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STAGE 1



旧名、”Bloom Rider's”
十年ほど前から飛行術師達の間でボード型の触媒を使う事が流行り始めてからは、その組織の中でも必然的にボード乗りの割合も増えていく一方だった。
そんなある時、もう”箒乗り(ブルームライダー)”という名前では合わない!! ……という、数年前に新たに就任した社長の鶴の一言により”Sky Rider's”に改名されたという過去がある。
今ではそのボード乗りの増加傾向も落ち着いて、箒とボードの割合は半々。
また、当時何かと騒がれていた”ボードと箒のどちらが優れているか!?”などという議論が行われる事もなくなり、組織内の空気も落ち付きを取り戻していた。


「十六夜まででしたら、依頼料はこのくらいになっております」
――リックテールの片隅にある建物。
そこは酒場のように酒や料理を取り扱っているということはないが、入り口の扉をくぐった先には、カウンターやテーブルなどが並べられているという光景が広がっている。
とは言っても、今はその店内にお客の姿は一人だけで、あとはカウンターの向こう側に、口下にほくろをつけた青と紫のオッド・アイの少女が一人座っているだけだった。
「少し高い、ですか? そうですね、確かに相場より高めに設定されていますが、酒場の依頼との兼ね合いもありますので……」
基本的にここで取り扱っている依頼は、手紙や物品の配達の請負のみ。
それは、酒場を通さない支援士への直接の依頼として扱われているものの、組織立って行われているということもあり、それなりに社会的な信頼も得ている。
「ただ、値段に相当する価値はあると我々一同自負しております。 誰よりも早く、どこへでもお届けしますよ」
実際、ここに登録されている者達は移動速度に高い評価があり、また”いつ受けて貰えるかわからない”酒場への依頼と違い、その場で待機していた者が出て行くので、依頼から仕事が終わるまでの速さにも定評があるのは確か。
また、待機している者がいなくても、大体はその日のうちに出発してくれるという事実もまたその評判に拍車をかけていた。
しかし、そんな中にも一つある難点……少女が先に出した”酒場との兼ね合い”という一言。
――つまりそれは、一般支援士の仕事を奪わないための措置で、依頼料そのものを幾分か高めに設定してあるのだ。
「……はい、この値段でよろしいですね? では……リーンさん、十六夜までお仕事お願いしまーす」
少し渋い顔を見せた依頼人だったが、時間的にも急ぎのモノではあったのか、今回は仕方ない……とばかりに、その手に持っていた荷物を依頼料と共に目の前の受付の少女に手渡し――
そのまま荷物の重さや大きさを簡単に確認した少女は、それを奥の部屋から出てきた一人のライドブルーム――リーンに受け渡した。
「うぃーっす。 リューガ・アクセル帰還したぞー」
「クリエ・シスフィート。ただいま戻りました」
そして、荷物を受け取ったリーンが出て行くのと入れ替わりにドアをくぐり入って来る青年と少女。
それぞれ手にしたほうきとボードから、二人ともここの関係者だと言う事は察する事が出来る。
「それでは、またのご利用をお待ちしておりますー」
ひとまずそんな二人の入室は横に置いて、退室するお客に一礼して見送る受付嬢。
二人にとってもその行動はいつものことなのか、特に何も言うこともなくその一連の動作を眺めていた。
「お帰りなさい。 リューくん、クゥちゃん」
扉が閉まったことを確認すると、礼を解いて入ってきた二人――リューガとクリエに微笑みを向ける。
仕事から帰ってきた仲間を向かえる時、受付に座る彼女達が見せるこの表情。
それはここにおいての一種の清涼剤で、メンバー達は彼女達に迎えられる事で、どこか安心できると口を揃える……
「………………」
「アリンさん、仕事はありますか?」
のだが、この二人に限っては、このように機嫌が悪いままの時は珍しくは無い。
その時は、決まって二人揃って店の扉をくぐってきた時なのだが。
「もー、またケンカしたの? 出先でこれだけ鉢合わせるのも珍しいけど……」
「知るかよ。 余計な事ばっか口出ししてくるんだぜ? うっとーしぃったらありゃしねーよ」
「考え無し過ぎるのが悪い。 さっきも、私が手を出さなければ危なかった」
結論として、二人は仲が悪い―――――のか? というのが周囲の素直な評価。
確かに見る限りではお互いに嫌っているように感じられるのだが、なんだかんだと言いながらもいいコンビのような気もしてくるこの二人。
それを証拠に、鉢合わせた時などには、どちらかのミスはもう片方がフォローしていたりと妙なチームワークを見せる事が多いのだ。
……どちらかが少しでも歩み寄る姿勢を見せたなら、もしかしたらすぐにでも親友と呼べそうな関係になる感じがしないでもない。
