に動けている。
(せめて、おじさんは逃がさないと、、、)
 親を失う哀しさは、自分が知る人物の中で、二番目に良く知っている。
 不幸な事故で、娘さんを泣かせる訳にはいかない。
 覚悟を決めて、三節詠唱、、、ファイアーボルトに挑戦する。
(赤系では強いほうに入るファイアボールの三連詠唱、、、)
 同箇所にそれだけ叩き込めば、さすがに怯むだろう。
 その隙をつけば、おじさんは馬を旋回させリエステールに逃げるだけの時間は稼げる。
 しかし、三節詠唱は三十秒ほど時間を要する。
 避けながらメンタルを三十秒紡げるか。これが一つの賭けであった。
 腹を括り、詠唱を開始した、、、刹那。

「、、、天より降りし無数の驟雨よ、矢と代わりて我にあだなす敵を討て、、、、時雨!」

 鋭い声と同時に天壌より雨のように鋭く降り注ぐ矢。
 それも、ただの矢ではない。矢に炎のメンタルを上乗せした属性矢である。
 わたしのファイアボールでは比較にならないダメージを与え、敵は叫び苦しむ。
「まっ、こんなもんかしらね。次、ヨロシク♪」
「あなたに言われなくとも、、、」

 まるで呆れるように呟いた後、直ぐにメンタルを収束させる。
 速い。一種の早口スキルか、相当に場慣れしている。

「スパイラルスプレッド!」

 直後、熊の身体を抉り、貫通するほどの鋭い水が敵を貫いた。
 それをトドメに敵は拡散して倒れこむ。
「あー! 久々の出番なのにトドメ奪ってー!」
「知りません。ヨロシクと言ったのはどなた? それに、あの程度一撃で倒せないあなたが悪いんです」
「トドメまで奪えなんて言って無いでしょー!」
 その後ろでギャーギャーケンカを始めた、たぶん白熊を倒したであろう人物。
 わたしよりも幾らか年上そうな、若葉色の髪を二つに結った少女と、
 そして、もう一人は、、、昼に中央広場で歌劇を披露していた、あのアルト・シルヴィアであった。
「そんな事より、姫はもう眠らせましたか?」
「そんな事ですますなっ! まあ、、向こうはナズナがやったから大丈夫だと思うわよ」
 その中で、二人はまるで理解できない会話を行っていた。
「えっと、、、」
 地面にへたり込むわたしを見て、二人は「あ」と声を上げる
 そして、若葉色の髪の少女が駆け寄り、手を伸ばして起こしてくれた。
「大丈夫? 、、、なワケ無いよね」
「気にしてないわ。それよりこれは一体、、、」
 その疑問に「あー、、、」と呟いてから、少女は誤魔化すように「あはは、、」と笑い
「ま、まあ、もうこんな事は起こらないはずだから!」
「ええ。原因は眠りにつきました。これから依頼の方頑張ってくださいね」
 アルトはぺこりと一つ頭を下げ、そうして若葉色の髪の少女と共に去っていく。
 わたしは不思議そうに馬車のおじさんと顔を合わせるが、安心したようにお互い微笑み
 そして、モレクへ向けて再出発を果たした。


  -オース海岸洞窟前-

 翌日。ダンジョン行きの馬車などは荷物を運ぶ兼業が無いため、値段が高く。
 そんなものを払うのも馬鹿らしく思える為に、徒歩でオースまで来ていた。
「また急に魔物が出てくるなんて無いわよね、、、」
 恐る恐る危惧しつつも周りを見るが、至って変な所は無い。
 昨日の彼女達の会話、、、

『そんな事より、姫はもう眠らせましたか?』

『もうこんな事は起こらないはずだから!』

(まるで、この事件の原因を知ってたかのよう、、、、)
 それに、、、“姫”。


『伝記の姫が 邪な我欲の者に捕らわれ
そして今旅出つ 後の勇者――――』


『強い意思も 己が無力に 姫を前に 身は地に伏し
 悔やむ中に 姫の声 一条の光
 勇者 時を越えて現れて 続く時を紡ぐ――――』


 アルトの歌った物語。
 その姫がもしも原因だとすれば、、、、
(邪な我欲の者に捕らわれ、、、)