(上手くすればそのままくっついちゃうかもしれないって気もするわね……)
受付嬢――アリンはこの二人を前にすると、常々そんな事を考えていた。
「……ん、今は仕事もないからゆっくりしてて」
まぁ仕方ないか、と笑顔を見せてその場を収めるアリン。
いつも思うこととはいえ、口に出したら出したでまたケンカにつながりそうと判断し、その辺りの想いは本人達の前では言葉にしないように、と注意していた。
ちなみにその説は、組織内では定説として扱われていたりするのは別の話。
「そーさせてもらおうか。 なんかどっち疲れたしな」
「それは私のセリフ」
いつものごとく言い合いながら、リューガは手近なテーブルにつき、クリエは奥の部屋へと入っていく。
相変わらずの二人のその態度に、アリンはただ苦笑いして聞き流すしか対応策を持ち合わせていなかった。
「やっほー、リューくん帰ってたんだ。頼まれてたのできてるよー」
――と、その時。 奥の部屋から飛んでくる声が一つ。
その声は今二人の目の前にいるアリンのものと全く同質のもので、慣れない者が聞けば、多少の混乱を覚えるのは間違いないだろう。
加えて、その直後に開いたドアから覗いた顔は……これまた鏡に映したかのように、アリンと同じ顔。
見分けるところがあるとすれば、髪型が左右対象なことと、ほくろの位置が右目下にあるということだろうか。
「おーサンキュー、マリン。 やっぱ汎用のだとノリが悪くてな」
アリン・フィオレンティ&マリン・フィオレンティ。
『Sky Rider's』の受付嬢と、皆が使っている箒やボードのメンテナンスを兼任している双子のクリエイター。
この場所では二人とも同じ事務服を身につけているので、見分けをつけようと思うのなら前述したほくろの位置と髪型の分け目の位置、そして青と紫のオッド・アイが左右逆である事。
あとは――これは気まぐれで入れ替わっているのであてにはならないが、おさげで纏めている髪がみつあみになっていたり、なかったりするくらいだろうか。
観察力が高い人間ならば見分けがつく事が多いのだが、それ以外――特にお客の間では、常に同じ人が受付に座っていると勘違いしている者も少なくない。
ちなみに、一応マリンの方が姉ということでお互いに同意しているらしい。
「メンタルの変換効率は12.3%向上、スピードもだしやすくなってるけど、旋回とかの機動能力は大きく低下してる……しかも術師への要求処理能力がかなーり高くなってるよ?」
――もう一つ付け加えるなら、アリンはボードの、マリンは箒のチューニングを得意としており、二人とも受付の合間にそちらの仕事をこなしている。
まぁ、大体は不調なものや損傷したものの修理が多く、今回のように特定の術師専用の改造を行うのは稀である。
「リューくんの事だからあまり心配はないけど……正直、かなりピーキーなカスタムだからね。 一歩間違えたらなにかに追突してどっかーん、って感じ」
「へへ、そーいうじゃじゃ馬の方が使いがいがある。 旋回とかは腕でどーにかできるしな」
マリンがもっていた箒を受け取り、自分が使っていた箒を手渡す。
形状や大きさにあまり大きな違いは見受けられないが、内部的にはかなり特異なモノになっているというのは、傍から話を聞いているだけでも大体理解できるだろう。
リューガの箒は、こういったカスタムを何度も繰り返しており、すでに他の人間がまともに乗りこなせるものではなくなっていた。
「速度主義を否定はしないけど、さすがに呆れる」
その時、いつもと同じ冷めた声で口を挟む者が一人……今更確認する必要もないだろうが、クリエである。
いつのまにやら紅茶を用意して奥から出てきて、リューガとはまた別のテーブルについていたようだ。
「何だと?」
「確かに仕事をする上では速い方がいい。 けれど、それだけでどうにかなると思っているの?」
「いーんだよ、細かいことは腕でカバーしてやらぁ」
「腕? 力ずくの間違いでしょ。 常時死線の際を走っていて感覚が麻痺してるのかもね」





「まーた始まったね」
「いつものことだから、こっちとしては慣れてきたけどね」
カウンターの向こう側で、ほぼ日常的な出来事と化している二人の騒ぎを傍観するアリンとマリン。
受付&メンテナンススタッフという立場上、前線で仕事する者達とは接する機会が多いが、リューガとクリエの二人については、この二人でもなかなか立ち入れない。
まぁ、口出したところでどうにかできるものでもないので、周囲はもうあきらめているようなものなのだが。
「ふわぁああぁぁ……騒がしいわねぇ、なんかあったのかしら?」
――その時、また別の声がその場に舞い降りた。
…………ものすごく、眠そうではあったが。
「「しゃ、社長!?」」


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