『―――あなたの、物語―――』


 あの時のアルトの口の動きを思い出す。
 そして、そろそろ発光した目撃の地点にたどり着く、、、と、
「な!!」
 そこには、一人の人が倒れていた。
 それを見て、いままでの思案がすべて吹き飛ぶ。
「うぅっ、、、」
「し、しっかりなさい!! 食べ物は食べられる!?」
 しかし、その人物はすっかり衰弱していた。
 無理も無い。発光を確認されてから三日。ここに居たと言うのなら。
 リエステール側であったことが唯一の救いだろう。こちら側は暖かく、体力の消耗が薄かっただろうから。
 手持ちの乾燥した魚の身をすり潰し携帯固形食事としたものを口の中に入れるも、どうやら噛めず飲み込める様子も無い
(っ、、世話が焼けるわね、、!!)
 仕方が無く、それを自ら噛み、その人物に飲ませ、水で流す。
 腹に物が入ったことで感覚が蘇ったのか、その者は「うっ、、」と呻き、うっすらと目をあけた。
 この場に聖術士が居れば良いのだが、、、生憎とこのような場所に居るワケが無い。
 一番近くでモレクの地方教会である。
 彼が歩けるのなら良かったのだが、そんな様子は無く。
 仕方なく、手近にあったこの人の物だと思える荷物をかき集める。
「、、、、??」
 中には、いまいちどんな用途に使うのか判らない品や
 見た事も無い工芸品。
 それに、彼の武器だろうが、、、木の剣と、見た事も無い素材で出来た剣が落ちていた
「、、、何者?」
、しかし、再び瞼を落とした事で、緊急性を思い出し彼を背負う。
「まったくもう!! ホントに世話のやけるわね!!!」

 こうして、来た時よりも二倍の時間と二倍の労力でモレクに連れ帰った彼。
 それが、わたしと宮守誠司との出会いであった、、、、




 リックテール街道

 暗闇の中、黒い髪の女性が少女を光の玉の中に入れる。
 少女は力が入らないのだろう。抵抗も出来ず少女は涙を流して女性を見ながらガタガタと震えていた。
 、、、暴走した力をかき消す圧倒的な力、、、いや、あれは能力だったのだろうか?
 それを少女は思い返し、正体も判らぬ女性にただ恐怖を抱く。
「ぁ、、、、、、」
「ごめんなさい。でも、この中なら時が動かない。
 この中でなら、あなたの安全は保護される。時が来れば、あなたを保護する誰かが現れる」
「、、、」
「その時に、あなたは目覚めます。それまではゆっくりとお休みください」
 だけども、
 意識の最後に聞こえた優しい声に
 少女は、ふと瞼を閉じた。




 十六夜 ~竜泉家道場~

 闇夜の道場の中。
 竜泉空也は一つの影と向き合い、互いに武器を構えた。
「・・・」
 少しの気の緩みで死を招きかねない。戦いと言うのは、そういうものである。
 空也は最小限の動きでジリジリと相手の間合いから距離を見切り動き、
 そして、影は鋭い眼光で空也を見る。
 そんな、もしも第三者が見ていれば息を呑むような瞬間。
 だけども、この二人しか居ない空間で、まるでお互いが違う次元にいるかのように錯覚させるほどの集中力。
 そして、最初に動いたのは・・・影の方だった。
「竜泉空也殿、、、、覚悟!」
 その線をなぞる様な直線。
 まさに、空也を切り殺す動き。
 それに空也は息を呑み剣を返す。
 弾く。第一戦はしのぐ。
 鋭い。ここまで鋭い一撃を持っているとは空也は意外に思う一方、背中に冷や汗を少しかいた。
 しかし、続く第二戦。影のちょっとした緊張の緩み。
 そこから、空也は得意の縮地を用いて間合いをつめた。
「、、、ふっ!」
 短い息継ぎと共に連撃。
「!?」
 それを受け止め、影は後ろに下がる。
 だが、押し出すように三、四、五、六、と空也の連撃が続く。
 だが、第七撃目。影は右に動く。
 それは直前の動きで読んでいた。直後右に剣閃を流し、剣の残身を線になぞる。
「くっ!!」
 影はそれを受け止め、後ろに少し飛ばされる。
 影は予想していなかったのだろう。右に避けたのは最善のタイミングだったから、その行動に空也が予想外だと驚き隙を見せると思っていたのだろう。
 しかし、空也は容赦しない。
 ここで逃がせば次にトドメのさせるチャンスを作るのは厳しくなる。
「はああああ!!」
 斬!
「襲破死点突!!!」
 そこから続く連撃!
「あああ!!」
 辛うじてそれを剣で止めるも、影は反動のままに後ろに吹き飛び、剣は空中で旋回して落下し、
 道場の床を叩いた。
 空也は、「はぁ、、はぁ、、」と息を整えて影を見て言った。
「さて、、、自分の口から説明できるだろう、、、」
 空也は剣を影に突き出し、逃げられぬように相手の動きを封じる。
 影は悔しげに俯き、道場の地面を拳で叩いた。



「、、、天宮智香殿、、、!」




 next to,,,,,